RP9は世間の評価が高いわりには、それほど良いとは思えないバイクだった。
当時、率直な意見を包み隠さず公開したところ、様々な方面からお叱りのお言葉を頂戴した。そんなRP9とまったく同じ金型を使い、カーボンだけ廉価版のT800を使って文字通り「焼きまわしのRP8」はどんな仕上がりなのか。
単純に材料を変え、あえてメーカー側が「剛性を10%落とした」というバイクがどんな仕上がりになっているのか、純粋に興味があった。バイクへの興味というよりも、カーボンの素材や積層を変更することによって、どんな変化が起きるのか確かめてみたかった。
RP8は実験結果を確認できる数少ないバイクだった。
今回はRP9を引き合いに出しながら、RP8を相対比較しつつインプレッションしていく。RP9の基本的な評価については様々なことを言われたが、いまでも一切変わっていない。
先程も触れたとおり、基本的な性能はRP9と同一なのでフレームの詳細はRP9の記事を参照していただきたい。
RP9とRP8は何が違う
RP9からRP8が踏襲したのは以下だ。それ以上でも、それ以下でもない。違うのはカーボンの素材や積層、パターンだ。
- 空力性能
- フレーム金型
- ジオメトリ
- ヘッドカバー
- ヘッドベアリング
- シートポスト
RP8は、いうなれば同社のフラッグシップモデルRP9と同一の金型を使用し、カーボン素材のグレードを落としたモデルだ。剛性はRP9比で10%減、剛性のバランスはRP9同等に設計されている。
身も蓋もない事を書くと、カーボン素材以外に大きな差がない。乗り味にどのような影響を及ぼしているかなどは、後半のインプレッションで触れる。
- RP9:T1100
- RP8:T800 + T700
RP8のように、フレームの金型が同一で使用するカーボンだけを変更する手法は珍しいものではない。CANYON AEROAD、Cannondale Super Six Evo、SPECIALIZEDのTarmacなど、金型の効率的な償却、廉価版モデルとして販売できるという「メーカー側にとっては」一石二鳥の効果がある。このやり口は昔から定番なのだ。
ということをふまえつつ、カーボンの違いを見てみよう。RP8はT800とT700というカーボンを使用している。上位モデルのRP9に使用しているT1100との違いは以下の通りだ。
T1100 | T800 | T700 | |
---|---|---|---|
引張強度(MPa) | 7000 | 5880 | 4900 |
引張弾性率(GPa) | 324 | 294 | 230 |
引張強度は、一定の方向に引っ張った際にどれだけ伸びたか、もしくはどの程度の力で破壊されたかを数値化したものだ。弾性率とは、物質変形のしにくさを表した数値だ。
T1100とT800を用いて同一の金型、同一の剛性目標を達成しようとしたとき、T1100は使用するカーボンの材料が少なくて済むが、T800は材料が多くなってしまう。その差は重量差となって現れる。RP8の主要な部位の剛性はRP9比で10%減だ。
にも関わらず、フレーム重量はRP9が1,360g、RP8が1450gで90gの重量差が生じる。
RP8のお求めやすい価格はRP9比での「剛性低下」と「重量増」のトレードオフと理解すれば良いだろう。問題は「剛性10%減」と「重量90g増」が実際に走らせた時にどの程度影響するかだ。
詳細は後半のインプレッションでお伝えする。
空力性能は高い?
