CeramicSpeed UFO Ultra Endurance Wax 1,000km持続は新たな基準となるか

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photo: Ceramic Speed

デンマークのCeramicSpeedは、初のホットメルトワックス「UFO Ultra Endurance Wax」を発売した。これは、1回の施工でクリーンな環境下において最大1,000kmの走行を可能にすると謳う、持続性能に特化した革新的な製品だ。

これまで絶対的な低摩擦性能を追求し、プロレース用のチェーンやビッグプーリーで市場をリードしてきた同社が、なぜ今、一般ユーザー向けの「エンデュランス(耐久性)」市場に参入したのか。この戦略転換は、サイクリングにおける潤滑技術の価値観に一石を投じる可能性がある。

今回の記事では、その技術的背景、競合製品との性能比較を行った。そして、この新製品がサイクリストのメンテナンスサイクルを根本から変え、ホットワックス市場における新たな性能指標を確立する可能性を秘めているのか、その真価を問う。

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製品仕様と市場投入戦略

photo: Ceramic Speed

CeramicSpeedが公式に発表したUFO Ultra Endurance Waxの性能諸元は、既存の価値観を覆す可能性を秘めている。特筆すべきは、ドライコンディションで最大1,000km、ウェットコンディションですら最大750kmという、驚異的な持続性だ。

この数値は、本製品のキモとなる価値であり、メンテナンス頻度の劇的な削減を示唆する。

材料のベースは、同社のUFO Dripシリーズの理念を継承し、完全に生分解性かつ無毒であることが明記されている。

製品は2つの形態で提供される。既存のワックスユーザー向けの詰め替え用バッグ(400g)と、初心者向けに湯煎可能な耐熱シリンダーとチェーンハンガーを同梱したキット(400g)である。日本での販売価格はまだ決まっていないが、キットが約8,800円前後、リフィルが約7,700円前後と想定される。

この製品投入は、CeramicSpeedの巧みな市場戦略を浮き彫りにする。同社はこれまで、究極の低摩擦を短時間提供する高価な「レース用チェーン」でプロ市場を席巻してきた。

UFO Ultra Endurance Waxは、その「最速」の座を脅かすものではなく、「最長」の持続性を求める、より広範なアマチュアやエンデュランスライダー層を新たなターゲットとしている。

これは、自社製品ラインナップ内でのカニバリゼーション(共食い)を避けつつ、競合他社が覇を競うDIYワックス市場へ参入するための、計算された製品差別化戦略と言える。

以下の表は、UFO Ultra Endurance Waxの公称仕様をまとめたものだ。

項目 仕様
持続性(ドライ) 最大 1,000 km
持続性(ウェット) 最大 750 km
内容量 400g, 750g
価格(キット, 400g) 53ドル / 50ユーロ
価格(リフィル, 400g) 43ドル / 40ユーロ
組成 生分解性・無毒
付属品(キット) 耐熱シリンダー、チェーンハンガー
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推定される化学組成と潤滑メカニズム

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公称1,000kmという持続性の達成は、単一の技術要素では説明が難しい。これは、摩擦係数を下げる固体潤滑剤の性能以上に、ベースとなるワックス自体の物理的特性、すなわち金属表面への「粘着性」と潤滑膜としての「凝集性に大きく依存すると推察される。

潤滑剤が「いかに滑るか」よりも、「いかにその場に留まり続けるか」が、エンデュランス性能の鍵を握るためである。競合製品の持続性が300kmから600kmの範囲に集中する中、これを大幅に超える性能は、基材となるワックスの根本的な革新を示唆する。

例えば、競合のSilca社が長寿命化のために「分子鎖の長い半合成ワックス」を添加剤(EnduranceChip)として用いている点は、持続性の鍵がポリマー化学にあることを裏付けている。

UFO Ultra Endurance Waxは、単なるパラフィンワックスではなく、高い柔軟性と粘着性を両立させた特殊なポリマーブレンドを基盤としている可能性が高い。

この処方により、チェーンの屈曲運動による剥離や、ピンとローラー間の高圧による潤滑剤の排出に抵抗する能力を高めていると考えられる。

一般的なパラフィンワックスは硬度と柔軟性がトレードオフの関係にあるが、フィッシャー・トロプシュワックスのような高融点・高硬度の合成ワックスと、柔軟性を付与するエラストマーやポリマーを組み合わせることで、耐汚染性と耐剥離性を両立させている可能性がある。

また、公式に謳われている「静粛性」の高さ は、潤滑膜の優れた振動吸収能(ダンピング効果)を示唆しており、これは柔軟なポリマーマトリックスの特性と一致する。

最近サイクリング用の潤滑剤で注目されている摩擦低減添加剤として二硫化タングステン(WS2)やグラフェンを含有する可能性も否定できないが、製品の主眼は、潤滑膜の寿命を最大化するための酸化防止剤や粘着性向上剤といった、ベースワックスの性能を補強する添加剤にあると推測される。

