SRAMからロード用ハイエンドコンポーネントの新型REDが登場した。革命的なアップデートは行われなかったが、発売前から気になっていたことがある。最大のライバルであるシマノDURA-ACE R9200と比較して、どれほどの性能差があるかだ。
今回の記事は、新型RED E1(以下RED)とDURA-ACE R9200(以下R9200)を搭載したバイクをそれぞれ用意しインプレッションを行った。幸いにも、雨天のコンディションで 上り坂や下り坂などが多い山道で実走テストを行うことができた。
REDかそれともR9200か。それぞれのハイエンドコンポーネントは何が優れ、何が違うのか。率直に感じた良い点、悪い点を余すことなく記した。
レバーの握りに違い
レバーは「どこを握るか」でそれぞれのコンポーネントの評価は大きく異なる。単純に大きさだけの話をするならば、REDはR9200よりも握り部分が全体的に一回り大きい。面白いのは、部位によって握り心地や印象が大きく変わることだった。
レバーやブラケットの握り方は様々な方法があると思う。私は主に3つの握り方をする。以下にその違いをまとめた。
- レバーを中指と薬指ではさみながら握る
- ブラケットのくびを握る
- 下ハンドルを握りレバーに指をひっかける
ハンドルバーのトップを握る以外は、これら3つの握り方を行っている。ひとつ目の「レバーを中指と薬指ではさみながら握る」という場合の操作性に関しては、REDの方が優れていると感じた。
この握り方で手を一切置き換えずに、ブレーキング、ボーナスボタン操作、ステアリング操作の3つの動作を完結することができる。対してR9200はどうだろうか。
R9200をこの握り方で操作しようとした場合、そもそも操作自体がうまくいかなかった。ブレーキをかけにくいばかりか、レバーのてっぺんにあるボタンを押すためには、手全体をレバー側面にずらしてから親指でボタンを押す必要がある。
そしてR9200は全体が小さいため、ステアリングを切るときはしっかりと握る必要がある。ブラケット上部を包むように握る場合の操作性は、全体的にREDのほうが優れており好みだった。
「ブラケットのくびを握る」は最も多くのライダーが自然に行っている握り方だと思う。この場合は、シマノの細さがしっくりとくる。基本的には登りも、下りも、平坦もニュートラルポジションとしてこの位置で握ることが多い。
一方でSRAMはというと、ブラケットのくび部分が太くて握りづらい。手が小さいライダーは握りづらく感じてしまうだろう。
下ハンドルを握りながら人差し指でレバーを引いた際のかかりの良さは互角だ。甲乙つけがたい。どちらでも良いと感じた。シマノは丸みがあり、SRAMはややとがった印象がある。しかし、大差はない。互角だ。
ブレーキング性能
ブレーキング性能に関しては、REDとR9200に大きな差を感じなかった。SRAMにとってみれば大躍進といえる。これまで、ブレーキング性能に関しては、シマノが優れていると感じることが多かった。あえてSRAMのブレーキを使おうとは思わなかった。
ところが、REDのブレーキを使用して考えが変わった。REDのパッドは変更されていないが、キャリパーの剛性や、レバーの引きの軽さが相まって性能が向上していることがよくわかった。
とはいえ、R9200を超えるだとか、R9200よりもブレーキフィーリングが良いだとか、そういう気の利いた話ではない。シマノのブレーキフィーリングは、継ぎ目がなく、波のない効き方をする。引けば引くだけ効いてくれるような安心感がある。
対してREDは、レバーを引いた際の初動時に僅かな余白がある。徐々に引く力を増やしていくと効いてくるブレーキフィーリングだ。シマノは力が平均的に、SRAMは徐々に力が必要で段々と奥が詰まっていき、しっかりとレバーを引かせるような動作の違いがある。
結果的にはどちらもブレーキが効く。引いた力に対するブレーキの効きの到達点には大差はない。ブレーキ性能でREDかR9200で悩む必要は無くなった。どちらを選ぶのかは、好きなメーカーでいいだろう。
フロントディレイラーの変速性能
何をもって性能が「劣る」と判断するのか。その答えを出すことは難しい。
ディレイラーの仕事は非常にシンプルで「チェーンを移動させる」ことだ。チェーンの仕事といえば、チェーンリングとスプロケットを結び付けて、単純に力を伝達するだけである。チェーンは外から力が加わることによって、初めて別のギアに移ることができる。
チェーンがある地点から、ある地点に移動する振る舞いについて、速い、遅い、スムーズだ、正確だ、などと私たちは判定するのだ。メーカーはこの「移動」というシンプルな動作に対して様々な手法やアイデアをディレイラー、スプロケット、チェーンリングに盛り込んでいる。
