久しぶりのロードレース出場である。今年まだ2レース目。播磨中央は全面改修前から何度も走り込んでいるコースで、身体が覚えている類の馴染みがある。コースとの相性も良く、ずっと楽しみにしていた一戦だ。
ただし、今回の出走にはリザルト以上に大きな目的があった。ブランクによって鈍ったレース感覚を取り戻すこと。それが、何よりも優先すべきテーマだった。

Photo: Kei Tsuji
だからこそ、自分の中ではトレーニングレースと位置づけていた。脚を溜めて最後にちょい刺しするだけの、内容の伴わないレースはしない。無駄足を使ってでもアタックには全て反応し、前々で展開する。
保守的に走らない。その制約を自らに課した上で、結果が後からついてくればいい、というぐらいの気持ちで挑んだ。

Photo: Kei Tsuji
もうひとつ、絶対に守ると決めていたことがある。ケガをしないこと。昨年は頭と首をやり、人生を見つめ直す時間を過ごした。競技の結果はやり直せるが、身体は一度壊れると元には戻らない。
家族や支えてくれる人に心配をかけない走りをする。それが、レースに出る上での最低条件だった。
単騎での参戦ながら、嬉しいことに家族全員、監督、ななちゃん、ありひろさんが会場まで来てくださった。申し訳ない気持ちと、ありがたさが入り混じる。
子供は仮面ライダーショーを楽しみにしていて、ショーの前座とでも言うべきか、パパは何とか表彰台に乗ることができた。松木さんからもLINEでプレッシャーをかけられる。周囲の期待という名の重力は、不思議と脚を軽くしてくれることがある。
レース準備
久しぶりのレースなので、頭の整理を兼ねて準備の過程を記しておく。
今回のレース時間は長くても1時間30分程度。スタートまでの時間はタイトで、カーボローディング、ウォーミングアップ、補給の段取りを考えると分単位で時間が消えていく。経験則的に、前日にローディングしたものが翌日のレースに生きてくる。
スタート時間から逆算し、前日の12時間以上前から数時間かけてカーボを約200g摂取した。グリコーゲンの超回復には肝臓で約12〜24時間、筋肉ではさらに長い時間を要する。前日の早い段階で十分な糖質を入れておくことで、レース当日の朝には筋グリコーゲンが満タンに近い状態で迎えられる計算である。
当日は、ウォーミングアップ開始時刻、カフェイン摂取、重炭酸ナトリウムの服用タイミングをそれぞれ自動通知で管理した。カフェインは摂取後40〜60分で血中濃度がピークに達するため、スタート1時間前を目安に。
重炭酸ナトリウムはレース中に蓄積する水素イオンの緩衝剤として機能し、高強度域での筋疲労を遅延させる効果が報告されている。
体重1kgあたり0.3gを目安に、胃腸への負担を考慮してスタート90〜120分前に分割摂取するのが定石である。レース時間的にエネルギーが枯渇する心配はなく、気温とレース時間を考慮してドリンクは500mlを2本に分けた。結果、400mlも飲まなかった。
ウォーミングアップは色々と試してきた中で、イネオス時代のピドコックが採用しているプロトコルに落ち着いている。シクロクロスだろうが、XCOだろうが、ロードだろうが共通して行う内容で、段階的に心拍と出力を引き上げていく構成だ。
この日のウォーミングアップでは、体感的に通常より1割ほど高い出力が出ており、コンディションは悪くなさそうだと判断した。
機材
バイクの基本構成は変わらないが、今回フロントタイヤにテストとインプレッションを兼ねてPIRELLI P ZERO Race TLR SL-Rを投入した。
2026年3月24日に発表されたばかりのこのタイヤは、ピレリ史上最速を謳うモデルである。独自のPAAS(Pirelli Advanced Aerodynamic System)によってタイヤの最大幅位置を最適化し、リムとの境界面における気流の剥離を遅延させる設計思想を持つ。
CFD解析と風洞試験を経て開発され、横風条件下で平均5W、特定条件下では最大15Wの空力的削減効果があるとされる。ケーシングには新開発のLiteCORE 120TPIを採用し、従来のRS比で転がり抵抗を10%低減。
28mm幅で公称275gと、P ZEROレンジ最軽量を実現している。コンパウンドは2025年のミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベをマチューとともに制したSmartEVO²をそのまま継承する(インプレは後日)。
