ダイレクトマウントハンガーは数あれど、強度と耐久性を追求した製品はそれほど多くはない。理由は単純だ。そもそもディレイラーハンガーとは、ディレイラーが衝撃を受けた際に変形することに意味がある。フレーム側の破損を防ぐことが目的だ。
身代わり地蔵、曲がる柔らかさが必要なパーツである。
一方で別の顔もある。ディレイラーハンガーはフレームとディレイラーの間をつなぎ、変速動作をサポートする必要がある。むしろ、変速動作をサポートしている時間のほうが圧倒的に長い。
これら、「変形せず」にディレイラーの力を伝える役割、「変形して」ディレイラーが受けた衝撃をフレームに伝えない役割、この相反する自身の役割に対してディレイラーハンガーも苦慮しているに違いない。
その「万が一」がいつ起こるのかは誰にもわからない。ならば、変速性能や耐久性が向上することを目的としたダイレクトマウントハンガーがあってもよいのではないか。今回は、そんな要望を叶えてくれるWISHBONEの高強度かつ高耐久のダイレクトマウントハンガーを試した。
超々ジュラルミンの3D形状、高強度高耐久
WISHBONEのダイレクトマウントハンガーに使用されている素材は、スイス製のA7075-T651合金だ。A7075は超々ジュラルミンと呼ばれるアルミ合金で、最高クラスの強度を持つ材料の一つだ。
A7075は軽量でありながら、強度が求められる工業製品に使用されることが多い。通常のアルミよりも高価であるため、航空機、人工衛星、ロケット、車両の部品など、特に強度が必要な部分に絞って使用されている。
「T6処理」と呼ばれる冷間加工を行わない熱処理を施して強度を上げたあと、引張加工を施して、残留応力を除去したものを「T651処理」と呼んでいる。加工歪みの防止に利用されている。
この最高級の素材に対して、最先端のCNCマシニングで加工が行われたのがWISHBONEのダイレクトマウントハンガーだ。WISHBONE社の金属製品は高い品質と加工精度で知られているが、ダイレクトマウントハンガーにその技術が生かされた。
設計面も見逃せない。これまでのダイレクトマウントハンガーといえば、どれもが華奢で、サイクリストが好みそうな軽量性を狙って、薄く、肉抜き加工が行われたものばかりだった。
しかし、WISHBONEのダイレクトマウントハンガーは、変速時の横方向への変形に対する耐性を強化してボリュームのある3D形状で設計されている。
この3D形状の狙いは、厳しいギアシフトによる変形に耐えるためだ。ライディング中にスムーズかつ、高い変速パフォーマンスを保証している。もはや、身代わり地蔵ではなく、性能を高める事を第一にしたダイレクトマウントハンガーと言っていい。
インプレッション
ディレイラーハンガーに対して、何を期待し、何を求めるのか。それは使う側が求めているもので決めればいい。
SILCAの高剛性チタンダイレクトマウントハンガーが登場したときも議論になった。ダイレクトマウントハンガーは変形して身代わりになるのか、それとも変形を許容せず変速性能を追及するのか。製品の方向性を明確に示しさえすれば、あとは使う側が判断するだけだ。
まさにトレードオフの関係だが、私は高剛性かつ高耐久で変速性能の向上をずっと望んでいた。この手のパーツは、どっちつかずのほうがタチが悪い。曲がりもするし、そこそこ変速するような製品は、中途半端で何も得られるものがない。
WISHBONEのダイレクトマウントハンガーは100%性能向上を目的とした製品だ。素材にA7075-T651合金が使われていることもあり、明らかに高剛性と高耐久に全振りしている。性能のパフォーマンスを高めることに重きが置かれているのだ。
それは使ってもわかる、のだろうか。
これまでSIGEYIやアリエクで販売されているダイレクトマウントハンガーを使用してきたが、細身で軽く見た目にも剛性が高いとはいえなかった。一方でWheels ManufacturingやCANYONの新型AEROADのダイレクトマウントハンガーは剛性重視だった。WISHBONEのダイレクトマウントハンガーもこれに近い。
リアホイールを入れた時の収まりも力強く図太い感じがある。新型AEROADで改善されたスルーアクスルをマウントする部分を肉厚にする改良と同様だ。WISHBONEのダイレクトマウントハンガーも同様に収まる時の遊びの無さ、ガッシリとした安定感がある。
3D形状は狙い通り、変速時に横方向へ変形しないよう耐性を高めている。
