LEZYNE GRAVEL DRIVEは、「グラベル用」と銘打たれているが現代のロードタイヤに求められる機能が満載のポンプだ。名前に騙されてはいけない。1回のストロークで送り込める空気の量が多く、空気を入れる作業が格段にラクになる。推奨される空気圧の範囲(0~6.9BAR)は必要十分であり、純粋なロードバイク乗りにこそ良い選択になる。
- ワイドタイヤに運用に最適
- 一気に0.5BAR弱入る
- 空気入れが早くてラクになる
- 最適圧力範囲(0~6.9BAR)に特化
- チューブレスセットアップの機能付
久しぶりに良い製品に出会った。
海外の大手メディアCyclingweeklyの2021エディターズチョイスに選ばれ、bike-reviewサイトでレビュースコア9.6/10という高評価ながらも、国内の販売価格が手頃な8000円程度で売られているにもかかわらず、その存在自体がほとんど知られていないポンプがLEZYNE GRAVEL DRIVEだ。
製品名のとおり、グラベル専用設計のポンプとしてLEZYNEから売り出されているだ、実際に使ってみるとロードバイク用として待ち望んでいた機能と仕様が詰め込まれたポンプとしか言いようがない素晴らしい製品だ。
正直なところ、「GRAVEL DRIVE」という名前は失敗だと感じた。しかし、その名前とは裏腹に「現代のロードタイヤ」を運用するために必要なフロアポンプだと明確に書いておく。このポンプの最大の特徴は、
「0~6.9 BARに限定したポンプ」
ということだ。逆の意味では、6.9BAR以下しか空気圧を入れない私のようなサイクリスト(CXは0.90~1.6BAR, ROADは5.0~5.4bar運用)にとって、GRAVEL DRIVEのようなフロアポンプをこれまで探しもせず、使いもしてこなかったことに違和感さえ感じてしまった。
いったい、どういうことだろうか。フロアポンプはどれも同じではないのだろうか。まず、フロアポンプは大きく分けて2種類が存在している。
- ハイプレッシャーポンプ:高圧を充填できるポンプ。一回のポンピングで送る空気量は少ない。幅が細いタイヤ(ピストや昔のチューブラー)に11BAR以上の高圧を入れる用途のポンプ。市場に出回るほとんどのポンプがこのタイプ。
- ハイボリュームポンプ: 大容量の空気を送り込めるポンプ。一回のポンピングで送る空気量が多い。タイヤ幅が太く、低圧のタイヤに素早く空気を送り込む用途のポンプ。
多くのロードバイク乗りは、前者の「ハイプレッシャーポンプ」を所有しているはずだ。トラック競技をやらなければ使うことのない「男は黙って10BAR」を達成するためには、前者のハイプレッシャーポンプを用いる必要がある。
対して、タイヤ幅が広く、空気の量が多く必要な場合はハイボリュームタイプのポンプを用いる。ただ、ハイボリュームポンプのラインナップはそれほど多くない。その中で、LEZYNEのフロアポンプGRAVEL DRIVEは孤高の存在かつ、アタリのポンプだった。
今回の記事は、現代のタイヤ事情に非常に適したLEZYNEのフロアポンプGRAVEL DRIVEをレビューする。「GRAVAL」と銘打たれているものの、
「LEZYNEよ、これは現代のロード乗りが必要としているポンプだ、名前変えないと売れないぞ。」
と、言いたくなるほどの製品だった。さっそく、LEZYNEのフロアポンプGRAVEL DRIVEについてみていこう。
圧倒的な空気入れの早さ
GRAVEL DRIVEは大容量の空気を充填できるハイボリュームタイプのポンプだ。一回のポンピングで送る空気量が多い。昨今、主流になってきているタイヤ幅が太く、低圧のタイヤに素早く空気を送り込むために適したポンプといえる。
物は試しと、さっそく試した。タイヤ幅にもよるが、ロードバイク用の25Cであれば1ストロークで一気に0.5BAR弱入ることがわかった。私が常用している5.0~6.0BARであれば、空気圧をとても簡単にあげられる。1回のポンプで大量の空気送り込むため、信じられないほど早く目的の空気圧に到達できる。
したがって、グラベルと銘打たれているがどう考えてもこのポンプはロードタイヤに完璧に対応していることがわかった。
実際に、完全に空気を抜いた0BARから6.0BARまで何回ストロークを行なったか比較した。結果は以下の通り。
- 18回 → 5.2BAR
- 20回 → 5.6BAR
- 21回 → 6.0BAR
これまで使ってきたポンプよりもはるかに少ない回数で目的の空気圧まで到達できることがわかった。1度のストロークで入る空気の量は公称値の0.5 BARとはいかないが確実に0.4 BARは入るようだ。
測定精度±0.03BAR
フロアポンプに付属のゲージはあてにならない場合が多い。しかし、GRAVEL DRIVEの測定精度±0.03BARだという。実際にパナレーサーデュアルヘッドデジタルゲージと比較した。
