所属チーム(VC VELOCE)の松木選手から、当ブログだけに記事を寄稿いただいた。その内容は、今年前半のまったく走れない最弱状態から徐々に過去最強状態へ到達するまでの詳細なプロセスとその方法だ。平日のトレーニングの方法、松木選手の詳細なパワーデーター等、親近感がわく内容が満載だ。早速その一部始終をご紹介したい。
ツール・ド・おきなわへのプロセス
レース展開は既にご存知の方も多いかと思うが、簡単にまとめると2回目の普久川ダム下りた140km地点からレースは始まり、高岡さんと井上さんらを中心とする削り合いで登りのたびに人数を減らし、最後の羽地で6名まで絞られる。最後のスプリントで最もレース巧者であり、足も残していた高岡さんが勝ち、私は2位だったというレース。
シクロワイアード:「ツール・ド・おきなわ2017市民210kmレポートby松木健治:転勤と環境の変化で練習不足。しかし短期で勝負できる身体を仕上げ臨んだ市民210kmの2位」
レース詳細は皆様のレポートに任せるとして、今年は特に大したリザルトもなく、春先には輪界から消えるか消えないかの風前の灯だった私が最終展開に残ることは予想していた人は少ないだろう。少なくともそれを予見していたのは、私の練習を共にした井上さんと奈良さんくらいだろう。
今年前半のまったく走れない最弱状態から徐々に過去最強状態まで戻すまでのプロセスのほうが、親近感がわく内容だと思うのでその点を紹介してみたい。
不足を補う
今年の前半はあまりに走れなくて、ランニングや登山でも始めるかと思っていたが8月に井上さんと走ったことをきっかけに思い立ってツールド沖縄にエントリー。過去最高の結果(表彰台)に目標を定めて、トレーニングを開始。
その時の模様はこちら。
目標を定めると仕事でもスポーツでもなんでもそうだが、「目標―現状=やるべきこと」の公式の通り、自分に不足することを考え愚直に一つ一つ潰していく。もうこれしかない。ある日突然何もせずに強くなることもないし、トレーニングせずに突然変異が起こるわけがない。ひたすら自らを変えるために毎日+0.1%を積み上げる行動を続ける。自らを変えることができるのは自分しかいないのだ。
自分自身の軽量化
まず取り組んだのは軽量化。
2016年の体重は59kg バイク重量7.3kg
2017年の体重は約57kg バイク重量6.9kg
ほか装備軽量化により昨年より総重量での2.5kgの軽量化と思われる。
過去一番走れていた時(たぶん2009年頃)の体重を振り返ってみると57kgの体重がベストパフォーマンスを出している。ここに照準を絞ったコントロールを開始する。今までは練習後のプロテインの牛乳割が、仕事の後のビールよりもおいしいわけで、グリコやマイプロテインやらの甘いやつを飲んでいたけど、筋肉を増やすことが目的ではないので今回はしばらく止めることにした。
その代わりに毎日飲むようにしたのはVAAM。
高橋尚子さんのCMで有名なVAAMですが、何か体脂肪をエネルギーに変える効果があり、体脂肪燃焼と持久力向上に効果が高いというのを本で読んで毎日のローラーのボトルの中に入れることにした。これを毎日飲み始めてから体重が順調に減少トレンドに。
私の生活スタイルは朝6:00~7:00ローラー。8時過ぎに会社に入り、21時から22時ごろまで仕事というのが平均的な生活スタイル。昼ごはんはほとんど時間がないため大体20分以内で食堂にある460円の弁当。夕方に腹が減ってプロテインバーを一本食べてやり過ごし、帰宅は大体22:30~24:00が多く夜ご飯を食べるのが23時~24時が多い。
睡眠前にドカ食いしてさらに食欲が止まらなくなりフルーツグラノーラの袋食いをやるということをやってしまい激しく自責の念に苛まれるわけで、とてもウェイトコントロールをやっている人間の行動ではないのですがなぜか体重が増えない。これはVAAMの恩恵が大きいのではないかと勝手に分析している。
このVAAMの効果は体重だけではなく、走りにも現れる。私は元来長い登りが苦手でヒルクライム競技はまったくダメ。埼玉に引っ越してきてからは、埼玉方面のサイクリストなら誰もが登る白石峠で体力測定をするわけですが、5月に走った時はフル悶絶してようやく23分40秒。とてもまともに戦えるレベルではない。
しかしVAAM飲み続け体重が減ってくると10月下旬には最終的に21分18秒まで短縮。これはSTRAVA上ではブリジストンアンカーの選手たちとほぼ同水準。(もちろんプロ選手は練習の中の通過タイムだと思いますが。。。)
