最も人気があったのは、初代だろうか。
2011年、初代SuperSixEVOが発表されたとき、凄まじい熱狂があった。フレーム重量が695g、ピーター・デンク氏(SL8、AETHOSを開発)が開発、各社が血眼になって競い合っていた重量剛性比、剛性に相反する乗り心地の良さ、初代はあらゆる面で他社の数歩先を進んでいた。
リクイガス時代のサガンが乗っていたことも話題だった。この頃のサガンを、いまの選手で例えるならマチューだ。マチューが乗るAEROAD、当時のサガンが乗るEVO、そういう図式があった。今から振り返ってみても初代EVOは名作、いや、後世に語る傑作バイクだ。
第2世代目は、初代の勢いと当時のトレンドである「重量剛性比」が高く、軽くて硬いバイクで人気があった。機械式ながらケーブル内装化でエアロ化もアピールしたモデルだった。この頃の国内ヒルクライムシーンで、EVOの活躍が特に目立っていたように思う。
そして第3世代目だ。初代、2世代目と比べると、人気がそれほど感じられなかったモデルだ。プロの活躍も他社と比べると目立つことはなかった。保守的なアップデートにとどまった印象が強く、ディスクブレーキ化が話題になる程度だった。
このままEVOは忘却の彼方へ向かい、他社のハイエンドモデルに押されてしまうのか。そう思っていた矢先、EVO4が登場した。
わたしは、EVO4の人気が理解できない。
いまだ心の底から理解しておらず、受け入れられない。EVO4の理解を妨げる「なにか」がある。なぜEVO4がこんなにも人気が出てしまったのか、この序文を書いている今でもわからないのだ。
EVO4には初代をしのぐ人気がある。人気投票ではSL8を抜きEVO4が1位だった。海外メディアの比較検証でもSL8よりもEVO4が評価された。LAB71の高級路線と豪華さの差別化によるものなのか、それともエアロ性能か、重量か、プロモーションのたまものなのか。
「ほしい」「乗ってみたい」「買いたい」という、湧き上がるような、押し寄せて、止められない想いを、EVO4はなぜ生み出せたのか。
それでもよくわからない。ほんとうに、EVO4は人気に見合う程のバイクなのか。初代EVOよりも熱狂しなければならないバイクなのか。乗れば化けの皮がはがれ、ただの炭素の塊かもしれないのに。
今回のSuperSixEVO4のインプレッションは、その得体のしれないEVO4の人気を解き明かすために3編にわけている。
前編は、私見と感情をできるだけ排除し、無機質かつ客観的なデーター、構造にフォーカスした。中編はインプレッション、後編はこまかなチューニングや「ここがダメ」系の話だ。良いことは他のメディアが書くだろう。
前編が1.6万文字超ある。EVO4を説明するためには、それぐらいの労力と時間がかかる。できれば、最後までお付き合いいただきたい。
空力性能、EVO3とSystemSix比較
空力と重量、この2つの話題はお決まりのテーマだ。新製品は前作を超えなければならないし、他社製品よりも優れていなければならない。そして、この話題もかならず書かねばならない。
EVO4、EVO3、SystemSixのCdA値は以下の通りだ。EVO3をゼロベースとし、EVO4とSystemSixがどれだけ優れているかを表している。
- SuperSixEVO3:0
- SuperSixEVO4:-0.010
- SystemSix:-0.018
CdA値は、Yaw角が-20°から+20°の合計40ポイントを取得し加重平均計算したあとの値だ。荷重平均計算の重み付けにルールはないため、自社に有利な平均値を出すことができる。したがって、同社がSystemSixやEVO3で行った風洞実験結果を突き合わせながらEVO4の空力性能を確認していく。
なぜ、Dragに重み付けをする必要があるのかについては以下の記事を参照のこと。
EVO4とSystemSixのCdAの差は0.008。例えば、以下の条件においてEVO4で必要なパワーは211Wだ。前提条件は無数にあり、どこかに固定できるものではない。そのため、一例としてざっと眺める程度でかまわない。
- 巡航速度:40km/h
- 向かい風:0m/s
- 勾配:0%
- 体重:60kg
- 姿勢=CdA(m2):0.222
- 自転車+装備(ヘルメット、シューズ、小物):8.5kg
- 転がり抵抗係数(TLR想定):0.003
- 空気の密度(1atm,15℃):1.24
SystemsixはEVO4と比較するとCdAが0.008優れている。この場合204Wになる。SystemSixはEVO4よりも7W空力性能が良い結果だ。CdAが0.01劣るEVO3は220Wになる。EVO4と3の差はおよそ9Wだ。EVO4はEVO3よりも空力性能が改善されているが、SystemSixよりも空力性能が劣る結果だ。
