競技を始めたときは20代の若者だった。しかし、気がつけばいつの間にか40代になっていた。世間的には40代はおじさんだ。そして、おじさんになるにつれて、20代や30代の時と同じように走ると強くなるどころか、逆に不調に悩まされパフォーマンスが途端に落ちていくことがわかってきた。
ただ、それを防ぐ方法もある。その内容を自分への戒めとしてまとめた。
とある、最強クラスのおじさんと
先日、おしゃれな若者がたむろする心斎橋のフレンチで、チームの先輩おじさんである松木おじさんと二人で飲んだ時のおじさん同士の会話の内容がベースになっている。いい機会だから、それを書き残しておく。おじさんが強くなるための要点は以下だ。
まず、フィジカル面から。
- 回復を十分にせよ
- 回復に時間を要することを自覚せよ
- 20代や30代の時と同じようにやると逆に後退する
とらえ方によっては後ろ向きで、20,30代の自分が見たら「年齢を理由にした言い訳だ」と、きっと言うだろう。しかし、その時が来たのだ。いまの自分を受け入れていく必要がある。いまこうして、実感している自分がいるのだ。
40代を過ぎると、若いときと比べて回復が遅くなる。昨年まではロードレースのためにCTLを130~140程まであげていた。いま同じことをやろうとすると、単純にオーバートレーニングになって身体がガタガタになる。このレベルのCTLはやっても短期間だ。
目標とする山場に向け、スポット的に年1回程度やるほうがいいだろう。
トレーニングを行った後は回復が必要だ。多くのおじさんがフルタイムで仕事をしているとおもうが、十分な回復を行わなければ、回復不足が発端になって悪循環に陥る可能性がある。例えば、以下のように。
回復不足→目標強度の練習が行えない→弱くなる→自己肯定感が下がる→練習や自転車が嫌になる→次第に自転車に乗らなくなる
以上のような負のスパイラルに陥る。最後は輪界からフェードアウトする可能性がある。だから何よりも回復を優先する。回復を優先させていくことはマストだが、次に問題になってくるのは、おじさんは回復するまでに時間を要するのだ。
以前1日あれば回復していた疲れは、2日休まないと完全に回復しなくなる。
例えば、レースが土曜日の場合、金曜日をレストにするだけの計画で良かった。しかし、今では木曜、金曜と2日空けないと身体がフレッシュな状態まで持っていけない。練習の強度にもよるのだが、「回復には時間がかかる」ということを理解しておく必要がある。
「20代や30代の時と同じようにやると後退する」というは思考と身体のギャップから生じるものだと思う。昔と同じように無理をしていては耐えられない身体になってくる。ただ、思考が若いときのままだと「コレぐらいはやれていた」と思ってしまいがちだ。
だから、無理をせず、身体と相談して適切な負荷を探っていく必要がある。では、どれだけやればいいのかは練習の後の疲労感や疲れといった自分との相談になる。
意外と、ナイーブなおじさん
次にメンタル面だ。これは、私自身が勝手に思っていること、守っていること、いわゆるマインドセットのようなものだ。
- 1つの競技に集中せよ
- あれこれ手を出すな
- 競技人生は短い。やりたいことは今すぐやれ。
- 調子が上がってくるまでには3ヶ月かかる
- 「俺の昔はおじさん」と距離を置く
1つの競技に集中せよ
「1つの競技に集中せよ」は、あれこれ競技に手を出すと「二兎を追うものは一兎を得ず」のように結局中途半端になってしまう。おじさんになると時間も金もフィジカルも限られている場合が多いから、なにか一つに集中して取り組んだほうがいい。
これはエッセンシャル思考のの「一つのことに集中せよ」でも説いている。
あれこれ手を出すな
「あれこれ手を出すな」は一つのことに集中するということと表裏一体だ。
何に目的を定めたら良いか決まっていないときは、方向を見定めるためにあれこれ手を出すのは良いと思う。しかし、一度決めたことに対して突き進んでいる時は、現在の取り組みが中途半端にならないよう、あれこれ手を出さないほうがいい。
もしも、今取り組んでいる目標が、目標でなくなったら、またあれこれ手を出して方向性を見定める方針に変えたらいい。ようは、目的が決まっていないうちは、あれこれ手を出してもいいと思うが、目標が決まったら1つのことに集中したほうがいい。
競技人生は短い。やりたいことは今すぐやれ。
「競技人生は短い。やりたいことは今すぐやれ。」は、3つの理由がある。1つめは今日が一番若いこと、2つめはこの先何年も競技をやれる身体ではないこと、3つ目は機会損失だ。
1つ目は、若いときはどんどん身体が成熟していくから先があるように感じる。高みに登っていく感覚だ。しかし、年齢を重ねると身体はどんどん退化していくだけになる。谷に向かっていく状況だ。
今日よりも明日の自分のほうが強くなればよいが、そう現実は甘くない。緩やかに身体のパフォーマンスが落ちていくことに対してあらがい続ける毎日になる。とすると、今日が一番若い。やるなら今だ。今日のあなたが、一番若い。
2つ目は、この先何年も競技をやれるわけではないということを理解していくことだ。60を超えても走っていたいが、60ともなれば世間的に見ると孫もいるかもしれないおじいちゃんだ。老後のライフプランを考える時期だ。残り時間は見えている。
