・今後も価格は上がっていく。
・急いで買う必要はない。
というのが、結論だ。
ロードバイクの完成車の価格がついに200万円を突破した。単純に円が弱くなっているということも考えられるが、昨今のロードバイク完成車や機材のの価格高騰はとどまることを知らない。それゆえ、今後も価格が上がり続けるのか、それともある程度の価格で落ち着くのかまったく予想がつかない。
世界情勢がいまだ不安定であることと、自転車部品に使われる材料や半導体の不足、そして原材料の高騰、人件費の増加などがからみあい、”モノ”の価格を押し上げている。それらは、単純に自転車業界に限った話ではなく、生活用品や、食料といった物価の上昇を肌で感じるようにまでなった。
今回の記事は、今後のロードバイクの価格がどうなるのか、そして買い時はいつなのかについて探った。「買いたいときが買い」といった一般論や、「今後も価格は上がり続ける」とは予測されているものの、日本に住み、賃金があがらない状況の最中、ロードバイクを本当に買う必要があるのかについても記していく。
値段が下がることはない?
昨今の自転車機材の高騰は、当初90年代前半に起こった日本のバブル期における土地神話と重ねてしまったが、少し時間が経ってそれは少し違うなと思った。このバブル時代には地価高騰が起こり、「地価は必ず上がる」という土地神話がメディアによって広まった。そして、誰もが不動産を購入するようになった。
しかし、バブル崩壊とともに、”信じられていた”土地神話も崩壊の道を辿ることになる。このとき「借金をしてでも買え」というようなあおりで、利子を吸い取る銀行や土地所有者は儲かったかもしれない。しかし、バブル崩壊により、買う側は価値が下落した土地と借金が残った。
自転車の高騰も、バブル期における土地のように価格が上がり続けるのかと問われれば、このまま円が弱くなれば、確実に自転車の価格も上がっていくだろう。というよりも、値上げしなければ、日本の小売店や、日本の代理店がジリ貧になってしまう。
しわ寄せを代理店や小売店が受け入れるわけがない。実際に値上げしても利益率はそこまで上がらないだろう。代理店は趣味ではなく、仕事の商材として自転車を扱っているので、収入がだんだん減っていき、経済面で厳しい状況が今後目に見えているのに、値下げしました、なんて言うわけがない。
あなたは趣味かもしれないが、相手は商売をしている。
自転車のほとんどは輸入だ。北米や欧米のブランドが、台湾や中国で部品を製造し、世界各国に輸出している。資源を持たない日本は、ご存知の通り輸入に頼っている。日本にはシマノという世界ナンバーワンの自転車機材メーカーがあるが、製造はマレーシア・シンガポール工場などでおこなわれている。
日本にいるかぎり、輸入する際の為替のレートを考慮する必要がある。2021年1月、1ドルは103円だった。ついこないだのように思える1年半前から、30円以上も円が弱くなった。103円の時点でも、TREKやSPECIALIZEDといったメーカーは115円~120円ほどレートに設定し国内の販売価格を決めていたように思う。
2022年の各メーカーの価格はどうなるのか。確かに、米国の景気後退が危惧される中、安定と言われる円が買われる可能性もある。しかし、先行きはだれにもわからず不透明だ。であれば、日本国内の代理店は、このまま円が弱くなって行ってもいいように、ある程度の余白を設けて1ドルを155円~160円計算程に設定するかもしれない。
事実、Cervelo S5の海外価格は13,000ドルで、国内価格は220万円だ。Wiseなどの海外送金を使えば、手数料を考えても日本円で180万円ほどしかかからない。同時期に発表されたTREK MadoneとCervelo S5の価格設定をみてみよう。
Cervelo S5 9270完成車 本国定価13000$ = 約180万円 →日本定価220万円
TREK Madone SLR 9 Gen7 完成車 本国定価 12750$ = 約174万円 →日本定価 166万円
