Aiがバイクポジションを導き出す「idmatch」を受けてきた。
idmatchは、フィッティングマシンが自動的にポジションを調整してくれる。ライダーは普段どおりペダリングを行っていれば、15分ほどでポジションが導き出される仕組みだ。その間、フィッティングマシンが自動的にいくつかポジションを変更し、最適なポジションを導き出してくれる。
いうなれば、Aiが勝手にポジションを導き出してくれるという、夢のようなフィッティングシステムだ。
idmatchは、ライダーに合った最適なクランク長やバイクサイズも導き出してくれる。しかし、idmatchが優れているのは「最適」を決してライダーに押し付けない点にある。
筆者は170mmのクランク長が最適という結果だった。しかし、165mmのショートクランクが好みだったため、idmatchで「165mmのクランクを使う最適なポジション」を出した。クランク長ありきのフィッティングも行えるのだ。
この自由度の高さは、idmatchならではの特徴といえる。
今回の記事は、Aiが自動的にバイクポジションを導き出すidmatchを用いて、ロードバイクとシクロクロスのポジションを出した。フィッティングの結果や、実際に乗って感じた変化をお伝えする。
idmatchの哲学
Aiがポジション導き出すと言っても、その根底には「バイクポジションとは何たるか」という哲学が必要だ。idmatchのフィッティングマシンに「哲学」を吹き込んだのは、バイクラボの創始者ルカ・バルトリ博士だ。
ルカ博士のフィッティング哲学は、フィッティングを行うことで「パフォーマンスを向上させる」ことが根源にある。しかし、その意味を正確にとらえる必要がある。
まず、トレーニングの本来の目的はパフォーマンスを向上させることだ。サイクリストにとってパワーの増大(パフォーマンス向上)はトレーニングの最大の目的になっている。しかし、レースやライドの後半になると、疲れやダメージによってパワーは低下していく傾向にある。
idmatchの根源にある「バイクフィッティング」の哲学は、「パワーの増加」をすることではなく、「パワーの低下」をおさえることにある。これが、idmatchが導き出すバイオメカニカル観点で優れたポジションの考え方だ。
フィッティングというと、どうしてもパワーの増加というプラスの方向のことばかりイメージしてしまう。idmatchの考え方は逆だ。身体に負担をかけないような、体が最も動きやすく、疲れにくいポジションを導き出す。
逆説的に考えると、パフォーマンスの落ち込みを抑制することに繋がる。これがidmatchが考える「良いポジション」の定義だ。バイクフィットとは、パワーの最大を目指すものでもなく、かといってダラダラと走るためのものでもない。あらゆる状況でいいパフォーマンスを出せる妥協点ともいえる。
フィッティングの流れ
idmatchは7つのステップで構成されている。
- ヒアリング
- 身体測定
- 推奨ポジション算出
- 自動ポジション調整
- 適正ポジション算出
- ポジションレポート作成
- ポジション反映
STEP1はライダーに様々なヒアリングが行われる。体に痛みや違和感がある部分の確認、スポーツ歴など、自分自身が抱えている問題などを答えていく。筆者は主に肩こりや、たまに発生する腰の痛みなどを報告した。
STEP2は身体測定だ。Microsoft社製の「Xbox One Kinect Sensor」で自動的に計測される。Kinect(キネクト)は身体の動きでコンピューターの操作ができるデバイスだ。体にセンサーを取り付ける必要がないマーカーレス方式を採用している。
センサーから読み取った身体の様々な情報を自動的に測定するため、フィッターが体を触ることはない。例えばRETULの場合は、センサーの取り付けが必要だ。マーカー式の場合は、マーカー自体が外れしまう場合や、フィッターが体に触れるといったデメリットがある。
STEP3は推奨ポジションを算出する。STEP4で行うシミュレーター上でのポジション合わせのベースだ。STEP1のヒアリング結果、STEP2の身体計測結果を考慮し、推奨ポジションを自動的に計算する。
STEP3では、バイクポジションだけでなくクリートのポジションの計算も行われる。まず、専用のティルトメーターで脚の癖(膝の入りなど)を計測する。次に、足の測定結果からクリート位置が算出され、専用のセッティングシステムで調整を行う。
ほとんどの各社クリートに対応しているが、TIMEのMTB用 ATACクリートには対応していない。そのためATACクリートはSPD用のクリートであわせた。
STEP4は推奨値をベースに、シミュレーター上で自動ポジション調整が行われる。被験者はシミュレーターに乗りペダリングを行う。シミュレーターでペダリングを行っている模様を、Xbox One Kinect Sensorで計測し、関節角度をリアルタイムで解析していく。
15分ほどの測定で、複数のポジションが次々に試されていく。idmatchの独自アルゴリズムで推奨ポジションをベースに微妙な補正が加えられていく。被験者は、システムに乗ってペダリングを行っているだけで自動的にシミュレーターにポジションが反映されていく。
STEP5は適正ポジション算出だ。適切なバイク銘柄、バイクサイズ、ポジション、ステムサイズ、ハンドルが算出される。STEP7で行うための、実車に落とし込む数値データも算出される。筆者がおすすめされたバイクはCANYONのUltimateだった。
