これまで使用してきたタイヤの中でとくに優れていると感じたのは「Continental GP5000」と「MICHELIN POWER CUP」だ。他にもVittoriaのCORSAやSPECIALIZEDのTURBOなど様々なタイヤが存在しているが、耐パンク性や耐久性など総合的に考えてコンチかミシュランどちらかに落ち着いている。
しかし、レースで使用できるタイヤは1つ(正確には2本)だけだ。タイヤという機材は走行性能に大きな影響を及ぼし、フレームやホイールで発生する抗力よりも大きな違いを生み出す場合がある。タイヤ選択ひとつで勝敗がわかれる可能性もあるため、サイクリストは少しでも性能の良いタイヤを使いたいと思っている。
今回の記事は、タイヤのベンチマークとして長らく君臨してきたContinental GP5000とMICHELIN POWER CUPの比較を行った。対象はクリンチャータイヤで、チューブレスタイヤは除外している。公開されている様々な実験データからそれぞれを比較しどちらが優れているのかを検証した。
実験機関によって異なる転がり性能
「性能が高い」と一言で言っても、”何の”性能が高いのかがはっきりしていない。たとえば、長距離を走るひとであれば5000km以上走れる「耐久性」の性能を指すだろうし、悪路を走る人であれば「パンク耐性」の性能を指すかもしれない。
はたまた、マージナルゲインを追求する人たちは「パンクしてもいいから転がり抵抗が小さいタイヤ」という先程とは相反する性能を言っている場合だってある。
このように、ひとことで「性能が高い」といっても何の観点で話をしているのかはサイクリストそれぞれ異なっており千差万別だと言っていい。今回の記事内では「転がり抵抗」に絞って話を進めていく。
まず、Continental GP5000とMICHELIN POWER CUPの転がり抵抗を検証している機関や雑誌はいくつかある。
- Wheel Energy社(フィンランド)
- ROADBIKE誌(ドイツ)
- Bicycle Rolling Resistance
- aero-coach(UK)
企業の大小はあるものの、どれもよく見聞きする「第三者機関」であり、雑誌媒体もバックに研究機関が着いている。そして、”独自”のテストプロトコルを用いてタイヤの検証を行っている。
第三者機関というと、なんとも信用できそうな雰囲気なのだが、GP5000とPOWER CUPの実験結果の優劣は各機関それぞれまったく違う傾向をみせている。ようするに、これら2つのタイヤを相対的に比較するとGP5000のほうが性能が高い場合もあれば、低い場合もあるのだ。
理由はテストプロトコルの違いや測定機器との相性もある。様々な要因が考えられるがまずは数値データー上のそれぞれの違いを見ていく。
Wheel Energy社の結果
ミシュランがPOWER CUPの開発の最終段階で検証を依頼したのがWheel Energy社だ。POWER CUPのローンチ資料にも同社の実験結果が掲載されている。この事実を告げると、「メーカーとズブズブ」と考えがちだがWheel Energy社は完全なフィンランドの独立研究機関であるためその可能性は皆無だ。
さっそく、転がり抵抗のテスト結果を見ていく。
- MICHELIN POWER CUP 25C CL : 12.75 W
- Continental GP5000 25C CL : 12.85 W
- SCHWALBE PRO ONE : 16.825 W
- Vittoria CORSA G2.0 : 18.05 W
テストは4回測定の平均値だ。Wheel Energy社が行った転がり抵抗の結果をみると、POWER CUPはGP5000よりも0.1W転がり抵抗が小さい。もはや誤差の範囲ではあるがPOWER CUPのほうが転がり抵抗が小さい結果となった。
ROADBIKE誌の結果
ドイツで販売されているROADBIKE誌の2022年7月号には、Michelin Power Cupクリンチャー28cとGP5000 28cの転がり抵抗の試験結果が掲載されている。結果は、POWER CUPがGP5000を退けている。
以下転がり抵抗データ。
- POWER CUP CL 28c:13.5 W
- GP5000 CL 28c:14.6W
以下実測重量データ。
- POWER CUP CL 28c:228g
- GP5000 CL 28c:249g
以下パンク耐性データ(値が大きいほどよい)。
- POWER CUP CL 28c:345 Newton
- GP5000 CL 28c:389 Newton
以下実測幅データ。
- POWER CUP CL 28c:29.6mm
- GP5000 CL 28c:28.4mm
以上の通り、転がり抵抗はPOWER CUPが1.1W優れている結果だ。重量はPOWER CUPのほうが21g軽い。ホイールの外周重量が21g軽いということは前後で42g軽くなる。バイクの総重量が42g軽くなるということを考えると非常に大きな差だ。
パンク耐性はGP5000のほうが44Newton高い。21gは単純に使用する素材の重量差であるため、POWER CUPはサイドウォールやトレッドなどが薄い可能性がある。それでもパンク耐性は並み居るライバルたちと同等以上であるため、通常の使用には全く問題はないだろう。
Bicycle Rolling Resistanceの結果
Bicycle Rolling Resistance(BRR)の結果はGP5000優勢だ。
- GP5000 25C:10.0 Watts CRR: 0.00300 (120 psi / 8.3 bar)
- POER CUP 25C:10.6 Watts CRR: 0.00318 (120 psi / 8.3 bar)
8.3barという今ではだれも入れないであろう超高圧の場合はGP5000が0.6 W上まわった。続いて、もう少し空気圧を下げた場合のデータも確認してみよう。
