日本人向けのTTポジションを実現 DHクローザー インプレッション

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「機材沼」の深さの根本的な原因は、ポジションと感覚との相違にある。確かにホイールの場合は軽いだとか、かかりが良いだとか様々な感覚で好き嫌いがわかれる。そして、自分自身が求めている感覚と機材がマッチすれば「良い機材」として使い続ける事になるのだろう。

ただ、感覚と相まって我々サイクリストを悩ませる問題がある。ポジションだ。ポジション一つで生み出せるパワーの大小も変わってくるし、例えば疲れにくい、疲れやすい、という身体的な影響にも関係してくる。自分が追い求めていくポジションに到達するまでに、あれこれ部品を変え「機材沼」は続いていく。

ポジションとは広大な海のように広く、深い。ただ、その中で使用する条件を明確に謳った面白いステムが存在している。「DHクローザー」だ。ロードバイクのフレームでDHバーを使ったタイムトライアル(以下TT)ポジションを取る事を想定し開発されたステムである。

これは胴長短足の日本人にとって一つの画期的なソリューションとして私の目に止まった。

TTポジションは煮詰めれば煮詰めるほど教科書や、正解など無い世界に突入していく。今回はお手持ちのロードバイクでTTポジションを取りたいという望みを解決するソリューションを紹介する。TTポジションの中でも特にやっかいなステアリング周りの悩みを解決する画期的なステムなのだ。

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DHクローザーインプレッション

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私はTTバイクを3台所有している。なぜこんなにも使用用途が少ないバイクを3台も所有しているのだろうか。単純にいえば「ポジションが出なかったから」である(機材沼へようこそ!)。そもそも、TTバイクに求められる重要な要素の一つとして「リーチ」がある。

リーチとは主にフレームのBBセンターからヘッドチューブ付近までの長さを指す。私はこのリーチでフレームサイズを決めている。決してロードバイクのようにトップチューブ長では決めていない。理由はTTバイクの独特のポジションにある。

TTバイクのポジションは、空気抵抗を減らすためにDHバー(前方へ突き出した二本の棒)を取り付ける。このバーを持ったとき、肘を上ハンドル付近やコラム上部付近に添え、頭をできるだけ落としたポジションを取る。よく言われるのが、「ロードバイクのポジションでグルリと前転」したようなスタイルとも言われる。

なぜこのようなポジションを取るのだろうか。理由は、バイクを進ませる上で一番抵抗になる空気抵抗を減らすためだ。自転車が進む際、およそ6割以上が空気抵抗で打ち消される。それらを極力減らすために、DHバーはTTバイクと切っては切り離せない関係なのだ。

これら独特な機材を取り付ける関係上、肘を置く位置がフレームのリーチで決まってしまう。私のポジションは身長の関係からサドル先端がBB直上の0mmバック。そしてDHバーの先端は745mm(規定は最大750mm)に設定している。

規定ギリギリなのだが身長とフレームサイズの兼ね合いからここにおちついた。ただし、このポジションでもまだまだ「ポジション沼」なのだ。実はいまだ正解だとは思っていない。正解ではない理由の一つとして出力の低下がある。この窮屈なポジションが影響して出力が低下するのだ。

パワーメーターは人間がペダルをこいで生み出した力を数値(ワット)で表してくれる装置が有る。もちろんロードバイクやTTバイクにも取り付けているのだが、どうしてもTTバイクに取り付け計測すると出力が低い。およそ1~1.5割ほど低く推移している。

自分で理解しているTTバイクのほうが出力が低い理由は、単純に慣れていないポジションにある。どうしても窮屈で、肘を狭めたポジションは酸素を吸い込む事を妨げる。普段握り慣れていないDHバーにより、どうしても出力の低下が目立ってしまう。

ロードバイクで出せた力は、無理なTTバイクのポジションでは出せないのだ。そこで今回の「DHクローザー」のステムである。

DHクローザーの構造

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冒頭でお伝えしたとおり、DHクローザーはロードバイクに取り付けることを想定したステムである。ステムが100mmというと、ヘッドパーツのセンター部分から100mm突き出した量だ。この部分は最も短いもので45mmほどのものが有る。

