サイクリストの足元に潜む科学、その数ミリがパフォーマンスを左右する。
ペダリング中に、右足だけクランクに摺ってしまう症状に悩まされていた。原因は足首と膝が内側に入り込むクセで、足がクランクと接触していたからだ。長らく、ソールスターを使っていたがこの症状だけはずっと改善されず放置していた。
様々なインソールを調べ、足のアーチを持ち上げるBG SLフットベッドのGreen+++を使用したところ、その症状があっさりと解消してしまった。というのが今回の話だ。
このBG SLフットベッドはAres 2と合わせて使用すると、最大7ワットもの出力が向上することで話題になったインソールだ。そんな上手い話は無いとわかっていても、一度使ってみたいと思っていた。

実際に使っても残念ながらパワーは向上しなかったが、悩んでいた足の症状が改善されるという副次的な効果が得られた。パワーの向上よりも、痛みやスレなど小さな悩みのタネが無くなり快適に走れるほうが、わたしは嬉しい。
さらに嬉しいのは、価格と重量だ。重量はわずか68gでSolestarの117gよりも48g軽量化、左右で96gも軽量化した。さらにインソールとしては破格に安い5,000円で販売されている。そして僅かな投資で、悩みとペダリングを改善してくれた優れたインソールを紹介しよう。
Body Geometry:人間工学設計
Body Geometryとは何か。
スペシャライズドのBG製品開発における核心は、「問題を特定し、人間工学に基づいたデザインで解決し、そして科学的に証明する」という三位一体のアプローチに基づいている。
この哲学は1997年に発表された最初のBGサドルから始まり、その後シューズやフットベッドへと展開され、ライダーのパフォーマンス向上と快適性追求の歴史を刻んできた。
このアプローチは、単に感覚的な快適さを追求するのではなく、パワー伝達効率の改善、持久力の向上、そして何よりもサイクリングに伴う傷害リスクの軽減といった、具体的かつ測定可能なライダーベネフィットの提供を至上命題としている。
この開発プロセスは、製品が市場に投入される前に、その効果と安全性が厳密に評価されることを意味している。
例えば、サドル開発においては血流測定や圧力マッピングが用いられ、シューズやフットベッドにおいては足部のアライメントや圧力分散、ペダリング効率への影響が分析されている。
BGという名称は、単なるブランド名を超え、スペシャライズドが実践する問題解決型設計開発の枠組みそのものを指し示している。この体系的なアプローチこそが、BG製品群が長年にわたり多くのプロフェッショナルライダーや熱心なサイクリストから信頼を得ている根源といえる。
開発におけるRetulとDr. Andy Pruittの役割
BGシューズ及びフットベッドの開発史において、コロラド大学ボルダー校スポーツ医学センターの創設者であり、3Dバイクフィット技術のパイオニアとしても名高いDr. Andy Pruittの貢献は極めて大きい。
彼はBGシューズとサドルの基本設計に関する複数の特許を保有しており、その専門知識は製品の人間工学的な妥当性と効果の基盤となっている。長年にわたるトップアスリートから一般サイクリストまでの臨床経験と研究実績が、BGテクノロジーの科学的根拠を支えているのだ。
さらに、2012年にスペシャライズドが傘下に収めたRetulテクノロジーは、BG製品のパーソナライゼーションと科学的検証を新たな次元へと押し上げた。Retulは、3Dモーションキャプチャ技術を用いた高精度なバイクフィッティングシステムであり、収集された膨大なライダーデータは製品開発にフィードバックされている。
特に、10万件を超えるRetulフットスキャンデータは、サイクリングシューズのラスト(靴型)設計や、本レポートの主題であるSLフットベッドを含むインソールの形状開発、最適なサポートレベルの決定に不可欠な役割を果たした。
Retulのフィッティングツールの一つであるDigital Footbed Device (DFD) は、販売店においてライダーのアーチの高さを客観的に測定し、3種類(Red+, Blue++, Green+++)あるSLフットベッドの中から最適なものを選択する手助けをする。
このように、BGフットベッドは、Dr. Pruittのような専門家の深い洞察と、Retulシステムによる大規模な生体データ解析という、二つの強力な柱によって支えられ開発されている。