この仕組みにおいてシマノの性能はずば抜けている。それゆえ、SRAMのフロントディレイラーの変速性能は悪いと迷信のように長らく言われ続けてきた。しかし、その不名誉な評価も新しいREDで終わりを迎えるかもしれない。
以前使っていたREDの変速性能と比べると、REDのフロントディレイラーの変速ははっきりと改善されている。パワーをかけながらフロントディレイラーを変速しても、インナー、アウターともに素晴らしい変速をする。
確実にフロントの変速は良くなった。しかし、相対的に双方を比較すると、DURA-ACE R9200のFDのほうが優れていると誰もが感じるだろう。REDはR9200の性能を超えていなかったし、追いついたと到底思えない。
そして、レバーのボタンを押した後のフロントディレイラーが動作するまでの反応時間はREDのほうが明らかに遅い。R9200のような脊髄反射のようなスピーディーな変速はせず、REDは処理待ち動作のような僅かなラグが発生する。
REDのタイムラグがある動作は、プログラムを考えると仕方がない処理かもしれない。REDのフロントディレイラーを変速する場合、レバーを同時に2つ押す必要がある。これがくせ者だ。一方で、ボタンを1つ押す場合はリアディレイラーが変速する。
従って、それぞれのボタン操作に応じて処理を分岐する必要がある。この判定処理を分岐する方法は制限時間ではないだろうか。「AとBのボタン」が「X秒以内」に「押された場合」は「フロントディレイラーを変速する」という処理だ。
X秒が、0.1秒なのか、0.5秒なのか、1.0秒なのかはわからない。
X秒以上時間が経過している場合は、単純にリアディレイラーがHI側、LOW側に変速する判定処理が行うだけでいい。実際にREDの変速処理の内容は明らかにされていないが、「両方押した」「片方を押した」という処理を分けるために何かしらの判定ロジックがあることは間違いない。
レスポンスが遅く感じてしまうのは、このわずかな判定処理が行われるためなのではないかと勘ぐっている。
その点、シマノのFDはボタン1つ押せば瞬時にFDが切り替わる。ラグになるのは、ボタンが押された後にSTI内部の通信装置への伝達、通信装置からの電波送信、バッテリー側での電波受信、バッテリーからRDやFDへの動作通信だ。しかし、この処理は一瞬で行われ、SRAMも一緒だ。
どう考えても処理的にシマノの仕組みのほうが有利である。
確実にREDのフロントディレイラーの性能は良くなったと思うが、変速スピード、スムーズさ、正確さはDURA-ACE R9200が優れている。新しいREDのほうがFDの変速が優れていると言う人がいたら、シマノが嫌いか、R9200を使ったことがないか、立場上どこかから圧力がかかっているか、どれかだ。
余談だが、SRAMトランスミッションは変速以外の別の要素が優れている。議論のポイントが異なるので注意が必要だ。
リアディレイラーの変速性能
REDのシフトボタンを押してもリアディレイラーの変速スピード、正確性、レスポンスはほとんど前作と同じだ。特別な変化は感じられなかった。これは残念な結果だ。そして、DURA-ACE R9200と比較するとREDは明確に「遅い」と感じる。そして、ボタンを押した後のレスポンスもやはり遅い。
ボタンを押した後のレスポンスと変速のスピード、これら2つが相まってDURA-ACE R9200と比較するとREDのリアディレイラーもワンテンポ遅く感じる。また、REDはチェーンやカセットの形状がほとんど変更されていないため、パワーがかかった状態での変速はR9200のスムーズな変速のほうが圧倒的に勝る。
そして、REDはスプロケットの干渉音が大きく、金属と金属がぶつかった様なガチャガチャとした変速音が気になった。ガチャガチャ音の原因は、スプロケット自体の中空構造が原因かもしれない。REDはシフトチェンジの際の変速ミスはしないが、1段1段の変速はわずかに遅いのが気になる。
R9200のほうが変速スピード、レスポンス、スムーズさなど全てが優れている。REDのほうが勝っている変速動作は残念ながら見当たらない。現状、シマノのロード用リアディレイラーに勝る機材はないようだ。
MTB用のコンポーネントのSRAMトランスミッションが素晴らしい性能だけに、REDのリアディレイラーはマイナーアップデート程度にとどまっていると感じた。
ワイヤレスかセミワイヤレスか
シマノとスラムのワイヤレス電動コンポーネントは明確に違うポイントがある。「フルワイヤレス」か「セミワイヤレス」の違いだ。このポイントは問題になるのだろうか。シマノの場合は確かにワイヤレスシフターだが、ディレイラーはDi2ケーブルで司令塔のバッテリーに接続されている。
