【最終結論!】エアロロードと軽量バイクどちらが速いのか? エボ VS システムシックス

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深い海の奥底で、宝物を発見したような気分だ。キャノンデールの新型エアロロードバイクSYSTEMSIXを調べていくうちに、興味深い開発ヒストリーを初めて知ることになった。そこにはSYSTEMSIXの技術情報だけにはとどまらず、速く走りたいと願うサイクリストたちにとって有益な情報であふれかえっていた。

今回の記事は、キャノンデールのSYSTEMSIXとSUPER SIX EVOを比較したさまざまな実験結果を照会していく。SYSTEMSIXの実車に直接乗ることで知りえた事実も記載していく。今回の記事は前編と後編の2部構成だ。

前編では、キャノンデールが公開している実験結果にせまる。後編では、SYSTEMSIXのインプレッションをおこなっていく。まずは、キャノンデール初のエアロロードSYSTEMSIX(システムシックス)に関するさまざまな実験結果から見ていこう。

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「奪われる」速さ

速さとはいったい何だろうか。単純な話をすると、ライダーが生み出したすべてのパワーを推進力に変えられたらいい。しかし、現実的に考えても無理な話であり、あらゆる抵抗が邪魔をしてくる。「抵抗」とひとくくりに言ったとしてもその種類は、空気抵抗、転がり抵抗、摩擦抵抗とさまざまだ。

抵抗は税金と似ている。稼いだお金(パワー)は税金(抵抗)としてどこかに消えていく(たいてい何に使われているのか知ることはできない!)。手元にはわずかな貯金(推進力)が残るだけだ。貯蓄は収入と支出のバランスで表されるように、「速さ」も同じようにパワーと抵抗の引き算で示される。抵抗の要素をさらに細かく分類していくと、次の6つに表すことができる。

  • 空気抵抗
  • 転がり抵抗
  • ベアリング抵抗
  • 高度抵抗
  • 加速抵抗
  • ドライブトレイン抵抗

抵抗の要素は、ライダーやバイクに対してどのような影響を及ぼすのだろうか。

サイクリストたちにお馴染みなのは「空気抵抗」だ。「空気抵抗は速度に比例して増えていく」という誰しもが知っている自然界の法則がある。速度が上がれば上がるほど、ライダーを押し返す力は高まっていく。駆動抵抗や転がり抵抗と比べても、空気抵抗は速度に比例して顕著に増加していく。

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Figure 1は横軸が速度、タテ軸がパワーを示している。速度(km/h)が増せば必要なパワー(グレーの線)も比例して増加することが読み取れる。グレーの線は必要なパワーの総量だ。グリーンのAEROは空気抵抗、レッドは転がり抵抗やベアリング抵抗である。速度が増せば空気抵抗(AERO)が支配的になる。駆動抵抗よりも、転がり抵抗よりも、空気抵抗(AERO)の割合が増えていく。

ここで見落としてはいけないポイントがある。

ロードバイクはさまざまな速度域で移動する乗り物だ。したがって、「高速域だけが重要」という考え方だけでは不十分である。キャノンデールはSYSTEMSIXの開発において、この重要なポイントを見落とさなかった。エアロダイナミクスに対して現実的なアプローチをするためには、「速度の違いは抵抗の割合にどのような変化をもたらすのか」という話からスタートする必要があった。

いったいどういうこと?

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Figure 2のグラフから確認してみよう。ヨコ軸が「速度(km/h)」で、タテ軸が「パワーの割合(%)」である。抵抗とひとくくりに言っても、転がり抵抗や空気抵抗が存在しており、抵抗全体にしめる割合に違いがある。まずは速度が0(km/h)のポイントから注目してみよう。

0km/h地点では、転がり抵抗(Rolling Resistance)とベアリング内部抵抗(WB)にほとんど埋め尽くされている。理由としては、ゼロスタート時点では速度が遅いから、空気抵抗の影響を受けることがない。現実世界において私たちライダーが体で理解していることだ。

言われてみれば当たり前なんだけど、この考え方をしっかりとグラフで表してわかりやすくしたことがスバラシイと思う。

グラフで見落としていけないポイントは、「線がクロス」している部分だ。速度が増していくと、空気抵抗は増加し、転がり抵抗(RR)やベアリング抵抗(WBR)の「割合が小さくなって」いく。線がクロスしているポイントは、「それぞれの抵抗がちょうど50対50で均等になる速度域」だ。

