GT-ROLLER Q1.1 インプレ 4本ローラーが導く室内トレーニングの未来

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冬の厳しい寒さも和らいだ3月下旬、私は河川敷を走っていた。春の訪れも感じられるようになり、川辺に目を移せば、子どもたちが川に石を投げ入れて遊んでいる。穏やかな気候の中でどこまでも続く河川敷を走りながら、ふと、こんな想像をしていた。

「もしも、永遠に走り続けられる道があったのなら」と。

誰もが望む、止まる必要のない道。ただ、河川敷に感じていた「どこまでも続く」という表現は、少し違うのだろう。河川敷の走りやすい道でも、いつかは終わりを迎える。道の行き着く先には、いつも車で通る幹線道路がつながっていて、そこからまた無機質なアスファルトがどこまでも続いている。

舗装路を速く走るために生まれたロードバイクは、人間が生み出した交通ルールの中で手足を縛られ、環境の規制を受ける。そして、走り続けることを阻まれる。当然のことだが、よくよく考えてみれば無駄に時間をやり過ごしているだけだ。

外を走るという行為自体が、ありとあらゆる自然環境から影響を受ける。不便さを解消するためにわたしたちは、室内で使えるローラー(自転車を室内で使用できる器具)を生み出したはずだった。ローラーさえあれば信号だとか、雨だとか、余計な外的影響を受けずに走り続けることができる。

コレさえあれば、ありとあらゆる環境下に置かれた、すべてのサイクリストが、いつでも室内で自転車を走らすことができる。

ただ、ローラーで再現できる実走感は現実とは程遠い―――。

ローラーに乗る行為は苦痛である。大部分のサイクリストがそう思っているように、私もそうであることを否定しない。私たちは天候が悪い梅雨の時期や、寒くて凍えそうな気温の中、自然環境から逃れるためにローラーを選択したはずだった。

しかし、ローラーを使ったトレーニングの取り組み状況はどうだろう。淡い期待と希望をもって、全天候に対応できるトレーニング環境を手に入れた実際の結果は。

私たちは、物事を進めていくうちにさまざまな不満を漏らす。「外を走っている実走感がない」だとか「景色が変わらない」と。おいしい空気が吸えないといったさまざまな不平不満を述べ、行き着いた先には ”だからローラーは退屈なのだ!” と。

もともと、人間とは自分に都合よく物事を考えてしまう生き物なのだ。私たちは、走り続けることを妨げる信号だとか、悪路といった環境に対して不自由を嘆く一方で、走るために必要な理由もまた「環境にある」と嘆くのである。

しかし、今回紹介するローラーの登場により、都合の良い言い訳はもはや意味をなさなくなる。このローラーで得られる体験は実走感そのものなのだ。今まで他のローラーで体験してきた感覚とは全く異なるのである。

そのローラーを開発したのは、日本の技術者集団グロータックである。先般の記事「GT-Roller Flex 3 インプレッション 優れた設計思想を備えた本格ローラー」でもご紹介したとおり、今まで存在しない強烈なプロダクトを生み出している。そのグロータックが満を持してリリースしたのが、今回ご紹介する4本ローラーGT-ROLLER Q1.1だ。

4本なんて、たかが3本ローラーから1本増えただけじゃないか、とタカをくくられてしまうかもしれない。しかし、それらの考えを一掃し、納得できる説明と実体験を元にした記事を書く。ここまで私が書くには理由がある。日々、室内トレーニングに勤しむサイクリストにとって、この機材を知らないこと自体が、機会損失になりうるからだ。

今回は独自の「4本ローラー」を備え、自宅に「永遠に続く道」を作ることを目的としたGT-ROLLER Q1.1について迫る。

前半は「設計思想」を追い、中盤は「機能」に迫る。終盤は実際に6か月間使用したインプレッションを記す。ローラーの騒音や、トレーニングの負荷といった重要な機能だけ知りたいだけであれば、後半から読み進めていけばよい。

ただ、なぜ4本ものローラーが必要なのか、そしてこのローラーが本当に必要な機材なのか判断がつかない場合は、順に読み進めていただきたい。本記事はおよそ3万文字で構成されている。一度で読みきれないと思いますので適宜ブックマーク等でいつでも戻ってきていただきたい。

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道を作るという挑戦

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グロータックは道を作ろうとしている。わたしが河川敷で思い浮かべていたような永遠に終わらない道を。ただ、室内と室外では環境条件が異なる。室内であれば空から雨なんて降ってこないし、信号で停車する必要もない。

