ドイツハンブルクのSTEVENSは、2027年モデルの新型シクロクロスバイク「Super Prestige」を正式に発表した。
世界的なグラベルバイクの隆盛によって各社のシクロクロス専用車が次々と廃盤に追い込まれ、あるいは「グラベルレーサー」へと名前を変えていく時代にあって、このバイクはあえて「シクロクロス専用機」という旗を掲げて登場した。
それは単なる商品企画の差別化ではなく、ある種のバイク設計の哲学が現れている。自転車とは何のために存在するのか、という問いに対して、STEVENSは「このバイクはシクロクロスのためだけに存在する」と答えたのだ。
悲しいかな、主要ブランドの多くが「シクロクロス」という言葉を自社バイクから消し去っている。Ridleyを除けば、「シクロクロスバイク」として明確に販売しているメーカーは少数派であり、Specializedは軽量CXバイクの名機であったCruxを「グラベルバイク」として再定義した。
CanondaleもSuperXの名を冠した最新モデルをグラベル兼用機として位置付けている。こうした潮流のなかで、STEVENSがSuper Prestigeを純粋なシクロクロスバイクとして全面再設計したことは、現代の市場において異例の決断だ。
Hulstの泥が証明したもの
新型Super Prestigeのプロトタイプは、2026年にかけてオランダ・Hulstで開催されたシクロクロス世界選手権において初めて実戦投入された。
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ベルギーのCrelan-Corendonチームに所属するJoran Wyseure選手がこのプロトタイプを駆り、エリート男子レースで13位に入っている。STEVENSはプロトタイプの段階で約200gの軽量化余地があり、フレーム形状のスリム化とトップチューブの平坦化を主な変更点として挙げていた。
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世界選手権という最高峰の舞台でプロトタイプを実走させるという判断は、STEVENSがこのバイクに対して持っている確信の深さを物語っている。
Hulstのコースは、砂地、泥、急勾配を組み合わせた高難度のレイアウトであり、フレームの剛性、担ぎやすさ、泥抜け性能のすべてが問われる環境だった。Wyseure選手が13位という成績を残したことは、プロトタイプの段階ですでに実戦に耐える完成度を持っていたことを示唆している。
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なお、この世界選手権ではマチューが圧倒的な強さで優勝しており、当時STEVENSのSuper Prestigeに乗ったかつてマチューがU23世界選手権を制した実績も刻まれている。STEVENSとシクロクロス世界選手権の関係は、単なるスポンサーシップを超えた文脈を持つ。
ワウトもマチューSuper Prestigeに乗ってバチバチに戦っていた記憶は、いまでもシクロクロッサーの脳裏に焼き付いている。
ゼロからの再設計「from the ground up」
新型のCarbon SL Fiberフレームは、STEVENSが「from the ground up」と表現する全面的な再設計だ。
旧型のマイナーチェンジではなく、チューブ形状、ジオメトリー、クリアランス設計、担ぎの感触に至るまで、すべてが見直されている。単なるマイナーアップデートではなく、新しいパーツを使った完全なゼロベースの更改になっている。
ジオメトリー面で最も注目すべき変更は、従来型より短く設定されたリーチだ。短いリーチは、タイトコーナーでの素早い方向転換、連続するライン変更、障害物の回避など、近年ますますテクニカル化しているシクロクロスコースでの俊敏な車体操作を目的としている。
シクロクロスの走りとは、本質的に「直線で速く走ること」ではなく「変化する状況に瞬時に対応すること」である。短いリーチはその哲学を幾何学的に具現化したものといえる。
サイズは48、51、54、56、58、61cmの6種類が用意される。リーチは順に373、375.7、384.9、395.6、405.3、414.6mmである。スタックは530、538.5、559.3、573.5、589.6、622.9mmとなる。
ヘッド角は48cmが70度、51cmが71度、54cmと56cmが71.5度、58cmと61cmが72度と設定されている。シート角は48cmの75.5度から、サイズの拡大に伴い徐々に寝かされ、61cmでは73度となる。
チェーンステー長は全サイズ共通の425mmである。この数値はシクロクロス専用車として標準的な範囲であり、加速時のリアホイールの反応性と、担ぎ時の重心バランスを両立させることを意図している。フォークオフセットも全サイズ共通で45mmが採用されている。