このデータ駆動型アプローチは、製品がより広範なサイクリストの足の形状と生体力学的ニーズに適合しうることを可能にし、サイクリング用品業界における製品開発の新たな標準を提示していると言えよう。
テクノロジー:三位一体のサポート構造
スペシャライズドのBGシューズとフットベッドの性能を支える核心技術は、縦足弓サポート、中足骨ボタン、そしてシューズのアウトソールに組み込まれるバラスウェッジという、三つの要素が協調して機能するシステムだ。
これら三位一体のサポート構造は、足部のアライメントを最適化し、パワー伝達効率を高め、快適性を向上させると同時に、サイクリング特有のストレスによる傷害リスクを低減することを目的として設計されている。
縦足弓アーチサポート
人間の足のアーチ構造(土踏まず)は、歩行や走行時の衝撃を吸収し分散させるための、いわば自然の板バネのような役割を果たしている。
しかし、サイクリングにおいては、ペダル上で足が比較的固定された状態で繰り返し力を加えるため、足のアーチが崩れて足裏が平らになる状態「アーチコラプス」が生じやすくなる。私自身が長年陥っていた症状もこれだ。
アーチコラプスは、パワー伝達のロスを引き起こすだけでなく、足首、膝、さらには股関節のアライメント不良(膝が内側に入る等)を誘発し、パフォーマンス低下や傷害の原因となってしまう。
BGフットベッドに搭載された縦足弓サポートは、このアーチの過度な潰れを防ぎ、足部を内側から支えることで安定させる効果がある。これにより、足はより剛性の高い構造体として機能し、ペダルへのパワー伝達効率が向上するとされている。
さらに、アーチを適切にサポートすることは、足底にかかる圧力を均等に分散させ、足、膝、股関節のアライメントを適正化する効果も期待できるという。
結果として、ペダリング時の膝の左右へのブレ(特に内側への倒れ込み)を抑制し、膝関節などへのストレスを軽減することで、オーバーユースによる傷害のリスクを低減する。
SLフットベッドでは、この縦足弓サポートのレベルを3段階(Red+:低めのアーチ用、Blue++:中程度の高さのアーチ用、Green+++:高めのアーチ用)で提供しており、個々のライダーの足のアーチタイプ(扁平足、標準的なアーチ、ハイアーチ)に合わせた選択を可能にしている。
このアーチサポートの根本的な目的は、歩行時の衝撃吸収に適した足の柔軟な構造を、サイクリング時の効率的なパワー伝達に適した、より安定した剛構造へと転換させることにあるといえる。
中足骨ボタン
中足骨ボタンは、前足部、特に足指の付け根部分(中足骨頭)のやや手前に配置された小さな隆起だ。このボタンの主な機能は、中足骨を持ち上げてわずかに広げることにより、足指の付け根部分を通る神経や血管への圧迫を軽減することにある。
ソールスターでも同様の考え方をしており、中足骨ボタンが配置されている。
サイクリングシューズは一般的にタイトなフィット感が求められるため、特に長時間のライディングでは、この部分に圧力が集中しやすく、「ホットスポット」と呼ばれる足裏の灼熱感や、足指のしびれといった不快な症状を引き起こすことがある。
中足骨ボタンは、これらの症状の予防および軽減を目指して設計されている。中足骨間、特に第2、第3、第4中足骨頭間のスペースをわずかに広げることで、底側指神経や底側中足骨動脈といった組織への直接的な圧迫を回避する狙いがある。
これにより、血行が維持され、神経機能が正常に保たれることで、長時間のライドでも前足部の快適性を維持しやすくなる。
この機能は、シューズ内の微小なスペースを解剖学的に最適化することで、生理学的側面から快適性とパフォーマンス維持に貢献するものであり、つま先のしびれを生じにくくせさる狙いがある。
バラスウェッジ
多くのサイクリストの足には、前足部がわずかに内反(バラス)しているという解剖学的な特徴が見られる。このため、スペシャライズドのBody Geometryシューズの多くは、アウトソールの母指球側に1.5mm程度の厚みを持たせたバラスウェッジを標準で内蔵している。
このウェッジは、前足部をわずかに外反(回外)させることで、ペダリング時の足の自然な傾きを補正し、足首、膝、股関節のアライメントを一直線に近づけることを目的としている。
このアライメントの最適化は、ペダリング効率の向上、特に膝関節への内外反ストレスの軽減、そしてそれによる傷害リスクの低減に寄与すると考えられている。
スペシャライズドは、このバラスウェッジによって「最大努力時における疲労困憊に至るまでの時間を平均10秒間延長する」という具体的なパフォーマンス向上効果を主張している。
