TREK Emonda SLR DISCインプレッション 「矛盾」のセミエアロロード

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新型TREK EMONDA SLR セミエアロロード化した「トレック最速のヒルクライムバイク」
TREKがついに新型Emondaを発表した。前作からのアップデートは大幅に行われ全く新しいバイクに進化した。Emondaは「削ぎ落とす」という意味のとおり軽量性を売りにしていた。先代モデルの軽さを踏襲しながら、新型Emondaはエアロ性能を高めた。そして、「トレック最速のヒルクライムバイク」という称号を携えて私たちの目の前に登場した。 しかし、新型Emondaの設計思想を見ていくと「ただ軽くて速い...

「エアロロードバイク」と「軽量ロードバイク」の境界線があいまいになってきている。TREK Emondaの登場で真っ先に感じたことだ。

メーカーの方向性として、エアロダイナミクスに特化したバイクと、軽量性を売りにしたバイク。あえて、2つにカテゴライズする意味は本当にあるのか。軽量ロードバイクはエアロ化が進み、一方でエアロロードは軽量化へすすむ。次第に両者の関係性や特徴はあやふやになり違いはわずかになっていく。

それぞれの完成形はどこに向かっていくのか。

メーカーの様々な思惑があるにせよ、行く末はエアロと軽量化の両立だ。たとえばTREKには軽量化したMadone(もしくはエアロなEmonda)が1つ、SPECIALIZEDには軽量なVENGE(もしくはエアロなTARMAC)が1つ、Cannondaleにも軽量なシステムシックス(エアロなEVO)があればいい。

コンポーネントをREDやDura-Aceで組んで50mmのホイールを付けて6.8kg。そうすれば、サイクリストはとにかく軽くてエアロダイナミクスに優れたバイク1台で事足りる。向かう先の理想形は以前から見えていた。あとはどのメーカーが先手を打つのか、どのバイクが先に到達するのかを注目していた。

しかし、新型のEmondaでもまだその領域には達することはできていなかった。理想とするバイクにEmondaが近づいたかといえば、決してそうではない。

とはいえ、消費者側の勝手な素人目線であり開発の狙いは違ってくる。重量とエアロダイナミクスのバランスが整ったバイクを生み出すことは、わたしたちが考えている以上に難易度が高い(想像もつかない、やれと言われても不可能)。率直な感想を述べれば、Emonda SLRは、ものすごく軽いわけでもなく、ものすごくエアロに特化したバイクでもない。

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だからこそ、MadoneとEmondaというフレームがそれぞれ双璧をなして(現代のカーボンフレーム製造技術を持ってしても)存在しているという事実がもどかしく感じる。MadoneとEmondaを足して2で割って「Madonna(マドンナ)」なんて新型バイクが登場しても良かったのではないかと。

どのメーカーも、主力製品バイクの特徴が似始めている以上、今のディスクロードにはどのブランドであっても大きなテコ入れと変化が必要だと思う。

「ふーん、そのとおりだろうね」、としたり顔のレビューを私がしたところでまったく面白くはない。今回の新型Emondaもこの罠にハマった。エアロダイナミクスだとか軽量化だとか、目に見える数値に騙されないように意識して関わる必要がある。それでも可謬性はつきものだと斜に構え、意識し考え続けなくてはいけなかったのが新型Emondaだ。

Emondaにはクライミングエアロダイナミクス以外に、別の魅力がある。

今回の記事は、エアロダイナミクスだとか、軽さだとか、他のメディアが書きそうなことはそちらに任せておいて、Emondaというバイクに関わっていくうちに気づいた良い点、悪い点を細かく記した。そして、旧型Emondaとの比較やEmondaユーザーの評価を交えながらあたらしいEmondaについて探った。

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「トレック最速のヒルクライムバイク」という矛盾

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10年後、20年後いや、次の2024年のパリ・オリンピックの頃には「新型Emonda」も過去の機材になる日が来る。経済が成長していくように、自転車機材もアップデートされていく。どの時代の最先端バイクであっても「現時点で最速」であって、未来永劫最速ではない。そのうえで、「トレック最速のヒルクライムバイク」である新型Emondaは何が違うのか。

これまでのEmondaのイメージは、軽さに全振りしたバイクだった。エアロダイナミクスとは無関係で、どちらかというと軽さ以外の要素を犠牲にしていた。新型のEmondaは、旧型の尖った設計思想を払拭するかのように異なる開発手法を採用した。結果、まったく別のバイクに進化するに至った。