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体重が減ることでパワーが落ちるかというとそのようなことはなく、9月~10月にかけて10分以上のMMPはほぼすべて更新するという状態。最終的には57kgで20min322wをTTではなく普通に走っている中で出せる状態が最終形態かな(クライマーの皆さんからしたらショボい水準ですが)。
これくらいの水準で走れればロードレースの中で登りで遅れることはまずないはず。
持久力の身につけ方
以前は一か月で3000km走ったりこともあり絶対に距離と時間を走れば強くなるというのは間違いなくこれは断言できる。佐藤さんは10月110時間3300km以上を乗り込んだらしいし、いろいろなブログを見ていると3000㎞近い走り込みは、いろいろな人がやっている。
ツールド沖縄のラストは本当の極限状態なのでその中でパフォーマンスを発揮するには走り込み以外に対処する方法はないのだが、私のトレーニング時間は8月79時間、9月79時間、10月76時間で走行距離にしたら大体2200~2300kmくらい。
私は平日のトレーニング時間も一時間程度が限界ギリギリだし、土日も子供二人いると一日中走ることは現実的にできない。(それでも妻の理解が高いので、相当の融通は聞いてもらってますが。)時間がない分、ローラーの強度は井上さんには遠く及ばないものの、流している時間はほぼなく、毎朝1000KJを一つの目途としてこなす。
ウォームアップ20分とメニュー40分。主に20分のSSTかインターバル系を入れる。
土日の練習は、基本的に奈良さん主催の「ひるさい」に参加することですが、9月以降意識することは止まらないことと足を止めないこと。皆さんがコンビニ休憩している間も極力止まらず走り続ける。補給食はポケットに大量に突っ込んでこまめに食べるし、ボトルは必ずダブルボトル(私はよく飲むほうなのでシングルボトルで走れる人がうらやましい。)。
そして練習の最後まで手を抜かない。後半になるほど出力を上げることを意識する。特に埼玉の環境は山が遠いため行きも帰りもド平坦のサイクリングロードやらを片道50kmほど走らなければならない。このサイクリングロードも極力250W以上をキープしてアベ35km前後のスピードを最後まで緩めないようにしている。
200kmを超える練習はあまりできなかったが、週末は4000kjを一つの目安にして走りこむことを続けた。これなら大体朝の6時に出れば12時には帰ってこれる。(昼からはグロッキーで睡魔との戦いになるけど。
あらゆる抵抗の低減、エネルギーマネジメント
今年は関東平野広すぎて平坦を走る時間が長かったけど、下ハンを握る時間を意識的に増やし空気抵抗を減らすことを意識して走る。三船さんが下ハン握るとスピードが4%あがるとか書いてた気がするけど、そのポジションに体を慣らしておくことが大事。またハンドル幅もやや狭いポジションとしている。
サイクリングロードは北風が強く風向きを意識した走り方も重要になり、こういう細かいエネルギーマネジメントも重要。ローテーションの時に空気抵抗が少ない楽な位置を探し、前に出る時も無駄足を踏まずに自然に前に上がることも普段からやっておく。練習でも平坦が得意だという人は大体ローテーションで無駄足を使う癖があり前後は走りにくいので要注意(笑)。
9月にMTBマラソン最強選手の宮津選手と練習をご一緒させてもらったときにペダリングの意識について教えていただいた。足の筋肉を使わず体幹でこぐペダリング。ダンシングの使い方と前半と後半のケイデンスの使い分け方など、走り方や筋肉の使い方ひとつで後半に足を残すことを教えていただいた。
追加で今年はチェーン抵抗を減らすべくSACRAのSLFチェーンを採用。マイナス6Wの効果がうたわれているが実際の下記出力の通りに昨年よりパワー数値が下がっているのは一部効果があったのだろう。
頭脳戦
沖縄TOP10の選手を見てみると、
- 高岡選手 言わずと知れた最強のホビーレーサー。全日本選手権でもプロより強く、ミスター沖縄。グランフォンド世界選手権2位他世界レベルの選手。
- 佐藤選手 JPT経済産業大臣旗10位等近年さらに強くなってきた。
- 森本選手 言わずと知れた山の神。乗鞍チャンプで登りの力は国内最強。
- 井上選手 ニセコクラシック2位他、最強のフィジカルを持ち和製カンチェラーラのような強さ。
- 松島選手 実業団参戦は最近ながらJPT山口カルストロード10位他急速に力をつける若手。
- 中村龍太郎選手 言わずと知れた全日本TTチャンプJPT表彰台多数で輪界のアイドル的存在。
- 青木選手 全日本選手権16位、田崎選手ニセコクラシック優勝等
