最新のエアロ系ロードバイクのどれもが、一体型ハンドルを採用するようになった。理由は単純で、空力性能が高く、軽量化、高剛性化、ケーブルルーティングの効率化など様々なメリットがある。
一方でデメリットもある。一体型ハンドルはステムとハンドルが全てつながっているため、ハンドルの「おくり」や「しゃくり」の調整が一切できない。ポジションのセッティングを細かく行いたい人にとってみれば一体型ハンドルは最悪な機材だ。
そして、一体型ハンドルはサイズのラインナップが非常に少ない。
一体型ハンドルを作るためには、フレームと同じようにサイズ毎に金型が必要になる。ステム長とハンドル幅の組み合わせの数だけ金型が必要になるため、金型の数と償却を考慮すると、製品の価格に転嫁され高額になってしまう。
私自身、SUPER SIX EVOのハンドルを変更しようと様々な一体型ハンドルを探していた。一体型ハンドルのどれもが10万円前後で困っていたのだが、ちょうどよい一体型ハンドルをみつけた。それが今回紹介するEXS CYCLINGのAEROVERだ。
EXS CYCLINGのAEROVERが優れている理由は豊富なサイズ展開と、各社のフレームに合うようにカスタマイズされた専用のパーツにある。AEROVERは大手ブランドのフレームに適合するように、3Dプリンタで製作されたシムが用意されているのだ。
一例ではあるが、TARMAC SL7やSL8、VENGE、SUPER SIX EVO、MADONE Gen7といったモデルに対応している。まるで純正品の部品を使っているのかと勘違いするほど、収まりの良いハンドルに仕上がるのだ。
今回の記事はEXS CYCLINGのAEROVERをレビューする。ハンドル幅が360mmなど幅がせまいサイズもラインナップし、各社のバイクに合うカスタムパーツを製造するなど、ユニークな一体型ハンドルを紹介する。
これこれ、これが欲しかったんだよ。
AEROVERには、TARMAC SL7,8やVENGE、はたまた新型のSUPER SIX EVO、Madone Gen7のヘッドパーツにシンデレラフィットするスペーサーが多数用意されている。純正部品かと見間違うほど違和感がないスペーサーは、3Dプリンタで製造されたものだ。
SUPER SIX EVO用のパーツであれば、デルタステアを埋めるパーツ、ヘッドパーツの台座に合うスペーサーが用意されている。そして、希望のバイクを伝えるとワンオフでフィットするパーツを制作してくれる場合もある。
私自身が注文する際、SUPER SIX EVOでハンドルを使用する旨を伝えた。追加料金なしでデルタステア用スペーサー、専用台座などが無償で制作され同梱されていた。
もちろん、市場に存在するすべてのバイクに対応しているわけではないが、有名どころのバイクに対応するスペーサーはほとんど用意されている。
豊富なサイズ
EXSの一体型ハンドルは様々な長さのステムとハンドル幅が用意されている。ドロップ形状はラウンド形状とトラディショナル形状の2種類から選ぶことができる。ステムとハンドルサイズは以下の通りだ。
- Stem Angle:-10°
- Diameter:31.8mm
- Width:360/380/400/420mm
- length:90/100/110/120/130/140mm
- Weight:290 gram(360-90mm)
冒頭でも記した通り、一体型ハンドルはサイズ毎に金型が必要になる。例えば、ステムサイズが10mm刻みで80mm~130mmまであったとすると6種類、ここからハンドル幅が360,380,400,420,440と5種類あったら、30種類もの金型が必要になる。
そのため、数の出ない幅のせまいハンドルや短いステム長などはラインナップから外れることが多い。しかし、AEROVARは360mmや380mmといったハンドル幅が用意されている。
その理由は、ステムのT字部分、左右のハンドルバーとドロップ部分の3つを分けて、独立した金型で製造する工法が行われているからだ。
この工法であれば、30個以上の金型を用意する必要がない。ステム用の金型、ハンドル用の金型を用意するだけでいい。
一体型ハンドルで幅が狭いハンドルを探してる方は、AEROVARのラインナップを一度確認してみると、ほかの一体型ハンドルには無い好みのサイズがあるだろう。
ドロップとリーチ
最も気に入っているのがハンドルバーのリーチ設計だ。リーチが70mmと短いため、その分ステムの長さも伸ばしやすくなる。ドロップも125mmと使いやすい設計で持ちやすい形状になっている。
これまでの一体型ハンドルは、比較的リーチが長い80~90mm程の製品が多かった。リーチが長くなった分、ステムを短くする必要があるのだが一体型ハンドルの場合は短いステムのラインナップが基本的に少ないのが現状だった。