最近、どのメーカーであっても「エアロ」と「軽量化」に行き着く。どんなユーザーに対してもわかりやすい性能だからだ。しかし、サイクリストたちはそろそろ飽き始めているかもしれない。少々いじわるな書き方かもしれないが、「誰にでもわかりやすい進化」を遂げたのが新型Emondaだった。

おそらく、各メディアは「軽い」「速い」「コスパ」という3つのポイントで新型Emondaを迎え入れるだろう。しかし、新型Emondaというバイクをこの3つのくくりだけで捉えるには少々もったいな気がする。それは、乗る前、触れたとき、踏み出したとき、坂を駆け上がったとき、美しいPROJECT ONEの塗装を見ているとき。

すべてがエモーショナルだ。

Emondaの発表と同時にネットには「エモい」という言葉が散見された。「エモい」の意味は、英語の「emotional(エモーショナル)」を由来としている。「感情が動かされた状態」や「感情が高まって強く訴えかける心の動き」を意味する日本のスラング(俗語)であり、若者言葉である。

この表現は一見すると大喜利のようだが、それほど間違えていない。それどころか、Emondaに対する正しい評価だと感じる。Emondaは、本当にライダーの感情や感性に訴えかけてくるバイクだ。その話に入る前に、まずはカタログ上で誰でもわかりやすい(ユーザーが旧型から乗り換えてくれるような内容の)新型Emondaの特徴を以下にまとめた。

  • トレック最速のヒルクライムバイク
  • Emonda SLR フレーム重量698g (未塗装, ハンガー込み)
  • Emonda SLR フォーク重量365g (未塗装, 220mm steerer)
  • ディスクブレーキバイクのみ。
  • KVF形状をフレームのあらゆる部分に搭載。
  • 旧Emondaよりも、勾配0%の平坦で60分あたり60秒速い。
  • 旧Emondaよりも、8.1%の登りにおいて60分あたり60秒速い。
  • 現行TARMACよりも、8.1%の登りにおいて60分あたり13秒速い
  • あたらしいOCLV 800を採用した。
  • T47BB(スレッド式)採用した。

文字として表現すると、旧型Emondaのユーザーはすぐに飛びついてしまうかもしれない。

TREKからお叱りを受けてしまうかもしれないが、ユーザー観点で忖度のない表現をするならば、「SPECIALIZEDの発表を見ているかのような内容」である。しかし、もう少し別の見方をすると「数値で表す限界」も見え隠れしている。

過去にSPECIALIZEDやTREKといった大手ブランドが重量剛性比を競い合った。ことの発端はスーパーシックスエボの登場だった。今となっては誰得な性能向上である。しかし、当時は主流かつ有効なプロモーション方法だとメーカーが思っていた施策の1つだった。

エアロロードもいま、似たような道をたどりつつある。「旧型よりも40kmTTで60秒速い」だとか、ラルプ・デュエズを10秒速く登り切るだとか。そのようなプロモーションにシフトしてきた。それらは、ある対象と、ある対象(多くはライバルメーカー)を相対的に比較することで優位性を手軽に表現することができる。

一方でこれらのプロモーション手法は、どこまでも限りなく終わりがない競争だ。ライバルメーカーばかりではなく、自社のバイクでさえも蹴落とし、比較し、過去に追いやる必要がある(これは現在でも常套手段である)。しかし、「重量剛性比」の戦いは、フレームサイズごとに適正な剛性チューニングが広く認知され、良い方向へ衰退していった。

ところが、エアロダイナミクスの開発競争はF1マシンのように毎年アップデートが行なわれる。エアロダイナミクスで劣ることは、遅いバイクとして認知され、負けを意味する。どのメーカーも引き下がることができないドロ沼の状況におちいる。だから、一人の勝者だけが甘い汁を吸える”純粋な”エアロダイナミクスの競争からいったん降りて、別のメリットにユーザーの目をうまく向けたのが新型Emondaだと思う。

トレックは「ヒルクライムエアロダイナミクス」を提唱した。戦略的なバリュー(おねうち感)も打ち出した。市場は手放しで喜んだ。わたし自身もそうだった。しかし、実際にEmondaにまたがり、乗り出したところ、そんなことはどうでも良くなってしまった。

