「チタンの鎧」
正直な第一印象を書いておこう。絶対に怪しい。さらに辛辣な言い方をすると「オカルト」である。私はとても疑問に思っていたことがある。チタンの鎧のリリースと同時に雑誌各社、WEBメディア、はたまた全国のショップがたちまち「ナノテクノロジー」はたまた「量子」や「分子」そして「ファンデルワールス力」と突然叫びだしたのである。
と、とつぜん、どうなってしまったんだ、自転車業界よ。
はじめ「ファンデルワールス力(りょく)」を「ファンデルワールスカ(カタカナのか)」と、読んでしまった程である。それなのに、自転車関連のメディアが突然難解な言葉を羅列し初めたので、私は自分の無知を恥ずかしく思った。取り残されてしまったと感じてしまった。
実のところ、チタンの鎧の商品説明を読んでもさっぱり理解できなかった。私のアタマが悪いのか(大筋認める)、はたまたオカルト情報誌で有名な「ムー」の内容に近いのか。内容の理解が追いつかなかったのだ。チタンの鎧で使用されている技術を読みふと、あることを思い出した。養老孟司先生の「バカの壁」である。
「我々人間は、自分の脳に入ることしか理解できない。学問が最終的に突き当たる壁は自分の脳である。この状態を「バカの壁」と表現する。知りたくないことは自主的に情報を遮断し、耳を貸さないというのも「バカの壁」の一種だ。「バカの壁」は思考停止を招く。安易に「わかる」「絶対の真実がある」と思い込んでは、強固な「壁」の中に住むことになる。
新潮社 (2003-04-10T00:00:01Z)
¥814
チタンの鎧で用いられている「ナノテクノロジー」は、いままである程度のことは理解していた(というバカの壁)という範疇を超え、私を思考停止にまで追いやった。結果として、冒頭に記した「絶対に怪しい。さらに辛辣な言い方をすると「オカルト」である。」という一文に行き着いたのだ。
しかし、それの考えは本当に正しいのだろうか。
自分自身が理解できる範囲のみで「良い」「悪い」を判断し、理解を超越している物事に対しては「オカルト」と判断しているだけではないのか。自分の理解が追いつき、理解が深まった(バカの壁が押し上げられた)とき、もしかしたら、実は今まで気づかなかったような「新しいテクノロジーである」と判断するようになるのではないか。
というわけで、「困ったら1次情報をあたれ」という信念を元に、クレストヨンドはたまた裏にやっぱりいらっしゃった開発者の方に、実際に直接お話を伺ってきた。試しに私個人がチタンの鎧を施工依頼するという前提で、事の真相を知りたくなったのである。
今回の記事は、伺ってきた内容を咀嚼し、「実家のカーチャンでもうっすら理解できる」ということを目標に記事内容を構成している。そして、「チタンの鎧は怪しい勢」の立場(これもバカの壁)として話を伺った。
「あやしいです、オカルトだとおもいます。」
初対面にもかかわらず、まずは大変失礼な事を直球で申し上げた。「あやしいです、オカルトだとおもいます。」と。ただ、そこにはチタンの鎧に対する興味と、新しい知見が得られるのではないかという期待を込めていた。
まず、今回の記事で予め書いておきたいことがある。開発者や技術者、研究者であれば大筋理解してくれると思うが、言えること、言えないこと、聞いても口外してはいけないこと、情報には公開できる範囲がある。その上で、ギリギリを攻めた内容を書こうと思う。
私自身、買う側の消費者だ。そして、自転車機材には自分で投資するから「ギア1枚軽くなったぁ!」なんて常套句も、メーカーへの忖度もしない。
聞き飽きた。
開発者は?