RP8はRP9と同じ金型を使用しているため空力性能は一緒だ。
というのは半分正しく、半分間違えている。
非現実的な話になるが「フレームだけ」で風洞にかけたら同一の空力性能だ。しかし、メーカーの完成車状態でRP9とRP8を比較するとRP9のほうが空力性能が優れている。
ホイールやハンドルなど走れる状態の「バイクシステム」として考えると、RP9はエアロハンドルや世界最速クラスのDTSWISS ARC 50を搭載していることを考慮する必要がある。
また、RP9のインプレッションでも触れたとおり、BRIDGESTONEが公開している「Yaw Angleが0度」だけを提示した風洞実験結果は非常にお粗末だ。
単一方向のデータだけでは意味が無いに等しい。
風洞実験の結果を算出するときに定石になっている加重平均計算を行った結果ではなく、正面のYaw Angle0度”だけ”のデーターを提示しているという、世界的に見ても奇妙なバイクの風洞実験結果だ。
何もわからない人を丸め込むには都合がいいかもしれないが、今でもこのデータの表現の仕方には疑問がのこる。
RP9の風洞実験結果に対する詳細は別記事内でまとめている。RP9の空力性能で何を伝えたかったのか、メーカ側の意図がいまでも読み取れず理解できない、ということを以下の記事で書いている。
優れたジオメトリ
ジオメトリに関してはBRIDGESTONE製なのでどのサイズを選んでも納得の行く設計に仕上がっている。サイズ展開は4種類と比較的少ない。しかし、国内での販売が主であるため小柄な女性から、(日本人としては)やや身長が高い人までカバーできるサイズ展開になっている。
海外のロードバイクフレームにありがちな、おかしなトレイル量の心配もない。海外フレームの場合、小さいサイズにはトレイル量の人権が無いが、RP9にはサイズ別に正しいトレイル量が確保されている。
ジオメトリからロードバイクとしての機敏性やステアリングの良さが、はっきりと読み取ることができる。サイズ別の適正身長と股下サイズ(カッコ内)は以下の通り。
- 440:155~168cm(69.8~75.7cm)
- 490:165~175cm(74.4~78.9cm)
- 510:170~185cm(76.7~83.5cm)
- 530:178~188cm(80.3~84.9cm)
リーチは以下の通り。
- 440:376cm
- 490:384cm
- 510:390cm
- 530:394cm
基本的にはメーカーが推奨する身長と照らし合わせて、フレームサイズを選べば問題ない。170cm前後の方は、フレームサイズを440か490で悩むと思うが490がいいだろう。
筆者の身長は169.5cmであるためサイズは440と490で悩んだ。どちらでもポジションが出せる。ただし、ステム長は変更する必要が出てくる。440の場合はステム100mmになるし、490mmの場合は90mmのステムを使用することになる。
SPECIALIZEDやTREKのサイズでいえば、440が49サイズ、490が52サイズ相当だ。それぞれのサイズを乗ってきたが、どちらかといえば小さいサイズの方を選択するほうがしっくりときたものの、いまRP8に乗るとしたら490がいいと思う。
インプレッション
インプレッションではRP9とRP8を乗り比べた結果、そしてRP8を走らせたときに感じた率直な印象をまとめた。
まず、RP8のテスト前に付属しているホイールやタイヤ、クランクなどをメインバイクで使用しているものと交換した。ハンドル幅が違えばバイクの振りも大幅に変わるし、クランク長が異なれば踏み込んだ時のかかり方も違う。なんならギアの構成やギア比もバイクの走りの感覚を変えてしまう。
特にタイヤと空気圧は重要だ。硬いフレームであったとしても、空気圧ひとつで柔らかく感じてしまう。通常使用しているタイヤと空気圧はフロント4.4bar、リア4.6barのラテックスチューブを入れたクリンチャータイヤでテストした。
カーボンの違いは剛性の差?
真っ先に確認したかったのは、廉価版カーボンT800とT700の混在がT1100とどのように異なっているかだ。冒頭でも述べた通り、過去にも同じようにAEROAD CFRとCF SLXで東レM40XとT800の比較をしたことがある。
違いなどわかるのか?と思われるかもしれないが、コンポーネントを統一し、一方を乗ったあとにすぐ乗り換えると相対的な違いが顕著にわかる。カーボンが違うと、乗車した際の感覚は結構違うとAEROADの比較の際に気づいた。
話をわかりやすくするために「カーボンが違うと」と書いたが、厳密にはカーボンの特性の違いというよりも、目標とする剛性を目指すために積層やパターンを、使用するカーボン(T1100やT800)によって変更した影響のほうがが大きいと思う。しかしながら、どちらが影響しているかまではわからない。
人間は測定器ではないので曖昧なままだ。とはいえ、M40Xは比較的しなやかである(M40Xの特性なのか、材料が少ない結果なのかは不明)一方で、T800は踏み込んだ後の反発が強く「かかりがいい」と感じる傾向にあった。