Emondaの表向きは「どんな山でも最速で駆け上がる」ことや、手頃な価格設定といったコスト面の強みを持って開発されたのかもしれない。

しかし、Emondaは生みの親の思惑に反してさまざまな魅力をライダーに伝えてくれる。Emondaの良さはエアロダイナミクスでも軽さでもお値打ち価格でもなかった。新型Emondaには3つの魅力が備わっている。それらは、エアロダイナミクスや軽量化以外で差別化するための重要な要素だ。

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1.曲線美

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新型Emondaは、市場に存在するディスクロードにおいて特に美しい曲線を描いていた。

新型Emondaに乗っていると、あるフレームを思い出した。TIME ZXRSだ。独特の魅力があり、バイクを所有する喜びを与えてくれた数少ないバイクだった。時代はディスクロード化が進みリムブレーキ式のTIMEはすべて手放してしまったが、日々の練習で愛用しているバイクは今でもTIME ZXRS PISTEである。

Emondaにも同じような美しさが備わっており、ZXRSの複雑な構造を現代版にリメイクしたかような曲線美が目を引く。新型Emondaの特徴の1つは、複雑な曲線が入り混じったフレーム構造だ。水槽に色とりどりのインクを垂らし、それらが広がっていく様子と似ている。まるで、流体が水中に描き出す色鮮やかなアート作品のような曲線がフレームを構成している。

トップチューブ後方の「つぶし」も特徴的だ。複雑なつぶしは新型と旧型双方に存在している。アルミやクロモリパイプで製作されたフレームでしばしばお目にかかる形状だ。目的としては、強度やバランスを高めるねらいがある。過去にはCOLNAGOのカーボンバイクのチェーンステイにも用いられており、材質の特性を変化させるために現在でも使用する有効な工法の1つだ。

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アルミやクロモリの場合は、パイプに力を加えることによって「つぶし」を作る。しかし、TREKの場合は金型にプリプレグを敷き詰めることであらかじめ特殊な形状を生み出す。結果的に見ると「つぶし」のように見えるが、実際はカーボンフレームであるため、つぶしているわけではない。TREK曰く、このつぶしの意味は、バイクの前後バランスを取るために必要な形状だという。

確かにEmondaの乗り味は癖がない。コントロール性能にも優れている。どちらかという柔らかいという印象を受けた。つぶしによってフレーム全体のバランスの良さを高めているという説明はあながち間違いではない。つぶしも含め、Emondaの曲線美は描こうとして生まれたものではなく、エアロダイナミクスと軽さを追求した結果だ。

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2.乗り心地

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新型Emondaは乗り心地がいい。

TREKにはTREKの乗り心地がある。わたしは6台のTREK BOONEを乗り継いできた。一度だけ別のバイクに浮気したが硬くてすぐに手放した。新型Emondaは硬くもなく、柔らかくもなく。やはりTREKらしい乗り味だ。長年TREK BOONEを愛用しているが、フレームの特性は如実に感じ取ることができる。

特にバイクを左右に振ったとき、ステアリングを切ったときの違いが大きい。

もともと、リムブレーキEmondaや旧型のEmonda DISCに乗っているライダーであればTARMACではなく新型Emondaへ素直に移行したほうが良いと断言できる。旧型Emondaとほとんど変わらないジオメトリなので移行もスムーズだ。感覚的な話だが、旧型よりも若干ソフトな印象を受けた。旧型よりも重量が増し、形状も大幅に変更されているため乗り心地には明確な違いが出ている。

ステアリングを切ったときの曲がり方は、SPECIALIZEDのTARMACがダウンチューブのヘッド寄りを中心として回旋するのに対して、新型Emonda(旧型も)はBB寄りで回旋する操作性の違いがあった。トレール量の違いで回旋する際の動きは大きく変わるが、たとえば、SPECIALIZED CRUXのノーマルフォーク、Enveフォーク、TREK BOONEのノーマルフォーク、Enveフォークどれを使っても明確に回旋する際の癖が違うから面白い。

メーカーの味付け部分の差がこのような違いを生み出しているのかは定かではないが、扱いやすさとしてはTREKのほうが好みだ。

また、ダンシングの際にバイクを横に振ることがあるが、VENGEは左右に振りにくい(どちらかというと鋭角だ)。一方でTARMACや新型Emondaは似たようなバイクを振ることのできるスペースが広く感じる。登りに特化する人や、ダンシングを多用する人は新型EmondaやTARMACのようなバイクのほうが扱いやすく、体に合うだろう。

