photo: Cervélo
シクロクロス界の偉大なチャンピオン、男子ワウト・ファン・アールト(3度のCX世界チャンピオン)と女子マリアンヌ・フォス(7度のCX、3度のロード、2度の世界チャンピオン)の意見がふんだんに盛り込まれたシクロクロスバイクがCervéloから発表された。
新たに発表されたCervélo R5-CXは”純”シクロクロスバイクと呼ぶにふさわしい設計とギミックがふんだんに搭載されていた。昨今、グラベルバイクの台頭によりシクロクロスバイクは絶滅危惧種の扱いを受けていたが、ここにきてCervéloは「シクロクロスに全振り」した形だ。
SPECIALIZEDやCannondaleは「グラベルもシクロクロスも」という、どっちつかずの中途半端なバイクをリリースし、一部のシクロクロッサー達からは「これじゃない感」が漂っていた。大手メーカーはもはやシクロクロスバイクをつくらないのか・・・、そんな不安を一気に払拭するバイクをCervéloはリリースした。
R5-CXは・・・、見れば見るほどシクロクロスバイクの設計だった。
Cervélo R5-CXは、ジオメトリ、採用規格、ギミック、高圧洗浄機への配慮、メンテナンス性、クラッシュ、担ぎやすさ、泥対応、タイヤクリアランス、剛性と全てが「シクロクロスバイク」だ。Cervélo R5-CXで注目すべきポイントは以下の通りだ。
- BB Drop 63mm !!!(全サイズ)
- T47スレッドBB
- D字型シートポストでクラッシュ時にサドルが回転しない
- ダブルシートポストクランプで分解後もサドル高を正確に復元
- ケーブル類が一切露出しないフルインターナルルーティング
- 超軽量フレームで56 cmで約830g前後、フォークは約360g。
- R5ロードバイク並の高剛性、60分間パワーを受け止める割り切った設計
肝心のジオメトリは後ほど紹介するが見れば見るほど、ワウトとマリアンヌの意見が盛り込まれた「純」シクロクロスバイクだ。選手ならではのフィードバックが反映されているポイントはいくつかある。 Cervélo R5-CXの素晴らしい設計を1つ1つ確認していく。
D型シートポスト
photo: Cervélo
D型シートポストを採用しているのは、クラッシュ時にサドルが回転しないようにするためだ。ワウトとマリアンヌからの強い要望が反映された箇所の1つだ。というのも、ワウト自身がクラッシュした際、サドルを直して走り直すシーンを何度もYoutubeで見てきた。
ワウトやマチューといえど、シクロクロスで転ばなかったシーズンは無いと思う。丸いシートポストの場合は、クラッシュしてサドルが回転してしまい走行不能になる場合がある。それを抑制するために Cervélo R5-CXはD型シートポストを採用した。
D型シートポストは回転しないというメリットが有るだけではない。D型はティアドロップ形状であり空力面でもメリットがある。そしてCervélo R5-CXに装備されているシートポストは、新型R5で使用されているものと同じCerveloカーボンモデルを採用している。
ダブルシートクランプ
photo: Cervélo
シクロクロスならではの構造が続く。それはダブルシートポストクランプだ。固定力を高める・・・、と思われがちだがシートポストを抜いて分解後、サドル高を正確に復元するために重宝する構造だ。
汚れやすいシクロクロスは、レース毎にバイクをばらして洗車する必要がある。毎回、パーツをすべてばらして(BBまでも)メンテナンスが行われる場合もある。手間のかかるシクロクロスバイクであるため、サドル高さが完全に復元できるダブルシートクランプ式が採用された。
もちろん、ワウトとマリアンヌからの強い要望が反映されたシクロクロスならではのギミックだ。シートポストの取り付けと取り外しが頻繁に行われても、絶対的なサドルの高さを完全再現できるため、ダブルシートクランプを追加で取り付ける選手もいる。
とはいえ、純正としてCervélo R5-CXに(こんな細かなギミックが)備わっているということは、Cervéloがワウトとマリアンヌのフィードバックを純粋に採用して”純”シクロクロスバイクを作りたかったという意志にほかならない。
T47ネジ山付きBB
Cervéloユーザーにとってビッグニュースだ!