私はクレストヨンドさんが開発したとは思っていなかった。しかし、自転車機材の大部分がそうであるように、外部の技術を自転車に流用しているという事例は多い。開発の方は自転車業界とは全く関係の無い方だった。というよりも、もっと大きなフィールドで活躍されている方だった。
開発者の方は、とある上場企業の研究所出身者でナノ材料の開発に詳しい方だ。
「チタンの鎧」という「素人がとっつきやすい名前」が付いているのものの、実際には「自転車なんかに使用するのは無駄遣い」と言わなければならない程の技術が「応用されて」いたのである。開発者の方は、ホンマもんの研究のエキスパートの方だった。
実は、お名前(非公開)から国立情報学研究所のCiNii(NII学術情報DB)で論文などの学術情報を検索し拝読いたしましたが、私の無知が故大変失礼なことを申し訳ございませんでした(文章崩壊)。
しかしなぜ自転車に?疑問はそこだ。
原料のナノチタン製造元は都合上、公にできない。それはどこの研究機関でも同じである。その上で、開発者の方は、私にわかりやすい説明をしてくださった
というより、私なんかに時間を割いて頂いている間、日本の技術革新が止まってしまったことは謝罪せねばならない。
ここまで書くと、ウソっぽいのだが理解を超越しているとそう思ってしまうのかもしれない。印象的だったのは、開発者の方の言葉だ。実は自転車に全く詳しくないが、逆に「こんな使い方ができるのは単純にオモシロイと思った」という事を聞いて、私は納得した。ホンマもんの研究者だと。
「自転車のドライブトレインに酸化チタンシングルナノ粒子を応用する」という、全く異なる分野での実用化にとても興味を持ったという研究者の方との出会いが発端だ。どんなエンジニアの方でもそうだが、子供のように物事に対して興味を持つ。大人になると、「そんなこと何知っている」などと考えるようなり、興味を持たなくなる。飽くなき追求心は、日本の科学技術を支える。
私は当初抱いていた疑問から開放された。そして「これはホンマもんや」という確信を得た。ただ、問題は「チタンの鎧」は何が優れているのかである。そしてフリクションロスはなぜ減るのかということである。
ファンデルワールス力
難しいことを抜きにして「チタンの鎧」を施工したドライブトレインに何が起こるのか箇条書きにする。量子力学、はたまた「シングルナノの酸化チタン粒子が分子間力(ファンデルワールス力)で付着」と雑誌やメディアで書かれていることをそのまま書いたところで、正直良くわからないという人が多いはずだ。私もそうだったのだ。
- 摩擦抵抗が大幅に減る。
- ドライブトレインがあまり摩耗しなくなる。
- シフトチェンジの音が静かになる。
- 伝達効率が向上する。
- 自浄効果がある。
という特性が実験によって確認されている。一つ一つ見ていこう。
まずは、摩擦抵抗が大幅に減るということだ。チタンの鎧の開発は実験ありきで、外部機関による抵抗測定装置のテストを実施している。気温20℃、130rpm、40km/h走行時に10ワットのフリクション軽減を確認している。この実験は「輪界な方々」が集まって行った実験ではなく、技術者の方や開発者の方の立ち会いのもと行われた。
今回特別に、詳細な実験データーの提供を頂いた。そして許可を得て掲載している。
10ワットは正直信じられなかった。データーとして出てしまってはぐうの音もでない。否定する材料も持ち合わせていない。エコランにチタンの鎧を採用する取り組みが進められているらしい。測定器は電流計使った計測を行っている。明らかに自転車のフリクションロス試験ではなかった。この10ワット削減は信じることにした。
タイムトライアル、トラック、ロード、ヒルクライムと全方位的に恩恵が得られる。
2つめの「ドライブトレインがあまり摩耗しなくなる。」というのは、機材の表面に施されたシングルナノの酸化チタン粒子が緩衝材になっている。シングルナノ粒子というとても小さな粒子であるため、小さなベアリングの作用もしている。そして、外的な力が加わると一度離れてもまた付着する(!?)特徴がある。
補足説明だが、シングルナノはメートルサイズと合わせてシングルナノメートルサイズの粒子という大きさを表す際に用いられる。シングルナノメートルは直径1~10nmを表している。1ナノメートルは、10億分の1メートルだ。分子は大きいものでおよそ10nm、原子はだいたい0.1nmほどの大きさである。