DHクローザーは単純に言うなら、DHバーをフォークコラムに取付できるアタッチメントだ。DHバーさらに約10cmほど近づけ、約4cm高くセッティングすることができる。結果的にブラケットポジションと同じ骨盤角度を維持することができ、ブラケットポジションと同じ感覚で走行できるようになる仕組みだ。

ステアリングをほとんど切らず、真っ直ぐ早く進む事を目的としたバイクの場合、ステムはポジションを獲得するためだけに存在しているにすぎない。このDHクローザーが面白いのはコラム取り付け位置から直上にDHバーを取り付けられるということだ。

DHクローザーはコラムの同一直線上に、DHバーを取り付けるアタッチメントのカーボンパイプが取り付けれれている。単純な構造ながら今までまったく同類のステムがなかったとことに気付かされる。

まさにアイデア商品なのだが、ステムとしての構造は見ての通りとてもシンプルだ。ただ、この構造自体に意味がある。DHクローザーが想定しているのはロードバイクだ。ロードバイクの場合乗車姿勢はもちろん下ハンを持ったり、ブラケットを持ったりと様々な使い方を想定している。

ロードバイクにDHバーを取り付ける場合TTバイクよりもリーチが長い。そのためより手前に肘のパッドを近づける必要が出て来る。その際DHクローザーは役立つのだ。しかし、「ロードの乗り方」に特化しているロードフレームにDHバーを使う意味はどのような点にあるのだろうか。

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ロードバイクにDHバーの意味

ロードバイクにDHバーを取り付ける意味を考えてみると、「乗り慣れている」という結論にたどり着く。「何と?」という問に答えるならば「TTバイクよりも」ということだ。そしてペダルは踏み慣れており、パワーを出すコツもつかみやすい。踏み慣れたロードのポジションで出力を出せる事は大きなメリットになる。

ロードバイクでDHバーを用い、踏みやすい普段のポジションに近い状態で出力を出すというアプローチは、一見すると「エアロダイナミクスを犠牲にしている」とも見て取れる。実際にTTバイクのほうが圧倒的なエアロダイナミクスを備えていることは明らかだ。

ただ、アマチュアサイクリストにとって、乗り慣れていないTTバイクの場合は、パワーが出しにくいというDHクローザーも有る。いつもとは異なるバイクに乗ることにより出力低下も考慮しなくてはならない。ようするにエアロダイナミクスを追求するのか、パワーを出しやすくするのか、トレードオフを迫られているのである。

フォームの変化

DHクローザーを実際に使って感じたのは、TTバイクのそれとは似て非なるポジションを作り出せるということだ。TTバイクはエアロダイナミクスを追求した究極のポジションを煮詰めていく。ただし、出力低下とのトレードオフとの戦いである。

このDHクローザーをTIME ZXRSに取り付け、実際にペダリングを回すと一つ思い出す事があった。ロードバイクのブラケット位置に肘を置き、あたかもDHバーが有るかのような「DHバーがあたかも存在しているかのような」エア・エアロポジションスタイルである。

プロや、上級サイクリストが稀に取るこの”エア”ポジションだ。

ただ、あのとき感じたような肘がぐらつくような不安定な感覚は当然無い。むしろDHクローザーが取り付けられる位置がアップライトなので、普通にサドルに座ってDHバーを持つ感覚だ。そしてヒルクライムをするときに上ハンを引くイメージをDHバーでも同じよう持つことができる。

TTバイクの場合は肘パッドに6割、サドルに4割の体重配分のイメージと表現できるが、DHクローザーの場合は肘パッドに3割、サドルに7割の体重配分である。私は普段のロードのポジションにおける体重配分は、ハンドル1~2割、サドル8~9割のイメージだ。

したがって配分を考えてもDHクローザーの方がよりロードのポジションに近いということになる。結果的にはエアロポジションを取る際、ロードのポジションで慣れたパワーの出し方を、DHクローザーを使えばTTポジションでもシームレスに移行することができる。

