私は40過ぎのオッサンなのだが、去年が人生で一番FTPが高った。
ブログを初めたのが25歳だったから、十数年以上も自転車のことをあれこれ考えていることになる。実はロードで優勝したのは2022年が初めてだ。シクロクロスで表彰台に上がったのもつい最近。ここまで遠回りする人は少ないかもしれないけど、逆に、遠回りしてきたからこそわかることもあった。
冬はフィジカルの貯金を切り崩しながらシクロクロスを走っている。正直なところ、体の衰えは全く感じない。おそらく、40歳ぐらいまでのオッサンはコツコツ方向性を間違えずに続けていけば、パフォーマンスはわずかながらも向上していくと実感している。
ただ、昔と違って実感しているのは以下だ。
- 回復が遅い
- フィジカルが向上しにくい
- 弱くなるのが早い
- 時間の捻出が難しい
- 病気になりやすい
逆におっさんになって、ポジティブな面もでてきた。
- Vo2Maxやったらまだ伸びる
- 工夫次第で伸びる
- 人の話を素直に聞ける(人によるが)
- 自転車が楽しい
- 若い選手と走れると楽しい
いろいろなことが見えてくる時期のオッサンだが、経験則的に実感しているトレーニングとの向き合い方が自分なりに見えてきたのでまとめることにした。ただし、この記事がまったく参考にならないのは、
- 若い選手
- 伸びしろのある選手
- プロで活躍したい選手
- 仕事してない選手
- すぐに強くなりたい選手
- コーチがついている選手
- お金がある選手
上記は全く参考にならない。逆に、
- おっさん
- フルタイムワーカー
- 伸びしろもうなさそう
- 長い目で伸びてけばいいや、と割り切れてる
- メニューとか面倒
- お金ない
という方にはいくらか有益かもしれない(が保証はしない)。また、「成功者バイアスだ!」とか「エビデンスが!」という方は前者なので、ぜひともお金を投じて、コーチングを受けて、理論を身に着けて、当記事を読むのは時間の無駄なので、そっ閉じしていただけたらと思う。
では、最近思うトレーニングの話。
自分にあう良いメニューを探る
サラリーマンのオッサンの場合、自分にあうメニューというのは「ある限られた時間」のなかで「フィジカルを最大に高められる」ことだと思っている。したがって万人のおっさんに合う「これ」というメニューは存在しておらず、仕事とプライベート(子育てや付き合い)の間の時間の中で最大のパフォーマンスが得られるようなメニューを探っていく必要がある。
その昔、トレーニングコーチにコンサル料をお支払いしてメニュー組んでもらっていたことがあった。しかし、明らかに仕事やプライベート、人間としての生活ができないような内容だったのでやめた。(メニューを組んだコーチがアレだったのかはさておき)。
なので、私は2つのメニューしかやっていない。
- SST 25min x2
- Vo2MAX SI 30sec x15 x2~3set
- 土日ロング:3~6時間ノンストップ、レース前箕面第1をL5(5.4~5.5W/kg)x15本
1は月~金毎朝、2は火と木、3はロードシーズン中のルーティン。あと月、水は自宅で筋トレ。この繰り返し。冬のシクロクロス中は3ができなくなる(その話は次章のCTLの話で)。これらのメニューはすでに固定化している。ZWIFTなどで組まれているメニューや、TrainerRoadのメニューはやってみたけど合わなかった。
というのも、エビデンスが無かったのでそもそも信用してない(冒頭でエビデンスガーと行っておきながらw)。
このメニューを行う理由は単純だ。
- SST:LT値ギリギリを維持し、有酸素系を向上させるため
- Vo2MAX SI:解糖系と有酸素系を向上させるため
- ロング:体のエネルギーを枯渇させるため。脂肪を使う体(低燃費)にするため
トレーニングで重要なことだと考えているのは、「有酸素系でATPの生成が間に合うようにする」ということだ。高いパワーを出しても、有酸素系でまかなえるような体づくりをめざす。この間に合うようにする性能が上がれば上がるほど、いわゆるFTPが向上することと同じ意味を持っている。
おっさんで重要なのは2番目のVo2MAX SIだ。ロードシーズン中にFTPを更新したのも、GARMINのVo2MAXは84を記録したのも、このメニューをやったからかもしれないと思っている。というのも、Vo2MAX SIは20分走などの最大パワーを改善する報告がある。