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補足:『スピードが上がっても、転がり抵抗(RR)やベアリングの抵抗(WBR)の「絶対値」は小さくなっていない。抵抗全体に対してRRとWBRの「割合」が変化している。』

空気抵抗と転がり抵抗が50:50の割合になる速度域はおよそ「15km/h」だ。スピードが増せば、抵抗全体にしめる空気抵抗の割合も増加していく。速度40km/h以上では、抵抗全体のほとんどが空気抵抗に支配されてしまう。タイヤの転がり抵抗やベアリング抵抗の「割合」は、速度が上がるほど減っていく。トップスピードに達すると、もはや空気抵抗の割合が支配的だ。

あらためて言っておきたいのは、抵抗全体に対する割合が小さくなったとしても、絶対的な抵抗自体は小さくなってしまうわけではない。空気抵抗が抵抗全体にしめる割合に幅が利きすぎているため、摩擦抵抗や転がり抵抗の割合は相対的に減少していく。各抵抗における絶対的な抵抗自体は変わることはなく(わずかには変動するにせよ)、常に駆動抵抗や転がり抵抗は存在している。

したがってエアロダイナミクスがいかに優れていたとしても、抵抗の小さい機材を使うことは無駄ではない(1つ1つの引き算が大切だ)。この時点でまず理解しておきたいポイントは、「速度の違いは抵抗の割合に変化をもたらす」という傾向だ。

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勾配の影響

ロードバイクが走るフィールドは平たんだけではない。急こう配で、険しい山道を走ることだってある。平たん路を走るだけであれば、エアロロードやタイムトライアルバイクが最適な機材である。しかし、勾配がキツイ坂道の場合でも同じようにエアロロードが速く走れるのだろうか。結論を急ぐ前に、速さの違いを生み出すパワーウェイトレシオと、空気抵抗の関係から確認していこう。

登りの速さを決定する指標は「パワーウェイトレシオ」だ。体重に対してどれほど大きなパワーを発揮できるのか、サイクリストが最も好む指標である。たとえば体重80kgで400W出せるライダーのパワーウェイトレシオは5.0W/kgだ。対して体重50kgで300W出す人のパワーウェイトレシオは6.0W/kgである。数字の大小だけで見ると、300Wしか出せていない50kgのライダーは遅そうに見える。しかし、登りで競争すれば後者(6.0W/kg)のライダーが速い。

体重が軽くてパワーが大きければ速く走れる。多くのサイクリストたちが理解していることだ。いや、実際のフィールドでは本当にそのとおりの結果になっているだろうか。そうとも限らない。パワーウェイトレシオと勾配の関係は、空気抵抗を無視している。ヒルクライムにおいて軽量バイクが好まれることは間違いない。しかし「軽さ」は、速さを決定するための数ある要素の1つでしかない。

先ほどの抵抗全体にしめる「各抵抗の割合」が示したとおり、ある程度のスピード域に達すれば、空気抵抗がしめる割合もさらに増していくはずだ。「抵抗全体にしめる各抵抗の割合」では、速度が上がれば空気抵抗が支配的になっていった。前提をおさえつつ、エアロロードバイクと軽量バイクを比較すると、登りで優位なのはいったいどちらなのだろうか。

重要なのは「速度域」と「重量」の関係だ。2つの要素はエアロロードと軽量バイクの優劣を明確にしてくれる。速度域の違いで、エアロロードは有利にもなるし、不利にも変わる。では、どのような条件であれば「エアロロードが有利」なのだろうか。エアロロードが速く走れる条件をキャノンデールは突き詰めていった。

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グラフのタテ軸はパワー、ヨコ軸は斜度を示している。パワーは一定の300Wだ。棒グラフの色は抵抗を表している。勾配が増すにつれて、グリーンの空気抵抗は減り、ブルーの位置エネルギー(PE)が増している。この実験条件は、体重75kgのライダーが一定出力(300W)で走っている場合を想定している。タイヤの転がり抵抗を表すCrrは0.003だ。スーパーソニックやGP4000RS相当である。空気密度は1.20kg/m^3を想定している。空気密度は特徴があって、気温によって変動する。

たとえば気温O℃の条件下では、1m^3あたりの空気密度はおよそ1.25kg/m^3だ。気温が上昇して、気温17℃になると空気密度はおよそ1.20kg/m^3に変化する。今回の実験の想定は気温17℃前後で、春先や秋口の空気密度だ。

