ポガチャルらUAEの選手たちがツール・ド・フランスでテストし、度々目撃されてきたENVEの新型ハブがついにリリースされた。
第一世代のENVEロードバブが登場してから4年、新型のENVEロードハブは新しいドライブメカニズム、ストレートプル対応、4つのラチェット歯数オプション、シェル構造の精密化、そして軽さと全方位的にアップデートされている。
ENVEが100%設計開発し、新型のインナードライブシステムによりさらに性能がアップしている。
インナードライブシステム
ENVEハブに搭載されているインナードライブシステムは、自転車用ハブとして最高レベルにまで性能が高められており、ハブ内部にENVEが考案した技術が注ぎ込まれた。
非常に大きなスチール製ラチェットがベアリングの内側に配置されており、ハブシャフトとベアリングへの負荷を軽減している。同時に、確実な噛み合わせを実現できるようになった。
42mmの大口径ラチェットドライブシステムは、ENVEが全て設計を行っている。アクスル自体への負荷が低減され、通常のベアリングよりも高耐久なものを使用しているため、プロが使用するシビアコンディションでも長寿命かつ耐久性が実現した。
パーフェクト・プリロードは 自動プリロード調整によりメンテナンスが容易になっている。
4つのラチェットシステムと性能
ENVEが新たにラチェット式を採用したのには理由がある。
- トルク伝達を分離し、アクスル負荷を低減する
- 歯の噛み合わせを変更できる
- 大口径ラチェットはラチェット歯へのストレスを与えにくい
- ベアリングの寿命が伸びる
- 耐久性が高まる
- 部品点数が少ない
- メンテナンスが容易
これらのメリットの中で特徴的なのは、交換可能な4つのラチェットが用意されていることだ。ライダーはライディングの目的に合わせてチューニングすることができる。効率、反応性、信頼性を最大化する事が可能になった。
- 40T:9°
- 60T:6°
- 80T:4.5°
- 100T:3.6°
角度が小さければ小さいほど、ペダルを踏み込んでからラチェットが噛み合うまでの時間が短くなる。100Tは遊びがほとんどなく、かかりが良い。
ラチェットの噛み合いについてENVEは面白い話をしている。ドライブのかみ合いと歯数に関しては トレードオフの関係があるという。かみ合わせが高ければ高いほど、パフォーマンスが向上するわけではない、とはっきりと断言している。
競技の条件が変われば、要求されるラチェット数も変わるということだ。ENVEはラチェット数と競技スタイルの関係性を例として以下のようにまとめている。
- 40T:ロード用、抵抗が少なくメンテナンスが最小限
- 60T:ロード用、グラベル用、バランスの取れた性能
- 80T:マウンテン用、バランスの取れた性能
- 100T:ダウンヒル、最高レベルのかみあい、 最低レベルのペダルの動き、最もメンテナンスが必要
それぞれのラチェットで生じる負荷は以下の通りだ。グラフは右に行いくほど負荷が高くなることがわかる。ホイールを回して空転させた際に最も抵抗が少ないのは40Tだ。
ラチェット数が多くなるとそれだけ噛み合うタイミングと頻度が増加する。その分だけ抵抗が増えるのは想像のとおりだが、足を止めたときに影響が及ぶ一方で、踏み出したときに噛み合うまでのタイムラグは100Tが最も短くなる。
パーフェクトプリロード
ENVEハブには「パーフェクトプリロード」というベアリングのプリロード(与圧)調整を不要にするシステムが搭載されている。チューニングされたウェーブワッシャーを使用することで、ベアリングの予圧は工場出荷時から最適化される仕組みだ。
第一世代にもパーフェクトプリロードが搭載されていたが、ウェーブワッシャーを保持するためにアクスル上にサークリップが必要だった。改良型システムではこの繊細な部品が不要になったため、システムの信頼性がさらに向上している。
ハブの寿命が尽きるまで与圧が調整され続ける、文字通りパーフェクトプリロードだ。
あたらしいハブシェル設計
全く新しいストレートスポーク専用のハブシェルデザインは、リムのERDが等しい場合はドライブ側とノンドライブ側のスポーク長が等しくなる設計になっている。ディスクロード用ハブは左右のスポーク長が異なる宿命があったが、同限りなく均一なテンションで組み立てられる。