それ以上でも、それ以下でもない。なんどもしつこく書くが、前提条件と速度域が変われば抵抗値も大きく変動する。
残念ながらEVO4は世界最速クラスのSystemSixより劣る結果だ。SL8のように「VENGE超え」「SPECIALIZED史上最速」ではない。プロモーションとしては弱い。インパクトが薄い。しかし、Cannondaleはタダでは起きない。
EVO4の開発において、SystemSixと空力性能がほぼ同程度になる専用のグリッパーエアロボトルを開発した。
比較対象のSystemSixはゴリゴリのエアロパーツが搭載されている。64mmのKnotホイール、Knotエアロハンドルを組み合わせており空力性能がとてもよい条件だ。しかし、丸ボトルが付いている。この組み合わせは、AEROADにこそ1W甘んじるが世界最速級の完成車として知られている。
単純な話、EVO4とグリッパーエアロボトルの組み合わせは、このゴリゴリのエアロパーツを搭載したSystemSixと同等の空力性能だ。Cannondaleのバイクで比較した場合は以上の空力性能差と重量差がある。
重量は後ほど詳しく紹介するが、EVO4の完成車は6.8kgだ。空力性能を考えると総合性能はトップクラスと言っていい。同社の基幹バイクの重量は以下のとおりだ。
- SuperSixEVO3:7,400g
- SystemSix:7,700g
- SuperSixEVO4:6,800g
空力を優先するか、重量を優先するかはライダーの好みやレースシチュエーションによって判断がわかれる。登りも、平坦も、全てをオールラウンドに走る場合はEVO4を使うことが合理的だ。
ところで、最も知りたいのは他社バイクと比較した場合の空力性能差だ。Cannondaleは、TREKやSpecializedのバイクと比較した空力性能試験も行っている。
空力性能 Tarmac SL7比較
Cannondaleの風洞実験結果によると、45km/hの速度域においてTREK Emonda SLRよりも12W、S-WORKS TARMAC SL7よりも4W空力性能が良いと主張している。データで注目したいのは、EVO4のハンドルステムが一体型の場合はおよそ4W、分離型の場合は1W弱の性能差であることだ。
似たような話を聞いたことがないだろうか。
TARMAC SL8の空力改善の大部分はハンドルだった。およそ4Wだ。フレームで得られる空力向上はわずかである。CannondaleのEVO4の空力データーと、SPECIALIZEDのTARMAC SL8の空力データーを突き合わせると、EVO4とTARMAC SL8の空力性能差はほぼ0に近しい値だと考えられる。
TARMAC SL8に一体型ハンドルのRAPIDEハンドル、EVO4にMOMOハンドルを取り付けると空力性能の差は薄れていくだろう。
完成車重量は、アッセンブルするパーツにもよる。が、どちらも6.8kg前後に仕上がる。SL8のほうが若干軽くなる程度だ。両者の好みを隔てるのは、乗り心地、ジオメトリ、塗装、スタイル、細部の作り込みなど細かい部分になる。
EVO4の空力性能で、ライバルと目されるSL8との大きな違いはなさそうだ。しかし、違いと認識しておくべき箇所がいくつかある。
まず、TARMAC SL8に有利な情報としては優れたジオメトリ設計がある(EVO4の特殊なジオメトリについては後述)。歴代のTARMACはヘッドチューブ長が短い。TARMACはハンドルを特に下げることができる。ライダーが乗車した状態の総合的な空力性能はTARMAC SL8が優れている可能性がある。
このあたりの話は、ジオメトリの章で詳しく記す。
TREKがMadone Gen7を発表した際、ジオメトリとハンドル幅の改善により総合的な空力性能が大幅に改善されたことが示されていた。TREKと同様のプロモーションをCannondaleやSpecializedが行わなかったことは意外だった。
ライダーのポジションに関わる変数は無限にある。プロモーションを行う際、わかりにくい条件を省いて誰もが理解しやすい表現にしたのかもしれない。
VENGE超えの空力
VENGEはエアロロードバイクのベンチマークだ。他社ブランドの新型でも、VENGEを超えたか、超えないかがいつも話題になった。結論から言おう。
EVO4はVENGEの空力を超えた。
TOUR紙が独自に行ったEVO4の空力結果は207Wだった。ホイールはSOLO50、LAB71でもなく、一体型のMOMOハンドルでもなく、HI-MODで2ピースハンドルの「悪条件」において、結果的にVENGEを超えた。
- SIMPLON PRIDE II Disc:199 W