平たん路であれば、速度が増すにしたがって、空気抵抗がしめる割合は増加する傾向だった。しかし、登り区間になると話はまったく違ってくる。勾配が増すにしたがって位置エネルギー(後ろに引っ張られるようなチカラ:PE)の割合が増していく。斜度が10%近くになると、今度は位置エネルギーが支配的になっていく。勾配が増せば速度が落ちるので、空気抵抗は減少していく。

今回の条件は出力が300W一定で、体重が75kgだ。パワーウェイトレシオは4W/kgということになる。どのような条件でも共通して言えることは、斜度が増せば速度は遅くなる。速度が落ちるということはすなわち、空気抵抗は次第に薄れていくのだ。登りが続くようなヒルクライムであれば「軽さは正義」だ。データからも疑いようのない事実である。

体重を軽くすること、バイク重量を軽くすることは、上り坂を速く走ることと同じ意味を持っている。いわゆるパワーウェイトレシオがモノを言う世界である。ここでいったん上り坂のことは忘れて、平たんの場合を思い出してほしい。質量は速さに対してそれほど影響を及ぼさなかった。

平たんを速く走るためには、空気抵抗をできるだけ小さくして出力を上がることがマストだった。パワーが出せてエアロダイナミクスに優れたフォームであれば速いわけだ。大きなパワーを生み出ていたとしても、支配的な空気抵抗に邪魔をされてしまっては速く走ることはできない。単純明快である。

平たんであっても登りであっても、自然界の法則にさからうことはできない。たとえばユアンのロケットスプリントと呼ばれるように小柄であったとしても、空気抵抗を小さくしてその分パワーを出せれば、並み居るスプリンターたちよりも速く走ることができる。対して、クライマーは細くて体重が軽いがとてつもないパワーを生み出る。選手のフォームや体型は「出力と抵抗の種類からデザインされている」と言えるのではないだろうか。

ワイ、名言を生み出してしまった・・・。

勾配の影響の話から脱線してしまったが、関係を理解した上で次章からはSUPER SIX EVOとSYSTEMSIXののぼり対決をさらに突っ込んでみよう。誰もが気になるエアロロードとクライミングバイクの登り対決だ。

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エアロロードとヒルクライム

勾配の影響、平たん路における抵抗や速度差の違いがわかってくると、次の疑問が湧いてくる。「勾配が何%までであれば、エアロロードが速いのか」という疑問である。キャノンデールはSYSTEMSIXとSUPER SIX EVOを比較して実験をおこなった。条件としては、タイヤやホイールなどありとあらゆる機材を統一し、唯一の違いをフレームだけに絞った。重量はSUPER SIX EVOが1kg軽い想定で、エアロダイナミクスはもちろんSYSTEMSIXが有利だ。

テスト条件でもう一つ決定しなければならないことは、ライダーのパワーウェイトレシオだ。パワーウェイトレシオと勾配の関係は、坂を登るスピードに影響を与えることは先ほど確認したとおりだ。パワーウェイトレシオが高いライダーは、急こう配でも高い速度域で走れるから空気抵抗もその分大きく受けるようになる。

空気抵抗が増せば増すほど、エアロロードが有利になる分岐点が必ず出現してくる。先ほど登場した「300W一定」「体重75kg」のライダーの場合で考えてみよう。パワーウェイトレシオは4.0W/kgだ。4.0W/kgのライダーの条件であれば、「6.0%まで」の勾配はSYSTEMSIXのほうが速く走れる。しかし、勾配が6%よりキツくなると、SUPER SIX EVOのほうが速く走れる。

パワーウェイトレシオは4.0W/kgにおいて、勾配とタイム短縮時間の関係を表したのが次のグラフだ。

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タテ軸は短縮する時間を表している。プラスであればタイムは短縮し、マイナスであればタイムは遅くなる。勾配が6%であれば0(ゼロ)で示されているとおり、エアロロードのSYSTEMSIXと軽量バイクのSUPER SIX EVOの間には差が生まれない。次に、パワーウェイトレシオが4.0W/kg以上の場合はどうなるのだろうか。