ContinentalのAERO 111と同様のエアロ統合型タイヤという位置づけであり、前後に履いてもよかったが、今回はフロントのみに装着して従来タイヤとの違いを確かめた。結果は明確だった。体感できるレベルで、このタイヤは間違いなく速い。
ROVAL RAPIDE CLX IIIとの組み合わせにより、下りでの挙動が異常なほどスムーズかつ高速になった。全周回を通じて、下りに入るたびに後続との差が3〜5秒開き、登り返しで回復に充てられるという明確なアドバンテージを生んだ。
PAASによるエアロ効果に加え、LiteCOREケーシングの低い転がり抵抗が下り区間での慣性維持に寄与していると考えられる。ギアは54 x 11-34。
レース戦略 ── パワーを何で補うか
単騎参戦に特別な作戦などない。
だが、客観的に見て生粋のロード乗りたちに比べ、自分のパワーは明らかに劣っている。その自覚はあった。であるならば、展開の読み、コースを最大限に利用したライン取り、そしてコーナーワークで勝負するしかない。
パワーという変数が使えないなら、他の変数の精度を極限まで上げるしかないのだ。
都合が良かったのはスタート後のウネウネ区間である。ここは明確にコーナーリング技術で差がつくセクションだった。コースの際まで使えばノーブレーキで突っ込める。縁石や金網と2〜3cmの隙間を攻めるため、客観的には危険に見えるかもしれないが、感覚的にはカスる程度であり、恐怖はない。
これはシクロクロスやMTBで培われた距離感が生きている部分だろう。
バックストレートに出てくるまで、ずっと加速し続けられる。ライン取りと踏みどころの問題だけで、コースを一杯に使えば脚を止めずにほぼ減速なしで走れる区間であることに気づいてからは、レースの中で最も楽しいセクションになった。前のライダーとの差を詰める場面でも優位に働いた。
このウネウネ区間では、全体とのスピード差を確認しながら先頭付近で走りつつも、実質的には休息を取るという二律背反的な走行が可能だった。走っていると自然に間が開く。そもそも後方にいるとインターバルがかかり、落車リスクも高まる。
前にいること自体が、この区間ではエネルギー効率の最適解だった。
下りも機材の恩恵か、ほとんどの場面を最前列で通過した。その分、登り返しでは意図的にペースを落として集団後方に下がり、次のセクションに向けて再び番手を上げていく。この反復的な省エネ走法が、パワーで劣る自分にとっての生存戦略だった。
全体的な走り方、コースの地形、毎周回の動きといった変数は、レースの早い段階で読みやすいと感じられた。組み立てはそのような骨格で、あとは他のライダーの動きをこのフレームワークに組み込みながら、今のフィジカルと相談して走った。
レースとは、与えられた条件の中で最適解を探し続ける行為である。完璧な条件など存在しない。不完全な身体と不確実な状況の中で、どれだけ精度の高い判断を重ねられるか。その積み重ねだけが、ゴールラインでの順位として顕在化する。
西日本ロードクラシック 播磨中央 5位
スタートはローリングで、ミネルバの塩さんが飛び出し、まさやんが続く。チームランキングを背負い、リーダーとしてレースを動かす。それはロードレースにおける暗黙のルールであり、集団に対する責任の表明でもある。
すぐに感じたのは、下りと登りのペースがかなり遅いことだった。みんな互いの出方を伺っているのか、向かい風が強いせいか、誰も前を引きたがらない。とはいえ、削られるようなペースではないため、自分のリズムで走った。
序盤は逃げを狙っていた。もし逃げが決まるなら、ミネルバの誰かが乗ってくるだろうと予測し、注意深く観察した。しかし、この思惑は外れる。常に誰かが先行しては吸収される、落ち着きのない展開が続いた。
ミネルバは強い選手を3人揃えており、組織立った動きを見せていた。ほとんどのきっかけはこの3人が作り、他の選手がそれに反応するかたちでペースの上げ下げが生じる。レースの主語は、終始ミネルバだった。
一人で全てに対応するのは不可能な話である。地形と誰が仕掛けるかをよく見ていた。はじめはミネルバの3人で逃げてくれれば楽なのに、と心の中で期待していたが、塩さん、深谷さん、まさやんの順で、きれいにジャブが打たれていった。
一人が飛び出し、集団が反応し、次の一人がまた仕掛ける。その繰り返し。
とはいえ、下りとウネウネ区間ではこちらに明確なアドバンテージがあった。いったん先行させて、自分の方が速い区間で脚を使わずに一気に距離を詰める。この走法を繰り返すことで、ほぼノーダメージで前方集団に居続けた。
パワーが足りない分、区間ごとの速度差を利用して効率的に詰めるスキルが、いつの間にか身についているようだ。
登り区間も保守的なペースで進む。速くはないが、周回を重ねるごとにメンバーは絞られていく。
