- OGK頭ならピッタリ。
- フィット感マジで最高。
- カヴのMANTAより空力が良いとか何。
私にとってMETというブランドは「マークカヴェンディッシュが使用するブランド」というイメージしか持っていなかった。日本人が愛用するヘルメットといえばもちろんOGK(大阪グリップ加工)だし、日本人の頭の形をよく研究している。海外製のヘルメットといえば、細長い楕円のような形で、なかなか頭に合うヘルメットに巡り会えなかった。後頭部の出っ張りが合わなくて、特に頭のデカイ私(Lサイズ)はいつも窮屈な思いをしていた。
念のため言っておくが、OGKから供給は受けていないにしても、私にはOGKしか合わなかったのだ。
ましてや今回紹介する「イタリア製」のMETなんて私の頭には合うはずがないと思っていた。しかし、今回紹介するMETのMANTAをかぶった瞬間、「何や、このフィット感!・・・」となってしまった。イタリア製なのに、日本人の典型的な「OGK頭」にぴったりだったのである。これには衝撃を受けた。そして、今手元にはMETのヘルメットがある。
今回は、UAEや世界最速のスプリンターのマークカヴェンディッシュ(現在はOAKLEYを使用)が愛用していたヘルメットブランドのMET TRENTAをご紹介する。昨年のツールド・ド・フランスで初めて発表され、MET創立30周年記念の威信をかけた新しいヘルメットTRENTAとは。
ヘルメットに仕込まれた数々の技術
エアロダイナミクスの技術革新はめざましい。昨年まで同社の最速ヘルメットでもあったMANTA(カヴが使用していたアレ)よりも、45km/h走行時に4%もの空力を向上させた。エアフロー用のベンチレーションは合計19ホールを備えているが、それでもエアロダイナミクスを向上させてきたのだ。創業30周年の記念すべきヘルメットとしての本気度が伺える。
エアロダイナミクスに優れたエアロヘルメットの宿命といえば、重量がかさんでしまうことと、エアフローが悪化してしまうことだった。GIROのアタックしかり、イヴェードしかり、ボントレガーのバリスタしかり、どれもこれも重い。夏でも使えるエアロヘルメットはそうない。昨今のヘルメットメーカーの開発でホットなのは、「セミエアロヘルメット」だ。どのブランドも積極的にリリースしている。OGKで昨年からヒットしているAR-1がその最たる例だ。
MET TRENTAも、カテゴリ的にはセミエアロヘルメットに属している。エイリアンやセガサターンのサターン星人(もはや年齢がばれてしまうが)のような奇異な見た目とは一線を画しており、一見すると普通のヘルメットとは何ら変わりない。ところが、細部に目を凝らしていくと、エアロダイナミクスに寄与する様々な技術が盛り込まれていた。
まずは読者が最も気になるであろう、エアロダイナミクスから見ていく。
MET TRENTAがMANTA(エアホールがほとんどナシ)よりもエアロダイナミクスに優れているのには理由がある。MET TRENTAは、イタリアミラノのNEWTON研究所(Newton lab)のWind Tunnelで生み出された。NEWTON研究所において、数々のテストを繰り返し試した結果、MANTAよりもさらにエアロダイナミクスに優れたヘルメットを生み出すことに成功したのだ。
MET TRENTAには、ヘルメットの後頭部付近に整流効果をもたらす長い爪のような構造が備わっている。後頭部に行くに従って、ジェットエンジンの開口部のような構造を備えている。イヴェードやバリスタのように、ヘルメットの後部は低くすぼむように設計されている。
エアロダイナミクスを追及することは、「前方投影面積が小さくする」ことと「空気の乱れをなくす」という点が大きな要素になってくる。しかし、流線型の形状を安易に採用することは現実的ではない。ヘルメットは頭にかぶって使用するため、重量面も考慮しなくてはならない。重いヘルメットは肩がこってしまう。昨今の市場に出回るエアロヘルメットといえば、どれもこれも重量がかさんで重い。