操作性の面で考えても、新型Emondaはとても扱いやすい。新型Emondaで最も評価できるのはエアロダイナミクスでもなく軽さでもなく操作性だ。単にTREK BOONEの操作性がお気に入りだからという事実も否定できないが、それらを差し引いても最近のバイクにしては乗り心地がとても素直だ。

「体にしっくりくる」

新型Emondaは乗り心地も楽しめる。

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3.塗装

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自分が乗るバイクだからこそ見栄えにもこだわりたい。昨今のバイクは「エアロダイナミクス」だとか「軽さ」だとか(まさにEmondaなのだが)軽い、速い、安いとったファーストフード店のようなプロモーションが目につく。TREKが他のバイクブランドと大きく異なっているのはPROJECT ONEの存在がある。

一般的なバイクメーカーは、モデルイヤーでカラーを変更する傾向にある。カラーバリエーションを絞ることでコストを抑えられる。そして、同一のモデルであっても「モデルイヤーが変わった」という印象を残しやすくなる。TREKは吊るしのフレームセットも販売しているが、多くはPROJECT ONEの販売に注力している。

「どうせ買うならPROJECT ONE」というのがハイエンドトレックユーザーの傾向のようだ。その選択は間違えてない。

PROJECT ONEにはICONカラーという特別仕様がいくつか存在している。今回のEmondaのために4つのICONカラーが追加された。テストしたAmplified Alchemy(アンプリファイドアルケミー)カラーは歴代のICONテーマと比べても最も深みのあるカラーだと言われている。見る角度によってイエロー~パープル~ブルー~グリーンと変化する。

もはや、芸術作品である。

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塗装の仕上げはマスプロメーカーの中でも群を抜いて美しい。それもそのはず、1台1台ハンドメイドで職人が仕上げている。ネームが入るのもPROJECT ONEの特徴だ。ハンドルを切った際にヘッドパーツも一緒に動くのだが、その裏部分にも美しい塗装が施されている。神は細部に宿るというが、塗装がまさにそれでディテールにこだわってこそ、全体が引き締まっていく。

PROJECT ONEの塗装はハンドメイドバイクブランドの塗装のような美しさがある。メーカーが用意したカラーのフレームになれているサイクリストは多いと思うが、せっかくPROJECT ONEという素晴らしいシステムを使えるのだから、新型Emondaを購入する場合は好みのカラーリングに仕上げたほうがいい。

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シートマスト

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評価が分かれるのはシートマストだ。TREKはシートマストにKVF形状を採用しなかった。理由は、乗り心地に大きな影響を及ぼすためだという。エアロダイナミクスを優先するか、乗り心地を優先するかを天秤にかけたとき、後者を選択したことは英断だと思う。

KVF形状を採用したシートマストの製作も可能であったと思うが、解析ソフトウェアのヒーズで最適解を求めた結果、乗り心地が犠牲になるという結果が出たのかもしれない(実際にそのようである)。闇雲にトレンドのKVF形状を採用しなかったことは、逆によく考えた結果だ。

エアロダイナミクスを追求しすぎた結果、乗り心地が悪化してはなんの意味もない。過去に登場した無数の「なんちゃってエアロロード」のように、見た目だけ、形だけのエアロ化に突き進むことは乗り心地との共存が難しくなっていく。そのような悪しき風習には戻ってはならない。乗り心地は非常に重要で、乗っていて疲れるバイクはライドの楽しみも半減する。

TREKのシートマストは調整範囲が広く、使いやすいサドルクランプが備わっている。シートマストは何度か細かなアップデートが施されている。カーボン部分にはスリットのような切れ込みが入っておりクランプを締め付ける際に負荷が一極集中しないような工夫がされている。初期型はスリットが1つであったが、現行品はスリットが2つになった。

このシートマストを長らく使用しているが、初期型(スリットが1個所)は締め付けの力が分散されずにシートマストのクランプ部が割れてしまうことがあった。過酷なレースをこなしているうちに振動や腐食でカーボンにヒビが入っていくのだ。しかし、新型のシートマストは2つのスリットが入っており負荷を分散しながら締め込んでいくことが可能になっている。

このシートマストのバイクを長年乗り継いでいると、クランプがあまりイケていないことも指摘しておかねばならない。このクランプは長い間アップデートしていない。もう何年もだ。最新のEmondaで改良されていなかったことは残念だった。しかし、解決法がある。