ポン付けできるメリット

多くの人がロードバイクにDHバーを取り付ける際、上ハンドルに直付けするはずだ。この場合、左右のDHバーをそれぞれ取り付け、左右の高さを調整する必要が出て来る(数ミリでも左右差が気になるはずだ!)。これら一連の作業のめんどくささは、試したことの有る方ならその苦労をわかっているはずだ。

ただ、DHクローザーの場合はこの手間が省ける。既存のステムの上にコラムスペーサーの代わりにDHクローザーを取り付ければ良い。追加で取り付けるタイプなので予めDHバーとDHクローザーをセットで用意しておく。あとはコラムに取り付けてセンターを出すだけだ。

この利点は現地でのスピーディーな作業を必要とする場合とても重要な条件になってくる。時間がないレース前日、2dayのステージなど、一台の機材で複数の種目に参加する場合はとても有効な機材といえるだろう。

アマチュアの意外なメリット

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私はDHクローザーの想定している「ロードのポジションでDHバーを使う」という発想は、本来の開発意図とは違う恩恵を生み出したと捉えている。補足的に解説するなら、TTポジションを綿密に詰められる時間がないアマチュアの場合、特に恩恵が得られる。

どういうことだろうか。本来TTバイクはエアロポジションを追求し極限まで前方投影面積を減らすために様々な調整を行う。ポジションを煮詰めるには時間が掛かるし、そもそも1年を通して数回しか使用しないTTバイクを所有できない人も多い。

そこで、誰しもが持っているロードバイクを使い、TTバイク程のエアロダイナミクスを得られないにしろ、今あるロードバイクを用いてある程度の空気抵抗の削減が見込めるからだ。このような観点からも、多くのロードバイクユーザーにとって「DHクローザー」のメリットは大きい。

また、少なからずデメリットも存在しているので記しておきたい。使用するバイクのステムの残り量によっては取り付けられない場合がある。コラム量をギリギリまで切っている場合は取り付けが出来ないといった事もあるので注意が必要だ。

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まとめ:ロードバイクで快適なTTポジションを

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DHクローザーは乗り慣れたロードのポジションでDHバーを効果的に使えるとあれば、この上ない機材だといえる。レース会場に多くの機材を持ち込めない場合や、ロードとTTバイク二台の余分な機材の運搬を考えてもDHクローザー一つ持っていけば対応できる。

また、実業団E1~3程度の10分以内でコーナーが多数存在するコース等ではロードバイクのドロップハンドルと、ポン付けできる本ステムが適している場合もある。力の出しやすいポジションとエアロダイナミクスはトレードオフの関係であるが、まずはいま使いやすいロードバイクでポジションを出してみても良い。

DHクローザーはTTバイクを持たずとも一つのアイデアで同等(もしくはそれ以上)のポジションを生み出すことができる。ただ忘れてはいけないのは、TTポジションというのは窮屈さが生み出す前方投影面積と、進むために必要なパワーを出すポジションのトレードオフなのだ。

前方投影面積が小さくても、非常に小さい出力ではタイムを短縮できないだろう。我々が求めているのは「早く走ること」である。そのためにいかに前方投影面積を減らし、パワーを出しやすくするのか。その答えが、TTバイクなのか、DHクローザーを使ったパワーを出しやすいポジションなのか、結論はあなた自身が使って試す他無い。

したがって、時間をかけて煮詰めたTTバイクのポジションのほうが早い。とも言い切れない。コース条件、エアロダイナミクス、出力、ブレーキングと全ての要素のバランスが取れた時、最高のタイムを生み出す事ができる。もしかしたらタイムトライアルの競技だけでなく、トライアスロン、またはTTポジションが怖い人等、様々な条件下で重宝されそうなステムだ。

その一つのアプローチとして「ロードバイクでDHバーを付けたときの最適解」を目指したDHクローザーは、ロードバイクでDHポジションをとりたいユーザーにとって一度は試すべきアイデア商品といえるだろう。もしかしたら、TTバイクを買わずともポジション沼から抜け出せる起爆剤になるかもしれない。

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