- STORCK Aerfast.4 Pro Disc:201 W
- CANYON Aeoad CFR Disc:202 W
- CANNONDALE SystemSix Disc:203 W
- CERVELO S5 Disc:205 W
- FACTOR One:206 W
- CANNONDALE SuperSixEVO4:207W
- SPECIALIZED S-Works Venge Disc:208 W
- CANYON Aeroad CF SL Disc:208 W
- PINARELLO Dogma F Disc:208 W
- SPECIALIZED S-Works Tarmac SL7 Disc:210 W
- BMC Timemachine 01:210W
空力条件が悪い2ピースハンドル、純正SOLO50ホイールの組み合わせで207Wは相当優秀だ。VENGEとCLX64の組み合わせよりも、EVO4とSOLO50ホイールのほうが空力性能が良いのだから現代の機材進化には恐れ入る。
EVO4はSL8と同じように「VENGEを超えた」のだ。
机上の空論になってしまうが、例えば一体型ハンドルで少なく見積もって3W改善したとしよう。207 – 3 = 204WでほぼSystemSixと近づく。Cannondaleが主張するように専用グリッパーエアロボトルを用いた場合、EVO4とSystemSixの差はほぼ埋まる可能性がある。
EVO4とグリッパーエアロボトルの組わせは、もはやCANYON Aeoad CFR Discに近い空力性能を備えているのかもしれない。それでいて6.8kg相当なのだから、人気のAEROADの立場を脅かしかねない総合性能だ。
補足しておくと、風洞実験の速度域や加重平均計算の方法が異なるため、単純に引き算で空力性能を導き出すことはできない。かなり乱暴な計算なので参考程度であり、机上の空論だ。
実際に筆者が風洞実験を行った際の記事を以下に掲載する。できるだけわかりやすく、導出式も掲載しているので時間があればご一読いただきたい。
優れた剛性。快適性はNo.1
剛性値の試験データによると、EVO4のフロント周りはやや硬く、BB周りは適度に硬く仕上げられている。ちょうど、VENGEとSL7の間の剛性値だ。特に目立つのはシートポスト周りの快適性だ。他社ハイエンドモデルの中で最も快適で、Emondaよりもさらにしなやかな垂直剛性値だ。
並み居るハイエンドロードバイクの中において、快適性に関してはほぼ最高の評価が付けられている。ハイエンドモデルTOP20において最も快適性が高い。スペシャライズドの表現を借りると、SL7比で23%コンプライアンスが改善している。
ただ、当ブログで何度もお伝えしているように、バイクの垂直剛性値に関してはタイヤと空気圧が支配的だ。
一方で、フレームを変更し同一空気圧、同一タイヤで運用した場合は、相対的にフレームの剛性変化がよくわかる。
AEROADとEVO4を乗り比べると、ぜーんぜん違う。
AEROADはEVO4よりも垂直剛性値が36%高い。乗り心地の変化が顕著だ。特にサドルの突き上げの衝撃は、雲泥の差でEVO4を初めて乗ったときの快適性たるや、「うああぁぁ」と、冷たい水をかけられて思わず声が出てしまうほどに、思いがけない声が出て感動した。
三角木馬に乗って木馬責めにあっていたところから、Yogibo(ヨギボー)のクッションで座るほどに変化する・・・、ところまでは行かないものの「ロング走るならこっちだな」と思うほどにEVO4はサドル突き上げの優しさ、快適性がとても高い。
実際の数値データーを元にした序列は以下の通りだ。ヘッド、フォーク、BBの剛性は左に行くほど剛性が高い。垂直剛性(快適さ)は左に行くほど快適性が高い。
- ヘッド剛性値:AEROAD > SL7 > VENGE > EVO4 > Madone G7 > DOGMA F
- フォーク剛性値:AEROAD > SL7 > VENGE > DOGMA F > EVO4 > Madone
- BB剛性値:AEROAD > VENGE > DOGMA F > EVO4 > SL7 > Madone G7
- 垂直剛性値(快適さ):EVO4 > SL7 > DOGMA F > MadoneG7 > AEROAD > VENGE
実際に測定された剛性値を確認していくと、EVO4はレースバイクとしては妥当かつ、標準的で程よい範囲内に位置している。硬すぎるわけでもなく、柔らかすぎるわけでもない。一方で、最近のバイクで徐々に注目を浴びつつある「コンプライアンス」に関係する垂直剛性値が秀でている。
コンプライアンスという言葉について、聞き慣れない方もいらっしゃると思うので補足しておく。物理学的な意味合いの弾性コンプライアンス、物体の変形のしやすさをあらわしている。