パワーウェイトレシオ5.0W/kgの場合は、およそ7.0%の勾配までエアロロードのSYSTEMSIXが速く走れる。さらに勾配がキツくなるとSUPER SIX EVOのほうが速く走れる計算だ。アマチュアには関係ないと思うが、6.0W/kgのパワーウェイトレシオになると、およそ8%の勾配までならSYSTEMSIXのほうが速く走れるのだ。

突きつけられた結果はヒルクライマー問わず、エアロロードそのモノの考え方を変えてしまうだろう。レースで速く走るために1gの軽量化を突き詰めていくのはライダーの自由だが、ヒルクライマーでなければエアロダイナミクスに優れたバイクを選択するほうが速く走れるということになる。ヒルクライマーであったとしても、ハイスピードのレースが展開される富士HCと、ウェイトレシオ勝負の富士アザミラインHCでは、使う機材の選択をあらためて考えなおす必要がでてきそうだ。

キャノンデールが「明確な数値で示された比較データ」を公開したことで、バイクの軽量化に命を懸けていたライダーたちは目を覚ます可能性がある。軽量化のみならず、空気抵抗を減らすことでさらに峠のタイムが縮められる武器が与えられたのだ。

1つ忘れてはならないのは、キャノンデールが実施した実験の条件(一定出力、一定勾配)は整いすぎているということだ。本来であれば現実世界におけるさまざまな条件を加味し、エアロロードと軽量バイクの違いについて議論されるべきだ。しかし、使用するコース、風向き、ドラフティングの有無と、条件と条件が複雑にからみ合うため、1つの結果を導き出すことはとても難しい。

そのため今回は、条件を整えて基本的な考え方から理解するというアプローチをキャノンデールは示したのだ。

科学的な事実から、私たちライダーが考えなければならないのは、コースレイアウトや速度域から「どの環境下で優位に走りたいか」である。自分が有利に走りたい条件を明確にすることで、エアロロードが良いのか、それとも軽量バイクが良いのかは変わってくる。たとえば、弱点を補うようなシチュエーションを想定することもおもしろい。自分が速く走りたい条件を定義することで、エアロロードが適切なのか、軽量バイクが良いのか、変わってくる。

ワイ、全部有利に走りたいんや・・・。

そう考える輩もいるだろう。

たとえば、登り区間でじわじわちぎれてしまったとしよう。そこで、ウェイトレシオと勾配のデータから、軽量バイクを選択したほうが良いのか、エアロロードが良いのか判断すればいい。対してコーナーの立ちあがり区間からハイスピード域に達する手前でちぎれてしまったとしたら、エアロロードがアシストをしてくれる。

私はロードレースを走る場合が多いから、エアロロードを選択することが多くなる。ここでいったん軽量バイクのSUPER SIX EVOとエアロロードのSYSTEMSIXを例にして、パワーウェイトレシオと、勾配ごとの優位性をまとめてみよう。

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  • 3.0(W/kg):勾配5%までEVOよりSYSTEMSIXが速い。
  • 4.0(W/kg):勾配6%までEVOよりSYSTEMSIXが速い。
  • 5.0(W/kg):勾配7%までEVOよりSYSTEMSIXが速い。
  • 6.0(W/kg):勾配8%までEVOよりSYSTEMSIXが速い。

勾配とパワーウェイトレシオの関係性についてもう少しだけ考えてみたい。エアロロードのメリットを享受できるのは、ある程度の速さに到達したときだった。パワーウェイトレシオと勾配の関係によって軽量バイクとエアロロードの優劣は変化していく。実際のレースの勝負どころで考えてみよう。広島森林公園の3段坂や、群馬CSCの心臓破りの坂は1~2分を全力走する展開が多くなる。

短時間のダッシュを想定すると、軽量バイクとエアロロードどちらが有効なのだろうか。勾配、速度域、パワーウェイトレシオを考慮するとエアロダイナミクスに優れたバイクのほうが優位に傾く可能性が高い。1~2分間という短い時間であれば、パワーウェイトレシオも増し、速度域も上がるからだ。

勾配がキツい区間が終われば、なおのことエアロロードの優位性は高まっていく。レース展開の複雑さは機材選択を何回にする。しかし、その根底はじつに単純だ。できるだけ軽く、できるだけエアロダイナミクスに優れたバイクを選択すればいい。

次世代のエアロディスクロード戦争のお題は、「軽量エアロロード」に決まりました。
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スプリントにおける優位性