似たような画一的な展開のフォーマットに退屈しつつも、展開が読めるということは、その分だけ脚を温存できるという意味でもあった。同じような波形を描きながら周回数を消化していく。最終周回に入る頃には、6〜9名程度に絞られていた。
最終局面 ── 迷いが生んだ0.673秒
最後の下り坂に入る前、頭の中では二つの選択肢が競合していた。スプリント勝負になったら太刀打ちできない。ならば、下りをぶっ飛ばして先行し、登りで一気に仕掛けるか。それとも脚を溜めて、最後の登り区間を下から頂上まで全開で踏み倒すか。
この日一番悩んだ瞬間だった。考えているうちにトンネルをいつの間にか通過してしまい、深谷さんが動いた。当然ついていくが、おそらくまさやんのためのアシストだろうという勘ぐりと迷いが交錯し、一歩踏みとどまってしまった。
そのタイミングでまさやんが飛び出し、こちらは一歩遅れる。
まずい、と思いつつも間を詰めてピークに到達する。しかしペースはさほど上がらず、6人が残っている。こうなるとスプリント勝負だ。
自分にとっては最も不利な展開である。勝機が少なくなったことを悟りながらも、思い切って下から仕掛ければよかったという後悔が頭をよぎる。後悔先に立たず、時すでに遅し。そんな言葉が脳裏を駆け巡る中、最後のホームストレートに6名でなだれ込んだ。
ラストは1秒の中に5人がひしめく接戦だった。
- TOP:0秒
- + 0.240秒
- + 0.424秒
- + 0.582秒
- + 0.673秒(わし)
0.673秒。数字にしてしまえばそれだけの差だが、そこに至るまでの判断の連鎖を遡れば、この差は最終コーナーではなく、もっと手前のトンネルを過ぎた瞬間に生まれていた。
いや、もっと言えば、ミネルバのメンバーに意識を固定しすぎた序盤の読みの段階で、すでに種は蒔かれていたのかもしれない。今年のリザルトでミネルバのメンバーがほとんどのレースを制していたため、今日も勝つのは彼らだろうと無意識に思い込んでいた。
その先入観が、他の選手の動きや全体の展開という情報を不要なものとして切り捨てさせてしまった。情報のフィルタリングは本来、認知負荷を軽減するための合理的な戦略であるが、フィルターの設計を誤れば、致命的な情報の欠落を招く。
今日の敗因は、まさにそこにあった。
読みが浅い。飛び出すタイミングの決断が甘い。レースにおける意思決定とは、不完全な情報をもとに不可逆な選択を瞬時に下す行為である。迷った時点で、すでに半歩遅れている。優勝を狙いたかったが叶わず、5位。惨敗だった。
ロードは、やっぱり楽しい
ブランクとフィジカル不足を自覚しながらも、頭をフル回転させて何とか走りきれた。
データを見返すと、レース時間は約1時間20分、NPは278W、体重56.5kgに対して4.92W/kg。ガーミンの自動測定FTPが276Wを示しているので、NPがFTPをわずかに上回る程度のレースだった。
興味深いのは、心拍が比較的低く推移し、主観的にも辛さをあまり感じなかったことだ。これは、省エネ走法が機能していた証拠でもあり、同時にフィジカルが少しずつ戻りつつある兆候とも読み取れる。
久しぶりのJBCFのレースはどうなるかと思ったが、走ってみればやはり楽しかった。集団の中で変数を読み、自分の弱みと強みを秤にかけながら、リアルタイムで戦略を修正していく。その知的な営みと身体的な負荷が同時に押し寄せる感覚は、他の何にも代えがたい。
とはいえ、昨年はケガや病気が多かった。ほどほどの距離感を保って競技に挑みたい。命をかけてやるつもりはないし、仕事に影響を出すわけにもいかない。何でもやりすぎてしまう性分だからこそ、程よい距離感と、今日のような適度なリターンがあれば十分だと思っている。
7歳にしてCX競技歴4年の娘からは「パパ凄い!今日は焼肉だね!」と祝福された。優勝はできなかったけどね、と返す。
会場から駐車場に戻る途中、芝のキャンバー区間と木の根っこセクションがあり、娘と一緒に反復して遊んだ。レースで使い切ったはずの脚が、不思議と動く。パパのおろしたての決戦用タイヤは、濡れた芝でもグリップが良好で、耐パンク性も悪くなさそうだ。
完全にロードのスイッチが入ってしまった。
次のJBCFのロードは出る予定がなかったが、出場しようかと考え始めている。0.673秒の向こう側に何があるのか、確かめたい気持ちが抑えられない。
まあ、もう少し頭を冷やしてから冷静に判断した方がよいだろう。レースも人生も、熱くなった時ほど一拍置くべきだと、今日のトンネルの先で学んだばかりなのだから。