SLフットベッド自体にはこのバラスウェッジは含まれていないが、シューズ側に内蔵されたウェッジと協調して機能するように設計されている。つまり、バラスウェッジは主にシューズ側の機能であり、SLフットベッドはその効果を補完し、足全体のサポートを最適化する役割を担っている。
必要に応じて、追加のウェッジ(シム)をシューズとインソールの間、またはクリートとシューズの間に挿入することで、さらに精密なアライメント調整を行うことも可能だ。
足部のアライメント補正は、単に足だけでなく、膝や股関節といった下肢全体の運動連鎖に影響を及ぼすため、パフォーマンス向上と傷害予防の両面で極めて重要な要素となっている。
足部が運動連鎖の基盤であるという生体力学的原則に基づけば、足部のアライメントが崩れると、その影響は上位の関節に波及し、非効率な動きや過度なストレスを生む可能性がある。
素材と構造:独自軽量フォームの特性と設計
Body Geometry SLフットベッド Gen 2の性能と快適性を支える基盤となるのが、その素材と構造だ。特に、スペシャライズドが「独自軽量フォーム」と呼ぶ素材の特性は、長時間の使用におけるサポート維持能力と軽量性の両立に大きく寄与している。
また、個々の足のアーチタイプに対応するための構造設計も、このフットベッドの重要な特徴の一つである。
独自軽量フォーム
Body Geometry SLフットベッド Gen 2は、「独自の軽量フォーム」から成形されている。このフォームの最大の特徴として、「パフォーマンスが長時間持続する」こと、そして「圧縮成形されにくく、長期間にわたって初期の性能を維持する」効果がある。
具体的な素材組成、例えばEVAの種類、密度、発泡剤や架橋剤などの添加物に関する詳細な技術情報は公開されていない。
しかし、その特性(軽量性、衝撃吸収性、耐久性、耐水性、成形性)から、一般的な高性能サイクリングインソールにも広く採用されている高品質なEVAフォームの一種、あるいはそれをベースに独自の改良を加えたものである可能性が高い。
独自軽量フォームは、サイクリング用途で重要となる軽量性、適度な反発弾性、優れた耐久性、そして何よりも圧縮永久歪み(長期間の圧力下での変形からの回復しにくさ)が小さい。
これにより、アーチサポートや中足骨ボタンといった形状が、繰り返されるペダリング負荷の下でもその機能を長期間維持することが期待できる。圧縮成形されにくいものの、使用頻度や体重により1シーズンで交換が必要になる場合もあり、実際の耐久性には使用状況が影響する点も考慮すべきである。
アーチタイプ別構造設計
前述の通り、Body Geometry SLフットベッド Gen 2は、Red+(低めのアーチ用)、Blue++(中程度の高さのアーチ用)、Green+++(高めのアーチ用)という3つの異なるアーチサポートレベルで提供されている。
これらは単に色分けされているだけでなく、それぞれのアーチタイプに合わせて、縦足弓サポート部分の高さ、カーブの形状、そして中足骨ボタンの隆起の度合いが異なって設計されている。
この構造的な違いにより、扁平足に近い足からハイアーチの足まで、より広範なライダーの足の解剖学的特徴に対応し、パーソナルなサポートを提供することを目指している。
この3つのアーチタイプ設定は、完全なカスタムオーダーメイドと、画一的な既製品との中間に位置づけられており、標準化されたカスタマイズアプローチと言える。
全ての個人の足の形状に完璧に合致させることは既製品の限界ではあるものの、アーチの高さを主要な指標として3段階に分類することで、多くのライダーが自身の足の特性に近いサポートレベルを選択し、Body Geometryテクノロジーの恩恵を受けられるように工夫されている。
これにより、適切なサポートが得られなかったり、逆に過度なサポートによる不快感が生じたりするリスクを低減している。
スペックとデータ
Body Geometry SLフットベッド Gen 2に関して、重量、価格といった基本的な情報に加え、パワー伝達や剛性について確認していく。
実測重量 32g
Body Geometry SLフットベッド Gen 2の重量はサイズ40-41で実測重量が32gであった。これはサイクリング用インソールとしては極めて軽量な部類に入り、特に重量を重視するエリートレベルのサイクリストや、ヒルクライムを得意とするライダーにとっては魅力的な数値と言える。
