いつもは「新型○○登場!」なんて記事ばかりを書いている。しかし、今回の記事に登場する機材は「旧型」のシマノ SH-RC902シューズだ。2020年に登場したSH-RC902は、海外のプロ選手の使用率も高い。日本でも人気のあるマチューや、新城幸也選手もシマノを使用している。
プロが使うから良い機材ではない、というのは以前からしつこく書いてきた。私自身、2006年からずっとスペシャライズドのシューズ一筋だった。しかし、スペシャライズドシューズはクリートの調整幅(前方向)が狭く、idMatchのクリート調整が不可能だったためシマノに変更した。
2021年9月14日にSH-RC902を購入してから、ちょうど1年が経過し、新型SH-RC903が登場したのであえて新型と比較した旧型SH-RC902のインプレッションをお届けする。また、15年ぶりにシューズメーカーを変更したため、これまで愛用してきたスペシャライズドのシューズとの比較もまとめた。
RC902とRC903を比較
モデル名 | SH-RC902 | SH-RC903 |
---|---|---|
発売時期 | 2020 | 2022 |
価格 | 47,850円(税込) | 54,450円(税込) |
重量 | 235g(サイズ42) | 227g(サイズ42) |
剛性 | 12/12 | 12/12 |
ワイドサイズ | あり | あり |
ヒール保持 | ラバーすべり止め | すべりにくい素材表面 |
ヒール交換 | 可能 | 可能(RC902と同ヒール) |
シームレス ミッドソール |
○ | RC902と同ヒール |
BOA | BOA Li2ダイヤル | BOA Li2ダイヤル |
レースガイド | パワーゾーン レースガイド |
ロープロファイル レースガイド |
シューレース素材 | 樹脂 | 繊維 |
当初、「旧型」のSH-RC902と「新型」のSH-RC903は、カタログやスペック上で大きな違いがあるような先入観があった。実際に、お店で新型SH-RC903を試し履きしてみたが、正直な感想はつま先側のアッパーが柔らかくなっている以外、大きな違いは無かった。
重量の10グラムは正直分からないレベルだ。カタログ上での優位性、サイクリストの狂ったまでの軽量化信仰への配慮だろう。剛性値も変更なし、ヒールやBOAも変更なしだ。
次は、変更があった部分を見ていく。
つま先側のレースガイドはパワーゾーンレースガイドから、ロープロファイルレースガイドに変更された。旧型SH-RC902は樹脂製で、締め上げの強弱を2通り調整できた。新型は繊維に変更されており、締め上げの調整は1通りしかない。
どちらも十分なホールド性がある。締め上げの強さはRC902のほうが強く感じた。しかし、どちらが良いという事はなく、好みの問題だ。RC902に搭載されている樹脂製のレースガイドには欠点があった。締めていくときに、不快な「ぐぎぎぎぎ」という音が次第に発生するようになってくる。
使い込んでいくと、ホコリや雨で余計に音が大きくなってくる。私のシューズは3ヶ月位で症状が出始め、今でも継続的に「ぐぎぎぎぎ」音が出続けている。おそらく、これからも付き合っていかねばならない問題だ。
もう一つ、大きな変更点はヒールの滑り止め(保持)の仕組みだ。旧型は黒いラバーが貼り付けられていた。新型はヒール全体にすべりにくい素材を採用している。私は黒いラバーが好みだった。しかし、1年ほどでラバーがすり減ってきて意味をなさなくなってきているため、新型のほうが優れていると感じた。
新型の価格は6,600円の値上げがおこなわれた。
この6,600円の値上げを高いとみるか、安いと見るかは悩ましい問題だ。愛用している側の私見としては、10gの軽量化、ヒール滑り止めの改良、樹脂パーツの不快音の3つが2200円づつ、合計3つで6600円の改善とみれば妥当だと感じた。
次もRC9シリーズのSH-RC903を買うと思う。
では次は、15年ぶりにシューズメーカーを変更したことについて話そうと思う。以前はスペシャライズドのS-WORKS ROADシューズを使用していた。
スペシャライズドシューズからの変更
モデル名 | SH-RC902 | S-WORKS ROAD 7 |
