Photo:Kikuzo氏
昨年から関西シクロクロスに出ているが、毎回素晴らしい写真を撮って下さる方が居る。KIKUZO氏だ。くろんど池のモノクロ写真は実に秀逸で、私のFacebookの写真にも使わせていただいた。ただ最近は、私のジャージが変わったせいか(?)撮って頂ける数がめっきり減ってしまった。しかし1枚や2枚は必ず撮っていてくださっている。
このくろんど池の下り写真、まるでシクロクロッサーだ・・・。
そして、今回のマキノ高原も秀逸な写真を撮って下さっていた。早速チェックし一枚頂戴することにした。冒頭の写真がそれなのだが、そこで色々と撮られた写真を見ていると幾つか興味深いモノが写っていることに気づく。それは「チェーンの暴れ」だ。マキノ高原はシクロクロスと言えどスキー場の坂を一気に下る。
最大速度は40km/h近くまで出るそうだから相当だ。さらにスキー場の芝という事で自転車も暴れる。
今回私もなんとかメカトラブルを避けようと努力したが、2回もチェーン落ちしてしまった。原因は全て下りのチェーンの暴れが原因だった。しかしながら、チェーンが暴れるさまを知る由もなかったのだが、その一部始終をKIKUZO氏の写真は捉えていた。
今回はチェーンに何が起こっていたのかKIKUZO氏の写真を元に検証していく。なお写真を見やすく一部を切り取ってしまっているので、写真右下のクレジットが見えないが全てKIKUZO氏の写真である。今回のマキノ高原CXの写真はKIKUZO氏のアルバムから参照して欲しい。
下りでペダリングをしている場合
Photo:Kikuzo氏
まずは下りで踏んでいると思われる写真を見ていこう。左足で踏み込んでいるため上部のチェーンテンションは張られている。そのため上側チェーンの暴れは無いが、送り出され下側に移動したチェーンは、テンションを失い垂れ下がっている。この状態で自転車が暴れるとどうなるだろうか。
チェーンリングから送り出されるチェーンは張力が無いため、ダラリと垂れている事が見て取れる。この際力なくプーリーに吸い込まれていくチェーンを制御するのは、リアディレイラーである。しかし、ロード用のリアディレイラーはこの暴れを防止する機構が備わっていない。
例えばSRAMのCX1(シクロクロス専用コンポーネント)は「ローラーベアリングクラッチシステム」と呼ばれる機構が備わっている。SRAM のMTBコンポーネントXX1から採用されたチェーンの暴れを抑制する機能だ。この恩恵は以下の動画をご覧頂きたい。
シマノのMTBコンポーネントにもあるスタビライザー相当だが、ロードのコンポーネントには搭載されていない。踏み続けることで上部チェーンはテンションを保っているが、対して下部側は送り出されるのみなので張力を失う。このフワフワしたチェーンが元になり、メカトラブルを引き起こす可能性がある。
ただペダリングしなければ良いのか?と言われればそうではなく、実際に確認していくと別のことが見えてくる。
ペダリングしていない場合
Photo:Kikuzo氏
対してペダリングしていない場合はどうだろうか。静止画なので断定はできないが先ほどの画像とは異なり、上側のチェーンと下側のの動きは非常に似ている。上側、下側共にテンションが少なく感じる。もちろんインナーに入っているためペダリングをしていたと仮定してもテンションが低いことが見てわかるだろう。
この場合想定できるのは上下のチェーンテンションが低く、インナー側に落ちる可能性が想像できる。今回マキノ高原の下りでメカトラブルに見舞われた選手は相当数居た。アウターに落ちた選手、インナーに落ちた選手様々であるが、下りの最中のチェーン位置やペダリング有無は選手によって異なる。
Photo:Kikuzo氏
こちらはペダリング無し、両足に荷重がかかったスタンディングポジションと想像できる。この場合、かなりチェーンライン下側が垂れ下がり今にもチェーン落ちしそうだ。恐らくバイクが地面の突き上げをうまく吸収できなくて上下に揺れているのではないかと想像している。
その為もはやチェーン落ち寸前の状態に陥っているのだ。
C1上位人のチェーン状態
Photo:Kikuzo氏
では経験を積んだC1カテゴリーの選手を見ていこう。当然メカトラブルはゼロではないが何か経験上メカトラブルを少なくする術を知っていそうだ。
チェーンが暴れることにより、下部のチェーンがアウターから落ちインナーに入りかかっている。もちろんこのままペダリングすれば何も起きはしないが、これが仮にアウター側へチェーンが移動していたらチェーン落ちの一つの原因になる。ここで少しチェーンから目を離してみたい。