とにかく、2系統を向上させる事を念頭に練習している。有酸素系を手助けをしてくれる解糖系も強化しましょう、というシンプルなアプローチだ。あとは、意外と軽視されがちなロング。1と2ではなし得ない、糖質を枯渇させるであったり、脂肪の燃焼効率を上げるために行っている。
「距離を乗るのは意味がない!」と雑誌やメディアで散々書かれているがそのとおりだと思う。ただ、長時間ある程度の強度で走り続けるとフィジカルが面白いように向上していく。距離を乗ることが先ではなく、結果的に距離を乗り込んでいるという練習を理解してやっている。
そして、糖質を徐々に減らしながら170km~200kmほどを走って、最後に登りを設定し必ず出し切ること。10分ぐらいの峠を設定している。これは、ペース配分や、無駄な脚を使わないようにするためには、どんなエネルギーマネジメントが良いのかを、ロードシーズン中は何度も繰り返し試している。
したがって、私はCARSONとか、ZWIFTのメニューなんぞ、一切やっていない。「時間」と「強度」だけに注視している。あとはロードのレース前ならCTLが130-140程になるようにボリュームを調整する。レース当日はTSBは回復基調でプラマイゼロになるようにする。
で、CTLという話が出てきたのでCTLの話。
CTLに縛られるとき、そうでないとき
CTLが参考になるのは長距離のロードレースシーズン中だけだ。ロードレースを走るときはCTLは嘘をつかない。きちんと走るなら130は最低限必要だと感じている。
ただ、シクロクロス期間中はCTLは関係ないというのが結論だ。それよりも無酸素領域が重要で60分心拍170~180bpm耐えられるような心臓が必要になる。実際のレースデーターを見ても全レース60分間の平均心拍は160~180bpmでロードレースとは全く異なる身体の負荷のかかり方をする。
ただ、この心拍になれる為にはVo2Maxやればいい。
シクロクロス界の神、ネイス神も40秒20秒というメニューを好んでいたという。個人的にはVo2Max SIが合っていて30秒 FTP150%、15秒レストを13本、を3セット。というのを好んで続けている。最近は2セットで力尽きてしまうので、もう少しやらねばなと思う。
筋トレ
おっさんになってくると、確実に筋力の衰えがやってくる。
様々な文献を読み漁っていると、「気づいたときには遅い」というのが多く衰えを感じていない今この時期から筋トレに励んでいる。特に可動域を多く使うフルスクワットや、デッドリフト、ランジ、けんすいはおすすめだ。
サラリーマンのオッサンは、時間がないと思うので自宅にパワーラック買ったほうがいい。ジムに通うよりもコスパがよい。そして最高に時間効率がいい。できれば、高負荷、低回数で神経系を高めるのが良いらしいが、この手のメニューをやると自転車でのパワー低下を経験している。
現在は、加速度センサーを使って低重量で0.8m/sを目安に加速度トレーニングをやっている。
お次は、オッサンのメンタル面の話。
現状維持は後退、という罠
昔は「現状維持は後退だ!」
なんてことを、ずっと、ついこないだまで思っていた。今でもそう思う時がある。しかし、オッサンになって重要だと思うは、劇的なフィジカルの向上をいつまでも期待してはいけないということだ。どこかのタイミングでかならず、伸びなくなる日が来る。
もしかしたら明日かもしれないし、50歳かもしれないし、60歳かもしれない。ただ、間違えてはいけないと言い聞かせているのは、伸び悩む事を言い訳にして辛いトレーニングを避けてしまうことだ。常に、Vo2Max領域や自己ベストを超えるべく、しきい値領域のトレーニングで鍛え続ける。
加齢を、練習を行わない理由にしないこと。「言い訳を言いたくなる悪魔」はおっさんになるほど自分の中で大きく幅を利かせてくる。
昔ほど、パワーは出ないかもしれないが、でなくなったから辞めるのではなく、パワーが出ない中でも、自分自身に負けない、出せる負荷を出し続ける事が重要だと感じている。
20代ならば「現状維持は後退」だと思う。ただ、年齢を重ねてくると現状維持もままならなくなってくる。そうなった時に、「後退している」と考えるのではなく、緩やかにフィジカルが落ちていくのを食い止める取り組みが必要だ。
オッサンは、フィジカルが落ちていくという目を背けたい事実に向き合うことが必要になってくる。ソフトバンクの孫正義氏は自身の頭皮に関して、
