TPUインナーチューブは、Latexやブチルインナーチューブよりも重量を節約できるばかりか、転がり抵抗はLatexにせまる性能を備えている。最も軽いTPUチューブは25g前後の重量しかなく、サイクリストに人気のSOYO Latexチューブのおよそ半分だ。
軽量マニアはTPUチューブを使用することがマストになっているが、Latexチューブと比較してTPUチューブは本当に優れているのか。今回の記事では、Revoloop Ultra RaceとVredestein Latex(SOYO Latex)を実際に使用してテストした内容をまとめた。
重量
Revoloop Ultra Raceの実測重量は25gでチューブとしてはトップクラスに軽い。リム外周重量を極限まで軽くすること考えた場合、Revoloop Ultra Race以上に軽くできる方法はほとんどみあたらない。
たとえチューブレスタイヤを使ったとしてもタイヤ自体が重く、シーラントは最低30mlは充填する必要がある。そのため、クリンチャータイヤとTPUチューブという組み合わせは外周の重量を減らすための近道になっている。
Revoloop Ultra Raceに変更することによる軽量化の恩恵は非常に大きい。ブチルチューブや重めのLatexチューブの場合は80g前後の重量だ。2本合わせると160gだ。Revoloop Ultra Raceは2本合わせて50gであるため、単純計算でバイク重量が110g程度軽量化できる。
SOYOのLatexチューブを使用していた場合でも、Revoloop Ultra Raceに変更することで2本で56gの軽量化が見込める。昨今のロードバイクは1gでも軽量化しようとライダーがやっきになっている。極限まで軽量化が図られたバイクにおいて、チューブを変更するだけで56gの軽量化が見込めることは非常に大きな意味がある。
転がり抵抗
Revoloop Ultra RaceとVredestein Latex(SOYO Latex)をContinental Grand Prix 5000で使用した場合のCRRは以下の通り。
- Revoloop Ultra:0.002708
- Vredestein Latex:0.002601
Revoloop Ultra RaceとVredestein LatexをContinental Grand Prix 5000 25-622で使用し、45kphで走行した場合に必要なワットは以下の通り。
- Revoloop Ultra:28.2W
- Vredestein Latex:27.1W
Revoloop Ultra RaceとVredestein Latexの実測重量は以下のとおり。
- Revoloop Ultra:25g
- Vredestein Latex:53g
重量はRevoloop Ultra Raceが圧倒的に軽く、Vredestein Latexのおよそ半分だ。気になるのは「重量」と「CRR」の関係から、エネルギーをどれだけ消費しているのかだ。Tour誌の実験によると、必要な仕事量(J)は以下のとおりだ。
- Revoloop Ultra:16.7J
- Vredestein Latex:19.0J
Revoloop Ultraは1.1W抵抗値が大きいが、25gという軽さは1.1Wの差を埋めるばかりか仕事量はVredestein Latexよりも小さいという結果だった。
ただし、これらは転がりに関する物理的な数値だけを示した結果にすぎない(全てではあるものの)。実際に使用した際の乗り心地とは結びつかない。次章では、実際にRevoloop UltraとVredestein Latexを使用したレビューを記した。
インプレッション
乗り心地は圧倒的にVredestein Latexがよい。Revoloop Ultraは非常に硬質な乗り心地であることがすぐに体感できた。
Latexチューブに乗り慣れたライダーはTPUチューブの乗り心地が期待していたほどではないと感じるだろう。TPUの乗り心地は、ブチルと比べると若干良いかもしれない、と思った程度だ。しかし、Latexと比較するとTPUの乗り心地の悪さははっきりとしている。
具体的には、TPUチューブは路面からの小さな突き上げを拾いすぎる。タイヤが硬く感じるといった変化がすぐにわかる。TPU特有の硬く乾いた感触は、どこかふわふわして落ち着きのない印象をもった。空気圧を同一にしても、どこか空気圧を入れすぎたタイヤのような錯覚をした。
ヒルクライムで登るだけなら軽さと仕事量の少なさからRevoloop Ultra一択だ。しかし、長距離のロードレース、普段使い、クリテリウム、シクロクロス、ブルベには間違いなくVredestein Latex(SOYO LATEX)をえらぶ。
実験データーから全方位的にRevoloop Ultraが優れていることはあきらかであるものの、実際に使ったときの身体への疲労感や乗り心地、長時間の振動がもたらす精神面を考慮すると一概に「Revoloop Ultraを使っておけば全てヨシ」とは言いきれない。
価格
Revoloop UltraはAmazonで4,150円で販売されている。SOYO Latexが2,336円で販売されていることを考えると、価格は倍それでいて重量は半分だ。自転車の軽量化を考えると約2000円の差は「安い」と感じる人が多いかもしれない。
しかし、常用する場合は少々勇気がいる価格だ。一昔前であれば、GP5000のタイヤ1本が買えた値段だ。もちろん、TPUチューブは難しい製造方法や販売本数の関係でコストが上がっている可能性はある。
100歩譲っても、4000円を超えるチューブは安いとは言えない。常用するのではなく、普段は安いVittoriaのLatexを使い、ここぞという1発勝負の際にRevoloop Ultraを投入して気分を高めるという使い方が良いと思う。
セットアップと取り扱い
セットアップはTPUのほうが楽だ。Latexチューブはベビーパウダーのような白い粉で滑りを良くしておく必要がある。TPUはその心配がない。しかし、TPUチューブはタイヤを付けない状態で膨らますとすぐに破裂してしまう。
TPUチューブの特性を理解していれば、そんな愚かな行為をすることはないはずだ。しかし、TPUチューブを初めて使用したころタイヤに取り付ける前になぜかポンプで膨らまして破裂させてしまったのはわたしだ。
TPUチューブ自体は、サラサラとした材質であるためリム内でも滑りがいい。取り付けは、ブチルよりもラテックスよりも楽だ。とはいえ、TPU独特の「タイヤを取り付けない状態で膨らましてはならない」ということを必ず守る必要がある。
まとめ:軽さが正義ならば
TPUチューブは転がり抵抗はLatexチューブに劣るものの、総合的な性能(仕事量)はLatexチューブをしのぐ性能をそなえていた。しかし、実際に使ってみるとわかることは、Latexのようなしなやかさは皆無で、乗り心地が気になるという結果だった。
タイヤ内に不要な素材がなくなればなくなるほど、乗り心地は向上すると予想していたがそうではなかった。乗り心地でいえば、チューブレスタイヤやLatexチューブにかなうものはない。
ただし、一発決戦用、ヒルクライム、タイムトライアルといった競技であればTPU一択だ。実験で明らかになった数値データーをみれば、TPUチューブ以外を選ぶ必要はないだろう。Latexチューブよりも転がるために必要な仕事量は小さいのだから。
TPUチューブとLatexチューブはそれぞれの材質を理解し、用途に合わせた使い分けが必要になってくる。空気の抜けも考慮すべき要素の一つだ。
Revoloop Ultraは一見すると、軽さ、転がり抵抗の小ささ、取り付けのしやすさなど、全てを備えた完全無欠のチューブに思える。Revoloop Ultraは他の競合製品と比べて優れていることはあきらかであるものの、乗り心地の面ではLatexに到底及ばない。
したがって、競技の用途や求められる性能の違いをよく理解しTPUかLatexを使用するのか見定める必要がある。