室内という環境下では、空気を切り裂きながら自転車が進んだり、踏み込んだ力で加速(後ろに引っ張られるような感覚)もない。実走のようにハンドルを切り傾きながら曲がったり、坂に行けば体重に比例して進みづらくなったりもしない。

ローラーという限られた構造の中で、実走で起こりうる様々な物理的な動作や原理を真似ようとするのだ。単純に4本のローラーをつなげて「ローラーできたよ!」という安直な考えだけでは、実現したい動きに到達などしない。

設計思想が根底にあり、そこからプロダクトへ落とし込んでいく。前提として「モノ」が先に存在するのではなく、「設計思想」が先に存在する。4本のローラーがそれぞれ綿密に連動して、なし得たい「自転車とローラーが融合したうごき」をプロダクトに落とし込む。という気の遠くなるような挑戦なのである。

そもそも3本ローラーは実走感覚とは程遠い―――。もしも3本ローラーを「実走に近づける」と目標を定めた場合、どのような要素が必要になるのだろう。グロータックは「実走感のあるローラー」に必要な条件を以下のようにまとめている。

  1. 屋外と同等のハンドリングができる
  2. 超低速から高速まで安定して走行できる
  3. 登りを坂を再現できる
  4. ダンシングができる
  5. 前後の荷重移動に対応できる

上記5つを定義している。条件を実走におきかえると、あたりまえの動作だ。ところが、当然であるがゆえに文章レベル、もしくは説明レベル、はたまた製品レベル(一番大変だ!)にまで落とし込もうとすると、話は大きく変わってくる。

「物理動作」を開発者が理解し、使う人たち誰もがを感じ取ることができ、理解できる製品として到達せねばならない。

実際に起こっている物理的な事象を理解するためには、私たちに伝わってくる表現が抽象的であってはならない。実走で起こりうる物理的な事象を理解し、ローラーで忠実に再現するのだ。設計思想を支える根底には、「自転車が進む」という物理的な動作をまず理解しなくてはならない。

そのためにはどのような構造が必要になるのだろうか。GT-ROLLER Q1.1の作り込まれた「4本のローラー」という構造をさらに深掘りしていく。

なおこの思想部分について深く追求した記事は以下を参照してほしい。

GT-Roller Flex 3 インプレッション 優れた設計思想を備えた本格ローラー
誤解を恐れずに言わせてもらうと、製品を売る際「プロモーション」や「販売促進活動」といった「見せ方」の部分はとても重要な事だと思わされる。いまさらなぜそんな事を私が言うのか?と不思議に思われるかもしれない。その理由は今回紹介するGT-Roller Flex3を使い考えさせられたからだ。 GT-Roller Flex3は私の知る限りWEBメディア等、プロモーション活動が行われていないため「得体のしれな...
Impression of the GT-Roller Flex 3: Rollers with an excellent design concept
Even at risk of being misunderstood, I must say that when selling a product, I have been made to feel that the “way it is introduced,” such as promotions and sales campaigns, is important. You may fin...
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4本ローラーの意味

「なぜ4本ローラーなのだろう?」

私は、こんな疑問を抱いた。この記事を読んでいただいている多くの読者も「4本のローラー」の存在に、漠然とした疑問を持たれているのかもしれない。この疑問の根底には、当たり前の機材として長らく君臨している3本ローラーの存在がある。

私たちが知っているトレーニング用のローラーといえば「固定ローラー」と「3本ローラー」の2種類だけだった。そのような状況下で「4本ローラー」が登場したのだから、必要性や利点、我々にもたらしてくれる恩恵を、知りたくなるのは当然である。

まずはその手がかりを探すために、私は4本ローラーに関するグロータックの技術資料を読み漁った。グロータックという会社の良いところは「こんな機能があります!」だとか、「最新機能はこれです!」といったような「何」を発端にしたアプローチをしない。

グロータックがプロダクトを生み出す根底には「設計思想」が必ず存在している。自転車メーカー数あれど、特にこの核となる部分を明確に定義している企業だ。さらに技術者目線で面白いのは「設計のキモ」を惜しげもなく公開している点である。