上手い選手は皆下りでスタンディングの状態を取り下っている。「そんなアタリマエのことを書くな」と言われそうだが、CXをやっている皆が皆やっているわけではない。上位人にとって当たり前の事でも当然知らない人も居るだろうし、ここから気づきを得る人も当然いるはずだ。
しかし、皆が皆スタンディングの状態でクランクを水平にして加重していてもチェーンテンションまでは完全な支配下に置けない。
Photo:Kikuzo氏
このように暴れ(フロントアウターが外れかけている)るなかでペダリングさせ上側のチェーンテンションを高めても下部のチェーンテンションは下がってしまう。運が悪ければ外れてしまう事も考えられる。ペダリングせず、静止している状態においてチェーンが外れないようにするにはどうした良いだろうか。
Photo:Kikuzo氏
まず「チェーン落ち」が発生するのはクランクアーム周りが一番確率が高い。リアディレイラー周りでジャムってエンドごと一撃終了するのは、フロントメカトラとの確率で比べると低いといえるだろう。そう考えるとフロント周りでのメカトラブル対策と、BB周りが揺すられないバイクコントロールをする他無い。
ここである選手の写真を見てみよう。チェーンが何故か暴れていない不思議な写真である。
Photo:Kikuzo氏
沢田選手だ。さすがだなと思ったのがこの下りの写真だ。たまたま1枚の写真がそう見えてしまっている可能性も否定出来ないが、同じくシマノコンポを使っている。上下のチェーンテンションは均一に見える。少しばかり上部のチェーンテンションがフワリとしている。
しかし言われなければ、まるで起伏のない平坦を下っている静止画にも見えてくる。ただ、沢田選手のチェーンは何故かどの写真を見ても安定していた。「もしや新型リアディレイラー!?」と想像させてくれるがもちろんバイクコントロールによるものだろう。手足をまるでサスペンションの様にうまく使っている。
そして、バイク自体を暴れさせないように、もしくは沢田選手がMTBで培ってきた何かしらのテクニック(ギアの位置等)でチェーンテンションをある程度保っているのかもしれない。いずれにせよ非常に安定し、見ていても不安を覚えないギア状態である。
チェーン落ちを防ぐには
photo:cyclocross magazine
チェーン関連のメカトラブルを最小限に抑えるには、現状の最適解はSRAM CXシリーズを使うか、もしくはGIANTの完成車に付いているようなMRPのチェーンガイドを使うほかないだろう。そしてナローワイドのチェーンリングを使えばメカトラブルを最小限に抑えられそうだ。上の写真はあるプロ選手のチェーンガイドだ。
おそらくe*Thirteen XCXチェーンガイドを肉抜きしている。フロントチェーンリングの形状から見てナローワイドではない。その為チェーンガイドを取り付けてメカトラブルを抑えている。もしナローワイドを使っていてもこのようにチェーンガイドを備え付けていればメカトラブルを最小限に抑えられそうだ。
しかし、クリアランスの問題のため泥詰まりという問題も出てくる。CXは様々な気象条件と路面状況で走らなければならないので一概にチェーンガイドが良いとも言えないだろう。
今回このように今回高速でデコボコしたスキー場を下る場合、メカトラブルを経験した選手も多かっただろう。チェーン周りに関する悩みは尽きないが自身のメカにおいてどのようなパターンでチェーン落ちをしたのかデーターを取ることが重要だ。
今回私はナローワイドのチェーンリングを使っていたがチェーン落ちをしてしまった。ただし「ペダリングした場合」のみチェーン落ちをしてしまった。その後は下りでスタンディングの状態にしたらチェーン落ちはしなくなった。機材云々の問題というよりも、きちんと体重がバイクに乗り、暴れなくなった事が理由かもしれない。
その辺の癖はそれぞれが使っているバイクによって特性が異なってくるであろう。とすれば自分が今使っている機材の特性をよく理解し、メカトラブルが少ない扱いをする方法が好ましいかもしれない。そのためにはできるだけチェーン落ちを考慮した機材を使うのが好ましい。
これからシクロクロスのシーズンはまだまだ続くが、1秒の重みを知れば知るほどメカトラブルは避けたいものである。ロードも機材が重要であるが、条件が過酷なシクロクロスこそ、より機材の性能が勝負をわける競技であると言える。自身の機材の癖を良く理解し、メカトラブルを少なくして一つでも順位を上げて欲しい。
#でもメカトラ中は容赦なく抜かんといてくださいw