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30km程度のクリテリウムを走ろうが、200km以上のレースを走ろうが、最後まで生き残れば必ずスプリントが待っている。ゴールにたどり着くまでの道のりをどう過ごしてきたかで、脚が残っていたり、疲労していたり、もはや動けなくなっている可能性もある。ただし勝負はいつも残酷だ。1位以外はすべて負け、ロードレースが始まって以来の変わらないルールがある。

アイルトンセナも「2位になるということは、敗者のトップになるということだ」と言っていたように、勝負の世界は常に厳しい。

ゴールタイムは同着だが、1位と2位では世界が違う。世界選手権であれば得られるモノは天と地の差になる。どれだけ前を引いたとしても、どれだけ目立って逃げたとしても、一番初めにゴールへ飛び込んだ選手の勝ちだ。そんな残酷な世界であったとしても、エアロロードを使えば勝利に近づく可能性は高まる。

スプリントにおける高速域を考えてみると、エアロダイナミクスの影響は明らかだ。ここまでの実験データからもわかるとおり、高速域であればあるほど空気抵抗が支配的だった。気になるのはエアロロードよりも、軽量バイクのほうが軽くて「加速が良さそうな」気がする。

キャノンデールはSUPER SIX EVOとSYSTEMSIXをスプリント域においても比較することにした。実験の条件は「ゴール前ラスト200mを平均速度60km/h」で走り抜ける想定である。必要なパワーと時間は12秒間で平均1000Wだ。結果を先に述べてしまうと、SYSTEMSIXがSUPER SIX EVOよりも0.4秒早くゴールする。

たった0.4秒?そんだけ?

数字で見ると、0.4秒はそれほど大きな差にはみえない。しかし、60km/hの世界に話を置き換えて考えてみると恐ろしい差が生まれる。SYSTEMSIXはSUPER SIX EVOに7.2mもの差をつけてゴールする。どれくらい離れているか具体的に示してみよう。ロードバイクの全長(ホイール込)はたいてい1.7メートルほどだから、4.2台分先でSYSTEMSIXが先着している。

スプリントで4.2台分も離されてしまっていたらもはや「惨敗」としか言いようがない。

今までSUPER SIX EVOで走ってきた選手が、ゴール前スプリントでホイール1本分の差で負けていたとしたら。SYSTEMSIXを使えばホイール1本分どころか、バイク4台分の差で勝つ可能性もある。4台分引き離すだなんて嘘のような話だが、それほど高速域でのエアロダイナミクス効果は大きいのである。

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逃げる選手こそ

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キャノンデールはありとあらゆるシチュエーションを想定して実験をおこなった。SUPER SIX EVOがまったく売れなくなってしまうのではないかと心配するほどである。単独で逃げ続けることを考えたとき、エアロロードの優位性はさらに増していく。

平たん路を45km/hで逃げたとしよう。SUPER SIX EVOとSYSTEMSIXにそれぞれ同じディープリムを取り付けて、同じ速度で走ったとすると、SYSTEMSIXはおよそ40W以上のパワーセーブが可能だ。SUPER SIX EVOに乗るユーザーからすると、とんでもない話に聞こえる。それほどSYSTEMSIXのエアロダイナミクスは優れているのだ。

次にロードレースでお馴染みの「集団内」ではどうだろうか。空気抵抗の影響は少ないように思る。ドラフティングを使うと、先頭を引く選手よりも低い出力で走ることが可能だ。「集団内」という難しいシチュエーションにおいても、キャノンデールは科学的な根拠をもってエアロロードが優位であると説明している。

たとえば、先頭から2番目で走っている場合だ。45km/hで走行しているならSYSTEMSIXはSUPER SIX EVOよりも24Wのパワーをセーブできる。単独で逃げる場合のパワーセーブも重要だが、集団内でパワーセーブできるということは、ライバルたちよりも脚を使わずに済み、ダメージも少ないということになる。長距離をハイスピードで移動するレースであればあるほど、エアロダイナミクスの恩恵は大きくなり、結果的に脚を残せるのだ。

ここまでのデータを知ると、SUPER SIX EVOのユーザーは心底落胆するだろう。ツール・ド・沖縄やエンデューロでSUPER SIX EVOを使うつもりの愛好家たちは、SYSTEMSIXに乗り変えたくてうずうすするはずだ。いや、そう考えるのはまだ早い。さらにSYSTEMSIXが速く走れるデータがある。