ホイールベースは48cmの1,008mmから61cmの1,061mmまで変化するが、注目すべき点として、51cmのホイールベースは1,004mmであり、48cmよりも短い。
これは最小サイズの48cmにおいて70度という寝たヘッド角を採用し、フロントの位置を前方へ出してトークリアランスを確保しているためと推測される。ジオメトリー設計において、単純にサイズを拡大縮小するのではなく、各サイズでライダーの身体と走行条件を個別に最適化していることがわかる。
STEVENSは、やはりわかっている。
BBドロップ、最も知りたい数値が語られない・・・。
STEVENSの公式ジオメトリー表には、ホイール半径、チェーンステー長、フロントセンター、スタック、リーチなどが掲載されている。しかしBBドロップおよびBBハイトの項目は設けられていない。
BBドロップはシクロクロスバイクの性格を決定づける最も重要な数値のひとつである。BBが低ければ安定性が増すが、ペダルの地面への接触リスクが高まる。BBが高ければオフキャンバーや根の上での走破性は向上するが、重心が上がり担ぎ時のバランスに影響する。
旧型Super Prestigeについては、約65mmのBBドロップだった。新型で同等の値が維持されているのか、あるいはテクニカルコース対応のためにわずかに変更されているのかは、現段階では判断できない。
公式情報で確認できるボトムブラケット規格はPressFit BB86である。ULTはShimano Hollowtech IIクランク、RivalはSRAM Wide DUBクランクをそれぞれ採用する。スレッド式BBを採用していない点は、泥や水の侵入が頻繁に発生するシクロクロス競技において、メンテナンス性の観点からみても残念な仕様だ。
担ぎやすさを追求したトップチューブ
新型で外観上もっとも特徴的な変更は、トップチューブ下面を平らにし、シートチューブからリア三角へ滑らかにつなげた形状だ。
STEVENSはプロ選手のフィードバックを設計に反映し、ランニング区間で肩に載せやすく、担いでいる間の車体安定性を高めることを目的としたという。プロトタイプ段階からこのトップチューブ形状を主要な改良点として注目されていた。
シクロクロスにおける担ぎは、単なる移動手段ではない。階段、急勾配、深い泥、砂地セクションでは、降車、持ち上げ、ランニング、再乗車という一連のトランジションが数秒単位でレース結果を左右する。
トップチューブの形状は、快適性の問題ではなく、競技パフォーマンスの一部である。人間の肩という有機的な曲面と、カーボンチューブという工業製品の接触面を最適化するという行為には、工学と身体性の交差点を見出すことができる。
タイヤクリアランス ── 泥を逃がす設計思想
新型フレームとフォークでは、タイヤ周辺のクリアランスが拡大された。
特にシートチューブとチェーンステーの接合部に空間を設け、湿った泥や粘着性の高い土が堆積しにくい形状としている。シートステーとチェーンステーには縦方向の涙滴断面が採用されており、泥と雪の付着を抑制しつつ、タイヤクリアランスとパワー伝達効率を維持する意図がある。
UCI競技規則上限の33mmタイヤを装着した状態で、泥を逃がす空間を確保することが設計目標である。ただし、STEVENSは新型Super Prestigeの最大装着可能タイヤ幅を明示していない。
旧型では実測上およそ40mm幅まで装着できたが、新型でも同じ幅が確実に使用できるとは限らない。リム内幅やタイヤ銘柄によって実幅は変化するため、33mmを超えるタイヤを使用する場合は実車での確認が必要になる。
フォークのクリアランスは上方向に拡大されているが、横方向にはそれほど増えていない。これは幅広グラベルタイヤへの対応ではなく、あくまで33mmのシクロクロスタイヤに付着した泥の排出を目的とした変更だろう。
つまり、クリアランスの拡大方向そのものが、このバイクがグラベル兼用車ではなくシクロクロス専用機であることの設計的証拠となっている。
STEVENSは、やはりわかっている。
新型エアロフロントフォーク
フロントフォークはフルカーボン製で、空力性能を意識した新しい断面形状を採用する。STEVENSは、新ジオメトリーと組み合わせることで操舵精度と反応性を高めながら、スタート区間や高速直線区間で有効な空気抵抗を削減した。
ただし、風洞試験結果、CdA値、特定速度における削減ワット数などの定量データは公開されていない。そのため、空力改善の実効的な大きさは現段階では定量的に評価できない。
シクロクロスにおける空気抵抗の影響は、ロードレースと比較すれば限定的である。平均速度が低く、加減速が頻繁に発生し、風向きもコース内で常に変化する。
しかし、ホールショットを争う高速スタート区間やロングストレートでは、わずかな空力的優位がポジション争いに影響し得る。シクロクロスのエアロ化の効果は、その限定的な区間でしか発揮されない。しかし、スタート直後の僅かな差でもレースに大きな影響を与えるのがシクロクロスの競技性なのだ。