ユーザーが製品を使うための説明書ではなく、開発者観点で製品が生まれるに至った経緯や、製品の肝となる設計部分を公開している。一見すると、とても興味深い資料なのだが、私は少し心配になってしまった。製品の細かな作り込みや、構造まで詳しく説明する資料なのだ。ライバル企業が逆手に取って「真似されたらどうするのだろうか?」と。

しかし、余計な心配なのかもしれない。グロータックは自信があるのだ。他を寄せ付けない技術力と開発力で、簡単に他社が追従できない製品を作り上げている。実際にプロダクトに触れさえすれば感じられることだ。何より彼ら自身が自信を持っているに違いない。

さて、今回のGT-ROLLER Q1.1は公開されている設計書からさまざまな情報(とても興味深く有用な)を拾い上げることができた。実はこの詳細な情報は、製品を使う上で全く必要のない情報である。しかし、知っていると知らないとでは、これから体験していく乗車感覚に感動できるか、そうでないかが分かれてしまう。

GT-ROLLER Q1.1上で得られる素晴らしい体験をワンランク上の素晴らしいものにするために、製品が生み出された経緯や、今まで当たり前だと思っていた3本ローラーの既成概念、そして自転車という乗り物の動作を資料から拾い上げ、まずは一つ一つおさらいしていく。

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3本ローラーと自転車の相性の悪さ

そもそも3本ローラーという構造と、自転車という乗り物自体の相性が悪い。実は、私自身も3本ローラーが乗りづらいと感じつつも、なぜ乗りづらいのかよくわかっていなかった。3本ローラーという乗り物に乗ると、途端にステアリングがシビアになり、扱いが難しくなるものだと漠然と思っていた。

ただ、グロータックの技術資料を読み進めていくと、この「よくわからない違和感」の存在は、ノドに突き刺さっていた魚の小骨が取れるかのようにすっきりと流れた。漠然とした感覚が突然表に現れ、ぼやけていた輪郭が徐々に見えてくる。

3本ローラーで起こっていた「よくわからない違和感」はグロータックの資料の中で具体的に説明されている。インドアと野外で同等の走行フィーリングが得られないのはナゼなのだろう?その原因の手がかりを探るためには「自転車の基本」を押さえておく必要がある。違和感に関係していた要素は以下の3つだ。

  1. トレール長
  2. タイヤ接地間の長さ
  3. 加速と減速

まず1つ目のトレール長から見ていこう。トレール長の違いは自転車にどのような影響をおよぼすのだろうか。

Copyright(C) GROWTAC 2016.

トレール長と直進性 Copyright(C) GROWTAC 2016.

端的に言えば、トレールが長いと直進性が増す。逆にトレールが短いと直進性は減る。なかなかイメージが湧きづらいが、アメリカンバイク(エンジンが付いた)を想像するとイメージがつかみやすい。無駄にフロントホイールが前に張り出したバイクは、いかにも交差点で曲がりにくそうだ。

ただし、その直進性から微妙なハンドル操作を必要とせず、大味なハンドル操作になる。少し話は脱線してしまうが、唯一女性用の小さなフレームサイズでキャスター角やトレール量をしっかりと設計しているのが「アンカー」だ。「ANCHOR TECH NOTE:フレーム設計思想」からも読み取ることができる。

タイヤ接地間の長さ Copyright(C) GROWTAC 2016.

先程のトレールという構造を理解した上で、実際にハンドルを切ると何が起こるのかを見てみよう。ハンドルを切ることでタイヤの接地長がプラス方向に変化し、わずかながらタイヤ接地間の長さが変化する。ハンドルを切る前のハブ~ハブ間にあったタイヤ接地面の距離は、ハンドルを切ることで5cm~6cmほど変化する。

一見すると我々が気づきにくい動作(結果的に3本ローラーへの違和感へつながる)動作は、後に説明する3本ローラーと自転車の相性に深く関わってくる。したがって、現段階では動作の1つとして覚えておきたい。

?転?の加速と減速 Copyright(C) GROWTAC 2016.

もう一つ自転車の特徴的な動作といえば、加減速を繰り返しながら進むということだ。加減速が発生する理由の1つとして、ペダリング時のトルクのムラが影響している。人間が行うペダリングという動作の特性で、クランクが3時付近で最大トルクを迎え、上下死点ではトルクが最も小さくなる(相対的に)。

一見すると自転車は等速で進んでいるかのように見える。しかし、非常に小さな加速と減速を繰り返しながら進んでいる。ペダリング時のトルクのムラにより、この微妙な加減速はより顕著になっていく。

ではここまで3つの自転車の動きや仕組みを理解した上で、3本ローラーでペダリングを行うと、どのような影響をおよぼすのだろうか。まずは、先程一つ目に確認した「トレール長」と3本ローラーの相性から見ていく。

自転車の設計を無視したトレール量 Copyright(C) GROWTAC 2016.