非公式の組み合わせながらイタリアのMiche X CARBON Seat Clamp 34.9mmが流用できる。このクランプは実に作りがいい。

このシートクランプは実に秀逸で、カーボンシートポスト専用に設計されている。過去にはTIME VXRSのISP用にも使っていたほどだ。負担をかけないように斜め方向から締め付けていく。私の歴代のすべてのBOONEはこのシートクランプを使用している。重量は25gで、アルミニウム製、ニッケルメッキ鋼製スクリューという力の入れようだ。

確実な締め付けと、カーボン保護のために非純正ながらもおすすめしたい逸品である。クランプの経は間違えないようにしていただきたい。31.8mmもラインナップに存在しているが、34.9mmが適合する。

Emondaのシートマストキャップはショートが130g、ロングが150gととても軽い。 セットバック量も5mmと20mmから選択可能である。PROJECT ONEで選択できる重量を気にする人はショートを選べば良い。そして、できるだけサドルを引いたポジションが好みであればセットバック量は20mmを選択すればよい。

Miche X CARBON Seat Clamp 34.9mm

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T47 BB

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数年前から各社のハイエンドバイクがスレッド式(ねじ切り)BBを採用し始めた。この原点回帰の流れはMTBから始まった。バイク機材の機材革新はいつもMTBだ。ディスクブレーキ、シマノ電動化、スルーアクスル、12速化、ワイヤレスシフト、フックレスリム、チューブレス、とMTBバイクに先行投入されてきた技術を数えればきりがない。

メジャーメーカーでOSBB大好きのSPECIALIZEDが突然スタンプジャンパーにBSAを採用しはじめた。そしてTREKはグラベル用バイクにT47を突然採用し始めた。この流れは、メカニックやユーザーの要望が大きいという。

結果的にTREKは独自規格のBB90を廃止した。新たに採用されたのはT47で、PF30 BBと同サイズでスレッド化したライセンスフリーのボトムブラケット規格である。クランクシャフト側は、24mmと30mmスピンドルクランクに対応する。

TREKが採用しているT47の規格は85.5mmだ。T47のオープン化された規格寸法86.5mmよりも短い。既存の86.5mm用のT47BBを使う場合は1mmのスペーサーを挟む必要がある。この手法はCHRIS KINGの説明書にも書いてあるとおり、オフィシャルの使い方である。

TREKがBB90を廃止してT47を採用し理由は4つある。

1つ目は、TREKは全くあたらしい規格を作り上げるつもりはなかったこと。2つ目は整備性だ。プレスフィットシステムは整備性だけで考えるとベストとはいえない。3つ目は互換性だ。4つ目はBB90の設計思想を踏襲したかったためだ。

BB90であれば、ダウンチューブを太く作れる。BBの剛性を高めつつ、より応答性に優れたフレームを作ることが可能だ。T47もそれと同じ幅のダウンチューブとBBを実現できる。それでいてTREKのバイクならではの応答性を与えられる。以上の4つがTREKがT47 BBを採用した理由だ。

実際にT47BBのメリットは駆動効率やかかりよさといった性能面でのアドバンテージはほぼ無い。それよりもユーザーフレンドリーな構造と「異音」の少なさといった整備面でのメリットのほうが大きいだろう。カチカチ鳴るBBで100kmの走行をしたいだろうか。一度気になったら最後、圧入BBが憎たらしくてしょうがない。

それらの小さな問題であろうと、やはり圧入BBは今後淘汰されていくのだろう。確かにわずかながら重量はかさむかもしれないが、重量増加のメリットを別の部分で上回るメンテナンス性の良さと、トラブルの少なさを得るほうが賢い。

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チェーンキャッチャー

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TREKのバイクには密かに純正のチェーンキャッチャーが付属する。これほどまでにTREKがチェーンキャッチャーにこだわる理由は何なのだろうか。実際に伺ってみたところ以下のような回答が帰ってきた。

「いつまでもきれいなバイクを使ってほしい」

チェーンキャッチャーは、メカトラブルを減らす仕組みであることには間違いない。もう1つのメリットとしては、落ちたチェーンがフレームに当たらずにガードされることでフレームを傷つける心配がなくなる。(完全にとはいかないが)。フレームの塗装を治す費用や、精神的なダメージを考えてみてもチェーンキャッチャーという小さな仕組みであるが、メーカーとして標準仕様にしている意味は大きい。