新型の性能は、エアロフォーク単体ではなく、軽量化、短いリーチ、担ぎやすさ、泥抜け性能を組み合わせた総合的な改良として評価すべきだろう。
Super Prestige ULTの仕様
上位モデルのSuper Prestige ULTは、Shimano Ultegra Di2 2×12速を採用する。
クランクは46/36T、カセットは11-34Tで、トップ側のギア比は4.18、ロー側は1.06、トータルレンジは約395%となる。舗装された高速スタート、芝、泥、短い急坂まで、変速段差を比較的小さく保ちながら幅広い速度域に対応できる構成だ。
ホイールはLeeze CC 45 BASIC ARカーボンを装備する。Leezeはドイツ・ミュンスター発のホイールブランドであり、STEVENSと同じドイツ市場における信頼性の高い選択といえる。
タイヤはSchwalbe X-One R Evolution 33-622を採用し、Super Raceケーシング、ADDIX Raceコンパウンド、V-Guard耐パンク層を備え、チューブレス化にも対応する。ブレーキはShimano Ultegra油圧ディスクで、前後とも160mmのRT-CL800ローターが組み合わされる。
公称重量は7.7kg、カラーはCross Spectrum、欧州希望小売価格は4,399ユーロだ。
重量は7.7kg。
Super Prestige Rivalの仕様
Super Prestige Rivalは、SRAM Rival XPLR E1 AXSの1×13速を採用する。
フロントチェーンリングは44T、カセットは10-46Tで、トップ側のギア比は4.40、ロー側は0.96、トータルレンジは460%となる。ULTよりトップ側が約5.2%重く、ロー側は約9.7%軽いため、ギアレンジそのものはRivalのほうが広い。
13速カセットの歯数構成は10、11、12、13、15、17、19、21、24、28、32、38、46T。
2×12速のULTと比較すると、フロント変速を必要としない運用の単純さと広いレンジが長所となる一方、ロー側では歯数間の差が大きくなり、変速時のケイデンス変動も大きくなる。
リアディレイラーはUDH方式のフルマウントで、ワイヤレスAXSシステムによる変速を行う。フロントディレイラーが存在しないため、泥の影響を受ける部品が少なく、競技中の操作も単純化される。純粋なシクロクロス用途では極めて合理的な構成だ。
ホイールはDT Swiss E 1800 Splineアルミ、タイヤはULTと同じSchwalbe X-One R Evolution 33-622を装備する。これはレースではあまり期待できるスペックではなく、レースでは決戦用ホイールへの交換が必要だろう。
ブレーキはSRAM Rival AXS油圧ディスクで、前後に160mmのSRAM Pacelineローターを使用する。公称重量は8.0kg、カラーはFenland Green、欧州希望小売価格は3,399ユーロである。ULTより300g重いが、価格は1,000ユーロ低い。
転倒や泥による機材への負担が大きいシクロクロス競技では、アルミホイールを含むRivalの構成には独自の合理性がある。カーボンホイールを泥と落車にさらすリスクを回避しつつ、電子変速の恩恵を得られる。
実戦におけるコストパフォーマンスの判断は、レース頻度と機材アッセンブルに依存する。
両モデルに共通する仕様
両モデルとも、フロント12×100mm、リア12×142mmのスルーアクスル、フラットマウントディスクブレーキ、前後160mmローター、内装ケーブルルーティングを採用する。フォークコラムは1 1/8インチから1 1/2インチのテーパード形式である。
シートポストは27.2mm径のScorpo Carbonで、長さ350mm、最低挿入量100mmだ。細径のシートポストは、シクロクロス特有の路面振動を吸収するしなりを確保する設計意図がある。
ハンドルはScorpo Aeroで、リーチ75mm、ドロップ120mm、フレア4度、バックスイープ6度となる。極端なグラベル用フレアではなく、下ハンドルを保持した状態でのコントロール性と、ブレーキレバーの操作性を両立させた設計になっている。
タイヤはSchwalbe X-One R Evolution 33-622で、チューブレス化にも対応する。完成車の許容総重量は、ライダー、荷物、自転車を含めて115kg。完成車は電子変速モデルのみの展開となるが、フレームセットの販売も継続される。
純シクロクロスバイク
新型Super Prestigeの設計思想は、「何を加えたか」よりも「何を加えなかったか」にこそ本質があるように思う。
ラック用マウント、フェンダー取り付け穴、40mm以上のタイヤを前提としたクリアランス、長距離走行のためのアップライトなポジション、これらグラベルバイクに求められる汎用性を、STEVENSは意図的に排除したのだ。これはシクロクロッサーが求めているものだ。
STEVENSは、やはりわかっている。