比較対象として、ソールスターインソールは、同じサイズ40で56gだ。SLフットベッドは24gも軽い。両側合わせると49gもの軽量化だ。回転部分で49g軽量化は無視できない量である。それゆえ、SLフットベッドはその軽量性が際立つ。
サイクリングにおいて、特にシューズやペダルのような回転部分や、足元に近い部分の軽量化は、慣性モーメントの低減や疲労軽減に繋がると一般的に考えられている。
片足24gの重量差は絶対値としては微量かもしれないが、ハイパフォーマンスを追求する製品においては、こうした細部にわたる軽量化へのこだわりが、ライダーの心理的なアドバンテージにも繋がる。
日本での販売価格
日本国内におけるBody Geometry SLフットベッド Gen 2の希望小売価格は、5,500円(税込)だ。これは、アフターマーケットで販売されているサイクリング専用の高機能インソールとしては、比較的手に取りやすい中価格帯に位置づけられる。
例えば、同社のRetulカスタムフットベッドが約19,800円(税込、作製費込)であることを考慮すると、SLフットベッドはその約4分の1程度の価格設定となっている。
この価格設定は、Body Geometryテクノロジーの恩恵をより多くのシリアスサイクリストに体験してもらいたいというメーカーの意図を反映していると考えられる。
完全なカスタムオーダーメイド品ほどの投資は難しいが、標準的なシューズ付属のインソールからのアップグレードを検討しているユーザーにとっては、魅力的な選択肢となるだろう。
高機能性を謳いつつも、専門的なフィッティングプロセスを簡略化することでコストを抑え、幅広い層への普及を目指している戦略がうかがえる。
剛性
Body Geometry SLフットベッド Gen 2の剛性に関して、曲げ弾性率のような具体的な物理的数値データは、メーカーからは公表されていない。実際に使用してみると、一定レベルの剛性を持たせることでアーチサポート機能を発揮するよう設計されていることがわかる。
足からの圧力に対して比較的安定性のある素材や、しっかりとしたサポート感が得られるのは、インソールがペダリング時の足圧によって容易に変形したり潰れたりすることなく、足の構造を適切に支えることを示している。
前方部分は手で曲げることができ、土踏まず部分は硬いものの、全体的に頑丈な作りでアーチ部分がしっかりしていて圧力がかかっても潰れない。SLフットベッドが単に柔らかいクッション材ではなく、構造的なサポート性能を備えていることを裏付けている。
SLフットベッドの剛性は、アーチを効果的に支えるための十分な硬さと、長時間の使用でも快適性を損なわないための適度なしなやかさとのバランスを考慮して設計されていると推測される。
過度な剛性は足の自然な動きを阻害し不快感を生む可能性があるため、サポート性と快適性の最適な妥協点を見出すことが設計上の重要なポイントだ。
Body Geometry SL Footbeds Gen 2 スペック概要
製品の主要な情報を一覧化した。
項目 | 仕様 | 出典 |
---|---|---|
アーチタイプ | 低め (+ Red), 中程度 (++ Blue), 高め (+++ Green) | |
主要機能 | 縦足弓サポート, 中足骨ボタン | |
素材 | 独自軽量フォーム(プロプライエタリーライトウェイトフォーム) | |
公称重量 | メーカー公表なし | – |
実測重量例 | 32g | |
日本販売価格 | 5,500 (税込) | |
互換性 | 全てのBody Geometryシューズ |
パフォーマンス向上効果
スペシャライズドは、Body Geometry SLフットベッドを含むBGシューズシステムの使用により、具体的なパフォーマンス向上効果が得られると主張している。
これには、「7ワットの出力向上」や「最大努力時の疲労困憊までの時間延長」といった定量的な数値が含まれる。これらの科学的主張の根拠と、その解釈について実際に使用した結果をみていく。
7ワットの出力向上
スペシャライズドは、Body Geometryシューズと適切なBGフットベッドを組み合わせて使用することで、「乳酸閾値での出力が7ワット向上する」という主張を展開している。
この「7ワット」という数値は、サイクリストにとって無視できないパフォーマンス向上であり、製品のマーケティングにおいて強力な訴求ポイントとなっている。
この効果は、フットベッド単独ではなく、Ares 2シューズのアウトソールに内蔵されたバラスウェッジ、縦足弓サポート、そしてフットベッド自体が提供する中足骨ボタンやアーチサポートといった、Body Geometryシステムの構成要素全体の相乗効果として解釈する必要がある。