一方のSRAMは、ケーブルを使用しないフルワイヤレスだ。それぞれメリットデメリットがあるが、SRAMの場合はディレイラーに着脱式のバッテリーを搭載しているため、バイクから離れた場所でも充電ができる。一方で落車などの衝撃でバッテリーが吹っ飛んでしまうデメリットもある。
SRAMのバッテリーは一見すると便利そうに見える。しかし、動作時間がシマノと比べると短い。シマノのバッテリーは長時間バッテリーが動作する。シマノのバッテリーは時々しか充電を必要としないため、充電が必要であることをたまたに忘れてしまう。
結局のところ、ケーブルの配線に関してはSRAMのほうが少ない。シマノのバッテリーシステムも、ケーブルが細くなったため取り回しもスマートになった。Red AXSとDURA-ACE R9200はどちらも素晴らしい接続システムを確立している。
もちろん、それぞれに長所と短所がある。シマノのように動作時間や衝撃への耐性を優先するか、それともセットアップの簡単さや充電のしやすさを選ぶか。何を優先するかによって、ワイヤレスかセミワイヤレスかの良し悪しが変わってくる。
パワーメーター
パワーメーターに関しては、SRAM RED AXSもシマノ R9200もどちらも使いたくない。という前置きをした後で、パワーメーターの精度や信頼性で話をすると断然SRAM(QUARQ)だ。シマノはファームウェアのアップデート後もインナー側の計測のチューニングに苦労しているようだ。
誰しもが、パワーメーターの計測精度を気にかけているわけではないが、SRAMは老舗パワーメーターブランドのQUARQ製であるため、長年の実績と信頼性がある。この分野ではかなり高い評価を受けているパワーメーターだ。
それに比べ、シマノはインナーとアウターのチェーンリング問題がいまだ解決しているようには見えない。
SRAMが良いと見える一方で愚かなこともある。SRAMはいまだにチェーンリングとパワーメーターを一体化している。チェーンリングが摩耗して交換する際に動作するパワーメーターも捨てなければならない。使い捨てパワーメーターなんて製品を現代においても発売し続ける企業体質を疑う。
ここまで辛辣なことを書く理由は、MTB用コンポーネントのEAGLE XXSLのスレッドマウントを使っているからだ。一見すると一体型のように見えるチェーンリングはスレッド方式で着脱できる。
厳しいことを書いたが、以上の問題点を加味しても信頼できるパワーメーターはSRAMの方だ。シマノの現行のパワーメーターをR9200もR8100も買ってすぐに売った。今後もシマノのパワーメーターを買うことは絶対にないが、あえてどちらかを選ばなければならないとしたらSRAMを買う。
パワーメーターに関してはアシオマ、4iiii、SIGYEI、Magineなど安くて素晴らしい測定精度の製品が数多く出ている。
まとめ:次世代はUDHかシングル化か、それとも。
RED AXSのリリースを見る限り、ロード用コンポーネントで革命は起きなかった。これまでの構造をひっくり返すような大幅な変化が見られるのは、まだまだ何年も先かもしれない。
RED AXSは互換性を高め、正統進化かつ既定路線のアップデートにとどまった。新型REDは控えめといってもいいだろう。SRAMのトランスミッションのような急速な変化に対して、ロード用コンポーネントが進化するためには数年以上の準備期間が必要だと思う。
最近ではロード用フレームにもUDHを搭載したバイクが登場し始めた。本当にロード用フレームにもUDHが普及していくのか、はたまたMTB機材のようにフロントシングル化とスプロケットの大口径化が進むのか。
まだはっきりとした道筋は見えていない。
シマノとSRAMの最高峰コンポーネントは、重量や性能に至るまで拮抗している。変速速度と正確性に関してはシマノがリードしている。そのほかにパワーメーターの精度、必要とするギアレンジなど、サイクリストによって好みが別れる部分でSRAMは対応の幅が広い。
メーカーが口裏を合わせたかのように、それぞれが上手くすみわけしているように見える。
新しいSRAM Red AXSは決して画期的なコンポーネントではない。SRAMトランスミッションを使用している身としては、今回のREDは肩透かしのようなアップデートだった。トランスミッションが革命だっただけに、REDが物足りなく感じた。
SRAMにしては珍しく保守的で、代り映えのしない退屈なマイナーアップデートだった。
REDかDURA-ACE R9200か。私の答えはロード用コンポーネントで選ぶのはDURA-ACE R9200だ。はっきりと断言できる(パワーメーターは除く)。しかし、MTBでトランスミッションの存在があるがゆえ、ロード用コンポーネントにもSRAMからアッと驚くような新技術の登場を待ち望んでいる。