標準仕様としているため、重量も軽く仕上がっている。また見た目にもスマートである。よくあるフロントディレイラーの取り付け台座に取り付けるタイプよりもシンプルで使い勝手も良い。この機構はTREK BOONEにも標準仕様として備わっているため、CXバイクを選ぶ1つの基準にもなっている。

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Aeolusバーステム

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新型Emondaと同時に、あたらしいエアロハンドルバーが登場した。エアロダイナミクスを追求した結果として、サイクルコンピューターマウントからバートップまで一直線のデザインを採用している。Aeolusバーステムの最大の特徴はケーブル、ワイヤ、ホースがハンドル溝に沿わせるだけでよいためメンテナンス性が非常に高いことだ。

ご存知のとおり、新型Emondaのフレームはエアロ性能を高めることを追求した。そのため、ホースとケーブル類はすべて収納されている。ヘッドチューブ前方からヘッドセットのベアリングをかすめてフレーム内に入っていくセミ内装式だ。フロントブレーキホースは、フォークステアラーに入り左側のフォークを下ってからブレーキキャリパーの真上に飛び出てくる。

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ホース類を内装化したことによって、新型Emondaのエアロダイナミクスは向上したと見て間違いはない。しかし、大きな役割を担っているがAeolusの一体型バーステムだ。それはVENGEのローンチでも公表されていたとおり、ハンドルバーステムで消費される空気抵抗は非常に大きい。

新型Emondaのエアロダイナミクス向上の割合を見てみよう。新型Emondaの空力改善全体は183グラムだ。そのうちハンドルバーの改善が70グラムを占めている。Emondaのエアロダイナミクスが向上した背景をくまなく探っていくと38%はハンドルの改善によるものだ。

この事実は新型Emondaに限った話ではなく、VENGEのローンチの際にも開発者の方が指摘していたことだ。ダウンチューブを平べったくするよりも、ハンドルバーをエアロ化するほうがよっぽど効果がある。伝統的なステムと丸いハンドルバーを新型Emondaに取り付けた場合、旧型Emondaとの差分はフレームだけになりその差は113グラムになる。

厳密にはフレームのエアロダイナミクスを改善することは非常に難しくなってきている。エアロダイナミクスを考慮していない丸パイプからの改善はたやすいが、エアロダイナミクスを追求した現状からさらにエアロダイナミクスを改善すると非常に大変な作業になる。よって新形Emondaが、旧型EmondaとMadoneの間に位置するエアロダイナミクス性能ということもすんなりと理解できる。

結果的にエアロダイナミクスに特化するわけではなく(そうするとMadoneとの境界線があやふやになるため)、「軽量性」と「乗り心地」という方向性を導き出し差別化が図られている。

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インプレッション

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長時間乗っても違和感がなく、疲れにくいバイクだと感じた。エアロ化されたが特に速いとは感じない。軽いバイクにカテゴライズされているが、今乗っているVENGEが6.8kgだから軽快さに大きな違いはない。T47に変更されたからといって、特に剛性が高まるわけではなく、伝達効率も上がるわけではない。

ただ、長時間乗っていたも疲れないバイクだ。そして、相変わらずTREKのバイクというのは操作性がいい。TREK BOONEでも感じていることなのだが、バイクを振ったときに思った分だけ動いてくれる。VENGEはバイクを振ったときに抵抗を感じる。

新型EmondaはVENGEやTARMACとはまた異なる特徴を持っている。比較対象とされやすい現行TARMACは、常に入力をし続けることで進んでくれるタイプのバイクだ。

たとえば、VENGEはどちらかというと踏んだあとの反応がワンテンポ遅れるバイクだ。良い表現をするのならば、踏んでいる時間が長くて、雑でも、ある程度進んでくれる。ただ瞬間的にパワーを掛けてスプリントするとなるとTARMACに軍配が上がる。ただ、ダンシングしたときのバイクの振りはあまり良くない。そんな特徴がある。その上で新型Emondaの特性はというと、TARMAC寄りでもVENGE寄りでもない。

どちらかといえば、ZXRSのような優しさがある。体に優しいバイクで角が立たないバイクだ。だから長時間乗っていても疲れないし、独特のしなやかさがある。新型Emondaは遅れるわけでもなく、「早く踏まなければ」と急ぐ必要もない。どちらかというと中庸という言葉が似合う乗り心地だった。逆に言うと、目立った特徴を感じられないと不満を漏らす人もいるかもしれない。