AEROVARは70mmというショートリーチのためステムの長さを稼げる。AEROVARの設計で最も気に入っている部分だ。
重量
重量の公称値は290gと非常に軽い。肝心の実測重量はどうだろうか。実測重量は291gだ。ステム長やハンドル幅の組み合わせで重量は変わってくるだろう。小さいサイズなら重量は軽くなる傾向にあるが、公称値とほぼ近い重量を期待していいだろう。
剛性
AEROVERは硬い。ほかのハンドルと比べても剛性が非常に高い。
AEROVERをテストしていたショップの知人も同様に硬く感じていた。私は、AEROVARを使う前は剛性が(比較的)低いCANYON AEROADのハンドルやMOMOハンドルを使用していた。そのため、AEROVARの縦方向の剛性の高さをなおさら感じてしまった。もがいても、ハンドルがしなる感じがまったくしない。
エアロ形状のハンドルバーは基本的にトップ部分が扁平した形状のため縦方向の剛性が低くなる。AEROADのハンドルバーのように、縦方向の柔軟性を意図的に持たせたハンドルバーも存存するが、ステアリング周りの機材は剛性が高いほうが好まれる傾向にある。
EXSのハンドルはステム部分が肉厚になっており、「どら焼き」のような形状になっている。コラム部分から前方部分は扇形で肩が張っており、可能な限りステムの太さを稼ぐ設計だ。
アマチュアレベルの人間がこのハンドルをしならせる事は、非常に難しいのではないか。今まで使ったハンドルの中で明らかに硬く感じたハンドルのひとつだ。剛性に関して不満を持つサイクリストは非常に少ないと思う。
エアロ形状
一体型ハンドルの最大のメリットは、ステムとハンドルの継ぎ目がないためエアロ効果が見込めることにある。各社のエアロ系ロードバイクのどれもが一体型ハンドルを採用しているのもそれが理由だ。
AEROVERは4Wの空力改善が見込めるという。肝心の「何と比較して」なのかが明言されていないが、一般的なラウンド形状のハンドルと比較しての結果だろう。この4WというのはスペシャライズドのRAPIDEハンドルと同様の値だ。
数値からわかる事実として、一体型エアロハンドルの空力性能はどれも似たり寄ったりになってきている。UCIのレギュレーションの限られた範囲で、薄さと剛性を天秤にかけながら最適化していくと、似たような形状と重量にたどり着いてしまうのだろう。
VENGEのローンチの際、開発者のキャメロンさんから空力の話を伺った際も、風が初めに衝突するタイヤやホイール、そしてハンドルバーの空力が、バイクシステムの空力性能に多大な影響を与えているという話をされていた。
EXSのハンドルは中央のステム部分が盛り上がっているが、ハンドルバートップは丸みを帯びた楕円形で構成されている。エッジ部分もエアロフォイル形状になっているため空力性能を追及していることがうかがえる。
ケーブル内装化
EXSのハンドルはケーブル内装化にも対応している。SUPER SIX EVOのデルタステア系のケーブルルーティングにも対応しており、ハンドルトップからステムを経由したホースをフォークコラム経由で配線できる。
レバー付近の内側にケーブルの挿入口があり、ハンドルトップの下部に1か所目の排出口、ステム内部を通りフォークコラム側に抜ける2か所目の排出口が用意されている。
ケーブルの配線は誘導しやすく通しやすい構造になっている。配線等は基本的にプロショップに任せたほうが良いが自分でも通せる構造だ。ホースはハンドル内部で暴れてカタカタと音が鳴ることを防ぐため、緩衝材やクッションを入れておいたほうがいいだろう。
実際にくみ上げるときに緩衝材を入れなかったため、ハンドル内部でカタカタと音が鳴ってしまう問題が発生した。ホース類のバタつきを抑える対策はしておいたほうがいい。
サイコンマウント
サイコンのマウントは各メーカーに対応した部品が用意されている。
マウントの台座付近は空力を意識しており、ステム部分にぴったりと合うように設計されている。マウントするサイクルコンピューターを正面から見ると、ハンドルとツライチになるように設計されている。
マウントの台座の角度調整は実質不可になっている。デフォルトの状態でもサイコンが見にくいということはないのだが、太陽の光がディスプレイに反射して画面が見えないことがあった。初めは違和感があったが、次第に慣れてくると思う。
GarminEdge540でも十分に余裕があるため、もう少し大きなサイコンでも取り付けられるだろう。
インプレッション
EXSCyclingは中国のブランド、中国製ということもあって色々と心配だった。というのも、中華ブランドのサイクルパーツは玉石混交の状況にあり粗悪品が多い。さらに模倣品が多いばかりでなく、カーボン製品といえど張りぼてのような製品も多く、使用すること自体が危険な場合がある。