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専用の耐熱シリンダーとチェーンハンガー

photo: Ceramic Speed

CeramicSpeedは、ワックスの化学的性能だけでなく、その塗布プロセスにおけるユーザーの心理的・物理的障壁を低減することに明確な設計思想がある。ホットワックスの普及を妨げる最大の要因は「手間がかかる」「専用機材が必要」という認識であり、多くのサイクリストが導入をためらう原因となってきた。

UFO Ultra Endurance Waxのキットは、この問題を直接的に解決する。付属の耐熱シリンダーは、湯煎によるワックス溶解を可能にし、これまで必須とされてきたスロークッカー(ワックスメルター)の購入を不要にする。

photo: Ceramic Speed

さらに、同梱される専用のチェーンハンガーは、溶解したワックスにチェーンを浸漬させる際の作業を簡略化し、チェーンが絡まるなどの失敗リスクを低減する。

このアプローチは、製品の性能だけでなく、製品を取り巻く「体験」全体をデザインする現代的な思想の表れだ。しかし、いかに優れたワックスであっても、その性能は施工前の下準備に大きく依存する点を忘れてはならない。

photo: Ceramic Speed

新品チェーンに塗布されている工場出荷時のグリスを完全に除去しなければ、ワックスは金属表面に適切に結合せず、公称通りの持続性は決して得られない。この点は、Zero Friction Cycling(ZFC)をはじめとするすべての専門家が一致して強調する、最も重要な工程だ。

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パフォーマンスと持続性は

photo: Ceramic Speed

ホットワックスの性能は、摩擦、持続性、清浄性、静粛性といった複数の要素で複合的に評価される。UFO Ultra Endurance Waxは、特に長距離走行後もドライブトレインの静粛性が維持され、そしてチェーンがクリーンに保たれる点が優れている。

これは、潤滑膜が長期間にわたってその場に留まり、汚染物質の侵入と蓄積を防いでいることを示唆するものだ。

Unbound Gravelのような過酷なグラベルレースで優勝した同社の契約プロライダーからのフィードバックは、泥や埃の多い極限環境下での信頼性と滑らかさを強調している。

これらは製品のポテンシャルを示す重要な証言であるが、スポンサーシップによるバイアスの可能性を考慮し、独立した一般ユーザーのレビューと併せて多角的に評価する必要がある。

photo: Ceramic Speed

現時点では、公称値である1,000kmの持続性を客観的に検証した、独立第三者機関(例:ZFC)によるテストデータは存在しない。したがって、この数値はあくまで理想的な条件下での最大値と捉えるべきであろう。

実際の持続距離は、天候や路面状況、ライダーの体重やパワー、そして何よりも初期の洗浄・脱脂工程の質といった、多くの変数に左右されることは間違いない。

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競合製品との対比

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現代の高性能ホットワックス市場は、「低摩擦(速度)」「持続性(寿命)」「清浄性/価格」という、三つの主要な性能指標をめぐるトレードオフの関係で成り立っている。UFO Ultra Endurance Waxは、この中で「持続性」を最優先事項とする製品として、市場に明確なポジショニングを打ち出した。

ZFCのテストデータやユーザーレビューを統合すると、市場の構図が浮かび上がる。Silcaは二硫化タングステン(WS2)を武器に「速度」を追求し、Rexは独自の処方で「持続性」の記録を更新してきた。

一方で、Molten Speed Wax(MSW)は「清浄性とコストパフォーマンス」の優れたバランスで、長年市場の基準点としての地位を確立している。CeramicSpeedの新製品は、Rexが持つ「持続性」の牙城に挑戦しつつ、Silcaのような「使いやすさ(キット)」を付加価値として提供することで、独自の地位を築こうとしている。

1本で19,300km持つ!最速のオイルベース潤滑剤 SILCA Synergeticインプレッション!
記事の要約:SILCA Synergeticは、オイルベース潤滑剤の最高峰と評され、極めて低い摩擦損失と高い耐久性を誇る。Zero Friction Cycling (ZFC) の独立試験で3.8Wの損失、清浄環境で摩耗率0%を記録し、98.1%の効率を実現 。2種類の合成油、二硫化タングステン (WS₂) ナノ粒子、およびジアルキルジチオリン酸亜鉛 (ZDDP) の相乗効果で強固なトライボフィル...

以下の表は、主要なホットメルトワックスの性能を比較したものである。

製品名 主要添加剤(推定) 持続性 摩擦 清潔性 価格帯 特徴
CS UFO Ultra Endurance 長鎖ポリマー 極高 (公称1,000km) 中-低 持続性特化、簡易キット
Silca Secret Chain Blend 二硫化タングステン (WS2) 中 (添加剤使用で~750km) 極低 (最速級) 速度特化、システム提案
Rex Black Diamond Hot Wax グラファイト系? 極高 (ZFC最長記録) 中 (黒化報告あり) 持続性特化、実績豊富
Molten Speed Wax MoS2/PTFE 中 (~500km) 極高 (基準点) コストパフォーマンス、定番

競合製品との詳細な比較を行うと、UFO Ultra Endurance Waxの特性はさらに明確になる。Silca Secret Chain Blendが「究極の速度」を求めるレーサー向けであるのに対し、UFO Ultra Enduranceは「究極の手間削減」を求めるエンデュランスライダー向けである。