TOUR誌やSILCA研究所が「バーチカルコンプライアンス」という言葉も使っているが、垂直方向の柔軟性、サドルに対してある力を加えたときに、BBからシートポスト付近がどれくらい変形するのか、という意味で理解しておくといい。
以下の剛性データは、シートポストがある変形量に達するまでにどれくらいの力を要するのかを示している。
- VENGE:261N/mm
- AEROAD CFR:188N/mm
- TARMAC SL7:156N/mm
- TARMAC SL8:146.64N/mm(SL7比 -6%の推定値)
- SuperSixEVO4:120N/mm
- (参考)新型CANYON ENDURACE:68N/mm
「エアロ形状=乗り心地が悪い」という通説は決して間違えていない。垂直方向の剛性値にも現れている。VENGEやAEROADは特に数値が高く(≒硬く)コンフォートではない。SL8はSL7から6%改善されたというから、SL8は146.64 N/mm程度と推測している。
SL7と比較するとEVO4は23%改善されていると表すこともできる。しかし、剛性値の大小だけでは「何の」良し悪しを表しているのか、簡単に判断できないのが垂直方向の剛性だ。たとえば、乗り心地なんて関係なく、高剛性を好むスプリンター目線で6%コンプライアンスの向上はネガティブに映る。
突き上げ感を嫌うエンデュランス系のライダー目線では、長時間のライドを考慮してポジティブに映る。剛性値の大小は切り口によって、良くも悪くもとらえることができるのだ。
実際のライドでは、フレーム単体ではなくバイクシステム全体で考える必要がある。乗り心地に関してはタイヤと空気圧が支配的だ。
詳細は後半のインプレッションでお伝えする。
EVO4の断面からわかること
CannondaleはEVO4のカットサンプルを公開している。どの断面も興味深い。フレームの部位によってカーボンの積層を変幻自在に変えているのがよくわかる。ダウンチューブは太いためカーボンの積層が薄めだ。対して、チェーンステーやシートポスト部分は積層が厚めの傾向がある。
EVO4で最も目を引くのがシートポストだ。大手ブランドのハイエンドマシンの中でトップクラスに薄い。UCIの新レギュレーションを最大に活用し、Di2バッテリー位置をシートポスト内ではなく、ダウンチューブに移設する工夫で驚異的な薄さを達成した。
SL8のシートポストも”細い”と登場前から話題だった。しかし、EVO4に至っては”薄い”と表現したほうが適切だろう。以下の写真は、備後しまなみeNShareの坊伸選手から頂いたEVO4とSL8のシートポスト断面図の写真だ。
左側がEVO4で右側がSL8だ。
EVO4のほうが細いばかりか、危うさを感じるほど側壁が薄い。対して、前面と後方はSL8よりも厚い。SL8は全周で一定の積層だ。どちらが空力が良いのかは断面だけでは判断できないが、パッと見は細いEVO4のほうが空力が良さそうである。
カーボン内部の仕上げについては、どちらのモデルも美しく、甲乙つけがたい。
カーボンの厚み以外で目立つのは、フレームの部位によってチューブの厚みを細かく変えていることだ。古くはTIME、LOOK、Pinarello、Colnagoの名車たちがそうであったように、チェーンステーのノンドライブ側のチューブを太くしている。
EVO4のチェーンステーは左右非対称で、ドライブ側とノンドライブ側のチェーンステーは3倍近い太さの違いがある。異型とも思える形状の違いの理由は、パワーメーターのセンサースペースや、主流の28Cタイヤ幅を考慮したことによるものだろう。
それでも、左右のカーボン積層の厚みを複雑に変更し、左右非対称かつ、美しい形状を保っている。
北米のブランドにありがちだったのは、チェーンステーを左右対称にしている場合が多かった。なんにも考えていないのか、単にめんどくさいだけなのかは不明だが、欧州のブランドが古くから大事な剛性調整と称し、アシンメトリックなチェーンステーを好んできたことと対象的だ。
Cannondaleはまさにアメリカブランド(親会社PONホールディングスはオランダ拠点)であるものの、EVO4の設計者はとても細かいチューニングを成し遂げたのだと単純に感心してしまった。
実測重量
パーツ | 重量(g) |
---|---|
LAB71 EVO4 フレーム 49、前後ハンガー込、ボルト5本込 | 751 |
フォークカット後 | 408 |
スルーアクスル前 | 26 |
スルーアクスル後 | 45 |
シートポスト一式 | 162 |