- GP5000 25C:10.7 Watts CRR: 0.00321 (100 psi / 6.9 bar)
- POER CUP 25C:11.4 Watts CRR: 0.00342 (100 psi / 6.9 bar)
GP5000は6.9barの空気圧においても0.7 W上まわった。それでも、両者の間には1 W程度のわずかな差しか生じないという結果になっている。
AERO COACHの結果
- GP5000 25C:27.2 Watts CRR: 0.002612
- POWER CUP 25C:26.1 Watts CRR: 0.002509
AEROCOACHの結果はPOWER CUPが1.1 W優れている結果になっている。
結果に差が生じる理由
ここまでの結果をまとめると、POWER CUPが3勝、GP5000が1勝だ。しかし、なぜこのような差が生じてしまうのか。理由はいくつかある。
- ホイール設計
- 気温
- 路面
- 速度域
- チューブ
タイヤの転がり抵抗は取り付けるリム設計によっても大きく異なってくる。特にリム内幅が変わるとタイヤ幅やタイヤ内部の空気体積が変わってしまう。したがって、タイヤによってリムの相性があり、タイヤの変形傾向も変わってくるため使用するリムによって性能がばらついてしまう場合がある。
次に気温だ。気温はゴムの柔軟性と関係性がある。気温が低くなるとタイヤは硬くなり、逆に気温が高いとタイヤは柔らかくなる。F1ではタイヤにウォーマーをはかせて転がり抵抗を下げている。
タイヤの温度変化はレースの勝敗やレギュレーションに影響をおよぼすほどで、F1は2024年のタイヤウォーマー禁止を目指し、ウォーマーの温度を段階的に引き下げている。 2021年まではフロントタイヤは100℃、リヤ80℃まで温めることができた。しかし、2022年は前後とも最高温度が70℃までとなっている。
テストに使用する路面素材も転がり抵抗に影響する。タイヤには得意とする路面タイプがある。実験室でしようされるツルツルの素材が得意なタイヤもあれば、逆にアスファルトのようなザラザラした素材を得意とするタイヤもある。
測定するさいの路面素材は統一されておらず、タイヤとの相性で結果が分かれる可能性がある。
最後は速度域だ。実験の速度域の違いでも転がり抵抗に差が生じる。どんな条件であれ、タイヤが変形した際にどれだけのエネルギーが失われるかが問題だ。速度域が上がればあがるほど、タイヤが潰れて元に戻る動きが早くなる。この特性が速度域によって得意不得意があり転がり抵抗に影響する場合がある。
最後に非常に大きな影響を及ぼすチューブだ。ブチル、ラテックス、TPUで抵抗が異なる。そして、銘柄でも転がり抵抗が異なるため、検証機関が使うチューブ1つで他社との結果に違いが出てもなんらおかしなことではない。
タンウォールは抵抗と重量が増加
最近ではトラディショナルなスタイルの「タンウォールカラー(あめ色)」が流行っている。しかし、このタンウォールカラーは見た目は良いが、重量増と転がり抵抗増が生じることがわかっている。
MICHELIN POWER CUPはタンウォールのほうが実測重量が10g重い。また、Grand Prix 5000 STRはタンウォールのほうが1.2 W転がり抵抗が大きい。
- GP5000 STR 25: 8.4 Watts CRR: 0.00252 (120 psi / 8.3 bar)
- GP5000 STR 25(tanwall): 9.6 Watts CRR: 0.00288 (120 psi / 8.3 bar)
したがって、見た目を優先しない限りはタンウォールを使用することはやめておいたほうがいい。どうしても、ルックスを気にしない人向けだ。1%でも早く走りたいライダーはタンウォールを使うのは競技をやめてからにしたほうがいい。
まとめ:転がり抵抗はPOWER CUP優勢だが・・・
わたしが今使用しているメインタイヤはMICHELIN POWER CUP 25Cだ。転がり抵抗が小さいことと、実測重量でもGP5000 25Cが221g、POWER CUPが218gと平均して3g軽い。また、パンク耐性もPOWER CUPのほうが優れている。
転がり抵抗以外に双方には以下の性能差がある。
直進時のウェットグリップ性能(値が大きいほど良い)
- GP5000: 28.2kg
- POWER CUP: 27.5kg
20°傾けたときのサイドウェットグリップ(値が大きいほど良い)
- GP5000: 9.7kg
- POWER CUP: 11.2kg
トレッドパンク耐性(値が大きいほど良い)
- GP5000: 75.0kg
- POWER CUP: 76.3kg
サイドウォールパンク耐性(値が大きいほど良い)
- GP5000: 11.8kg
- POWER CUP: 14.5kg
以上から、重量はPOWER CUPが3g軽く、ウェットグリップは直進時はGP5000、コーナーリングはPOWER CUPが優れている。パンク性能はPOWER CUPが優れている。
これらの結果を見ると、POWER CUP優勢だ。しかし、実際に乗ってみると双方のタイヤは全く異なる乗り心地であることがよくわかる。GP5000は硬質な「GPっぽい乗り味」であるのに対し、POWER CUPはモチモチ系の「MICHELINっぽい乗り味」だ。
人によっては、モチモチ系が合わない人もいるし、硬質な感じが合わない人もいる。好みの問題になるが、性能面で比較するとPOWER CUPが優勢のようだ。現状、パンク性能や転がり抵抗の小ささを考えると、クリンチャーの場合はGP5000かPOWER CUPが2大巨頭といえる。
まるでマチューとワウトの関係のようだが、条件、天候、環境で性能は大きく左右される。
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