上図は、自転車の前輪部分と、3本ローラーの前方部が設置していることを表している。先程トレール長について「長い=直進性が大きい」「短い=直進性が小さい」という原理を述べた。3本ローラーは自転車のサイズによってローラーの調整も可能であるが、前方のローラー(ローラー部)の位置は、どれもわずかにハブよりも前方に位置している。

もしも、ローラーの軸と自転車のハブ軸が垂直に設定してしまった場合はどうなるだろう。先程の「加減速」の原理からローラーを乗り越えてしまい脱輪してしまう(いわゆる発射する)場合がある。3本ローラーは構造上、前方に位置したローラーが、やや斜め下からタイヤを支える。結果「斜めに接地=トレール量が短い」という図式になる。

先程のトレール長の解説の図を見返してみる。屋外走行時はもちろん地面と垂直にタイヤが接地している。登坂時も同様だ。ただし、3本ローラーという独特な構造上、斜めからタイヤを支持しているから、この差が「違和感」として、シビアなハンドリングを生む。

また、斜めからタイヤを支持しているわけだから、フロントホイールは内側に落ち込む力が常に発生している。3本ローラーを乗られている方はご存知かもしれないが、ハンドルを思いっきり切ってしまうと、フロントホイールは内側のローラーに吸い込まれるように落ちてしまう。

体験できる原理は簡単なのだが、厳密に動作を理解すると自転車の構造と3本ローラーの構造それぞれが合わさり、なんとも言えない違和感を引き起こしている。さて、カンの良い方ならこの図の「トレール量が短くなる」や「落ち込む力」を改善するためにはどうしたら良いのかうすうすお気づきかもしれない。

「1つのローラー」が斜め下から不安定にフロントホイールを支えている。この原理から「もしも、もう一つローラーを増やして支えたら・・・」と想像できたのなら、あなたはいよいよ核心に迫りつつある。

ただ、結論を急ぐのはもう少し待ってほしい。映画でもエンディングの感動は、途中(しばしば間延びした)のストーリーに左右されるように、もうすこし3本ローラーのストーリーを我慢して見つつ、次第に訪れるエンディング「4本ローラー」に近づいていきたい。

というわけで先程も確認した自転車の「前後移動」と3本ローラーの関係についてだ。

自転車の前後運動の影響 Copyright(C) GROWTAC 2016.

人間がペダリングを行うことで、自転車は前後に微妙に加減速を繰り返す。進むという動作を注意深く観察すると、速度が上がっていく中でも加速と減速を繰り返している(進む力のほうが大きいので、減速は無視できるほどに小さいが)この動作を3本ローラーで行った場合を見ていく。

結論から言ってしまえば、3本ローラーという構造(檻)の中では、この「加減速」の逃げ場がなくなる。どういうことだろう?上図を確認してほしい。先程のフロントホイール側の固定されたローラー部は、斜めからフロントホイールを支えている。リア側はどうだろう。そこでリアホイール側に目を移していく。

リアホイールは2つのローラーに挟まれ、ホイールの行き場はない。見かたを変えれば、固定されているようにも見える。3本ローラーは一見、自由度が高いようにも見えるが、原理的にはすべてが固定されている牢屋(ローラーと発音が似ている!)なのだ。その限られた範囲で、前後に加減速を繰り返す自転車という乗り物を使うと何が起きるだろう?

まるでシャクトリムシのように、ぎこちなく、カクカクと前後に動くはずだ。

3本ローラーを初めて乗ったときを思いだしてほしい。前後にせわしなく動く自転車をコントロールすることに恐怖を覚えたはずだ。自転車は3本ローラーで加速をするたびに、前方のローラーを「乗り越えよう」とする。しかし、先ほど説明した内側に「落ち込む力」が働き、自転車は元の位置へ戻される。

シャクトリムシのように動いてしまうのは、ペダリング時のトルクのムラがある証拠だ。「グイン、グイン」とペダリングをする人ほど、この傾向が顕著に表れる。そうするとギクシャクしたバイクの挙動を助長してしまい、落車の危険性が高まってしまう。