EVO4問わずCannondaleの小サイズの実測重量は軽いことが知られているが、所有する個体は前後ハンガー、ボルト5本込で751gだ。重量は個体差、サイズ、カラーによって何十グラムも異なることはザラであり、公称値よりも重くなるか軽くなるかは運次第だ。
幸運にも軽い固体だったため安堵したが、実際には770g前後といったところだろう。この重量領域になると、DURA-ACEで組めば6.8kgを下回る。レースによっては重りを追加する必要があり本末転倒である。実運用を考えるとEVO4の重量は無難な重量といえる。
TARMAC SL8の登場によって、十分軽いEVO4のインパクトはやや薄れてしまった。とはいえ、Emonda SLRがおよそ760g前後、TCRが765g前後と軽量ロードバイクとほぼ同等の重量かつ、空力性能が優れているのだから、もはや文句を言うのは無粋だ。
下限重量の落とし所をどこに定めるかはライダーの趣味趣向によって異なる。6.8kgを守る必要があるなら、EVO4よりも軽いフレームセットは現段階では不要だ。
デルタステアとINNEGRA繊維
フォークコラムにはINNEGRA TECHNOLOGIES社のINNEGRA繊維が用いられている。INNEGRA繊維の特徴は衝撃吸収性と耐摩耗性が高い。カーボンと組み合わせることで強度も高まる。
カーボンは強い衝撃を受けると折れてバラバラになる特徴がある。INNEGRA繊維を用いると網目のように素材同士をつなぎ合わせ、結び付ける働きがあるため、たとえ破損しても完全に折れたり分離することがない。
デルタステアにINNEGRA繊維が用いられたのは、ワイヤーとコラムが接触することによって生じる摩耗耐性が主な理由だという。
別の理由として、重要なステアリングをになうフォークに何らかの衝撃が生じても、一瞬で破断しない耐衝撃性能を高める別の目的もあるのだろう。そして、EVO4は二等辺三角形の異型コラムだ。INNEGRA繊維で強度面を補う意味合いもあったのかもしれない。
不安に見える二等辺三角形のコラムは、下りであってもステアリング周りに不安を覚えることはない。コラムキャップで隠してしまえば中身のことはわすれてしまうだろう。しかし、問題はその中身だ。
とにかく、ぎゅうぎゅうだ。
寿司詰め状態、恵方巻。
スーパーシックスエボは略して「寿司エボ」と呼ばれているらしい。X(Twitter)のEVO4関連ツイートでたまにお目にかかることがある。コラム内部の構造はその名の通りだ。EVO4のコラム内は、これまで見てきたロードバイクの中で特に”寿司詰め状態”だ。
寿司詰め状態の具材をすべて退けていくと、ムンクの「叫び」のようなデルタステアが顔を出す。二等辺三角形の断面のフォークコラムは珍しい。この特異な形状にした理由は、コラムとベアリングの間にホース類を通すためだ。ベアリングの経は上が1-1/8で下が1-1/4インチになっている。
開発する際に、最も構造が複雑で、最も難易度が高く、最も開発者を悩ませたのはコラム周りの設計ではないだろうか。見れば見るほど、そう思えてくる。
いままで見てきたロードバイクのコラムの中で最も複雑怪奇だ。パッと見ただけでは意味がわからない部品が詰め込まれ過ぎたコラム内部だ。
何度も言いいたい、言わせてください。寿司詰め状態、まるで恵方巻だ。
Cannondaleがここまでした理由も理解できない、わけではない・・・。Cannondaleはどうしても恵方巻にせねばならなかったのだ。
全て取り除くと、中にはムンクの叫びが入っている。Cannondaleのエンジニアのコラム内部の設計の苦悩が、無意識のうちに「叫び」として宿ってしまったのかは定かではない。
前置きが長くなってしまったが、デルタステアにステムを取り付ける際に「Delta Filler pieces」という、かまぼこ状のパーツを詰め物として入れる必要がある。デルタステアと詰め物をパズルのように組み合わせるとあら不思議、きれいな円ができあがってステムを取り付けられる。
かまぼこ状の詰め物には「ブラック」と「ピンク」がある。ブラックは一般的なステム用、ピンクはMomo/SystemBar用だ。それぞれ全長が異なっており、ブラックは一般的なクランプの40mmステム用だ。
バッテリー位置
Di2のバッテリー位置は「新UCI規定」、「重心」、「整備性」、「シートポスト高調整」などあらゆる方面を考慮するとベストな位置はダウンチューブになる。AEROADもダウンチューブにDi2バッテリーを格納するが、BBを取り外さなければバッテリー自体を取り出せない、という整備性の悪さが残っている。
EVO4は整備性を解決している。バッテリーマウント位置は、BBのスリーブから進行方向側に位置をずらして格納している。このバッテリー位置の変更により、BBまわりのフレーム造形にも変化が見られる。