---|---|---|
発売時期 | 2020 | 2018 |
価格 | 47,850円(税込) | 41,800(税込) |
重量 | 235g(サイズ42) | 224g(サイズ42) |
剛性 | 12/12 | 15/15 |
ワイドサイズ | あり | あり |
ヒール保持 | ラバーすべり止め | PadLock™ ヒール |
ヒール交換 | 可能 | 可能(ヒールラグ) |
BOA | BOA Li2ダイアル | BOA S3-Snap |
スペシャライズドシューズを使っていた理由は2つある。カントがついていたことと、特に問題なく使い続けていたため乗り換える勇気がわかなかったからだ。しかし、idmatchで測定したベストなクリートの位置にスペシャライズドのシューズは対応していなかった。
スペシャライズドのシューズはワイドも一部のモデルにはあるが、足幅が広くてベルクロが短くて止められなかった。シマノシューズはベルクロを廃して、シューレースガイドを採用している。また、シマノシューズはスタックハイトが低くペダルへのダイレクト感が良かったという理由もある。
シマノシューズは、カントが付いていないためはじめ違和感があると思っていた。しかし、インソールをソールスターに変更したところ、インソールのアーチがカントの役目をしたため問題は簡単に解決した。
2021年の6月にソールスターに変更してから、シクロクロスもロードもソールスターをつかっている。ソールスターは国内にアンバサダーが何人かいるけど、私は特に供給を受けていはいない。ただ純粋に結構良かったので、新品を楽天市場で、中古をメルカリで買っている。
スペシャライズドのシューズに話を戻すと、クリートの位置が前方向にに移動できないこと、ワイドがモデルによってはラインナップされていないことが原因で思いってシマノシューズに変えた。結果から言えば、シマノシューズは重量、フィット感、足幅、作りどれをとっても満足といえる。
次章は、旧型と新型両方に採用されている構造について紹介する。
シームレスミッドソール構造
「シームレスミッドソール構造」はシマノシューズ(特に最上位モデル)を選択する大きな理由の一つだ。シマノのシームレスミッドソール構造は、ライダーの足をソールに近づけ、スタックハイト(ソールとペダル軸の距離)を最小限に抑えることができる。
また、フィット感を向上、足のホール努力向上、パワーロスも軽するという。スタックハイトを低くすることによる他のメリットとしては、ペダルストロークが安定するため ペダリング効率が向上する。
実際にスペシャライズドのシューズから変更したところ、足がスムーズに回ってくれるような(プラシーボもある)感覚が得られた。つっかえるような動きが減り、足をおろしていく時に「ぐるんっ」と回るような感じに変化する。
スタックハイトが低いということは、よりペダル軸に足裏が近づく。ペダリング中の円の起動も下方向に伸びる。サドルを変更するほどでもないが、たしかに足を遠くまで伸ばしているような感覚が得られた。
シマノのエンジニアと研究チームの調査によれば、スタックハイト を低くすることでペダルストロークが安定し、 パワー伝達効率が向上することが明らかになった。ソールの厚さ(mm)ソールの底からアッパーの内部まではシマノシューズはモデル別に異なっている。
- RC902:4.9mm
- RC702:5.5mm
- RC502:6.5mm
サラウンドラップアッパー
RC902が他社製品と大きく異なるのは、アッパーが土踏まずまで回り込む360°サラウンドラップアッパーだ。通常のシューズは、カーボンソールがむき出しで一枚岩のように設計されていることが多い。
RC902はアッパーのマイクロファイバー素材が、土踏まず部分まで回り込んでいる。アッパー自体が、アウトソールの一部になっている構造だ。そのため、アッパーを締めていく際にこれまでに感じたことのないような一体感と安定性がある。
また、部品点数なども少なくなるため、軽量化にも寄与している。
実際に使うまで気にしていたこととしては、アウトソール側に回り込んだアッパーが傷つかないか心配だった。実際に1年使用してみたが、ご覧の通りめちゃくちゃキレイだ。クリートとヒールの突起があるため、傷がほとんどつかない。