AEROADのCFRはこのような傾向があったが、RP8に使われているT800はどうだろうか。
まず先にRP9を振り返ってみる。T1100を使っているRP9はとても硬い印象だった。はっきり言うと、わたしには合わなかった。RP9はトラックバイクのような味付けで、大きいパワーをかけられる人は反応が良いと感じるバイクという印象だった。
一方でRP8は、これまた面白い感覚だった。RP8は乗りやすい。言い方は悪いが、コンフォートバイクのような乗りやすさがある(ホイールは同じだ)。「T800を使ったバイクは硬くて反応がいい」というのは、AEROADの時に植え付けられた誤った考え方だと認識した。
カーボン繊維の差は確かに数値として存在するが、カーボン繊維をどの部分にどれだけ使用するのかは千差万別だ。積層もそうだし、貼り付ける角度でも変わってくる。T800を使っているからといって、必ずしも硬くて反応の良いバイクになるというわけではなさそうだ。
RP8は確かに「RP9と比べると剛性が10%劣る」のだが、わたしはRP9の剛性よりもRP8の走りや剛性感のほうが好みだ。初めて走らせるとしなやかに感じるが、踏み込めば十分にパワーを抑え込む特徴は、長い距離を走っても後半に足を削られない感じがいい。
RP9はBRIDGESTONEがプロが出すパワーの要求に耐えるバイクに仕上げているように思えてならない。多くの一般的なホビーライダーであれば、適しているのはRP8のような若干のしなやかさを持つバイクなのだろう。
加速感とかかりの良さ
かけたときの走り方は、RP9とRP8は全く別の方向性になっている。
RP9はパワーを継ぎ目なく繋いでいくような、いわゆる「リニア」なかかり方をする。スプリンター系はRP9が気に入るのだろう。RP9が同社が得意とするトラックバイクのDNAを受け継いでいる、というのはあながち嘘ではないようだ。
RP8はかかりで言うならRP9よりもワンテンポ遅れるような感じをうけた。剛性が足りないわけではないのだが、踏み込んだ時に加速感がもう一歩「びょん」と伸びないなぁ、と感じてしまった。つなぎ方が下手くそだと、RP8はよけいに走りがもたつくような印象を受けてしまった。
で、ここからが肝心なのだがゴールスプリントで、RP9とRP8で差が生じるかというと差は生じないだろう。どちらも十分な剛性であり、RP8の10%分の剛性が仮に変形することで熱エネルギーに変換されたとしても、それぞれの間に大きな損失差は生じないだろう。
それよりも、ライダーのパワーやシフトチェンジ、つなぎ方などバイクを扱えていないほうが大きな差になる。RP8の剛性が不足してゴールスプリントが勝てなかったという考えに至るのなら、根本的な物事の考え方に問題があると疑ったほうがいい。
確かに、踏み込んだ時にライダーがバイクから返ってくる「反応」や「軽快さ」や「加速感」はRP9の方が一枚上手だ。ここはBRIDGESTONEの味付けが巧みだと感じた部分だ。走らせると、そう感じさせてくれるチューニングはRP8とRP9を差別化するのに十分な理由になる。
しかし、問題はゴールスプリントで差がないばかりか、一度加速してしまった後の巡航維持は「RP8のほうがやりやすい」という不都合な真実がある。ただし、私のようなホビーライダーに限っての話しなのだが。
登り方の向き不向き
淡々と一定ペースで登るならRP8がいい。完全な好みの問題になってしまうが、ライダーと強調しながら、淡々と同じことを繰り返すような作業に対しては、RP8のほうが優しく付き合ってくれる。ただし、広島の三段坂のラストで「ガッ」と、かかるような時にはRP8をあまり使いたくない。
そういうときは嘘でもいいからRP9のような「かかると思えるバイク」に乗っておきたい。あえてRP9かRP8どちらかを選ぶとしたらの話だから、最終的には他のブランドのバイクを選ぶと思う。
つまるところ、RP8の走り方は単調なパワーのかけ方のほうがうまく反応してくれる印象がある。登りでは特に顕著で、淡々と20分以上一定パワーを出し続けるのならRP8がいい。それはあえて剛性を落としたことによる副産物かもしれないし、わたしの走らせ方にたまたま合っていたのかもしれない。
RP8のターゲットは
RP8を峠やワインディングロードを走らせて考えていたのは「RP8のターゲットはだれか?」ということだ。上位のRP9のDNAがそのまま受け継がれ、金型は一緒、剛性は10%減と言いながらも個人的にはRP9よりもRP8の走りのほうが好みだ。
ざっくり言うなら、国内のJプロならRP9がいいと思う。JBCFのE1程度ならRP8でも十分、いや十分すぎると思う。むしろコレくらいが本来、ホビーレーサーに適切なのではないか。正直なところ、RP9とRP8を峠で走らせても何十秒もタイムは変わるわけでもなく。実際、出したパワー通りのタイムしか出なかった。
それでも1秒、1グラムを削りたいヒルクライマーやロードレーサーならRP9がいいと思う。もし、「良いカーボンを使っている」や「ハイエンドバイクだ」という見栄的な部分を満たしたいならRP9でもいい。あなたが何をバイクに求めているかで違う。