先代のEVO3と比べるとよく分かる。BB30からBSAに変更しBBの経が変わったことも見た目や、BBまわりの造りに大きな影響を及ぼしていることがわかる。
EVO4のダウンチューブ付け根部分は、ぽっこりと腹が出たような造形になっている。SL8のデコッパチほどのインパクトはないが、BBスリーブを避けてバッテリーを差し込むスペースを確保するためには、どうしてもこの形にしなければならなかったのだろう。
結果的に、BBを取り外すことなくバッテリーにアクセスできる整備性が得られた。飛行機輪行などでバッテリーを取り外す際も容易にアクセスできる。遠征時に重宝すること間違いなしだ。
整備性の高さも魅力的だが、シートポストやシートチューブにバッテリーを格納したくなかった設計上の理由がほかにもある。新UCI規定ではフレームの最小寸法(厚み)が緩和された。EVO4のシートポストは非常に薄く、厚みはわずか15.26mmだ。
15.26mmという数値は、他社ハイエンドモデルと比較しても特に薄い。
- Cannondale SuperSixEVO4 LAB71:15.26mm
- Pinarello Dogma F:15.53mm
- TREK Madone Gen7:16.56mm
- CANYON AEROAD CFR:18.87mm
1~3は新レギュレーション、4は旧レギュレーションのバイクだ。
シートポストにバッテリーを格納してしまうと、この薄さを達成できない。バッテリー自体の太さが邪魔になるからだ。SL8のようにシートポスト直下にバッテリーを取り付けるのもひとつの方法だ。しかし、直下にバッテリーを配置するとシートポスト+バッテリー長で全長が長くなり、今度はシートポストの高さ制限が出てくる。
SL8のバッテリー位置をダウンチューブに配置しなかったのは疑問が残る。EVO4はあらゆる懸念点を考慮してダウンチューブに配置した。低重心化にもなり、一石二鳥なはずなのに。
EVO4のバッテリー位置が今のところ「正解」である。バッテリーを固定する方法がBB下部にプラグを差し込むような簡易的な構造のため脱落しないか少々心配だ。いままで脱落する気配はなかったが、整備性とのトレードオフで目をつぶる部分といえる。
BSA規格は今さらか
BBはBSA規格を採用した。CANNONDALEは長らくBB30系の規格を採用してきた。ここに来て、他社と同様に原点回帰し原始的なねじ切りBBに先祖返りした。BSAになったことで整備性が高まり、異音のトラブルがほぼ無くなったことは嬉しい変化といえる。
ここであえて、「進化」ではなく「変化」と書いたのは理由がある。
現代のロードバイクにおいて、スレッド式のBBを採用するのならばT47が望ましい。理由のひとつにタイヤのワイド化がある。プロレースでも28C以上が標準となり、32Cも使われ始めているため、フレーム側もワイドタイヤに対応する必要がある。
BSAのシェル幅は68~70mmだ。太いタイヤのスペースを確保しようとすると、チェーンステー側の厚みにしわ寄せがくる。ドライブトレイン側は、クランクアームベースのパワーメーターのセンサースペースも考慮する必要がある。そのため、EVO4のドライブトレイン側チェーンステーの付け根はとても細くなっている。
一方でT47インターナル式のシェル幅は86.5mmだ。タイヤクリアランスも余裕がある。TREKは85.5mmの独自規格であるが、4iiiiの薄型であればドライブトレイン側のチェーンステーも干渉することがない。
SPECIALIZEDやCANNONDALEがT47を採用せずBSAを採用した理由は定かではない。ただ、「CANNONDALE=BB30」というほどBB30にこだわってきたブランドがスレッド式を採用したことは喜ばしい変化だ。何度も言うように、進化ではないのだが。
圧入式がイヤでEVOシリーズを避けてきた人は、BSAを採用したということだけでも購入に値する変化だとおもう。
C1 Aero 40 Carbonシートポスト
CANNONDALEは振動吸収性に優れたSAVEシートポストを上位機種に搭載してきた。シートポストの上部に細い「くびれ」を造り、意図的に”しなり”やすくすることで振動吸収性能を高めている。
EVO4に搭載されているCannondale C1 Aero 40 CarbonシートポストはSAVEではないが、上部付近にくびれの名残がある。44と48サイズの場合は0mmオフセットであるため、公開されているイメージ画像のシートポスト形状とは異なっている。
- 0mm offset (44-48cm)
- 20mm offset (51-61cm)
44と48に採用されているシートポストはT字型でハンマーのような形をしており、やぐら直下はくびれている。振動吸収性を狙ったものではなく0mmオフセットと固定ボルトの関係でこの形状になったのだろう。