という前置きをしつつ、EXS Cyclingのハンドルは品質面の心配は全く持って不要だ。作りも仕上がりも一流ブランドの製品と遜色がない。ロゴをROVALに変えて「新しいROVALハンドルだ」と言われたとしても誰も疑わないだろう。それほどよく作られているのだ。
私はEXSのハンドルをSUPER SIX EVOに取り付けている。EVOで使用する旨を購入前に伝えたところ、デルタステア用の専用シムとEVO専用ヘッドカバーを同梱してくれた。同社はハイエンドバイクに合うシムやスペーサーを独自開発しており、購入者毎にきめ細やかな対応をしている。
ハンドルを購入前に、使用する予定のバイクを伝えれば適合するパーツを作ってくれるはずだ。ステムのコラム径はジャイアントやキャニオンで採用されているオーバードライブ規格のため、通常のフォークコラムよりも一回り大きな設計になっている。
標準的なコラム径にAEROVARを使用する場合はシムを入れる必要がある。Amazonでスペーサーが売っているので別途購入すればよいだろう。
設計や剛性面に関してはここまでの解説で詳しく述べたとおりだ。ハンドルの剛性感は十分過ぎるほどで、硬すぎて路面からの振動がもろに伝わってくる。この特徴から、不快なハンドルに感じてしまうかもしれない。
剛性の高さは、隆起したステム部分の厚みによるものなのか、それともカーボンの積層を厚めにしたものなのかは定かではない。剛性に関しては不安に思うことはないだろう。むしろ、剛性が高すぎてEXSのハンドルを避けるライダーがいるぐらいだ。
ハンドルの剛性は高いが、バイク全体の総合的な剛性はタイヤと空気圧が支配的になる。そのため、タイヤの空気圧を低めにする、ボリュームのあるタイヤを使用する、といった対策をとるのが良いかもしれない。自分の体重やライディングスタイルに応じて適宜チューニングするのがいいだろう。
重量に関しては一体型ハンドルとしては比較的軽量だ。フレームがそうであるように、重量と剛性はトレードオフの関係にある。AEROVARは剛性とのバランスが取れた重量に落ち着いているように思う。
AEROVARを選んだ理由はいくつかあるが、最大の理由はハンドルバーの設計だ。ハンドル幅が360mmや380mmといった幅が狭いラインナップがあること、ステム長が豊富であること、ドロップバー部分がフレアしていること、ショートリーチであることなど、私が理想とするハンドルの形だった。
エアロ性能に関しては、ほかの一体型のエアロハンドルバーと比べて空力性能が良いだとか、悪いだとか明確な違いは感じられなかった。最近のどの一体型ハンドルであっても、レギュレーションの範囲で最適化せねばならず、似たような翼形状に行きついているのも原因のひとつだろう。
EXSのハンドルもその例にもれず、似たり寄ったりな形状になっている。ROVALのハンドルほど前方向に突き出しておらず、どちらかといえばCANYONのAEROADのハンドルバーに近い形状だ。
問題は価格だ。450ドルで日本円にすると67500円前後になる。価格は必ずしも安いとは言えず、何万円もするハンドルであるためポジションが出ていなければ買いにくいだろう。
サイズ展開の豊富さは良いのだが、売り切れている場合が多い。そのため、価格に納得し好みのサイズがあればラッキーだ。本数も少ないためすぐに購入したほうがいいだろう。
まとめ:サイズ展開が豊富で高剛性な一体型ハンドル
EXECyclingのAEROVERは豊富なサイズ展開と高剛性、そしてカスタムパーツが非常に充実している一体型ハンドルだ。価格は高いが、450ドルと一体型ハンドルとしては比較的安い。
最近人気のハンドルの幅がせまい360mmや380mmのハンドルもラインナップしている。ドロップバーの形状は2種類あるので好みに応じて選べばいいだろう。
AEROVARの最大の特徴は、様々なフレームに対応するカスタムスペーサーの存在だ。すべてのフレームに対応しているわけではないが、購入前にフレームのモデルを伝えれば制作してくれる可能性がある。実際のフィット感は純正品と見間違えるほどの出来だ。
AEROVARは、一体型ハンドルとして十分な剛性、豊富なサイズ展開、フレーム毎に対応したスペーサーなど抜かりがない。価格は必ずしも安いとは言えないが、製品の品質や作り込みの良さを見ると価格は妥当だと思う。
これから一体型ハンドルを使おうと思っている方、一体型ハンドルのサイズに満足していない方はAEROVARが最適解になるのではないだろうか。一体型ハンドルを選ぶのなら、AEROVARが有力な候補になることは間違いない。