- 足を合わせるのではなく、シューズを合わせる。
- シバリ方は8種類。
- 「足型に合うかな?」はもはや不要。
人間の悩みの8割は人間関係だと言われているが、私はシューズ選びも同じくらい悩んでいた。理由はいたって簡単だ。足幅がとても広く、ビジネスシューズで言うところの4E相当なのである。現在使用しているシューズは、スペシャライズドのS-WORKSシューズだ。このシューズは特に細く、ボルダリングシューズのようにタイトな作りがウリだ。そのため、エンドのベルクロが全く締まらない・・・。
いつも決まって、「ITさんシューズのベルクロ外れていますよ!」と親切な人が教えてくれる(本当に申し訳ない)。初対面の方にもご指摘いただいたから、話の掴みのネタに良いかもしれない(←そこじゃない)が、ベルクロが締まらないのは個人的にいつも気になっていた。
実は、もう何年もシューズ選びに悩まされている。というのも、私は周りが思うよりも保守的で、一度気に入ったものを使い続ける傾向にある(少し使っては元の機材に戻る)。現在では、様々なシューズが世の中にあふれかえっているが、シューズが特にそうでスペシャライズドが好きでずっと使い続けてきた。ただ、最近のスペシャライズドのシューズは幅が狭く設計されており非常に辛い思いをしていた(私が購入したころはWIDEのラインナップが存在していなかった)。
いつものようにWEBを徘徊していると、とあるプロダクトのキャッチコピーに目がとまった。そこにはこう書かれていた。
「今までサイクリスト達が持っていたすべての悩みを、これ1足で解決できる画期的なシューズ。」
と。さらに続けて、こうも書かれていた。「シューズに自分を合わせるのではなく、自分にシューズを合わせるのです。」と。
一瞬なぞなぞを出されているかと思い、文章読解に時間を要したが・・・、いや、このプロモーションは本当なのだろうか(サイクリストたちは、いつもメーカーにうまくしてやられる。)本当に、本当に、このシューズで体験できる事実として書かれている内容なのだろうか。私は半信半疑ながらも、実際にリンタマンを手に取った。そして「これ1足で解決できる画期的なシューズ」なのか事実を確認することにした。
今回は、リンタマンを使って自分自身の足を徹底的にシバリ上げてみた。そして本当に、自分の足にシューズが合わせる事が可能なのだろうか。その一部始終を記していく。
「8種の縛り方」
どの世界でも、手数が多ければ多いほど良い、というわけではない。重要なのは「満足できるか」だ。ロードバイクのシューズに限らず、ビジネスシューズ、マラソンシューズと、どれもこれも「足をシューズの中に固定する」という基本的な構造自体は変わらない。「どのように固定するのか」の方法が、シューズの用途で異なってくる。例えば、スキーのブーツのようにバックルを締め上げるタイプや、スノーボードのように編み上げるタイプ、もしくはBOAのワイヤーで締め上げるタイプと様々だ。
はたまた、ランニングシューズのように伝統的なヒモの締め上げタイプなど、もはや説明が不要なタイプもある。これらは「足を両脇から包み込むように締め付ける」という基本的な構造に変わりはない。構造の特徴を踏まえたうえで、今回の記事の主役リンタマン(ヒーローみたいだ!)を確認していきたい。
リンタマンシューズは、「横方向だけでなく縦方向も自在に調節できる」という点がウリだ。縦方向にも調整できることは、ほかのシューズと大きく異なっている。そして「しばり方」のパターンを複数カスタマイズできる。通常のシューズといえば、ワイヤーをひっかける場所が決まっていて、単純にBOAダイアルを締めるタイプがほとんどだった。
リンタマンのシューズは、ケブラーワイヤーの縛り方が何通りも変えられる。横と縦問わず、ナナメ方向からも調整できる。プロダクトとして出来上がって、売られていれば「当たり前の機能」かもしれない。しかし、今の今までどのシューズにも備わっていなかった機能だから画期的といえよう。縛り方のパターンを変更することで、以下の様々な足型に対応する。