STEP6はポジションレポート作成が行われる。レポートの作成と同時に、ユーザにメールで結果が送信される。また、データはBIKELABの本社データベースに保管される。
STEP7は実車にポジションを反映する。
フィッティング結果 クリート位置
idmatchのクリート調整は、長年のクリート位置の悩みから開放される素晴らしいフィッティングだ。パフォーマンスは足元から始まるというように、サイクリストとバイクをつなぐ3点(ハンドル、サドル、クリート)のうちの1つがペダルだ。
パワーを効率よく伝えるためにクリートを正しく取り付ける必要がある。クリート位置の調整は、idmatchの自動フィッティングの入口になる最も重要な調整箇所だ。ペダリング効率や快適性だけでなく、人体工学を尊重したセットアップとしても重要な役割がある。
クリート調整の工程のなかで、重要ポイントは「足とシューズ」と「ペダルの位置関係」だ。この2つで最高の組み合わせを得るためには、ペダル軸との正確な位置関係を導き出す必要がある。仮に、足とペダルの位置関係が合わないと、脚に不要な動きが発生し、余計な負荷がかり故障の原因にもなる。
idmatchは、正しいクリート位置をわずか60秒で見つけ出してくれる。idmatchのクリートフィットは、科学的なデバイスを利用し測定が行われる。取り付けは、シューズ内のカカトからの距離をもとに正確にクリートが設置される。
取り付けの際に用いられる専用の装置は、レーザー光が照射されシューズソール側にペダル軸の位置を再現できる。クリートにはめ込む専用ディスクには角度が記録されており、カカトからの距離と角度を測定できる仕組みだ。
寸分の狂いなくクリート位置の調整を行うことにより、身体のフォーマンス向上、筋肉や骨に関わる問題を解決することができる。
フィッティング結果 ロード
結論からいうと、現在のポジションから1mmの変更もなかった。これは今乗っているポジションが適していた事を意味する。RETULで算出した値をそのまま流用している。この値は、2018年の11月に測定した値だ。idmatchの結果も寸分の狂いなく同様の値が出たことは興味深い。
- サドルとハンドルバーのリーチ(d):625mm
- サドルの高さ(a):668mm
- サドルのセットバック(b):175mm
- サドルとハンドルバーのドロップ(c):-74mm
- 実質サドル角(g):74.8°
BRP(Biomechanical Reference Point)は全てのサドルに共通した基準で、サドル幅が70mmになるポイントを指している。BRPとBBセンターがサドル高さになる。idmatchではBRPを元にサドルのセットアップに必要なすべての数値を表現している(サドル高、セットバック、サドルとハンドルバー間の距離と落差) 。
HBとは、ハンドルバーとステムの交差点だ。HBポイントを基準にすれば、バイクフィッティングで導き出された数値を正確に反映できる。
フィッティング結果 シクロクロス
- サドルとハンドルバーのリーチ(d):632 mm
- サドルの高さ(a):643mm
- サドルのセットバック(b):182mm
- サドルとハンドルバーのドロップ(c):-14mm
- 実質サドル角(g):73.6°
ロードとシクロクロスのポジション比較
ロードとシクロクロスのポジションは全く違う。
今回、一度にロードとシクロクロスのポジションをidmatchのシステムで測定し算出した。ロードを基準にしたシクロクロスのポジション変化は以下の通りだ。
ポジション | ROAD | CX | 差(mm) | 割合(%) |
---|---|---|---|---|
サドルとハンドルのリーチ | 625 | 632 | 7 | 1.12 |
サドル高(BRP基準) | 668 | 643 | -25 | -3.74 |
サドル後退幅(BRP基準) | 175 | 182 | 7 | 4.00 |
サドルとハンドル落差 | -74 | -14 | 60 | -81.08 |
実質サドル角 | 74.8 | 73.6 | -1.2 | -1.60 |
ロードのポジションを基準にして、シクロクロスバイクのポジションがどれほど変化したのかを比較している。算出の前に想像していたシクロクロスバイクのポジションといえば、「サドルは後退し、サドル高は低く、ハンドルは近い」という一般的なものだ。
結果、サドルはBRP基準でマイナス25mmだった。サドルからハンドルへのリーチは意外なことに7mm伸びた。後退幅は後ろに7mm移動した。一見するとロードよりもアグレッシブなポジションにも思えてしまうが、肝心なのはサドルとハンドルの落差だ。
サドルとハンドルの落差はロードバイクとくらべて60mm上に上がった。ハンドルの位置が60mm上に移動したことになる。それでいてサドル高さはマイナス25mmだ。よりアップライトに、ゆったりとした乗り方になりつつも、サドルは後ろに移動し、後輪にトラクションがかけやすく変化している。
最も大きい変化は、ハンドル落差がほとんど無くなってしまったことだ。サドルとハンドルはほぼ同じ位置に設置されている。見た目もシクロクロス特有のバイクに近づいている。
いつ受けるべき?