SPD-SLクリートの相性
「SPD-SLクリートを作っている会社のシューズ」という意味は、思いのほか大きい。いや、とんでもなく大きい。名前は出せないが、とある海外メーカーのシューズはSPD-SLのクリートを取り付けるとソールに合わずに隙間が空いてしまった。
クリートの湾曲と、つま先側ソールの相性問題だ。シマノシューズは、これがない。当たり前のように思うかもしれないが、他社製品のシューズをはいているとまれにこのような相性問題に遭遇することがある。
シマノシューズは、SPD-SLのクリートの湾曲にピッタリと沿うように設計されている(当然だ!)。また、クリートの位置を前後に大きく移動できる。idMatchで算出した位置も難なく調整できる。この意味は私にとって非常に大きかった。
クリートの調整位置決めができるだけでも、シマノシューズを選ぶ価値があった。
ワイドサイズ
シマノによると、ワイドバージョンは、トゥボックスで5%、前足部で6%、中足部で6%大きくなっているという。実は、私はこれでも足幅が広くて痛くなる。そこで補正器具を使用して幅をさらに広げている。
Boa Li2ダイヤル
RC902もRC903もBoa Li2ダイヤルが採用されている。締め付ける方向と、緩める方向の両方向にマイクロアジャスト機能を持っている。従来と同様にプルトゥリリース機能を備えているため、素早く靴をぬぐことができる。
またBoa Li2は以前のモデルよりも薄くなっているため、空力性能が若干向上しているという。これは、ほとんどの人が気づかないことなので特段気にする必要はない。
デメリット
SH-RC902のデメリットは2つある。ヒール保持の黒いすべり止めと、樹脂のシューレースだ。どちらもSH-RC903で改善されている部分であり、プロや他のサイクリストからも同様の要望があったのだろう。
SH-RC902のヒール保持の滑り止めは、ホールド力が高すぎるがゆえ素材自体の摩耗も速い。さらに、人によっては靴ずれの原因にもなる。また、1年使うとほとんどホールドしなくなるので、消耗品になってしまう。
その点、新型SH-RC903の素材全体で滑りにくくする改善が順当なアップデートといえる。
シューレースの樹脂に関しても、締め付ける際に不快な音が発生する。RC903は繊維に変わっているため、音の問題もなくなるだろう。また樹脂の厚みもなくなり、見た目にもシンプルになっている。
以上の2点がRC902のデメリットだ。
まとめ:新型RC903に劣らぬ高性能
今回は、普段とは少し違う観点で「旧型」RC902を「新型」RC903と比較しレビューを行った。いわば、普段とは逆のレビューだ。
RC902とRC903両方試したが、細かい点を除けば大幅な変化はない。どちらかといえば、RC902のマイナーチェンジのようにも思える。RC901からRC902にアップデートしたときのような大きな変化はみられなかった。それほどRC902は完成していたと言ってもいい。
RC903は軽量化したといっても10gだ。とはいえ、されど10グラムだ。靴下が20g~30gほど変化することを考えると、今お使いの靴下を軽量化したほうが安上がりかもしれない。旧型と言えど、RC902は抜群のフィット感と最適なパワー伝達を追求したロードコンペティションシューズのフラッグシップモデルだ。
他社では見られない、360ºサラウンドラップ構造のアッパーで優れたフィット感を実現している。そして、科学的に最適化されたアッパー素材を採用し、 フィット感とペダリングパフォーマンスが高められた。
機能面ではRC903に劣らないと感じた。それでも、次購入するならRC903だと思う。とはいえ、私が普段仕事に使っているビジネスシューズは2~4万ほどだ。それに比べて5万円のシューズというのは高いと思う。
それでも、毎日の朝練から実走で使うシューズは良いものを使った方がいい。特にレースに出る人なら、シューズは絶対妥協してはならない。シマノシューズは、合えば良いシューズだと思う。少なくとも、13年使ったシューズから履き換えてその性能に満足している。
SH-RC902は旧型になったため、Amazonなどは半額以下で非常に安くなっている。
¥23,313
¥28,110
¥27,800