ただし、この違和感は好ましくないペダリング動作を浮き彫りにし、改善に気づけるというメリットにもなる。見方を変えてこの事象を観察するとスキル改善の手がかりとして扱うこともできる。

ここまで話した自転車と3本ローラーの相性の悪さは、1つの気づきも与えてくれる。ペダリングが下手くそだと、より顕著に挙動がおかしくなるのは明白だ。ということは、前後にせわしなく暴れる自転車をコントロールすることができれば、結果的にきれいなペダリングができているということにもつながる。

「3本ローラーに乗るとペダリングがキレイになる!」と、たった22文字で言うことは簡単なのだが、厳密に説明すると、ここまでおよそ原稿用紙3〜4枚は消費する。さて、この自転車と3本ローラーの相性が理解できたところでいよいよ次の話だ。先程少しばかり先回してフロント側にもう一つローラーを・・・。

と考えるのは確かに核心に近い。しかし「前後の加減速」や「落ち込む力」といった動作を、ローラーを1つ足しただけの4本ローラーで実現できるのだろうか?答えは徐々に明らかになっていく。

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4本ローラーの誕生

グロータックがGT-ROLLER Q1.1を生み出す際に掲げたことは、「部屋に道を作る」というテーマだった。GT-ROLLER Q1.1は、私たちが見たまま受け取ってしまうような、ただの「珍しい4本ローラー」ではない。掲げた思想をプロダクトに落とし込んだその結果が4本ローラーだった。

ただ、ここで改めて確認したいことがある。設計思想を元にプロダクトとして到達した結果が「4本ローラー」だとしても、そもそもローラーが本当に4本も必要だったのだろうか。3本ローラーがここまで市場に出回っている以上、3本ローラーで十分ではないのだろうか?

疑問は、先程確認していった動作と合わせ、さらに設計仕様を読み進めていくと次第に明らかになってくる。GT-ROLLER Q1.1というローラーのすべての構造には理由がある。その一つ目「自転車の設計を尊重する」という観点から、トレール量を考慮したローラーの設計を探っていく。

自転車の設計を尊重する Copyright(C) GROWTAC 2016.

まず3本ローラーから1本増えた箇所は、フロントホイール側だ。4本ローラーという乗り物は、フロント側に増やされた1本のローラーがさまざまな恩恵をもたらす。まずは、この追加された1本のローラーが存在することで、どのようなメリットが生まれるのだろうか。

先程の原理の中で確認した、トレール長の特徴といえば、トレールが長いと直進性が増し、逆にトレール長が短いと直進性は減る(クイックになる)。3本ローラーの場合、フロントホイール側に設置されたローラーは、斜め下からフロントホイールを支える構造だった。

この構造は、結果的にトレール長が短くなり、直進性は乏しくなってしまう。さらに、内側に落ち込む力(斜め下から押さえ込んだ力)が発生し、急なステアリング操作をした場合、フロントホイールが手前に落ち込んでしまう欠点があった。

その欠点を補うため、そして本来得られる自転車を走らせるのと同じ操作感覚を得るために、いよいよ4本目のローラーの出番である。

フロントホイール側を支えるローラーは合わせて2つだ。その間にすっぽりと収まるようにホイールが位置している。2つのローラーはそれぞれ斜めから2点で挟みこむようにタイヤを押さえつけているが、ちょうどローラーとローラーの中間にハブセンターが位置している(上図参照)。

このローラーとホイール中心の位置関係から、自転車本来あるべき設計とおりにトレール長を再現できる。本来のトレール長を崩すことなくローラーで自転車を走らすことができるので、操作感覚だけでいえば、実走とまったくそん色ない操縦感覚を得られる。

ローラー1つだとトレール量が短くなってしまう。しかし、フロントホイールを2つのローラーで支えるため、従来のトレール量をそのまま再現できるのだ。もう一つ、このフロントホイール側の2本のローラーは別の恩恵をもたらしてくれる。直進力の再現である。

直進力の再現 Copyright(C) GROWTAC 2016.