実験方法は、1~6BARの6段階それぞれで計測を行い、GRAVEL DRIVEのメーターがちょうど1~6のメモリに重なった時にタイヤの空気圧をパナレーサーデュアルヘッドデジタルゲージで測定するという方法で行なった。
結果は以下の通り。左がGRAVEL DRIVEの赤メモリが重なった空気圧、右側がパナレーサーデュアルヘッドデジタルゲージで測定した値だ。
- 1 BAR : 0.86 BAR
- 2 BAR : 1.89 BAR
- 3 BAR : 2.87 BAR
- 4 BAR : 3.85 BAR
- 5 BAR : 4.96 BAR
- 6 BAR : 5.88 BAR
ほとんど同じ値を示している(下方向にふれる)ため性能に偽りはないだろう。
秀逸なポンプヘッド
いままでクワハラのヒラメポンプを使用してきたが、時代は変わり便利なポンプヘッドが開発されてきたものだと感嘆した。LEZYNEの新しいABS-1Proポンプヘッドにはいくつかの機能が備わっている。
- 仏式用チャック(PRESTA)
- チューブレス用チャック(M6x0.8)
- バルブコア外し
- 減圧調整ボタン
グラベル用ということもあり、チューブレスタイヤのセットアップを考えた機能が盛り込まれている。普段使いは仏式用のチャックを用いる。実は、この仏式用のチャックがすぐれものだった。
バルブコアのネジ山に直接ねじ込むタイプで確実に固定される仕組みを採用している。かつ、バルブエクステンダーの突き出し量がわずかでも、バルブコアのネジ山にしっかりと固定されるスレッド式であるため非常に安心感がある。
バルブコアに対してどれだけの量で固定されるか確認したところ、エクステンダーの差し込みはわずか3.7mm(バルブコアのスレッド突き出し部分だけ)しか必要としないという秀逸っぷりだった。リムギリギリのバルブエクステンダーなどでも十分に使用できるほどだ。
そして、チューブレス用チャック(M6x0.8)は「バルブコアを抜いて」使う。なぜバルブコアを抜くかというと、ビード上げの時に一気に空気を入れるためだ。バルブコアがあるとその分だけ空気の流入量が減る。
プレスタシャフトに直接ねじ込むことで、チューブレスタイヤを装着する際のエアフローを確保するという仕掛けだ。
ABS-1Proポンプヘッドの背面には、バルブコア外しが統合されている。チューブレスタイヤの取り付けの際に、シーラントを入れるためにバルブコアを外す作業があるため、その際などに役立つ機能だ。「バルブコア外しがない!」なんて不測の事態にも対応できる。
サイドには減圧用のボタンがある。ホースライン自体の減圧であるため、チャックを緩めたときにバルブコアをあやまって取り外してしまう可能性が低くなるという優しい設計だ。
ポンプヘッドは使いやすいL字型を採用している。TTバイクで使用するディスクホイール(円盤)の空気も簡単に入れることができる。使い終わったら、台座に収まるように収納できる。収納の美しさも考慮したLEZYNEの配慮が感じられた。
チューブレスセットアップの容易さ
実際に、チューブレスタイヤのセットアップを試した。最高難易度と思われるCHALLENGEのHTLRシクロクロスタイヤでテストした。チューブレスタイヤの取り付けは簡単だった。TOPEAK JawBlow Boosterとまではいかないが、簡単にセットセットアップすることができた。
とはいえ、ビードが上がらないタイヤがあるかもしれないので、別途コンプレッサーか、エアチャンバーを備えたTOPEAK JawBlow Boosterを用意したほうがチューブレスタイヤの運用としては確実だろう。
バルブコアを抜いた状態であればほとんどのロード用チューブレスタイヤはセットアップできるはずだ。
シクロクロス用のタイヤセットアップで気づいたこととしては、グラベルタイヤのような大径のタイヤでは、エアフローを増やすことでより素早く空気を入れられるようになる。その点でGRAVEL DRIVEは重宝する。
昨今のロードタイヤ事情としてはワイド化、低圧運用にともない、高圧を入れるよりも、多くの空気を送り込むシチュエーションが多くなった。ハイボリュームタイプのポンプは、チューブレスタイヤのセットアップから、ワイドタイヤの充填まで守備範囲が非常に広いポンプと言える。
超大型のアナログゲージメーター
GRAVEL DRIVEには約90mmの「超大型アナログゲージメーター」が搭載されている。90mmの大きなメーターは、まるでスポーツカーのタコメーターのようで、それよりも一回り大きいとさえ感じる。それゆえ、空気圧の読みやすさを約束してくれる。
外側の白抜き部分はPSIの表記で100PSIまで表示している。さらに内側が10単位、外側は5単位というわかりやすさだ。内側はBAR表記がされている。ゲージの針は見やすい赤い針が採用されている。
アナログゲージメーターの配置は、最下部に位置しているため低重心化にも寄与している。非常に大きなメーターであるため、視力に不安がある方も十分見えるだろう。
質感の良さ