エボちゃん、息してないわー。
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ダウンヒルの優位性

レースの最高速度はいったいどのタイミングで計測されるのだろうか。たいてい下り区間でトップスピードが記録される。プロレースの最高速度は100km/h以上にも達する。スピード違反で捕まってしまう速度域を布きれ一枚で走っているのだから、プロサイクリスト業は正気の沙汰じゃない。

ダウンヒルであればさらにエアロロードバイクのメリットが増していく。キャノンデールはSUPER SIX EVOとSYSTEMSIXを比較し、エアロロードのアドバンテージをさらに明確にした。

8%の下り坂をノンブレーキでダウンヒルする場合を考えてみよう。SUPER SIX EVOの最高速度は68.6km/hに達する。対してSYSTEMSIXの最高速度は74km/hに達する。もちろんライダーのフォームや、ヘルメットの選択も影響してくるが、フレーム以外は同じ条件だ。結果として、SYSTEMSIXとSUPER SIX EVOを比べると5.4km/hの差が生まれる。

5.4km/hの速度差はとても大きい。速度域が高ければ高いほど大きな差がつく。離される距離の差も顕著になっていく。たとえば1kmの区間で考えてみると、およそ4秒の差がつくことになる。速度域が高いがゆえに距離にして80mもの差だ。SYSTEMSIXの恐ろしいところは、ダウンヒルでも大きな差をつけてしまう。

次は実践的な下り坂を想定して、下り坂で前の選手を追うようなシチュエーションや、ちぎれた後に、間を埋めるような場合を想定してみよう。

SUPER SIX EVOを使用したライダーは、下り坂5%を310Wの出力で踏んで61km/hの速度が出ていたとしよう。対するSYSTEMSIXのライダーも同じように61km/hの速度が出ている。にもかかわらず、SYSTEMSIXに乗っているライダーはわずか200Wのパワーしか使っていない。

310Wと200Wである。

高速域になればなるほど、セーブできるパワーはより顕著になる。高速なダウンヒル区間では、エアロロードのチカラはさらに発揮されるのだ。

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前編まとめ:Cerveloとキャノンデール?

軽くてエアロなフレームを選ぶ。本質を突き詰めるとじつに単純な答えが浮かび上がってくる。ただ―――、乗り味や伝統的なホリゾンタルの形を好むライダーも少なからず存在しているのも確かだ。皆が皆、速さを求めてエアロロードに乗りたいわけじゃない。何をロードバイクに求めるかは人それぞれ違っている。

キャノンデールは今回、科学的な観点にマトを絞って1つの結論を導いた。軽量バイクの代名詞SUPER SIX EVOとエアロロードのSYSTEMSIXを比較して、それぞれのバイクの違いを明確に表した。キャノンデールを代表するロードバイクのSUPER SIX EVOをこき下ろしてまで、SYSTEMSIXの優位性を説いた同社の姿勢には舌を巻く。

数々のデータは、今まで活躍してきたSUPER SIX EVOの存在を奪ってしまう。自分で自分の首を絞めてしまいかねないデータをキャノンデールは堂々と示したのだ。それほどSYSTEMSIXに対して本気なのだろう・・・。「エアロロード」という話題で話をするとき、キャノンデールは常に蚊帳の外だった。話題に上がることもなかった。その流れを覆すためには、キャノンデールのブランドイメージと強く結びついた軽量バイクのSUPER SIX EVOを、まずは葬り去ることが目的だった可能性もある。

しかし、ここで疑問も残る。今回のSYSTEMSIXで示されたように、キャノンデールは突如として優れたエアロダイナミクス技術と開発力を備えていることがわかった。複雑な数式や興味深い数々の実験結果。なぜ、そのようなことができたのだろうか―――。そこには理由があった。元サーベロのエアロダイナミクスのスペシャリスト「デイモン・リナード氏」を迎え入れた新体制のキャノンデールがそこにあった。

カーボンの魔術師「ピーター・デンク」と、エアロダイナミクススペシャリスト「デイモン・リナード」が生み出しバイクこそSYSTEMSIXだったのだ。次回の中編では、実車のSYSTEMSIXに触れ、分解して細部まで詳しくせまる。そして実際にSYSTEMSIX乗ったインプレッションをお伝えする。

情報元1:CANNONDALE SYSTEMSIX white paper

情報元2:CANNONDALE SYSTEMSIX

※)本記事内のデーターはCannondaleから許可を得て作成しています。

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