気になるMET TRENTAの重量はというと、Mサイズでおよそ215g(!)という重量を達成している。エアロヘルメットながらも、通常のヘルメットとなんら遜色がない重量だ。むしろ軽量ヘルメットの部類である。しかし、ヘルメットの重量を軽くしてしまうことは安全面とトレードオフの関係になる。
エアロダイナミクスを優先すれば、重量とのトレードオフになり、重量を優先(軽く)すれば、本来の安全性とトレードオフになるのだ。なんとも悩ましい機材である。
事実、MET TRENTAは軽量化のために素材の大部分をしめるEPS発泡体の密度を20%減らしている。一見「安全性と重量のトレードオフ」とも捉えられなくはないが、頭を守るヘルメットとしての性能が落ちてしまっては、本末転倒ではないのか。
しかし安心してほしい(なんといってもヘルメットメーカーとして30周年の意欲作だ)。METもやみくもに発泡体を減らしたわけではない。20%分の担保を発泡体以外の素材で吸収した。研究開発の結果、「20%分」は新たに採用したカーボンで補っている。20%分減らしたことによる強度面のエネルギーは、これらのカーボンが吸収する。
その結果MET TRENTAは、エアロヘルメットの宿命でもある「重量面」と「エアロダイナミクス」の相反する要素を、うまく融合させることに成功したのだ。これら重量面、エアロダイナミクス面の要素をふまえたうえで、実際のところをインプレッションしてみたい。
インプレッション
MET TRENTAのライバルは間違いなくOGKのAR-1だ。どちらのヘルメットも「軽さ」と「エアロダイナミクス」という相反する性能をうまく盛り込んでいる(企業努力に敬礼だ)。セミエアロヘルメットのハシリは、ジロのアタックだったと記憶しているが、どうみてもボンバーマンでルックス的にはあまりよろしくない。そして実際の風洞実験の結果もあまりよくないデーターが散見される。また、エアフローに改善の余地があり、夏本番の環境では使うに堪えなかった。
「ヘルメット」という機材に求めることはエアロダイナミクスであったり、重量だったりするが、もっとも重要な要素は「自分の頭に合うこと」であると私は定義している。頭の一部が当たったりしては集中力がそがれるし、ずっとかぶっておくだなんて私には無理だ。そこでインプレッションに移る前に、私が現代のヘルメットに求めている重要事項をまず先に整理しておこう。
- キノコに見えないこと。
- 深くかぶれること。
- フィット感がよいこと。
- 軽いこと。
- エアロダイナミクスに優れていること。
上記の5つだ。最後の2つはセミエアロヘルメットであれば、どのメーカーも最近では達成してきている。問題は一番初めの「キノコ頭」だ。エアロヘルメットのもう一つ忘れてはいけない宿命とは、「キノコ頭」である。通称「キノコ頭」とはエアロヘルメットが「エアロ」を追い求めた結果、顕在化した問題の一つだ。ヘルメットが大きく、顔が小さいとまるでスーパーマリオの「キノピオ」のような状態になり「キノコ頭」と揶揄される。
私の場合、顔が大きい(とされている)から余計にキノコ問題が顕在化するのだ。よってヘルメットに求めている「キノコ頭」にならないこと、そして「深くかぶれる」事はエアロダイナミクス云々の話とはまた別の死活問題なのである。これらの問題は、OGKのAR-1でしか達成されないと思っていた。ところが、イタリアのMET社が、キノコ化もせず、フィット感も満足のいくヘルメットを開発したことを素直に評価したい。
ヘルメット選びで最も気になるであろうヘルメットの内部形状は「OGK頭」そのままだ。私はOGKのLサイズを使用しているが、そのまま同じサイズを使用しても大丈夫だ。参考までにOGK AR-1やS-WORKS EVADEといったサイズのLと同様であった。サイズ感とフィット感という最も気になる部分の話の次は、軽さと、エアロダイナミクスについてだ。