私達の体の設計図であるDNAは幅が2nmのらせん階段状のもので構成されている。この大きさからわかるとおり非常に小さな粒子を自転車機材なんぞ(!)に流用して、フリクションロスを減らそうというのが「チタンの鎧」だ。
さらに、私達の理解を超えた内容を記しておく。
シングルナノまで小さい粒子になると重力の影響はほぼ、なくなります。
勘違いしないでほしいが、あなたが無重力状態になるわけではない。機材に施されたシングルナノの酸化チタン粒子がそのような「ふるまい」をするのである。この不思議な作用により、コーティングの際に使用する「接着剤」が不要だ。
車のコーティングも同じように、コーティング剤が物体と離れないように接着剤の役目をする添加物が必ず必要だ。このような接着剤の役目をする添加物が不要だとすると、どのようにしてシングルナノの酸化チタン粒子は機材に張り付いているのだろうか。
静電気力による引き合い、すなわち分子間力だ。分子間力は分子と分子の間にはたらく力のことである(わたしはこのあたりから、授業についていけなくなるという苦い経験を思い出した)。ただ、もう少し読み勧めてほしい。
分子は電気的に中性である。高校までの科学で習ったとおりだ。さらに細かく見ていくと、分子は次のような振る舞いをしている。
- 分子の中でも構成原子や構造によって電荷(プラスとマイナス)に偏りを生じる。
- 分子は常に振動している。分子そのものに極性がなくても、振動のために電荷が偏る。
- 原子が+(プラス)に、もう一方が-(マイナス)に帯電して電荷が偏る。
これら全てが、ファンデルワールス力と位置づけられているわけではない。電荷が偏る、すなわち静電気を持つことを「極性を持つ」と言う。分子が磁石になったようなものだ。 常に極性を持つ分子もあれば、極性が無くなったりする分子もある。 極性を持った分子は、マイナス極性とプラス極性で引かれ合う。磁石のN極とS極が引かれ合うのと同じ現象だ。
このくっつきあう(厳密には引かれ合う)振る舞いを分子間力、「ファンデルワールス力」と呼んでいる。
したがって、「ファンデルワールス力」によって摩擦抵抗が大幅に低減された!と書いてあるメディアやブログがあるが、ここまで読み進めた方はそんな言葉にはだまされないはずだ。抵抗を削減しているのは機材の素材表面で、自由気ままに遊んでいるシングルナノの酸化チタン粒子さん達がベアリングの役目をしているからだ。
シングルナノの酸化チタン粒子さん達は、どうにか素材表面にとどまろうとする。その際にお互いがファンデルワールス力という「互いに引かれ合う力」によってとどまり続けようとする。その留まっていてくれるおおよその目安が5000kmである、ということだ。
この特殊な作用により、ドライブトレインにはコーティングされた粒子が緩衝材となって機材が摩耗しにくくなる。そしてシフトチェンジの音が非常に静かになる。ナノレベルの緩衝材による効果だ。これは簡単に体感できるからぜひ、静かな室内で耳を澄ませてほしい。
また、ドライブトレインの伝達効率が向上する。高トルク下で粒子と粒子が綿密に食い込み合い伝達効率が向上する。ただ、私は単純に疑問に思ったのだ。「ベアリングの役目をしているのに、なぜ逆の動きのように噛み合うのか」と。この「噛み合って伝達効率が向上する」と「ベアリングの役目でフリクションが低減する」というのは相反するように思える。
実はこの部分が、わたしの「バカの壁」であり理解できなかった部分である。
実験結果
今回、貴重な実験データーを頂いた。もちろん許可を得て掲載している。内容は全てではないが、テスターを使用し電力値から求めている。私達がやりがちな「ローラーで40km/hで300Wだった」というような実験まがいの恥ずかしい実験とは一線を画するレベルの実験内容になっている。
【目的】
チェーン、ギアにナノ酸化チタンを施したときの摩擦低減の程度を電流値で読み取る。
【手法】
電動モーターにて、一定速度にタイヤを回転させ、そのときに投入された電力値を測定する。電圧が一定(5V)のため、電力値の相対値は電流値から把握できる。(電力=電圧×電流)
非施工品、施工品とで一定速度に必要な電流値(電力値)を求めた。
【結果】
- 30km/h走行を想定: 非施工品: 1.75-1.8A、施工品: 1.65-1.7A
- 60km/h走行を想定: 非施工品: 2.8-2.9A、施工品: 2.75-2.8A
- 備考)重りの重量は30kg
【結論】
- 測定電流値幅の中心値を計算に採用すると
- 30km/h想定では5%(1-1.675/1.775=0.056)程度が改善できている。