しかし、価格、性能、わたしの様に頑張ってもFTPが5.3倍程度のホビーライダーならば、走りの合う合わないを考えてもRP8を選ぶのが合理的な判断だ。
RP8 105 Di2 スペック
- RP8 フレームセット価格:¥330,000
- RP8 105 機械式完成車:¥451,000
- RP8 105 電動完成車:¥572,000
モデル | RP8 105 Di2 MODEL |
---|---|
フレームサイズ | 440-490-510-530mm |
フレーム | PROFORMAT, TORAY T800/T700, 142x12mm, PressfitBB |
フロントフォーク | PROFORMAT, フルカーボン, フラットマウントディスクブレーキ, 100x12mm, テーパーコラム 1-1/8 to 1-1/2 |
ヘッド小物 | TANGE 1-1/2 ベアリング + ケーブル内蔵用専用カバー |
シートピン | インテグラル |
ハンドルバー | ALUMINIUM DROP BAR φ31.8 440mm:380W / 490-510mm:400W / 530mm:420W ※芯幅 |
ハンドルステム | ANCHOR AERO STEM φ31.8 440mm:90L / 490mm:100L / 510mm:110L / 530mm:120L |
サドル | SELLE ITALIA X1 BLACK |
シートポスト | ANCHOR AERO SEATPOST, フルカーボン, オフセット+14mm(実効値) |
タイヤ | BRIDGESTONE EXTENZA R1X 700×28C(CL) |
ホイール | MAVIC AKSIUM DISC |
フロントディレーラー | SHIMANO 105 FD-R7150 Di2 |
リアディレーラー | SHIMANO 105 RD-R7150 Di2 |
スプロケット | SHIMANO 105 CS-R7101 12S 11-34T |
ギアクランク | SHIMANO 105 FC-R7100 50-34T 440mm:165L / 490-510mm:170L / 530mm:172.5L |
ボトムブラケット | SHIMANO SM-BB72-41B |
チェーン | SHIMANO 105 CN-M7100-12 |
ペダル | なし |
ブレーキキャリパー | SHIMANO 105 BR-R7170 + F:SM-RT64 160mm / R:SM-RT64 140mm |
ブレーキレバー | SHIMANO 105 ST-R7170 Di2 |
付属品 | LEDランプ(フロント/リア), ベル, リフレクター, マニュアルバッグ, DT SWISS スルーアクスル用レバーx1 |
フレーム重量 | フレームセット1,450g (490mm) シートポスト170g |
完成車重量 | 8.5kg (490mm) ペダルなし |
まとめ:高性能かつ手頃な”ハイエンド”バイク
AEROADはCF SLXよりもCFRのほうが好みだった。しかし、RPはRP9よりもRP8のほうが好みだ。正直なところを書くと、RP9はTARMAC SL6時代のバイクのような設計がされた印象がある。RP8も設計などが最新とは言い難いが、決してミドルグレードとも言い切れないバイクなのだ。
使用されているカーボンは廉価版だし、価格は最近の機材高騰を考えると手頃な設定が行われている。一般的な見方をすると「ミドルグレード」なのだが、もしも「ハイエンドモデルなんです」と偽られても反論する材料が見当たらない。わたしは信用するだろう。
フレーム以外を良い機材に変えてしまうと、なんだか良いバイクに仕上がってしまうRP8のような存在がいると「ハイエンドモデル」の定義とは何なのか疑わしくなってくる。わたしはRP9が本当に合わなくて、RP9がそこまで絶賛されるバイクなのか当時も、今も理解できない。
正しくは、RP9は自分の能力にはオーバースペックで、理解の及ばぬ相性の悪いバイクだったのだと理解している。しかし、RP8は逆に好みの走りをしてくれた。「ハイエンド」とは何なのかという疑問は残ってしまったのだが。
それくらい、RP8はうまくまとまっている。
あとは、RP8に付属しているホイールやハンドルは好みのモデルに変更したほうがいい。価格なりのアッセンブルだ。105のDi2は上位モデルに劣らぬ性能を備えているため、そのまま使ったほうがいいだろう。
総じて、RP8はホビーレーサーや価格以上のパフォーマンスを期待するライダーに適したバイクだ。こんなことを書いてしまうと怒られるかもしれないが、RP8がまとまりすぎていて、何十万円も高いRP9を買う明確な理由が思いつかない。
それほどRP8はよくできている。
RP8は確実にRP9のDNAを受け継ぎつつも、ロードバイクを楽しんだり週末にはレースに出場したりするサイクリストに適した1台だ。価格以上の価値を十分に提供し、ライダーを楽しませてくれる数少ないバイクに仕上がっている。