Emondaがヒルクライムバイクというのはあながち間違えておらず、淡々とペースで登っていくような人に合っている。ただ、途中でペースアップがあった場合に一気に詰めて追いつくシチュエーションを考えてみるとTARMACのほうが秀でている印象がある。

私の脚質的にはVENGEのような「進ませるためのスイート・スポットが広いバイク」のほうが合っているため、TARMACの特徴よりは新型Emondaや現行のVENGEのほうが相性がいい。このあたりのフレームの特徴は相対的に見ると大きく違うため、自分がバイクに対して何を求めているかを見定めておく必要がある。

性能面の話をすると、ツール・ド・おきなわのようなレースであれば「パワーセーブ」かつ「速く走る」ことが求められるため(この2つがすべてではないと補足しつつも)、いまだVENGEが最速だと思う。ただ富士ヒルクライムはどうだろう。新型Emondaを選択する可能性は高まる。

また、路面状況が悪い群馬CSCの場合は新型Emondaがいい。ニセコクラシックであれば6.8kgにチューニングしたVENGEが活躍しそうだが、無難な選択として新型Emondaを選択するのは間違いではない。

ただ、クリテリウムを考えると新型Emondaは厳しいと感じる。あえて新型Emondaを選択する理由はみあたらない。VENGEかTARMACが適任と言える。相対的な評価であり絶対的な評価ではないが、向いているレースやジャンルを振り分けると以下の評価になる。

  • 富士ヒルクライム:新型Emonda
  • 乗鞍ヒルクライム:新型Emonda
  • 実業団ヒルクライム:新型Emonda
  • ツール・ド・おきなわ:VENGEにCLX50
  • ニセコクラシック:VENGE6.8kgか新型Emonda
  • 群馬CSC:新型Emonda(路面状況が悪いから)
  • 広島森林公園:VENGEかTARMAC
  • クリテリウム全般:TARMACにCLX50
  • エンデューロ:VENGEにCLX50
  • 普段使い:新型Emonda(美しいから)

個人的な評価であり、人によっては判断が分かれることは承知している。すべてのライダーに共通した向かうべき方向を示す大方針を定めることはそもそも難しい。私が使うなら上記のような使い分けをする。その際に新型のアイオロス37を使うかと問われれれば、ROVAL CLX50を選択する。実際に次章で登場する長年の友人(TREK愛好家)もEmondaとROVAL CLX50という組み合わせだ。

エアロ性能を追求した新型Emondaであるが、現在のメインバイクであるS-WORKS VENGEよりも空力が良いとはとてもいいきれない。方向性がそもそも違うバイクであり、TARMACと比較するのが本来正しいが「6.8kgのVENGE」と「6.8kgのEmonda」を比べたらVENGEに軍配があがる。

しかし、「1gでも軽量なディスクロード」というテーマでバイク選択を考えるとVENGEを候補に上げることはありえない。フレームがそもそも重く、軽量なバイクではないからだ。軽さを優先にしつつも、ほのかにエアロ性能を高めたいという場合は新型Emondaが適任と言える。

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TREKユーザーが見た新型Emonda

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私よりもはるかにTREKのことを知り、TREK愛にあふれる古くからの友人がいる。PROJECT ONEのワイヤ式Emondaに乗り、毎年宇都宮のジャパンカップに大阪から出向いてはTREKのプロチーム選手との交流を深めるツワモノだ。そんな彼と新形Emondaについてやり取りを交わした。できれば2人とも行きつけのカフェでコーヒーでも飲みながら話したいぐらいだが、コロナの影響でそれはかなわなかった。

正直に書いておくと、TREK Emondaを今乗っているがゆえに厳しい意見だった。彼は乗鞍ヒルクライムの年代別優勝しているツワモノだ。非常に貴重かつ冷静な意見(洞察力に優れ、旧型を乗りつぶしているため信憑性がある)であるため、あえて新形Emondaに試乗した際の率直な意見を書き残しておきたい。

ここから先は、購入者は見ないほうが良いと思う。思うのだが「すごくいい!」「過去最高!」「新進気鋭」「ギア一枚軽い!」「下りでスピードがでて恐怖も感じる!」というメディアの記事ばかり目につくが、本当に絶賛の嵐の内容だけをユーザーは必要としているのだろうか。