標準タイヤはUCI上限に合わせた33mm、短いリーチ、425mmのチェーンステー、担ぎやすいトップチューブ、泥抜けを優先したクリアランス。これらすべてが、シクロクロス特有の競技動作、コーナリング、降車、担ぎ、再乗車、加速に最適化されているといっていい。
これは、近年のグラベルレーサーに見られる大きなタイヤクリアランス、長距離安定性、積載用マウント、多目的なポジション設定とは明確に異なる方向性だ。
だが、それがいい。
「グラベルも、シクロクロスも!」という中途半端な設計は不要だ。STEVENSはわかっている。本当にわかっている。
Super Prestigeは、舗装路から未舗装路まで幅広く走るためのバイクではなく、60分の世界で加減速、旋回、降車、担ぎ、再乗車を繰り返すための専用機だ。それ以外は考えていない。考えなくてもいい。
その潔さが、このバイクの最大の価値といえる。
シクロクロスという競技の現在地
新型Super Prestigeの登場は、シクロクロスという競技そのものの現在地を考える契機でもあるように思えてくる。
2026年2月の世界選手権では依然としてマチューが圧倒的な存在感を示し、シクロクロスの競技レベルは史上最高水準にある。
しかし、オリンピック種目への採用という長年の悲願は、2026年5月にIOC会長が2030年冬季五輪への不採用を事実上確定させたことで、少なくとも次の機会は2034年のソルトレイクシティまで持ち越された。
市場においても、専用シクロクロスバイクのラインナップは年々縮小している。しかし、グラベルブームがあるにもかかわらず、あるいはまさにグラベルブームがあるからこそ、シクロクロスはコアな人気を保っているのではないか。
シクロクロッサーにとって、専用設計のレーサーが存在することの意味は大きい。汎用性を求める市場論理と、純粋性を求める競技論理の間に、STEVENSは後者を選んだのだ
シクロクロッサーからみた新型Super Prestige
現代のシクロクロスバイクの最先端をSTEVENSはどのように実現したのか。約200gの軽量化余地、細身になったフレーム、短いリーチ、担ぎやすいトップチューブ、泥抜け性能の改善が主な進化点になっている。
世界選手権のプロトタイプは、フレーム形状の繊細さとインフライトのようなモダンなデザインへの移行、グラベルブームの中でSTEVENSがシクロクロス専用車を堅持したこと自体が一つのニュースだと思う。
筆者もSTEVENSの新型バイクの情報を集めたが、現時点で公開されている情報は限られている。量産モデルの長期実走テスト、旧型との同条件比較、フレーム剛性測定、実測重量、泥詰まり試験、空力試験などはまだ確認できていない。
したがって、メーカーが主張する利点の多くは、自分で購入して確かめるしかない(フラグ)。
まとめ: 純粋への回帰が意味するもの
2027年モデルのSTEVENS Super Prestigeは、単に旧型を軽量化したモデルではなかった。
短いリーチ、細身のカーボンフレーム、エアロ最適化されたフォーク、担ぎやすいトップチューブ、泥を逃がすフレーム形状。これらを組み合わせ、コーナリング、降車、担ぎ、再乗車、加速というシクロクロス特有の動作連鎖を、総合的に速くすることを目指した設計である。
Super Prestige ULTは、細かなギアステップ、軽量性、カーボンホイールを重視するシクロクロッサーに適するだろう。舗装路の高速区間やケイデンス管理では、Ultegra Di2 2×12速の優位性が生きる。
4,399ユーロという価格は、同クラスのカーボンシクロクロスバイクとして競争力があるが円が弱いので非常に悩ましい価格だ。
Super Prestige Rivalは、1×13速の単純な操作系、460%の広いギアレンジ、フルマウント、アルミホイールの耐久性、ULTより1,000ユーロ低い価格が特徴だ。泥の多いレースや、機材への物理的負荷が大きいレースでは、Rivalのほうが実戦的な選択となり得る。
最大タイヤ幅やBBドロップなど、走行特性を判断するうえで重要な数値がまだ公表されていない。これは筆者自身、最も気になっていることだ。
しかし、現在得られる情報に基づけば、新型Super Prestigeは「グラベルにも利用できるシクロクロスバイク」ではなく、UCI規定の33mmタイヤを前提とし、ワールドカップレベルの競技へ最適化された純粋なシクロクロスレーサーと評価するのが妥当だろう。
あらゆるものが多機能化し、汎用性を求められる時代に、ひとつの目的だけのために存在するバイクがある。それは不合理に見えるかもしれない。
しかし、専用機というものが持つ美しさは、まさにその不合理さの中にこそ宿るのだ。
コーナーの先の泥を読み、肩に担いで走り、飛び乗って加速する。その一連の身体運動のためだけに設計されたフレームを手にしたとき、シクロクロッサーは道具との間に、汎用機では決して得られない一体感を見出すのではないだろうか。