同じような形状のシートポストは、GIANTのCONTACT SLR D-FUSEがある。ほぼ同一の形状であり、メーカー説明によると、路面からの衝撃や振動を軽減し、しなりやすい形状で快適性の向上に大幅に貢献するという。
EVO4のコンプライアンスが他社よりも快適である理由は、一部、シートポストによるものだと思うが、シートポスト単体だけが理由ではなさそうだ。というのも、シートポストとシートチューブ間の「遊び」がかなり大きいのだ。
この件については、後半のインプレッションでまとめた。
特徴的なジオメトリ
昔と比べるて、CANNONDALEのジオメトリはだいぶマシになった。
同社のジオメトリは昔から特徴的だった。過去のSuperSix(無印)は、50~54のサイズ間でリーチが5mmしか違わないという、めちゃくちゃなジオメトリだった。大きなサイズになるとリーチが逆転する(!)という、今となっては、はちゃめちゃなジオメトリ設計だった。
だから「だいぶマシ」と書いた。現在はややまともになっている。「やや」と書いたのは若干ではあるが癖のあるジオメトリが残っている。ジオメトリは各社の設計思想がはっきりと現れるが、最近ではどのブランドもサイズが同じであれば無難な値に収束している。
悪しきAiオフセットはかろうじて搭載してないものの、EVO4は他社と比べるとやっぱりとんがっていた。具体的には以下の特徴がある。
- ホイールベースが長い
- フロントセンターが長い
- ヘッドチューブが長い
- トレイル値が美しすぎる
ホイールベースが長いと乗り心地や走行安定性が良くなる。シクロクロスバイクやマウンテンバイクは長めだ。
トレイルはタイヤ外径やヘッド角およびフォークオフセットで決定され、トレイルが長いと直進走行の安定性が良くなる。一方で、トレイルが短いと操縦性が鋭くなる。
トレイルが長いとハンドルから手を離しても直線走行がしやすい。一方でトレイルが短いとハンドルが切れる方向の予測が難しく直線走行がしにくくなる。
EVO4は他社バイクと比べると、手放し走行がしやすい。
ここまでの特徴を文章で書いてもピンとこないだろう。そこで、標準的な日本人の51サイズでTARMAC SL7、AEROAD CFR、MADONE Gen7と比較した。
まずは、TARMAC SL7の比較だ。黒色がSL7で白色がEVO4だ。リアホイールを基準(線が重なっている)として、ジオメトリやフロントタイヤ位置の変化が読み取れる。最も特徴的な部分を先に紹介する。
このあと登場するどの他社バイクと比較しても、全てに共通して言えるのが、フォークグレード先端の爪(ハブセンター位置)が前寄りになっている。厳密には、ヘッド角、フォーク長、フォークオフセット、フロントセンター、ホイールベースなどが組み合わさった結果だ。
ヘッドチューブも長いため、TARMACと比べるとハンドル位置が相対的に高くなる。TARMACでベタ底のステム位置にしていた場合、EVO4の同一サイズに乗り換えてしまうとハンドル高のポジションが出ない。ステム角で調整するか、ややアップライトなポジションにするしかない。
Madone Gen7と比較した場合は、おおむね近しいジオメトリに見える。しかし、Tarmac SL7のときと同じくEVO4はフロントホイール位置が前寄りに位置している。
AEROADと比較した場合も同じく、EVO4のフロントホイール位置は前寄りに位置している。
細かな特徴はあるにせよ、EVO4は他社のロードバイクと比べるとフロントホイールの位置が前に出ている。ヘッドチューブは長めでハンドルをできるだけ下げたいライダーはワンサイズを小さくするほうが良いのかもしれない。
私のようにSL3、SL6、VENGEで出したポジションが基準になっているライダーは少々やっかいだ。SPECIALIZEDのバイクサイズと同相当のEVO4に乗ると、ハンドル高のポジションが出せない。そのため、私はSPECIALIZEDのサイズよりもサンワイズ落としたサイズを使っている。
54であれば51サイズ、52であれば51サイズだ。
最後にトレイル値について。小サイズでも非常に美しい値が並んでいる。当ブログで何度も紹介しているのだが、特に美しいトレイル値の設計をしている代表的なブランドはBRIDGESTONEだ。
BRIDGESTONEのバイクは、小さなサイズでも美しいジオメトリを描くことで知られている。トレイル値を最適化するためのこだわりは、北米のブランドには真似のできない国産ブランドならではの(日本人ライダーのことを考えた)設計だ。
RP9のトレイル値は掲載されていないが、タイヤ外形(700x25C 672mm)における各サイズのトレイル値を算出すると以下のようになる。