それよりも本当に必要なのは「自分以外のユーザーがどう感じたのか」や「第3者の意見」だとおもう。さらに重要だと思うのは、「自分とは異なる意見」をどれくらい受け入れられるのかという「読む側の度量」だったりする。いわゆる、他人の言行を受け入れるという心の広さ、そして視野の広さということも受け取る側が試されている。

「ある人の意見」を冷静に1つのサンプルとして扱い、かつ「自身の意思決定材料のために知見を得ている」という考え方をすることで、初めて血肉として意見を受け入れることができる。このような厳しい前提が必要だ。

日ごろからそのような考え方をしていないと、ここから先は「新形Emondaに過大な期待をしている人たち」を落胆させてしまうかもしれない。「Rapide CLXに過度な期待をした人たち」から謝罪要求をされたが、きっと自分が期待している意見以外は、意見として受け入れがたいのだろう。それらを理解しつつ、それでも私はあえて「Emondaをよく知る彼」の言葉を書き、伝えたい。

ぶっちゃけEmonda良かったですか?私個人的には、勝手に期待値上げてしまったのもありますけど、自分の旧型Emondaで十分だと思ってしまいました。重くはないけど、軽くもない。次自転車買うなら流石にディスク買いますけど、素直にEmondaからEmondaに乗り換えると「これになるのかぁ」て感じで、ちょっと残念でした。どう感じたかなーと思いまして。

私は次のように答えた。

リムブレEmonda気に入っているならいらないと思います。軽くて乗りやすいけど、旧作からディスクにする必要なければリムブレで十分かと。わずかでもエアロ化したいけど、マドンはなーという方向けです。ただ、数値上はやいことは間違いないです。

「わずかでもエアロ化したいけど、マドンはなーという方向け。」

私が出した結論だ。

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まとめ:尖りがないオールラウンドバイク

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新型EmondaはTREKに銘打たれた「エアロヒルクライムバイク」という表現よりも、オールラウンドバイクというほうがしっくりくる。

何か一芸に秀でた特徴をよしとするか、それとも無難で大衆的な特徴をよしとするのかは人によって判断が分かれるところだ。前作から大幅なアップデートを遂げていることは間違いない。しかし、何か尖った特徴をもつバイクでもない。空力が特に優れているわけでもなく、超軽量というわけでもない。いわゆる純粋なオールラウンドバイクだった。

別の見方をすると、高い次元で均衡が取られたバイクである。空力、重量、乗り心地、メンテナンス性といったさまざまな要素をうまくミックスし、TREKは1つのバイクとしてEmondaを成立させた。そこには当然のごとく性能と性能のトレード・オフが存在していた。あらゆる方向性のバランスを保ったがゆえ、結果的に尖りのないオールラウンドバイクに仕上がった。

新型Emondaは「わずかでもエアロ化したいが、マドンほどの空力は不要」という方向けである。少々厳しいかもしれないが、率直に感じた意見だ。確かにEmondaというバイクに対する性能や構造の話とは離れているかもしれない。新型Emondaはそつがないバイクがゆえ、選択するライダー自身が特徴を見つけ出していく必要がある。

そして、新型Emondaが他社メーカーのバイクと差別化するためには、もう1歩抜きん出た性能と、購入を後押しする強い動機が必要だと感じた。その上で、軽量性、PROJECT ONE、曲線美、T47を採用した整備性に魅力を感じればTREK Emondaは買いだと言える。

「エアロ」と「軽量化」がそれぞれ別々の道を進みつつも、互いに近づいてきており、明確な差別化が難しくなってきている。ユーザーとしては1つにまとめてほしい。「速くて軽いバイク」が1台あればいいわけだ。新型Emondaがその望むべき領域に到達していたかと問われれば、現時点ではまだ到達できていない。

TREK Emondaは、尖った性能は備えてはいないものの、エアロも軽量性も”ある程度”備えたオールラウンドディスクロードバイクとしてハズレのない1台だった。とはいえ、エアロロードと軽量バイクの境界線があいまいになっている以上、1台ですべてをまかなえるバイクがそろそろ登場する時期に差し掛かっているのではないかと思うのだ。

新型TREK EMONDA SLR セミエアロロード化した「トレック最速のヒルクライムバイク」
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Émonda SLR 超軽量カーボンロードバイク – Trek Bikes (JP)
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