別の記事でレビューしたS-Works Ares 2シューズに関して、この7ワットの向上はBGインソールの使用を前提としていると述べられており、インソールがシステム全体の効果発現に重要な役割を果たすことが示唆されている。
この7ワット向上の主張の背景には、足、膝、股関節のアライメント最適化によるペダリング効率の改善があると考えられる。適切なアライメントは、膝の軌道を安定させ、不要な筋活動やエネルギーロスを低減する。
結果として、同一の生理学的負荷(この場合は乳酸閾値レベル)において、より高いパワーアウトプットが可能になるというメカニズムが想定される。脚の動きの制御と安定化による効率化がワット数向上に繋がっている可能性もある。
しかしながら、この「7ワット向上」という具体的な数値の根拠となる、詳細なテストプロトコル、被験者の特性(トレーニングレベル、経験年数など)、測定機器、統計的有意性に関する論文や独立した第三者機関による検証データは見当たらなかった。
本インソールに関しては、プロモーション目的だけでなく、このような主張の科学的根拠の透明性をより高めることが、製品の信頼性向上に繋がるだろう。
疲労困憊の時間を平均10秒延長
もう一つの具体的なパフォーマンス向上に関する主張は、「最大努力時における疲労困憊に至るまでの時間を平均10秒間延長する」というものだ。
この効果は、主にBody Geometryシューズのアウトソールに内蔵された1.5mmのバラスウェッジに起因するとされている。バラスウェッジは前足部の安定性を高め、足、膝、股関節のアライメントを改善することで、最大パワー発揮時の持続力向上に寄与すると考えられている。
SLフットベッドは、このシューズ側のウェッジ機能を補完する形で、足全体のサポートを最適化し、システム全体としての効果を高める役割を担う。
この主張に関しても、フットベッド単独の効果ではなく、シューズとの統合システムによって評価されるものだ。
アライメントの改善が運動効率を高め、結果として最大努力の持続時間延長に繋がるという論理は生体力学的に妥当性があるように見えるが、この「10秒延長」という数値についても、その検証プロセスや対象者、条件に関する詳細な科学的エビデンスの開示が望まれるところだ。
パフォーマンス向上に関する主張は、その再現性と普遍性が重要となるため、より詳細な情報が必要になる。
アライメント最適化と傷害リスク低減
Body Geometry設計思想の根幹には、股関節、膝、足のアライメントを運動学的に最適な状態に近づけることで、パフォーマンスを向上させるだけでなく、オーバーユースによる傷害のリスクを低減するという目的がある。
スペシャライズドは、Retulシステムを通じて収集された膨大なフットスキャンデータや、圧力マッピング技術を用いた足圧分布データなどを、これらの設計の科学的根拠として挙げることが多い。
これらのデータは、平均的なサイクリストの足の形状や、ペダリング中の足圧動態を理解し、それに基づいて製品設計を最適化するために活用される。
私自身の実体験として、BG SLフットベッドの使用により右膝痛が軽減された。そして、ペダリング中の膝のブレが少なくなった。これはソールスターを使っていた際にずっと気になっていた膝のブレで、BG SLフットベッドを使うきっかけにもなった症状だ。
しかし、これらは私自身の実体験の範疇でしかない。傷害予防効果を定量的に、かつ大規模な対照研究などで示した学術的エビデンスではないこと、SLフットベッド Gen 2の特定の傷害予防効果を直接的に検証したものではない。
したがって、アライメント最適化による傷害予防効果は、BG製品群の最も強力な訴求ポイントの一つであり、その可能性が示唆されているものの、スペシャライズドからより厳密な科学的検証データの公開が、理解を深める上で有益であろう。
後編はインプレッション
Body Geometry SLフットベッド Gen 2の真価を評価するためには、ここまでの技術的特性の分析に加え、実際の使用体験から詳細に検討することが不可欠になってくる。
後編では、フィッティングプロセスから始まり、長距離ライドにおける快適性、サポート性、パフォーマンスへの影響、そして耐久性や他社製品との比較に至るまで、得られた多様な情報を整理し、その実用性を明らかにしていく。
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