「幅広」、「幅狭」、「甲高」、「甲低」、「夏用ソックス」、「冬用ソックス」、「左右の足の形状差」、「左右のサイズ違い」と、まさに足型、身に着ける衣類厚みの変化なと、シューズが対応する幅が広い。まさに「シューズに自分を合わせるのではなく、自分にシューズを合わせるのです。」というプロモーションの通りである。
リンタマンが得意とする「縛り方パターン」は、上記とおり様々な足タイプ(ソックスによる厚みも含め)にジャストフィットする。冬の時期は厚手の冬用ソックスを使用するから、厚みが増した足に何度苦労させられたことか・・・。誰しもが思っていたシューズの悩みがありながら、このような幅広く対応するシューズは今まで存在していなかったのが不思議なくらいだ。
しかし、なぜだろう。そこで、このような変態(自転車界では最高の褒め言葉)シューズが生まれた経緯を少し追ってみることにした。それは、開発者のクリス・リンタマン自身の苦悩から始まった。
クリス・リンタマン(以下リンタマン)はプロのロードレース選手だった。当時、スポンサーから供給されるシューズが自身の足に合わずに苦労していた。プロ選手といえば、スポンサーの利益になるように走ることが仕事だ。もちろん、支給された機材を必ず使用しなくてはならない。だから、自分に合わないシューズを使うことは本当に辛かったと思う。
リンタマンは、足に合わないシューズを何百キロも何千キロも使い続けた影響で、今でも足の一部に感覚が無いという。現役時代、シューズが合わない影響は膝の怪我も誘発した。そして、プロコンチネンタルまで登りつめたリンタマンの競技人生を、終わらせるまでに至ってしまった。足に合わないシューズたった1足が、彼の競技人生を終わらせてしまったのである。
そのようなシューズの悩みを抱えていたリンタマンは、自らシューズを作ることを決意した。それが、すべての人の足型に合う事を理念に開発された、リンタマンシューズである。自分と同じような悩みを持ったサイクリストたちを苦しみから解放するために、すべてのサイクリスト達が、なんの我慢もせずにシューズを使えることただ一つを目指したのだ。
オーダーシューズやBONTのような熱成形でない限り、「メーカーのシューズに合わせる」という事が必然である。リンタマンのシューズの理念はそれらの概念を覆し、「シューズに自分を合わせるのではなく、自分にシューズを合わせる。」という逆の発想から生まれた。言われれば至極当然の考え方である。しかし実際に、シューズを足に合わられる人などどれほどいるのだろうか。私自身、長年シューズに合わせて我慢してきたというのに。
さて、リンタマンの楽しみ方は、もちろん「しばり方」にある。なんと、7種類もの縛り方でサイクリストを楽しませてくれるのだ。さて、しばり方すべてを試した後は実際に「自分が最も気持ち良いと思うしばり方」を追及していくことにした。
インプレッション
はじめにサイズだが、今お使いのサイズが適正なら同じものを選んで構わない。ただ、スペシャのシューズよりもハーフほど大きい感じがしたので、実際に店頭で履いてみてほしい。
私がリンタマンシューズを初めて知ったのは、Jプロツアーを走るVC FUKUOKAの佐藤選手がレースで使用しているのを見た時からだ。現在では、最強サラリーマンの一人でもあるマツケン氏もVC FUKUOKAの一員として走っている。海外選手が使用する機材よりも、身近な強豪選手たちが使用する機材のほうが身近で、魅力的である。
ただ、一人ひとり「しばり方」が違うとは夢にも思わなかった。佐藤選手や桐野選手はどんなしばり方を好んでいたのだろう・・・。想像するだけでおなか一杯になりそうだが、私がもっとも良いと思ったしばり方は下段、右から二番目だ。
ここまで読んだ方はもうお分かりかと思うが、しばり方の最適解はシューズの中にある。リンタマンが秀逸なのは「足型を選ばない」事であって、リンタマンが変形してくれることが最も重要なポイントだ。私は長年「甲高」「幅広」悩まされていたから、もちろん足幅をゆったり取れるようなしばり方を試した。
下部に設置されたBOAダイアルは、足幅をメインに調整するようにセッティングした。この際、小さなフックにもワイヤーをひっかけてあげることが重要だ。リンタマンの特徴としては、「横方向」も「縦方向」も調整できるから、「横だけ調整」していると隙間が空いてしまう場合がある。
