漢たちシリーズ第三話『漢の中の漢女』

「強くなるにはどうしたらいい?」その答えを明確に持っている選手は少ない。ただ単純に強くなるだけなら、走りこめばいい。でも、遠回りになる場合がほとんどだし、例えば誰かが失敗した同じ道を歩む必要もない。「同じ轍を踏まない」という事は限られた時間の中で強くなるために必要なことだ。

今日は久しぶりに大勢で走る。いつものルートだけど、西チャレに出る選手たちと練習する。もちろん、私も出る予定だったが一週間前という直前だが、急遽キャンセルする事にした。1月のシクロクロスからロードに乗り換え毎日の朝練と筋トレ、ローラーと積み重ねてきた。

一ヶ月近くレースへ向けてゆっくりゆっくりと地道に準備してきたその甲斐あってか、パフォーマンスは去年よりも高く仕上がりつつある。この冬の間で5秒間の最大出力が更新されていた。そんな仕上げた身体を活かす行き場をなくしたわけだが、今日の練習ではもちろんレースを想定して走る。

準備してきた仕上がりつつある体が無駄になった、と嘆いてはいけない。これからさらにレースは続くわけで、必要なのはこの土台を生かして、さらに高みを目指すことだ。無駄な思考に時間を費やす暇などない。

西チャレに出る選手のお相手になればと、なるべく前へ前へ。ジワジワ上げるのは序盤だけにして、要所要所でかけるようにする。レースで上がる時をイメージして追いやすいようにわざとらしく負荷をかける。練習には相手をやる気にさせるスパイスが必要だ。

レースでは、しれ〜っと一見アタックに見えないアタックをしなくてはならない。それでないと決まりにくい。でも、練習なので色々やってみる。第一は一本引き気味で7分10秒330Wぐらいか。

第二は3分17秒で326W程、第三は7:21で290Wなるべく前へ前へ行きたいもののもがきまくって力が出ない。そんな第三である「漢女」が合流してくる。

「漢女」と書いてオトメと読む。果敢にも諦めない漢たちに勝負を挑んできた。確かに勝てる余地はないが、それでも喰い下がらない。その挑戦しようとする意気込みと、根性、下ハン持ってフルもがきの「漢女」は昨年事故で半年間歩くことができなかった。そんなことを想いながら、鼻水垂らしながらもがく美しさよ。

シクロクロスで泥が美しいように、ロードでは嗚咽が奏でる美しきハーモニーに鼻水ヨダレが華を添える。そうハナだけにだ。花粉症も相まってか、呼吸がしづらく、トップチューブも汚れる。それでも前を向き、太陽に反射した鼻水はどこか美しい。

そのあとはいつものコースへ。練習とは実験の場である。いつも淡々と走るのも良いが、練習では可能な限り実験をしたい。会社のプレゼンでも、案1、案2とあるように、検討し、実践し結果をフィードバックしなくてはならない。経験こそが選手の血肉となり、実践で生きてくる。

今日はスプリント力のある選手が得意とする地形でどう出し抜くか考えた。おそらくピーク手前なら刺される。それなら自分に有利な2分の最大出力ならなんとか逃げ切れるかもしれない。もちろん「アタックしてるよ」という雰囲気を醸し出しながらダッシュする。

垂れないように一定ペースで、2:10 392W 6.6W/kg ベストは1:56という夏のピークなのだが時期を考えても、コツコツやってきたのが活きてきているのか。

後ろから初代「諦めない漢」KTR氏が。その恐怖も回す活力になる。楽しい。そのあと降って、変電所へ。ピークへ向かうロマンは3day熊野の熊野クラブそのものだ。全開近いが後ろに迫る影。「こだわる漢」ことN村氏。こだわるのはゴールを何としてもとってやろうという気合い。常に「グリコポーズ」を研究している。

そこはやはり勝てずに終わる。

そのあとも峠を上り降り、ひた走る。ただ「漢の中の漢女」は食らいつく。最後はローテに加われなくなり無言で千切れていく。無言というところが何とも勇ましい。一応初回にしては相当頑張っていたので拾って帰る。

私が言うのも何だけど、漢女が泣き言や弱音を吐いたことはあまり記憶にない。「戦士」と名付けられただけのことはある。根性だけは男勝りか。

マンナで飯食って帰宅。帰り道にレジェンドに話を聞くその後ろ姿は、体積だけ見ればレジェンドを凌いでいるかのようだ。おそらくこの並んだ姿を見て思った。「スプリンターは生まれつきスプリンター」才能を活かすべく、舞洲のホビーで勝利を狙うらしい。

「本当に楽しかった、また参加したい。」

居なくなったら置いていくと思うが、いつか普通についてこられる日が来るだろう。その時に「漢女」は真の漢になる。峠を登る様はまるで「漢」まさりだった。私も負けてはいられない。最近お気に入りの漢シリーズはまだまだ続く。みんな仕上がってきた。