これを見ると、「TREK安い!」と思ってしまうが落ち着いてほしい。ロードバイクが160万円もする。安くない。「安い」と思ったあなたは麻痺している。という話はさておき、Cervelo S5の日本への入荷は8台だという。TREKはネームバリューも国内の販売台数も多いためある程度のスケールメリットがあるのだろう。
そのため、8台しか入荷しないCervelo S5の価格設定が高くなってもしかたない。そう考えると、スケールメリットを享受できないメーカーは今後も間違いなく値上げしていくだろう。そして、大手のSPECIALIZEDやTREKといったメーカーも、便乗値上げしてくる可能性も十分有り得る。
最悪なのは、「ステルス値上げ」だ。いままで1000mlだった飲み物が、900mlと内容量を減らして同額、という戦略も完成車であればありうる。ハンドルや、ステム、サドル、ホイールとった目につきにくいパーツを”安価なパーツ”にして、価格を据え置く。
「見た目の値段」さえ上げなければ、値上げに敏感な日本人をまんまと騙せる。ようは、フルスペック積んだ完成車を220万円で売るよりも、安いパーツを付けて150万円で売るほうが消費者からすると「買いやすい」のだ。
今後、自転車機材の価格の行末は、値上げか、ステルス値上げになる可能性が高いと思う。それでも、自転車愛好家は買うだろうし、次第にお金持ちの趣味になっていく可能性だって十分有り得る。
ただ、本当にそんな高い機材を買う必要があるのか。少し別の角度からこの値上げを見ていきたいと思う。
コストに見合ったバイクか?
ピナレロのDogma Fやハイエンドのバイクは確かに乗ってみたいと思う。ただ、どのバイクも進ませるエンジンはライダーだ。自転車は手段でしかない。そのうえで、220万円もするバイクに乗るのと70万円程で買えるバイクとの間には150万円もの差があるのかと問われば、あまりないと私は思う。
パワーが有る人が乗れば何だって速いように、最近のハイエンドバイクはある一定の性能から高止まりしている。限られたUCIレギュレーションの中で空力開発と重量を調整している。最もコストバリューが優れているのは、キャニオンのAEROADや、ブリヂストンのRP9だ。
これらのバイクと、200万円オーバーのバイクが何が違うのかと言われると明確に、「ここが違う!」と声を大にして言える人は少ないとおもう。それだけ、現代の開発技術は行き着くところまで行き着いている。車のように馬力や燃費で語れればよいが、ロードバイクは「重量」と「空力性能」といった限られた性能でしか語れない。
とすると、ある程度性能を備え、価格がこなれたバイクを探すほうが賢明だ。
一方で、ピナレロはたしかに空力が良いが、ブランド信仰的な要素が強く、ルイ・ヴィトンで有名なコングロマリット、LVMH( モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンルイ・ヴィトン)傘下になってしまったことからもわかるように、性能以外のブランド価値で高額なバイクも存在している。
もしも、自転車を始めたい、ポタリングで楽しみたい、といった「自転車に乗る喜び」を求めているひとには、これら「高級品を所有する喜び」といった見栄の部分を一旦忘れていただいて、単純にコストに見合ったバイクをおすすめしたい。
その際に、GIANTやMERIDA、FELTといった比較的安価なメーカーをおすすめしたいのだが、今年GIANTも値上げされ、全然安くなくなった。これは、円というよりも台湾ドルが上がっているという現地の厳しい状況がある。
筆者自身も、台湾の工場とやり取りしているのだが、突然こんなメールが飛んでくる。
日本のみならず、世界のバイク製造の中枢である、台湾も辛いのだ。台湾も値上→仕事を出す北米&欧州ブランドも値上→日本代理店も値上という図式は容易に想像できる。さらに円が安くなり、ものが高くなる。
そのうえで、できるだけコストに見合ったバイクを探すのは一つの方法だ。その際、ドルベースのメーカーではなく、ユーロベースのメーカーのほうがわりと影響が小さい。実際にキャニオンは、ユーロベースなので完成車の価格がアホみたいに安い。