4本目のローラーにおけるもう一つの恩恵といえば、直進力の再現である。ライディング中を想像してほしい。ローラーに対してホイールが斜め(ステアリングを切った場合)になった際、2つのローラーがホイールを元の真っ直ぐな位置に戻ろうとする。

この原理のおかげで通常の3本ローラーのように、スルスルと外にフロントホイールが追いやられるような動きをしにくくなる。2箇所の接地点は、ホイールが直進方向に戻るように補正してくれる。ローラーが回転する方向と、ホイールが回転する方向を常にととのえてくれるのだ。

このフロントローラー側に配置された2つのローラーの特徴は、それだけではない。自転車が前後に小刻みに動く動作に追従するようにローラー自体も柔軟に動作するのだ。

こちらの図はフロントホイール側のローラーを横から見た図である。自転車は人間がペダリングすることにより小刻みに前後に動く。体重が乗り、タイヤには一定の圧がかかっている。加速したときにホイールはローラーを乗り越えようとするだろうし、わずかながら前後に体重移動も繰り返される。

この動きをうまく「いなす」ために接地圧をコントロールする機能が働く。構造としては、フロントホイール側のローラーを支えるように、黒い頑丈なエラストマーが仕込まれている。一見すると全く動く気配がないが、人間が自転車に乗りながらバイクを操作すると絶妙な加減で動作する。

しかし、注意深く観察していないと動作しているか、機能しているのか、判別できない。それほどフロントローラー部分は違和感のない動きをするのである。柔らかすぎては気持ち悪いだろうし、逆に硬すぎては動きを「いなす」ことはできない。乗車感覚を再現するために、グロータックが施した絶妙なチューニングの賜物なのだろう。

このため、フルモガキしても発射してしまう不安はない。エラストマーが接地圧を均一にコントロールし、元に押し戻そうとする復元力で車体を安定させている。この機構はフロント側に施された機構であるが、実際にはリア側にも施されている。

車体は前後に小刻みに動くのだから、リアホイール側への対応も当然必要になってくる。実際にリア側に仕込まれたローラーも車体を追従するように動作するのだが、実際にどのような構造を備えているのだろう。

リアホイール側に仕込まれた特徴的なの機構は「スライドするローラー」である。イメージとしてはイーモーションよりもおとなしく前後に動く(というよりも必要な分だけ動く)ローラーだと思っていただいて結構だ。

基本的な動作は、リアホイールに追従するようにローラーが前後に動作する。実際にペダリングしている間、このリアホイール側のローラー2つの動作は、違和感がなさ過ぎて本当に動作しているのかわからない。しかし、「違和感が無い」というのは重要で、3本ローラーに乗り換えると前後の窮屈さをやはり感じてしまう。

私の想像なのだが、このあたりの「違和感の無さ」はグロータックが何度もチューニングしたのではないかと推測している。4本ローラーという構造を作り上げたあと、人間が感じる「違和感の無さ」に近づけるため、各部品一つ一つを調整していく。

気の遠くなるような作業だが、おそらくこのチューニング部分がキモになってくるのだろう。

人間のペダリングはトルクにムラがある。結果的に、自転車が前後に動くことは避けられない。3本ローラーは一見すると自由度が高い(固定ローラーと比べてだが)のだが、実際は固定ローラーの限られた範囲で、いかに前後動作を少なくトルクのムラが無いペダリングするのかを試される。

3本ローラーは、確かにトルクが均一であるかのペダリングスキルの良しあしをあぶり出すことができる。体験できる形で、スキル面の足りなささを知ることができる。ローラー、ホイール、スプロケット、チェーンリングは円運動をしているが、人間の脚は円運動ではなく縦運動である。

ペダル、クランク、チェーンリング、チェーン、ギアが一体化したピストバイクで3本ローラーを乗る行為は、ペダリングスキル向上に一役買うと言われている。ピストバイクで高ケイデンスで回したとき、3本ローラーをつなぐゴムがいかにバタつかないか、その一点でペダリングのムラを判断できる。

ローラーのメリットを何に置くかは、人それぞれ違うので一概に4本ローラーの構造が良いとは言い切れない。ただし、私の場合は4本ローラーでも十分にペダリング改善のための試行錯誤をおこなえている。なにより「長時間乗っても飽きない」というメリット(一番重要)も受けている。

話はややそれてしまったが、ここまで紹介した一つ一つの4本ローラーの構造は自転車の本来の動きを尊重し、妨げることのない、今までに存在しなかった画期的な構造なのである(E-motionもフロント側ローラーのトレール長問題が解消できれば、GT-ROLLER Q1.1により近づくことができるだろう)