しばり方の調整方法のコツとしては、いままでのシューズのしばり方である「横方向のみ」の概念をまず捨てることから始まる。そのうえで360°全方向に足を包み込まれるイメージを持って、シューズ調整を考えるのだ。リンタマンは縦方向、横方向と、すべての方向からあなたの足型に対応する。
自分の足をしめ上げて、思うことがある。「横幅のラグジュアリー感」に感動した。まるで長年はきつぶしたクセのある革靴のように、私の足を包み込んでいるのだ。今まで何年も足幅が広いことに悩まされていたというのに。いや、革靴は長年はき潰すからこそ、革が伸びて、足にフィットするのだ。しかし、リンタマンは初めから根本的に違う。時間をかけた経年変化を必要とせず、「リンタマン自身の機能」を持って、サイクリストの足型にフィットするのだ。
当初、リンタマンに抱いていた「異形のシューズ」の印象には意味があった。変化に対応するためには、自分が変化するしかないのだ。確かに、シューズは最も激しく動く部分だから見た目も重要だ。派手なグラフィカルや、目を引くネオンカラー、○○シグネチャーなんてプロモーションがあったら、触手が動いてしまう。
しかし、一度立ち止まってみて「シューズ本来の意味」を考えてみるとどうだろう。快適で、自分の足型にピッタリと合い、ストレスフリーでどこまでも自転車を走らせられる。そんな、基本的なことこそ、本来シューズに求められる役割ではないだろうか。それをド返ししてまで、自分に合わないシューズで走ってしまうことなど、自分自身の体を痛めつけていることと何ら変わりはない。
そして、ひざの故障をしてしまいクリス・リンタマンのように、競技人生を終わらせてしまっては本末転倒である。彼は自分と同じような不幸な思いをしてほしくないがために、「リンタマン」を生み出したのだ。たしかに見た目は賛否両論があるにせよ、リンタマンのシューズ理念こそが「本来あるべき姿」なのである。
私がここまでで体験したことは、実際に「自分自身をしばりあげる」事でしかわからないことだった。そういう意味では、ありがちな「このブランドのシューズは自分に合うのかな?」という心配そもそもが不要になるという事である(よく考えたらとんでもなくすごいことだと思う)。
今までのシューズがかかえていた「履かないと自分の足型に合うか合わないかわからない問題」は、リンタマンシューズとは無縁なのである。なかなか気づかない本質的な部分は、私の中でとても大きな衝撃だった。
なお、クリートはSPDやSPD-SL、別モデルでスピードプレイにも対応している。
まとめ:あなたのガラスの靴リンタマン
私の小指にも合わないシューズをはき続けた痛々しい傷がある。内出血し血が外まで出てきている。少々グロイ文章だがご容赦いただきたい。私の左足の小指は内出血をしている。そう、合わないシューズを使用していたからだ。
ひとつ面白いのは、右足にはこの症状が出ていない。ちなみにどのシューズをはいても、左足の小指にこの症状が出てしまう。「人間は左右対称にできていない」という事を考えてみても、至極当然のことである。
とするとだ、そもそも「左右対称のシューズ」を「左右非対称の人間」に合わせること自体、無理があるのではないか。それらは、問題とわかっていながら、「問題を解決する方法」自体がいままで存在していなかったのだ。スキーのブーツであればシェル出しだったり、陸上のシューズであれば、左右のサイズを別々に購入できるオプションも確かに存在している。
サイクリストが使用するシューズの中で、これほどまでに自由度の高い製品は存在していない。一見不恰好で、不思議な形をしているのだが、一度はいてみれば長年の悩みから解放されるのだ。リンタマンを購入する際には「自分の足に合うのかな」という心配など、もはや不要なのである。
冒頭に記したこの一文を改めて思い返してみる。「シューズに自分を合わせるのではなく、自分にシューズを合わせるのです。」と。その言葉には、確かに嘘や偽りはなかった。
長らく続いてきた「自分に合うシューズ探し」というサイクリストたちの旅は、いよいよ終わりを迎えるのかもしれない。そしてこれからは、リンタマンが「あなたのためだけに」自在に変化してくれる。リンタマンの登場は、ガラスの靴を探すシンデレラの物語を終わらせてくれるのだ。