だからこそ、いますぐやるべきだ。20代の10年と40代、50代からの10年のスピードは圧倒的に違う。私がMTBを始めたのはこれが理由だ。ロード競技を長年やり続けてきたが、MTBもずっと「やってみたいと思っていた」のだ。ただ、思っているだけでは時間だけが過ぎていく。やるなら今しかないと思った。
3つ目は機会損失について理解しておく必要がある。やろうやろうと思っていて、結局やらずに後悔するよりも、「やってみたけどダメだった」というほうが何百倍もマシだ。
これは松木選手も言っていたのだが、「水泳に取り組んでみて向いていないことが今わかってよかった」と言っていた。たしかにそのとおりだと思った。「向いていないことがわかった」という大いなる収穫だ。
10年後のおじさんになってからわかるより、今気付けるほうが何倍も有益だ。早いほうがいい。時間の節約にもなる。むしろ、できるならおじさんよりも若いうちに遠回りしても失敗をするほうがいいのだろう。
話は少し変わるが、宇宙ロケットを飛ばすプロジェクトは難易度が高く失敗が多い。打ち上げに失敗したとしても、「良いデータが取れた次回の良い参考になった」というエンジニアの前向きな言葉をよく見聞きする。
考えかたは、この取り組みに近い。ロケットを飛ばすという行動をやらなければ、何も得るものがない。
まずは行動して、失敗して、そこから何かを得る。おじさんになると、これをやれる回数、なによりやろうとする気力が減ってくる。おじさんだからこそ、まずはやってみることが大事だ。その結果として失敗が大事だ。10年後に失敗するより、今失敗しながらでもいいから、歳を取る前にすぐにやったほうがいい。
調子が上がってくるまでには3ヶ月かかる
「調子が上がってくるまでには3ヶ月かかる」は、若いときは急激に調子が上がってくるが、おじさんになると調子が上がりにくくなる。細胞が入れ替わるスピードが遅くなっているのかは定かではないのだが、調子が上がるのは時間がかかるとハラをくくって、気長に淡々と練習メニューを継続するのがよいだろう。
「俺の昔はおじさん」と距離を置く
あと、おじさんになってくると人間関係も再構築したほうがいい。
おじさんは、おじさんとからむ機会が増えてくる。そうなってくると厄介なのが「俺の昔話を永遠と話すおじさん」だ。この手の人は百害あって一利なしで、縁を切ったほうがいい。「俺の若い頃は~」「俺が選手のときは~」「俺が走っていた頃は~」というワードを聞いた瞬間、にこやかに全速力でにげよう。
その代わりに、今を生きている人、若くて強いライダーと積極的に関わっていく事を心がける。ただ、待っていたとしても、相手からあなたのようなおじさんと関わりを持ってくるはずはないため、自分から積極的にコンタクトを取って行かねばならない。
その時は、相手からすると年上で警戒されてしまうかもしれないが、相手に9割話させ、自分は1割話すようにするといい。そのときも自分のことではなく、相手のことを話題にするといい。
おじさんになると、自分(おじさん自身)の話を聞いてもらう人がペットの犬や猫以外居なくなる。そのため、スキあらば、自分のことばかり一方的に話したくなる。それをやめよう。あなたの話なんて聞きたくない人がほとんどだ。
まとめ:おじさんと向き合うために
ここまでの話は、おじさんになった私が、今でも強くなりたいと思うがために考えた事をまとめた内容だ。しかし、その内容の中身は一見すると、身体機能の後退を食い止めようとする悪あがきのように見える。
もう少し具体的なトレーニングでいうと、Vo2MAX領域を高めるだとか、ウエイトトレーニングを積極的に行うなど様々なメニューがある。私が最も参考にしているのは、ジョー・フリール氏の「50を過ぎても速く!」だ。
名著「サイクリスト・トレーニング・バイブル」、「トライアスリート・トレーニング・バイブル」を世に送り出してきた、ジョー・フリール氏が「ワシも、オッサンになってきたから、オッサンのためのトレーニング本必要や!」と思って書いたのが本書だ。
こちらを参考にしてほしい。
総じて、おじさんになると、今以上強くなることは非常に難しくなる。若い頃と同じ方法では逆効果になる。しかし、それでも強くあり続けたいと思う。
これらをひとつひとつ理解していくと、おじさんが強くなるというのは、決して20,30代の頃の自分を超えることではなく、身体の変化に対応し自身の状況の範囲で最大限に能力を改善し続けていくことにほかならない。
あまり夢のない話かもしれないが、おじさんになると様々な理由で同年代のライバルも減っていくだろう。その中でも競技者として生き残り、おじさんとして自身が続けていくためには、若い頃の考えを捨て、すこしでも身体が動くうちに取り組みをはじめ、無理のない範囲できつい練習をするのがいい。
きわめてシンプルだ。ただ、やるかやらないかはおじさん次第だ。世の中には、「やろうやろう」と思っていて行動に移さない「やるやる詐欺おじさん」のほうが圧倒的に多い。一歩でも踏み出して、行動に移せたのなら、あなたはもう強くなれるおじさんの仲間入りをしている。