私はレースの際、なるべく頭を下げて空気抵抗を減らすようにしている。そして安全面にも考慮して、上目使いで前方を確認しながら走る。この際にヘルメットの後頭部が出っ張りすぎていると、空気抵抗を逆に増やしてしまう。MET TRENTAのエアロダイナミクスの設計が優れているのは、通常乗車時も、頭を下げた状態でも、有効なエアロダイナミクスを備えていることだ。
頭を下げたとしても、後頭部がツノのように反り立ったりはしない。
MET TRENTAが体感できるほどエアロダイナミクスに優れているかどうかは、正直なところわからない。OGKのAR-1とかぶり比べても、どちらが優れているかは定かではない。数ワットの違いなんて正直、体感はできるわけがない。走る条件、その日の風向きによっても変わってしまうし、頭の角度を変えてしまえばヘルメットの特性なんて変わってしまうのだから。
しかし、体感できたこともある。エアフローの良さだった。MET TRENTAは19個ものエアホールが備わっている。この穴の配置と、大きさは「ベンチュリー効果」を得られるように設計されている。「ベンチュリー効果」というと難しく聞こえるかもしれない。しかし、子供の頃に誰しもが1度は経験している効果の1つだ。
夏の暑い時期、ホースで水を撒く際に「ホースの先っちょ」をつまんで、勢いよく水を出して遊んだことはないだろうか。流体(水や空気)の流れの断面積を狭め(ホースの先を狭め)、流速を増加させると、圧力が低い部分が作り出される。この効果は霧吹きなどにも応用されている。ちなみに「ベンチュリ効果」の由来はイタリアの物理学者ベンチュリ氏から取られている。やはりイタリアブランドのMETとなじみ深い(かは偶然だろう!)。
ところで、理系の諸君らには釈迦に説法かもしれないが、ガソリンスタンドの給油ポンプが自動で止まるのもベンチュリ効果だ。レバーを離すと「ガシャン」という独特の衝撃が伝わってくるアレだ。ガソリンの排出を止めているのはベンチュリ効果が大きな役割を担っている。ヘルメットの話からやや脱線してしまったが、MET TRENTAはベンチュリ効果を用いて、ヘルメット内の空気をうまく排出するように設計している。
エアロヘルメットの宿命でもある、エアフローが悪化する問題はMET TRENTAにおいては当てはまらないのだ。実際にスースーするほど空気が流れてくれるから、暑い季節でも問題なく使用する事ができる。MET TRENTAはエアロダイナミクス、重量面はさることながら、「かぶり心地と安全性」というヘルメット本来の機能も兼ね備えた、
”イタリアンブランドらしからぬ”ヘルメットと言える。
まとめ:セミエアロの最適解
今まで海外製のヘルメットは本当に頭に合わなかった。どれもこれも卵型の頭形状で、後頭部の出っ張りが当たってしまうことが多かった。それでいて、かぶりが浅いヘルメットばかりだった。ところがMET TRENTAは海外製にかかわらず、私が一番気にしていたかぶり心地やエアフロー面のネガティブをうまく解消していた。
もしかしたら、METもアジア版はアジアフィット(スペシャライズドはアジア専用品で設計を変えている)を採用しているかもしれない。私のような典型的なOGK頭なら間違いなくMET TRENTAはフィットするだろう。それでいてイタリアのしゃれたデザインとエアロダイナミクスを兼ね備えてるのだから、文句はない。
マークカヴェンディッシュが使用している事(現在はOAKLEYのヘルメットを使用中)で注目度も高かったのだが、海外の辛口レビューサイトBikeradarの評価が☆4.5という点も十分納得ができる。MET社の記念すべき30周年を飾るにふさわしいヘルメットといえる。
今までのエアロヘルメットには、エアロダイナミクスと、かぶり心地のトレードオフが確かに存在していた。しかしMET TRENTAは、それらネガティブな面に我慢してきたライダーたちを、安心と快適性で包み込んでくれるだろう。