Cervélo R5-CXにはネジ山付きボトムブラケットが採用されている。しかもT47だ。
T47BBの規格に注目しているのではなく、Cerveloがスレッド式のBBを採用したという事実が驚きだ。 Cerveloは長い間、頑なにBBrightにこだわっている。Cervélo R5-CXには、Cervéloが今後期待しているBB規格を垣間見ることができる。
ジオメトリ
photo: Cervélo
BB Dropは全サイズ63mmだ。これを伝えれば、CervéloがR5-CXで成し遂げたかったバイクが何であるのかがすぐにわかるだろう。「Cervéloがマジで本気な件」と書きたいぐらいだ。ジオメトリは4種類しかない。しかし、ジオメトリの値をすみからすみまで眺めると、シクロクロッサーはまちがいなく喜び、震えるだろう。
ワウトとマリアンヌからの強い要望が反映されたのは細かなギミックだけではない。肝心のジオメトリも見るからに、どう見ても、”シクロクロスバイク”だ。CervéloはR5-CXの全てのサイズで63mmというBB Dropを採用した。全てのバイクで共通だ。
BB Drop 63mm・・・、この値だけで翌週のシクロクロス会場での話が終わりそうだ。シクロクロスのワールドカップにおいて、勝利を重ねるエリ・イゼルビッド(ベルギー、パウェルスサウゼン・ビンゴール)が操るRIDLEY X-NIGHTのBB Dropは62mmだ。
ワウト(マチューも)が契約外で長らく(ジュニア時代から)愛用していたドイツが誇るシクロクロスバイクの名機、STEVENSのSUPER PRESTIGEで採用されている62~65mmのBBとも近い。
何が言いたいのかというと、選手からのフィードバックを純粋にバイクに落とし込まなければ、まさかあのCervéloが63mmというBBハイトでフレームを設計することなどなかっただろう。
photo: Cervélo
ワウトとマリアンヌが「本当に使用したいシクロクロスバイクのジオメトリ」が63mmという値としてCervélo R5-CXで具現化されたのだ。
BBハイトを高くする理由は、シクロクロス特有の競技性にある。常にペダリングをする事が要求されるシクロクロスは、コーナーやキャンバーを走る際もペダリングをし続ける場合が多い。そのためペダルヒットをできるだけ避けるため、伝統的なシクロクロスバイクはBBハイトが高めだ。
対象的に、オフロードを走る為にバイクの安定性を確保しようと考えた場合、BBハイトを下げるという設計の考え方もある。
しかし、シクロクロス用途の純粋なバイクは、テクニカルコースを「60分間フルガスで走り続けるだけ」という特殊な競技性を突き詰める必要がある。Cervéloの設計はシクロクロッサーから称賛が送られることは間違いない。
ジオメトリはBB Drop以外にもシクロクロスバイクらしい特徴が多数ある。「グラベルバイクとシクロクロスバイクどっちでも走れます!」というメーカーにはCervélo R5-CXジオメトリ改めて研究して頂き、純粋なシクロクロスバイクをもう一度生み出して頂きたいと切に願っている。
Cervélo R5-CXのスタック低く設計されており、もちろんボトムブラケットは高い。チェーンステーは魔法の数字425mm、スタンドオーバーハイトは高めだ。そして、担ぎやすいようにフレームのフロント三角形に余裕をもたせている。
・・・パーフェクト。
Cervélo R5-CXは4種類(51, 54, 56, 58)のフレームサイズ展開だ。51cmはマリアンヌ(168cm)専用に設計、58cmはワウト(184cm)専用に設計されている。標準的な170cm前後の日本人ライダーには51が合う。
日本人サイズでも実に「シクロクロスバイク」だ!
まとめ:最先端の構造と伝統的なジオメトリが融合した”純”シクロクロスバイク
photo: Cervélo
いま、ワールドカップのシクロクロスシーンで活躍するバイクと言えばRIDLEY X-NIGHT、CANYON INFLIGHT、TREK BOONEの3台だ。どれもCXの競技性に特化したバイクであるが、Cervélo R5-CXがその1台に加わる可能性は非常に高い。
ワウトとマリアンヌというトップ選手が使うということも後押しするだろう。Cervélo R5-CXにはその他にもフルインターナルルーティングテーブルでブレーキホースが内装される。
そして、フレーム重量は56cmサイズで約830〜860gが目標重量だ。フォークは約360gと非常にかるい。また、フレームの剛性はAspero5や新型R5よりも高いという。まさに60分間ライダーが持てばいい、最速を目指す究極のシクロクロスバイクだ。
Cervélo R5-CXは2022年夏に発売だ。多くのメーカーシクロクロスシーズン終わりにバイクを発売するが、Cervéloはわかっている。「シーズン前」の夏に発売だ。バイク、リリース時期、全てが揃ったCervélo R5-CXは全てのシクロクロッサーから大きな期待とともに受け入れられるはずだ。
というか、マジでほしい・・・。