変速性能の確認は、2台のシクロクロスバイクを用意して相対比較を行った。一方はフレーム側のディレイラーハンガーとディレイラー側の連結ボルトを排除してダイレクトマウントハンガーに付け替えた。もう一方は、純正連結ボルトのままにした。
変速を行うと明らかに違いがわかる、と言いたいところではあるが両者の間には明確な違いがそこまで感じられなかった。
ただ、ダイレクトマウントハンガーを使った時のほうが、ローギアに移動するときに詰まるような感じが無い。ヌルっと変速する(ような気がする)。シクロクロス特有のトルクをかけながら行う変速動作の場合は割と違いがあり、流れるように変速が決まっていく。
プラシーボかもしれないが、負荷をかけた場合は変速のスムーズさに違いを感じた。
一方でハイギアに移動する場合は違いがわからない。高い位置から、低い位置にチェーンが移動するだけであるため、それほどモーターのパワーは必要ないのかもしれない。ハイギアへの移動は明確な違いを確認できなかった。
肝心なこととしては、変速性能の良さが新型GRXの性能なのか、それともWISHBONEのダイレクトマウントハンガーに変更したことによる性能向上なのか、明確な見分けがつかなかったことだ。
それでも、少しでも変速性能を追及したい場合は、華奢なSIGEYIのダイレクトマウントハンガーよりも、WISHBONEのダイレクトマウントハンガーのほうが全体対的に太くゴツくボリュームもある。剛性も必然的に高くなるだろう。
ダイレクトマウントハンガーに何を求めるのかはライダーによって異なる。性能面を追及する場合はWISHBONEのダイレクトマウントハンガーが最適だと思う。ディレイラーハンガーの身代わり地蔵としての役割を諦めなければならないが、それは何を優先するかによって変わる。
何に重きを置くかは人それぞれ考え方が違うが、私は少しでも性能を上げたい。WISHBONEのダイレクトマウントハンガーはその要求を満たしている。
ラインナップ
Wishboneダイレクトマウントハンガーはシマノディレイラーに対応する。R9200、R9100、R8100、R8000、GRX810、RX800等とシームレスに統合する。変速性能を損なうことなく、純正よりも大きなレンジのカセットに最適なクリアランスを確保することが可能だ。
取り付けも簡単で複雑な取り付け作業の必要もない。シマノ純正のマウントリンクと簡単に交換できる。
各メーカーに対応したラインナップになっている。
- Specialized
- Trek
- Cannondale
- Giant(MY20)
- Giant(MY21)
- Pinarello
- Cervelo
- Colnago
- Bianchi
- Look
- BH
- Factor
- DeRosaNewSK
- Derosa SK
- Cipolini
- Argon18
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まとめ:性能に全振りするのなら
WISHBONEのダイレクトマウントハンガーの説明には、次の一文がある。
誇り高き台湾製。職人技と品質へのこだわりで有名な台湾製。
WISHBONEが作る製品は、高精度かつ高品質であることが知られている。同社のBBを指名買いするユーザーも多い。ネジを回した時の交差、筒自体の精度も高い。使われている素材も素晴らしくBBであれば、ベアリングを何度も打ち換えても耐えうる丈夫さがある。
それゆえ、WISHBONEのダイレクトマウントハンガーも使う前から期待していた。そして、期待通りの優れた製品だった。SUPER SIX EVO LAB71にSIGEYIのダイレクトマウントハンガーを使用していたが、WISHBONE製にすぐ変更したほうがいいと思った。
変速性能を優先し、可能な限り頑丈で剛性が高い製品をお探しならWISHBONEのダイレクトマウントハンガーがおすすめだ。使用している素材、優れた3D形状の加工を見ればその価値にすぐ気づくだろう。
ただし、ディレイラーに衝撃が加わった時は覚悟しておく必要がある。何かを得るためには、何かを失う必要があることも忘れてはならない。その、万が一の時にあきらめる自信がある方は、WISHBONEのダイレクトマウントハンガーをぜひ使ってみてほしい。
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