富士ヒルクライム(通称:富士ヒル)で使用するホイールについて、シミュレーターを用いて比較検討を実施した。使用ホイールとしてエアロ系に特化したROVAL CLX50、軽量性に特化したROVAL ALPINIST CLX、開発したITLAB45の3パターンを用意した。
ホイールの空力性能はYaw角の違いで異なる。風洞実験室内で優れていたとしても、自然界で発生する風向きの違いによってホイールの優劣は変動する。また、走行スピードの違いによってもYaw角は変化する。風洞実験室での結果を現実世界にあてはめて考えることが「できない」のはこれらの理由があるためだ。
さらにレースのスタート時間によって、発生する風向きは変化する。6時スタートと8時スタートでは風向きが変化するため場合によって最適なホイールが変わる可能性がある。そこで今回は2021富士ヒルクライムの開催日である2021年6月6日における6:30第1スタート(男子主催者選抜)に合わせた最適なホイールを予測する。
レース当日に発生する可能性のある天候については、Dark Skyのビッグデータからロードした。加重平均計算や風洞実験結果については、以下の記事を参照のこと。
パラメータ
ライダーは私自身を想定した。パワーデータ、身長、機材重量等様々なパラメータを入力した。
- 身長:169.50cm
- 体重:58.50kg
- FTP:290W
機材パラメータは以下の通り。
- Rolling Resistance:169.50cm
- Mechanical Loss:58.50kg
- FTP:290W
- バイク重量1(ROVAL CLX50):6,800g
- バイク重量2(ITLAB 45):6,610g
- バイク重量3(ROVAL Alpinist CLX):6,640g
- ホイール重量1(ROVAL CLX50):1,414g
- ホイール重量2(ITLAB 45):1,221g
- ホイール重量3(ROVAL Alpinist CLX):1,251g
レース当日のパラメータは以下の通り。
- レース名:2021富士ヒルクライム
- 日付:2021-06-06
- スタート時刻:06:30:00(選抜者クラス)
- 気温:Dark Skyで算出
- 気圧:Dark Skyで算出
- 風速:Dark Skyで算出
- Yaw角:Dark Skyで算出
- スタート後のドラフティング:あり
- IF:0.80
当日の予想される風速は上図の通り。走行距離と共に標高が高くなるにつれて、風速は増していく傾向にある。残り4km区間は風速7mになると予想される。
想定されるYaw角は山岳地帯であるため、-20°から-10°が40%を占める結果だった。このYaw角は市街地や平地ではほとんど発生しない。山岳地帯ならではの傾向である。これらのYaw角の出現率を見ての通り、風洞実験で得られたYaw毎のデータを、決して現実世界にあてはめて考えてはいけないという1つの好例である。
勾配は走行速度に影響を及ぼす。速度が遅い場合のYaw角は±20°付近の出現率が高まる。実際のシミュレーションでも同様の結果になった。
結果:2021富士ヒルクライム選抜者クラスの場合
- 01:05:58:ITLAB45
- 01:06:16:ROVAL CLX50(+18)
- 01:06:18:ROVAL ALPINIST CLX(+20)
風洞実験結果を用いて加重平均計算を実施した空力性能は、ITLAB45よりもROVAL CLX50が1.9W優れていた。富士ヒルクライムのレース当日のスタート時刻と実際のコース走行を想定した場合のタイムは、ITLAB45が18秒速くゴールした。
CLX50よりも163g軽量なROVAL ALPINIST CLXは一見すると登りのタイムが稼げると思いがちだが、ROVAL CLX50の空力性能とヒルクライムレースの中では特に速いレーススピード、当日のYaw角の影響からCLX50との比較で+2秒、ITLAB45の比較では+20秒遅れる結果だった。
当日の気象条件や、富士ヒルクライムは第10スタートまで細かくスタート時間が分けられていること、当日の気象条件である風速やYaw角、そして走行スピードによってはこれら3つのホイールの優劣は大きく変わる。Dark Skyが算出した結果は、レース日に近づけばさらに精度が増すためレース1週間前に追跡調査が必要だ。
以下、参考記事。