LEZYNEの製品で特徴的なのは、質感の良さだ。このポンプを使うのはいつもより楽しく感じる。人間工学に基づいた木製のハンドルはとても質感がいい。寒い時期でもひんやりとしない。
プラスチックや低品質のアルミニウムを多く使った他のポンプとは違う印象だった。ピストンは全てアルミニウムから機械加工されており安心感と重量感に貢献している。
そして、LEZYNEの製品に共通しているのは保守部品の調達のしやすさと、分解組み立てが容易であることだ。ポンプの部品に摩耗や損傷があった場合LEZYNEから部品を入手して、組み直すことができる。
価格は8,580円(税込)とコスパ高っwww
最後に価格だ。ここまでの機能を備え、LEZYNEというブランドの箔が付いても税込み定価8,580円だ。買い替え需要を考えても、非常に戦略的かつ手の届きやすい価格と言える。他のブランドが作ったら14,000円~16,000円はしそうだ。
しかし、LEZYNEのポンプなのだからどう考えても魅力的な価格としか言いようがない。
コラム:用途を絞ったがゆえの使いやすさ
ポンプをボリューム別に詳細にカテゴライズすると、「小容量」「中容量」「大容量」の3つに分けられる。それぞれの用途は以下の通りだ。
- 小容量:0 ~ 11.0 BAR(ロード、トラック用)
- 中容量:0 ~ 6.9 BAR(CX、グラベル、ワイドタイヤ用)
- 大容量:0 ~ 2.8 BAR(MTB、ファットバイク用)
GRAVEL DRIVEは中容量のポンプにカテゴライズされる。ストロークあたりのボリュームを増やしつつ、4.8〜6.2psiの最新ロード用ワイドタイヤに適した空気圧に到達することを明確な目的としている。
ハイボリュームタイプの場合、デュアルチャンバーシステムを搭載するメーカーも多いが、これらを一切必要とせずシンプルな構造で多くの空気を送り込む性能を達成している点がすばらしい。
そして、ゲージの0〜6.9BARの目盛りの範囲だけにゲージのメモリ絞られているということは、意図した空気圧の数値に設定できる可能性が高いことも意味している。0~11BARのメモリよりも、より広く余裕を持ってメモリの表記を使えるからだ。
たとえば11BARの高圧系のポンプの場合、表示される値が0~11BARと範囲が広いため、メモリが細かく表記されているため、どうしてもねらった空気圧に設定しにくく感じていた。
デジタル表示ならばその心配もないが、価格は上がる。別途空気圧ゲージで調整するにしても、おおよそ正確な値を入れることができれば細かい調整(空気を抜きすぎる、もしくは足りない)の手間も減らすことができる。
なにより感動したのは、ゲージのメモリが0~6.9BARの「必要十分な範囲」のみに絞られるだけで、さらに見やすく、ねらった空気圧の充填が可能になるのかと思ったことだ。
いままで0~11BARの空気入れを使ってきたサイクリストであれば、0~6.9BARの用途に絞られたフロアポンプを使うことで劇的な違いを感じられると思う。
まとめ:ハイボリュームポンプのベストバイ
LEZYNE GRAVEL DRIVEは、昔ながらのロードバイク用タイヤの高圧に最適化されたフロアポンプよりも、1ストロークあたりの空気の量を増やしたことで、ワイドタイヤを使用する現代のライダーに新しい価値をもたらした。
いま、主流になってきているワイドタイヤ、低圧運用に合わせてポンプを最適化する必要があることは理にかなっており、空気入れも特化したものに変更するのが合理的だと痛感した。いままで、その事実に気づかず、前世代で主流だったポンプを何も考えず慣例的に使い続けてきただけだ。
現代のタイヤワイド化と低圧化に伴って、ポンプも最適化したものに変える時期に差し掛かっている。現段階ではハイボリュームのポンプは珍しいが、これから同様の製品が登場し、各社がしのぎを削る熾烈な開発競争が始まっていくのだろう。
最後に、LEZYNEはGRAVEL DRIVEを「グラベル用」のポンプとして展開することを、ここでもう一度考え直したほうが良いと思う。というのも、(現代の)ロードバイク乗りにこそ、この0~6.9BARの中容量に絞ったポンプが必要とされているからだ。
グラベル専用ポンプが必要なのか、と疑問に思うライダーもいるかもしれない。しかし、1回のストロークで送り込む空気の量が多く、5.0~6.5BARの最適レンジで現代のロードタイヤにも対応する。利点はそこにある。
また、実売価格8000円というのは今使っている高圧を入れるポンプからの買い替えを考えると、戦略的かつ非常に魅力的な価格だ。だからこそ、「グラベル」のネーミングが惜しいと感じた。
とはいえ、ネーミングによって性能が変わるわけではない。ただのイメージだ。
したがって、6.9BAR以下で25C以上のワイドタイヤを運用している方、高圧(11BAR)タイプのポンプを使用している方ならば、「グラベル」という名前に決してとらわれずに、GRAVEL DRIVEをぜひ1度試して頂けたらと思う。
これは、ほんとうに良い仕事をするポンプだ。