- 60km/h想定では3%(1-2.775/2.850=0.026)程度が改善できている。
これが、40km/h走行時に10ワットのフリクション軽減の根拠とのことである。内容については、私自身理解の及ばないところも多くある。
競輪の世界にも
これは書こうか迷った。
今、競輪の世界にチタンの鎧が広まっているらしい。というのも競輪という競技は「NJS」の機材しか使用することができない。ただ、チタンの鎧はシングルナノの酸化チタン粒子であり、目に見えない。そのため施工していたとしてもいわなければわからないのだ。ただ、その効果ゆえ極限の競輪の世界であれば大きな差となる。
タイヤ差で、何百万、いや億のカネが動く世界だ。だれにもチタンの鎧のことは言いたくないはずだ。ただ、実際に競輪選手やトラック競技者を中心にチタンの鎧の依頼は増えている。機材制限が非常に厳しい競技だからこそ、あまりにも小さすぎて目に見えないチタンの鎧は重宝されるのだろう。
依頼方法
依頼方法はWEBから行い、パーツを送るだけだ。
必要な「パーツのみ」を「元払い発送」でクレストヨンドに送ればいい。その際に、脱脂洗浄の必要は無いのが嬉しい。洗浄も行ってもらえる。
- ドライブトレインセット[トラック用・ロード用・MTB用] 16,500円(税込)
- チェーン:4,400円(税込)
- チェーンリング:4,400円(税込)
- スプロケット:5,500円(税込)
- リアディレイラープーリー:3,850円(税込)
- フロントディレイラーブレード:3,850円(税込)
- その他:1パーツ 3,850円(税込)
- 返送料一律660円
私も施工したのだが、駆動系のパーツ全てにチタンの鎧を施工することをおすすめする。1つの部品だけケチってもしょうがない。やれることは全て行うほうがいい。私はこの施工価格は非常に安いと思う。10W削れるとしたらだ。これはデーターが示した内容が正しければ、明らかなアドバンテージが得られるのだ。この価格に妥協する理由は見当たらない。
あ、あと施工には日数がかかる。たまに「お前ンとのブログで紹介するといつも買えねーじゃねーか」という(ありがたい)お言葉を頂戴するが、だからこそ善は急げということわざがあるのだ。
まとめ:革新技術が受け入れられるまで
自分の理解の壁に達したとき、人は「オカルト」だとか「気のせいだ」という。
それはバカの壁であり、冒頭に記したとおり私がぶち当たった壁だ。ただ、その壁は1つ1つ内容を理解していくことで次第に「とんでもない技術なのではないか」という確信へと変わっていった。
雑誌やメディアの常套句で、「本当は教えたくないのですが・・・」という言葉がある。読者をあおるために考え出された言葉だ。言っている時点で教えてとるやないか、とツッコミを入れたくなる。しかし、あえて白状しよう。私は実業団初戦の舞洲TTやクリテリウムまで、ブログにも掲載せず、誰にも言わないでおこうと思った。
初戦のタイムトライアルを、革新的なアドバンテージを持って挑もうとしていた。ようするに、いろんな選手がチタンの鎧を使用すると、単純に自分自身のアドバンテージが無くなってしまうからだ。特に私の場合は、記事を公開すると色んな方々見てくださっているため、自分の首を絞める事になる。
測定器を用いた正確な実験データから大幅なメリットがあることを知ってしまったのだ。あざといかもしれないが、私は明らかに優位だとわかっているデーターや内容を知り、自分だけ抜け駆けしようと思っていたのだ。いまだから白状しておこう。今、アマチュアの世界も情報戦なのである。
ただ、コロナの影響でレースが中止され、外出自粛という状況下で、「こんな状況下だからこそできる機材の準備」として「チタンの鎧」は最も行っておくべき施工だ。高価な機材や、どうでもいいサプリの購入を見送り、チタンの鎧を施工すべきであると強く言いたい。もちろん自分の首も絞めることになるわけだが。
私は思う。オカルトだと思うのは、自分の理解の範疇を超えているからだ。ただ、事実を知り、表舞台には決して出てこない研究者の方たちに直接アクセスしたことで、今まで見えなかった、知り得なかった分野の知見が得られた。考え方を変えるためには、自分の頭で考え、調べ、新しいテクノロジーに触れて初めて変えられるのだ。
いま、自転車の世界に全く異なる分野から新しい技術が押し寄せようとしている。革命的、いや劇的に変化してしまうパラダイムシフトが起ころうとしているのだ。