1回目は2021年、2回目は2022年の9月だ。時間が空いてしまったが、ポジションはロードシーズンが終わった時に受けるようにしている。フィジカル面での調子も良い時期であり、バイクにも完全に乗りなれている状態だからだ。
2回目は2022年の8月下旬だ。ロードのレースシーズンも後半になり、来シーズンを早い時期から見据えてフィッティングを受け直した。また、9月下旬から日本各地で開催するシクロクロスへの移行も考慮するとベストな時期といえる。
idmatch 取り扱い店
idmatchのバイクフィットマシンとクリートフィッティングができる店舗は日本で2箇所のみだ。
bici paradiso Augurio アウグーリオ
住所 | 大阪府大阪市住吉区長居2-10-32 |
---|---|
TEL | 06-6696-5501 |
URL | http://bp-augurio.com |
サイクルショップ スフィーダ
住所 | 埼玉県蓮田市閏戸742-2 |
---|---|
TEL | 048-878-9642 |
URL | http://www.sfida-cycle.com |
クリートフィッティングは以下の6店舗で行える。
ショップ | ACTIVIKE |
---|---|
住所 | 東京都稲城市矢野口853-1 ハイブリッジ102 |
TEL | 090-8082-6106 |
URL | http://activike.com |
ショップ | 自転車のウエサカ |
---|---|
住所 | 岐阜県大垣市中川町2-49-3 |
TEL | 0584-78-4265 |
URL | http://jitensha-uesaka.sun.bindcloud.jp/index.html |
ショップ | シクロオオイシ・ラヴニール |
---|---|
住所 | 長野県安曇野市穂高牧306-3 |
TEL | 0263-83-8797 |
URL | https://www.oishijyuku-lavenir.com/ |
ショップ | Cycle Flower |
---|---|
住所 | 大阪府枚方市東香里1-23-22 |
TEL | 072-807-3864 |
URL | http://www.cycleflower.com/ |
ショップ | EURO WORKS |
---|---|
住所 | 奈良県生駒郡斑鳩町龍田1-3-12 |
TEL | 0745-70-0911 |
URL | http://euro-works.net |
ショップ | しゃりんかん |
---|---|
住所 | 熊本県熊本市中央区子飼本町3-22 |
TEL | 096-343-3324 |
URL | https://sharinkan.com/ |
まとめ:Aiが導くフィッティングの妥協点
idmatchは正解ではない。
哲学にもある通り、あらゆる状況でいいパフォーマンスを出せる妥協点だ。パフォーマンスを最大化するというアプローチではなく、パワーの低下をおさえるポジションを探りあてることにある。
フィッティングのイメージは、どうしてもパワーの増加というプラスの側面ばかり考えてしまう。idmatchは身体に負担をかけず、体が最も動きやすく、疲れにくいポジションを導き出す。レース後半まで身体の力を発揮できるような走り方に最適と言える。
idmatchは、ロードバイクのみならず、マウンテン、シクロクロス、トライアスロン、タイムトライアルと多種多様な競技に対応している。
特に、クリートフィッティングは受けることを強くおすすめする。私は、右足だけ3mmほど前に出ている。非常に微妙な調整を1mm単位で行ってくれるのだ。これまでクリート位置を適当に設定していたが非常に満足している。
これまで、ポジションやクリート調整に悩んでいた方はぜひ一度idmatchを受けて、身体が動きやすく、疲れにくいポジションを導き出してほしい。