- 440:59mm
- 490:58mm
- 510:59mm
- 530:59mm
BRIDGESTONEが推奨している700Cホイールのロードバイクで推奨する適正トレイル値は55~58mmだ。EVO4のトレイルは44サイズを除いて全て58だ。美しい。うつくしすぎる。日本人が設計したのか。いや違う。サム・エバートだ。
44や48サイズで、適正トレイル値付近に収まっているのはEVO4かRP9ぐらいだ。
女性レーサーに競技用ロードバイクを勧めるとしたら、ジオメトリや性能を考えてEVO4の44サイズ一択だ。LIVのLANGMAやENVILIVもジオメトリ的に優れているのだが、そこはグランツールを走るメーカーのフラッグシップモデルに乗りたい。
女性ライダーで44サイズのEVO4を選んだ方はお目が高い。最近のハイエンドバイクの中で当たりを引いている。
サイズ | 44 | 48 | 51 | 54 | 56 | 58 | 61 | |
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A | シートチューブ | 40.0 | 43.8 | 47.7 | 51.5 | 53.4 | 56.7 | 60.0 |
B | トップチューブホリゾンタル | 51.2 | 52.0 | 52.8 | 54.6 | 56.2 | 57.8 | 60.3 |
C | トップチューブ | 46.9 | 47.9 | 48.9 | 50.9 | 52.3 | 54.1 | 56.4 |
D | ヘッド角 | 70.9° | 71.2° | 71.2° | 71.2° | 73.0° | 73.0° | 73.0° |
E | シート角 | 74.3° | 74.3° | 74.3° | 73.7° | 73.3° | 72.9° | 72.3° |
F | スタンドオーバー | 69.8 | 72.7 | 75.6 | 78.8 | 80.7 | 83.6 | 86.6 |
G | ヘッドチューブ長 | 10.0 | 11.4 | 13.0 | 15.4 | 16.5 | 18.8 | 22.0 |
H | ホイールベース | 981 | 987 | 996 | 1010 | 994 | 1007 | 1024 |
I | フロントセンター | 58.2 | 58.9 | 59.8 | 61.1 | 59.4 | 60.7 | 62.4 |
J | チェーンステー | 41.0 | 41.0 | 41.0 | 41.0 | 41.0 | 41.0 | 41.0 |
K | BBドロップ | 7.4 | 7.4 | 7.4 | 7.2 | 7.2 | 6.9 | 6.9 |
L | BBハイト | 26.8 | 26.8 | 26.8 | 27.1 | 27.1 | 27.3 | 27.3 |
M | フォークレイク | 5.5 | 5.5 | 5.5 | 5.5 | 4.5 | 4.5 | 4.5 |
N | トレール | 6.0 | 5.8 | 5.8 | 5.8 | 5.8 | 5.8 | 5.8 |
O | スタック | 50.5 | 52.0 | 53.5 | 55.5 | 57.5 | 59.5 | 62.5 |
P | リーチ | 37.0 | 37.4 | 37.8 | 38.4 | 38.9 | 39.5 | 40.3 |
後半のインプレッションに、続く。
前半は空力性能や重量などありきたりな話ばかりで、退屈だったかもしれない。後半はいよいよ、インプレッションを行った模様をお伝えしていく。公開予定の目次を先に載せておく。過去にEVO2やSystemsixのインプレッションを行った記事も載せておくので、後編の公開まで時間つぶしで見ていただけると幸いだ。
- ハンドリングに癖がある
- EVOの下り、ってなんだ?
- 下り意識のズレ
- ハイエンドにしては快適
- 登りはAETHOSに迫る
- 平坦はAEROADと変わらんが・・・
- ニセコに持っていくなら
- 長時間の高速ロングライド向き?
- LAB71、hi-modどれをかう
- 旧型からの乗り換えは
- サドルが高くなる
- シートポストの異音対策
- シートポストのあそびは意図的か?
- MOMOハンドル
- ワイドスタンスのフォーク
- クランク裏に隠された造形美
- EVO4が描く薄さの変化
- BBはBSAだが・・・。
- 計算されたアクスルまわりの造形
- スルーアクスルは別人が設計?
- スルーアクスルを変えよう
- ダイレクトマウントに変えよう
- ジオメトリに悩む
- 人気の理由が見えてくる
- まとめ:結局、EVO4は買いなのか