キャニオンの日本法人は、便乗値上げせずほどほどの値上でAEROADを売り出したことに私は感動したが、ユーロも2008年頃の155円台にならないとも限らないしいつまでもキャニオンが安いとは限らない。それでも、直販メーカーの強みである中間マージンのコストが無いのは魅力的だが。
SPECIALIZEDも直販メーカーになりたがっているようだが、直販メーカーになってもSPECIALIZEDは絶対に安くならない。そればかりか、プロへの供給やプロモーション費用が桁違いに高いから、間違いなくバイクは高くなるだろう。
したがって、キャニオンは海外メーカーでも特にコストに見合ったバイクを展開していると思う。そして、国内であればブリヂストンがまだまだ頑張ってほしいところだ。どうしても、ピナレロやサーベロといったメーカーが欲しい場合は別だが、ある程度の性能をもったコストに見合うバイクを探せば、「自転車に乗る楽しみ」は無限に広がっている。
まとめ:急いで買う必要はない
タイトルの「今後のロードバイクの価格と買い時は?」に戻ろう。価格は今後も上がっていくだろうし、買い時を図ることは難しい。それでも、わたしたちはロードバイクが好きだ。新しい機材を使ってみたいと思うし、いつかは買い替えたいと思う。
それでも、急いで買う必要はない、と私は考えている。
確実に値上は進んでいくが、220万円が来年、300万円になる可能性は低いし、全てのバイクが100万円超えしているわけでもない。消費者である私達が一歩立ち止まって考えておくべきことは、現代のロードバイクはどれも性能が高止まりしていて、その差は僅かになってしまったということだ。
とくに空力性能は、UCIレギュレーションの都合で1ワット、2ワットといった差しか産まない。そして、フレーム重量は700g~900gの範囲で推移している。この僅かな差を気にしているのは、プロやネタにしたいメディア、そしてどこかのIT技術者ぐらいだ。
多くの人にとって、これらの性能は不要だし、言ってしまえば定価で買うなんてアホらしく、今では中古市場だって盛況だし、なんなら質の良い中華ブランドだってたくさんある。ショップとの付き合いがなければ、海外通販で良いと思う。
いま、ショップに足を運べば「来年も値上げされますよ」「買うなら今ですよ」という決まり文句を言ってくるかもしれない。しかし、それはあなたのために言っていることではなく、彼ら(ショップ店員)の売上のためだ。
当然、そのようなショップが全てではない。中には、とても良いショップがあるので、自分でいろいろなショップに足を運んで見定めよう。きっとあなたのことを”本当に”考えて理想の一台を進めてくれるショップがきっとあるはずだ。
保険屋に保険の事を聞いてはいけないし(彼らの多くは、客のことなんて考えていない)メディアや雑誌は「220万円の価値があるバイク」なんて言ってくるかもしれない。それらに対して、お財布を緩め、踊らされることがないように、ある程度理論武装しておく必要がある。
いま、ロードバイク多くは、本来の性能に対して価格設定が適正にはなっていないように思う。特に北米のブランドはその傾向が強い。それは、ブランドに問題があるわけではなく、単純に円が弱くなっていること、日本の所得がいつまで経っても上がらないことも影響しているのかもしれない。
それでも、必ずしもハイエンドモデルが必要ではないし、安価で性能の良いバイクもたくさん存在する。価格はこれからも上がっていくと思うが、楽しみ方は無限に存在する。メーカー、ショップ、メディアの方たちは、これから価格に見合ったバイクの価値を提案していく義務があるように思う。
話は少々脱線したが、価格に納得がいかなければ、焦って今すぐ買う必要なんてない。ゆっくりと価値を見定め、いま乗っているバイクでできる楽しみを見つけることだってできるだろう。
ここまで私自身の考えを述べてきたが、結局最終的な判断は、あなた自身に委ねられている。それは誰に求められないし、自分で出した答えならばそれが正解だと思う。それでも、これからは、様々な情報や価値を自分で見極め、自分自身にあった適切な判断を下していく必要がある。
¥880