「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである」
という名言を残している。フィジカルの低下は一見すると後退しているかのようにみえる。しかし、本人がそれを理解し、食い止めるべく前進し続けることこそオッサンがまずやらなければならないことだ。
そして、おっさんに必要なのは、きついトレーニングと、会社で嫌なことがあって帰宅して何事もなかったかのように毎日トレーニングできることだと思う。
人の話を聞く。
おっさんが老害化する前兆、第一歩として、「自分の話ばかりする」という非常に厄介な問題がある。この問題がおっさんに共通しているのは、「話し相手がそもそもいない」「奥さんしか話し相手がない」、「奥さんすら話を聞いてくれない」、「会話できるコミュニティに属していない」など、様々な原因があると思う。
より本質を探っていけば、人間は自分自身に対して最も関心がある生き物という根本原因もある。だから自分に起こった出来事を(相手が聞いていようがいまいが)話したいし、聞いてほしい。遠い国の戦争よりも、自分の虫歯の痛みほうがよっぽど気になるのは、もはや生き物としての性だろう。
このおっさん化に伴う「人の話を聞かない」という傾向を理解しつつ、おっさんがよりよい、「進化するおっさん」になるためにはどうしたら良いのだろうか。
ここで、冒頭の「逆におっさんになって、ポジティブな面もでてきた。」の4と5の話が出てくる。「若い選手と走れて楽しい」というのは、ここ数年自分がおっさんになってきたからこそわかり始めた密かな楽しみだ。わたしは、強い弱い問わず、10代~20代の人たちとよく走る。
その時に、いろいろな質問をする。特に小学生からずっといっしょに走っている今ではプロの某選手には、「自分はこう考えて、こうやってるんだけど、客観的に見てどう思う?」みたいな話を毎週していた。その時に、自分の意思や考えとそぐわない答えでも、否定や、マウントをとらず、受け入れる。
オッサンは、「相手に話を9割させ、自分の話は1割」でちょうどいい。
あんた(私)の話なんて、誰も聞きたくない。と、いつも自分に言い聞かせている。「俺の若いときは~」「昔のリザルトは~」などという「俺の歴代武勇伝」なんてものは、自分が会社に入社した時に聞かされてほんとうにうんざりした。
どこの世界にでもそういうオッサンはいるが、競技生活でそっちの世界に行ったらもう辞める時期が着ているサインだと思う。
とにかく、おっさんになればなるほど、ひとの話をよく聞き、(耳の痛い)客観的なアドバイスを引き出し、そして受け入れる。おっさんになればなるほどできなくなるからこそ、重要だと思っている。
まとめ:それでもまだ走る
100歳の人からみれば、80歳の人は20歳も若い。80歳の人からみれば60歳の人は・・・というと、キリがない。ただ、人間には物事を濃密に取り組める期間や時間というのが限られているように思う。やっかいなのは、その「期間」や「時間」があとどれくらい自分に残されているのかが、まったくわからないことだ。
だから、明日でも、明後日でも、1年後でもなく、「いま頑張る」という事を毎日続ける事がおっさんには重要なことだと思う。明日走れなくなるかもしれないし、明日死ぬかもしれない。本当に1日先のことはわからない。黒田日銀総裁が変わるまで利上げなんて絶対に無いと思っていたが、そうはならなかった。
本当に世の中、自分自身のことですら誰にも分からない。オッサンになって、世の中を知ったような気になっているのならば、それは間違っている。いつでも、「自分はまだまだ何も知らない」という前提に立って物事を考え、客観的なアドバイスを様々な世代から受け入れる器が必要だ。
「フルタイムワーカーの加齢と戦うおっさんのトレーニング」というタイトルからすると、トレーニングメニューやサプリメントなど、手っ取り早く強くなれる手段がまとめられるほうが、読者はありがたいと思うかもしれない。
ただ、残念ながらそういうものは世の中に多くは存在していない。オッサンになればなるほど、人生の可能性が狭められていく。それでもあなたが、まだなにかに真剣に打ち込みたいと思っていて、何かを変えたいと思っているオッサンであるならば、これからもまだまだ成長できると思う。
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