再塗布までのインターバルを延ばすことで、メンテナンスに費やす総時間を削減するという、異なる価値を提供する。

現状、独立テストで最高の持続性を持つのはRex Black Diamondである。CeramicSpeedの1,000kmという主張が、ZFCのような客観的テストでRexの実績を上回るかが、今後の最大の焦点となる。

一方で、Rexは塗布後のチェーンが黒く汚れやすいという報告もあり、UFO Ultra Enduranceがクリーンさを両立できれば、明確なアドバンテージとなるだろう。

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メリットとデメリット

ここまでの技術分析と市場比較を踏まえ、UFO Ultra Endurance Waxの導入を検討する上で重要な利点と、考慮すべき潜在的な欠点を整理した。

メリット

  • 圧倒的な持続性: 公称1,000kmという数値は、メンテナンス頻度を劇的に削減する可能性を秘める。これは特にブルベ、ウルトラディスタンスレース、バイクパッキングといった、頻繁なメンテナンスが困難な長距離・長時間のライディングにおいて絶大な恩恵をもたらす。
  • 優れた静粛性と清浄性: ドライブトレインを静かでクリーンに保つ能力は、快適なライド体験を提供するだけでなく、摩耗の原因となる研磨剤(汚れや砂)の付着を抑制し、高価なドライブトレインコンポーネントの寿命を延ばすことに直接的に貢献する。
  • ユーザーフレンドリーな導入プロセス: 湯煎可能なキットの提供により、高価な専用機材(スロークッカー)への初期投資が不要となる。これは、これまでホットワックスの導入をためらっていたユーザー層にとって、心理的・経済的障壁を大きく引き下げる効果がある。
  • 環境への配慮: 生分解性・無毒のフォーミュラは、パフォーマンスを追求しつつもサステナビリティを重視する現代のサイクリストの価値観に合致する。これは単なる性能以外の重要な付加価値である。

デメリット

  • ホットワックス固有の手間: ドリップタイプの潤滑剤と比較して、厳密な脱脂作業、ワックスの溶解、塗布、乾燥といった一連のプロセスは、依然として時間と手間を要する。この点は、本製品に限らずホットワックスという手法そのものが抱える課題として残る。
  • 絶対速度とのトレードオフの可能性: 本製品は持続性に最適化されているため、コンマ1秒を争うタイムトライアルやクリテリウムで求められる絶対的な低摩擦性能においては、Silcaのレース用ワックスやCeramicSpeed自身のレースチェーンに劣る可能性がある。これは「何のために乗るか」という目的に応じた選択が必要であることを意味する。
  • 極限環境下での性能: 公称ではウェットコンディションでも750kmの持続性を持つが、一般的にワックスは極度のウェットや泥濘コンディションでは、粘着性の高いオイルベースのウェットルーブに比べて洗い流されやすい傾向がある。過酷な雨天での連続使用における真の性能は、さらなる実証を待つ必要がある。
  • 独立した性能データの不在: 本稿執筆時点では、ZFCのような信頼性の高い第三者機関による客観的な性能(摩擦、摩耗、持続性)テストデータが公開されていない。公称値はあくまでメーカーの管理されたテスト環境下での値であり、多様な実環境での性能を保証するものではない点を認識する必要がある。
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まとめ:UFO Ultra Endurance Waxが切り拓く未来

photo: Ceramic Speed

CeramicSpeed UFO Ultra Endurance Waxは、単なる新製品ではなく、同社の市場戦略における重要なパラダイムシフトを象徴する製品である。これまでの「絶対速度の追求」から、「実用的持続性」という新たな価値軸へと舵を切った。

その核となるのは、1,000kmという驚異的な持続性を実現する先進的なワックス処方と、ホットワックスの導入障壁を劇的に下げる巧みなユーザーエクスペリエンス設計の融合にある。

本製品は、Rexがリードしていた超長寿命ワックスのカテゴリーに、強力な対抗馬として登場した。

市場は、Silcaの「速度」、MSWの「基本性能とコスト」、Rexの「実績ある持続性」という構図の中に、CeramicSpeedが「持続性+使いやすさ」という独自のポジションを築こうとする、新たな競争の時代に突入した。

photo: Ceramic Speed

この製品の成功は、ハイパフォーマンスサイクリングにおけるメンテナンスの概念を「頻繁なケア」から「長期的な保護」へとシフトさせる引き金となりうる。

もし公称通りの性能が多くのユーザーによって実証されれば、チェーン潤滑は「ライド毎の儀式」から「月に一度の作業」へと変わり、サイクリストはより多くの時間をライディングそのものに費やせるようになるだろう。

UFO Ultra Endurance Waxは、エンデュランスサイクリングの世界に革命をもたらすポテンシャルを秘めた、極めて意欲的な製品である。

その真価は、今後発表されるであろうZFCをはじめとする独立機関の客観的な検証結果と、世界中のアーリーアダプターたちの長期的な実用レポートによって、最終的に明らかにされることになるだろう。サイクリング技術の進化において、注目すべき新たな一章が始まったことは間違いない。

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