などなど、年々レベルは上がりプロツアーで走ってもプロ選手と走れるレベルの選手が多数。ツールド沖縄についてはスプリントの一瞬の力だけで勝てるような甘いレースではないし、当たり前のことだがまぐれの要素はない。今年に関して言えばたぶん私が一番実績がない・・・・(過去の実業団のE1クラスの優勝、入賞回数では最多記録を持っているのではないかと思うが)
なので、私レベルが真っ向から戦ったら勝てる相手ではない。特に高岡さんと井上さんはフィジカルが強すぎるため、後半の消耗戦に入った時も常に頭をフル回転し、行くべきタイミングと距離と相手の動きとポジションを考えながら走ることで、体力を温存させる。
実は今だから言えるが、私が描いていたプランは、おこがましい話しながら井上さん森本さん高岡さんと最終的に私の4人になることを理想的に描いていた。このプランがもっとも勝率が高いと。私には高岡さんや井上さんほどの独走力はないし、置き去りにする力はない。
ただ彼らに置いていかれない走りはできるし、最後の単純スプリントになれば、私のスプリント力が一番高い(うまくはまれば1100wくらい)とも踏んでいた。結果としてその力はボロボロ状態で発揮できず、高岡さんに負けてしまうわけだが、描いた展開にほぼ持ち込んだといえる。
上記の軽量化と持久力の強化に取り組み走りの中での省エネやらの集大成が、最終局面の生き残りにつながったわけだが、考えてみれば200km走ってからの全力スプリントとか一度も練習してなかった。結局やってないことはできないということだ。
ツール・ド・おきなわデータ
コースは205.6キロ 約2500m up
- 2016年 5時間26分 227w NP239w 平均心拍150 平均ケイデンス87
- 2017年 5時間25分 213w NP240w 平均心拍133 平均ケイデンス93
二回目の普久川ダムの登りに入るまでの120キロ 1100UP
- 2016年 3時間7分 平均心拍139 208w NP219w
- 2017年 3時間15分 平均心拍118 188w NP209w
二回目の普久川ダム以降の後半 85㎞1400up
- 2016年 2時間17分 平均心拍166 250w NP260w
- 2017年 2時間9分 平均心拍154 250w NP268w
今年は、前半は北からの向かい風もありペースはゆっくり。後半は追い風に変わり、また気温が昨年と5度以上違っていたかと思うので、暑さによる消耗戦の要素がなくなり、ペースは速い。NPは大きく変わらないけどケイデンスが昨年より6rpm高いことが今年の特徴。また総重量が2.5kg程軽い効果は大きく、最終局面まで残れたのは軽さの要素は大きい。
まとめ:信じるということ
年齢は今年38歳となりスポーツ選手としてのピークは過ぎて、頭に白髪は増え、回復力は落ちてきているけども、やるべきことをきっちりやれば結果は出せると信じている。自らの限界に勝手にリミットを作ることは簡単。才能がないとあきらめることも簡単。仕事や家庭に言い訳をしてやらないという選択をすることも簡単。
これまで数多くのアスリートを目の当たりにしてきたが、共通して言えることは、自分の可能性を信じていることと、不断の努力を続けているということ。体の才能という要素は絶対あるが、潜在力を引き出せば才能の差は一定程度までは必ず埋められる。
私の周りには50歳を超えても結果を出し続ける奈良さんや苗村監督など超人があふれている。また高岡さんも私よりも年齢は上だ。そして森本さんや清宮さんも同い年だ。同じような環境でやれる人もいるのだから、やれない理由はない。
自分の現状を見つめて、足りないものを考え、愚直に行動。失敗しても原因を考え、さらにチャレンジを続ける。一度の挑戦で成功することはまずない。失敗を繰り返して、へこんでは起き上がって、成長していくことを自らが楽しむ。
そして、ともに戦う仲間を大事にすること。そうやって競技を楽しむことが強くなりながら長く続ける秘訣だと思う。
【プロフィール】愛称:まつけん、マツケンサンバ
フルタイムワーカーかつ、2児のパパながら国内のレースで常に上位に食い込んできる国内トップアマ。ロードレース、シクロクロス、マウンテンバイク版ツール・ド・おきなわと言われるSDA王滝100km2016優勝と種目を選ばないオールラウンダー。現在は大阪を離れて東京に転勤中。ひるさいに出没している。松木選手が所属するVC VELOCEは今年発足したばかり。そして、私(当ブログ管理人)も所属するチームでもある。興味がある方はご一報ください。
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