ドライブ側、ノンドライブ側ともに同じ長さで組むため予備スポークのストックも一つで済むメリットが有る。
- ENVE 2.3 (28mm):300mm
- ENVE 2.3 (32mm):296mm
- ENVE 3.4 (39mm):287mm
- ENVE 3.4 (43mm):284mm
ホイール組み上げ時のメリットとしては、走行振動によってスポークがねじれる事を防止したねじれ防止スポークホールを搭載している。
また、スポークとスポークが干渉しない非接触型スポーククロスになるように計算されているため、スポークからの異音問題とは無縁になった。そればかりか、スポークがまっすぐにハブとリムをつなぐことができるようになり、前作のハブよりも横剛性が10%向上している。
ベアリング
ハイエンドモデルのどれもがセラミックベアリングを採用するなか、ENVEはあえてステンレス鋼のベアリングを採用した。高性能フルステンレススチールベアリングとレースから構成されたベアリングは、高速回転と耐腐食性に優れた長寿命を実現している。
一発性能のセラミックベアリングではなく、長期間持続する優れた回転性能と耐久性を両立するためにあえてステンレススチールが選ばれた。ベアリング自体は非接触型インナーベアリングシール方式で転がり抵抗を低減している。
対してアウターシールは接触型で、ゴミの侵入や性能の劣化を防ぎベアリングの寿命を保証している。ベアリング構成も非常に簡素だ。汎用的な6902が使用されている。
仕様
フロント | リア | |
---|---|---|
シェル素材 | アルミニウム | アルミニウム |
重量(XDRボディ) | 109g | 217g |
ホール数 | 24ホール | 24ホール |
スポークタイプ | ストレートスポーク | ストレートスポーク |
クロスパターン | 2クロス | 2クロス |
ドライブ側 フランジ/センター距離 | 33.6mm | 18.3mm |
ドライブ側 フランジ径 | 37.25mm | 50.75mm |
非ドライブ側 フランジ/センター距離 | 24.5mm | 35.9mm |
非ドライブ側 フランジ径 | 38.45mm | 38.15mm |
スポーク長 | ERD/2-2mm | ERD/2-2mm |
エンドキャップ | アルミニウム | アルミニウム |
アクスル | 12x 100mm | 12x 142mm |
ドライブメカニズム | – | インナードライブラチェット |
ベアリング | プレミアムステンレススチール | プレミアムステンレススチール |
実測重量
メーカー(国内代理店はダイヤテック)から公式に実測重量が公表されている。
- SES 2.3 F:528.1g
- SES 2.3 R:649.7g
- SES 3.4 F:631.7g
- SES 3.4 R:747.3g
- SES 4.5 F:662.5g
- SES 4.5 R:777.7g
- SES 6.7 F:664.7g
- SES 6.7 R:789.3g
まとめ:最新設計のリムとハブを搭載したハイエンドホイール
ENVEのハブを刷新しこれまで以上に性能を高めた。ENVEが一から100%専用設計したインナードライブシステムは、ライセンス供与もしており他社ホイールメーカーや自転車ブランドがライセンスを受けてハブを使用することができる。
他社からENVE印のHUBを搭載したホイールが登場する可能性もある。とはいえ、ENVEといえば優れたリムを作り続けてきている。第1世代のハブはお世辞にも良い設計とは言い難かった。第2世代になってストレートプルや優れたラチェット構成を搭載しSESは完成したように思う。
第2世代のハブは、DTSWISSや他社メーカーのハブとは一線を画した優れた構造など魅力的な部分が多い。これまでハブといえばDTSWISSやCHRISKINGといったメーカーばかりだったが、ENVEが参入してきたことによりより一層開発戦争が盛んになっていくことだろう。
新型ホイールは剛性がアップし、構造も更新されたがホイール価格は税込み49.9万円とほぼ変わらない。UAEチームはこの新型ハブを用いたENVEホイールでさらに勝利を量産しそうだ。
国内代理店はダイヤテック。