パワーウェイトレシオは確かに重要な一つの要素である。しかし物体の速度が上がれば上がるほど空気抵抗との戦いが重要になってくる。速度に比例して空気抵抗も増える為、出力が高くとも空気抵抗に負けてしまいスピードがでなければ何ら意味は無くなってくる。
ホイールをディープにするより先に、上半身の空気抵抗を抑えたほうが楽になったりとエアロダイナミクスは奥深い。一見空気抵抗は「見えない」のでその重要さを見落としがちだ。そこで機材とエアロダイナミクスがタイムトライアルにどのような及ぼすのか調べてみた。
パワーメーターを使った測定実験
ここから記載する内容は、パワーメーターを使い一定の出力をかけ続ける。そのまま40kmのTTをした場合どれくらいタイムに差が出るのかを測定した実験結果である。実験の条件をまとめると次のようになる。
- 条件1:室内バンクを用いる。
- 条件2:40kmのタイムトライアルを行う。
- 条件3:SRMである同一出力を出し続ける。
この条件下でポジションや機材を変更することにより空気抵抗の大きさを表す値(CdA)が変わってくる。結果的にタイムは縮まるというわけだ。まずは重量面から見ていこう。
自転車重量をマイナス3kgにした場合
タイム:-0:05
ややショッキングな内容かもしれない。タイムトライアルにおいては上記の条件では40kmTTをした場合でも5秒しか変わってこない。ツール・ド・フランスのような極限の中でタイムを競う場合は別として、実業団のたかが2000m程、長くても数キロの場合は対して重量は気にしなくても良いだろう。
全日本選手権ともなれば軽いほうが良いといえるが、マイナス3kg落として5秒ならば別の方法を考えたほうが良さそうだ。自転車で3kg軽くする金額投資は考えただけでも気が遠くなる。
まとめ:自転車重量を3kg落とすと5秒縮まる。タイムトライアルバイクはハンドルが700g程あるものも珍しくない。私は重量を気にしていたのだが、3kg落としても驚くほどタイムは短縮しない。
上ハンドルと下ハンドルの違い
タイム:-2:47
- 上ハンドル時の前方投影面積:0.36m^2
- 下ハンドル時の前方投影面積:0.31m^2
上記条件において、40kmTTのタイム2分47秒短縮された。上半身の空気抵抗は大きいといえる。確かにクリテリウムでも上のハンドルを持つより、我慢して下ハンドル持ったほうが空気抵抗も少なくなる。結果、少ない出力で早く進ませることができるといえる。
タイムトライアルで一番効率的にタイムを削るにはCdA(前方投影面積)を極限まで少なくすることだ。腕はしぼめて小さなトンネルをくぐるかのごとく身を小さく保つ必要がある。その上で最大パワーを出せるしきい値を煮詰めていく。まさに体も機材の一部なのだ。
TTバーと上ハンドルの違い
タイム:-4:59
- 上ハンドル時の前方投影面積:0.36m^2
- TTバー時の前方投影面積:0.27m^2
上記条件において、40kmTTのタイムは4分59秒短縮された。TTバーを用いることにより上腕の抵抗が減り前傾が取れるのでさらに空気抵抗が減る。結果として5分近いタイムの短縮が認められる。少なくともロードバイクにDHバーのアタッチメントを付けても良いだろう。
正直な所TTバイクのフレームよりもDHバーを付けたほうが空気抵抗が少なくなり結果早くなる。TTバイクを使う理由はエアロダイナミクスよりも「TTポジションのため」が一番大きな要素である。したがって高価なタイムトライアルバイクを買うよりも、自分の体にあったバイクを安く買うほうが懸命だ。
最適化されたフォームと上ハンの違い
タイム:-6:54
- 上ハンドル時の前方投影面積:0.36m^2
- 最適化されたフォーム時の前方投影面積:0.24m^2
さらに最適化されたフォームをとった場合。TTバーを用いて脇を閉めたり、頭を下げたり細かな調整をしたあとの状態である。40kmTTのタイムは6分54秒短縮された。TTバーを付けるだけでなく更にフォームを煮詰めることにより大幅に短縮されるのである。
なお書籍サイクルサイエンス内では握りの違いでどれくらい空気抵抗に差が出るか実験結果が乗っているので読みなおしても良いだろう
まとめ:空気抵抗を小さく出力を高く
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ヒルクライムの場合タイムはW/kgでほぼ表せることはまちがない。それらは広く知られた事実であるが、平地のタイムトライアルはどうだろうか。平地のタイムトライアルの場合戦うのは「空気抵抗」である。空気抵抗をいかに小さく、そして逃がせるかが勝負といえる。
空気抵抗の大きさを表す値”CdA”が示す通り、形状をによる抵抗係数をCd(形状はフレーム、ホイール、フォーム)前面投影面積のAの積がCdAである。この値が小さいほど空気抵抗が小さいという事になる。空気抵抗の戦いはすなわち、抵抗の引き算である。
よって一つ一つの抵抗を減らすための努力の積み重ねが優秀なタイムにつながるといえる。その要素としてポジションの最適化も重要であるし、出力とのバランスも考え無くてはならない。出力が出るがCdAが大きい、出力は小さいがCdAが小さいそれらのしきい値を探ることを考えれば「身体も機材の一部」と言える。
タイムトライアルはこれら機材とフォームとパワーの最高点のしきい値がどこに発生するかが一つのポイントになる。タイムトライアルは単純な出力勝負ではない事がデーターから理解できる。ロードレースは展開も重要であるが、しかしタイムトライアルにおいては、「ある単位時間あたり最高平均速度を出した人が勝つ」競技と言える。
タイムトライアルは身体も機材とした究極の競技なのかもしれない。
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