4本ローラーの構造が理解できたところで、いよいよ実際に使って気づいた点を記していく。原理や構造は素晴らしい。しかし、人間の感性まで揺さぶらなければ机上の空論にしかすぎない。また、構造自体をどのように実現したのか一つ一つ見ていく。

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GT-ROLLER Q1.1

話は少し逸れるが、私が使っているTIMEというブランドのフレームは、数値上の剛性値(N/m)が優れていたりだとか、エアロダイナミクス(CdA)が優れているフレームではない。にもかかわらず、その価格は他のメーカーよりも高額だ。

不思議なのは、そんなフレームメーカーに熱狂的な「TIME信者」だとか、他メーカーのフレームに浮気したとしても、またTIMEに戻ってくるユーザーが大勢居ることだ。

なぜだろう? その理由のひとつとしては「製品としてのつくりの良さ」がある。ひとたび手にしたらわかる、あの独特の作りの良さ。フランスの工場で職人たちが一つ一つTIMEフレームを生み出す。TIMEというメーカーは一本のカーボン繊維から、一つ一つの部品を作り上げ、一つの「TIMEフレーム」という作品をつくり上げる。

製作の手間や、丁寧な作りこみが製品に反映され、実際に使用するユーザーにまでその想いが届く。この事実は長い年月をかけてユーザーたちへ次第に浸透し、大金を出してでも欲しいと言わせるフレームを作り上げている。なぜこんなことを書いているのかと言うと、今回取り上げているGT-ROLLER Q1.1も同じ印象を受けてしまった。

「実際に使用するユーザーにまでその想いが届く」という、TIMEフレームに感じた感覚は、グロータックの「設計思想」と製品で実現したい想いをユーザーが感じ取れる領域にまで達していた。

確かにGT-ROLLER Q1.1は他社メーカーのローラーよりも高額である(この点については後ほど話す)。しかし「ただの値段が高いローラー」という思い込みを受けてしまっているなら、本記事を読み進めていく中でその思いを一掃してほしい。

GT-ROLLER Q1.1の細部に使われている一つ一つの部品、使われている素材、その作り込みの精度たるや、素人といえどひと目で良さがわかるほどだ。ローラー1つの精度にしても間違いなく他のローラーとは一線を画する。ではどのような部品と構造で構成されているのだろうか。

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フレームボディーと剛性

GT-ROLLER Q1.1は数値で表すと非常に薄い。その厚みはわずか10cmだ。だから一見華奢に見えてしまう。しかし、実際に使ってみるとそんな不安は全く無くなってしまう。むしろ重厚感の塊のような感覚を受け、ドシッとした重みも受ける。その重さが相まって、走行中の安定感は非常に高い。

自転車フレームのたわみは感じられるか感じられないか微妙な領域なのだが、ローラーのたわみはわりと感じられる。特にプラスチック製のローラーの場合その「ヤワさ」が顕著に感じられる。

某海外メーカーの3本ローラーはフレーム部がプラスチックのため、ペダルを踏み込むと、ローラーを支えるフレームがたわんでしまう。フレームがプラスチックの場合、もがくと微妙にひずむので回していても安定感に欠ける。

しかしGT-ROLLER Q1.1の場合は、全体を構成するフレームの素材が金属で構成されており、とても頑丈である。また、接続部のビスは緩まないようにスペーサーが一つ一つ入っており、頻繁に折りたたみを繰り返してもビスが緩む気配はない。

私は、ローラーのゴムが経年変化で伸びないように、乗車するときだけフロント側のローラー部を地面におろしている。そうすることで未使用時はゴムが緩み、トレーニングをしていない間(この時間が一番長い)はゴムのテンションを緩めておける。このように、トレーニングの都度何度も何度も上げ下げしても、ビスが緩んでくる気配はない。

どうしても、可動部は動かすことでだんだん緩んできたりビビリ音が発生したりする。このローラーに関してはそのような心配は皆無だった。

頑丈な金属部分のフレームと、緩む気配のないビスで構成されたGT-ROLLER Q1.1は高強度(または高回転)のトレーニングをしたとしても、全く動じないフレーム剛性を備えている。

たとえば車のシャーシもそうで、車が歪まないようにシャーシは車全体の剛性を支えている。高性能でパワフルなエンジンと、最高のタイヤを備えていたとしても、屋台骨がヤワであれば車体は安定しない。結果的にどこかでロスが発生し、エンジンで生み出したパワーをタイヤに効率よく伝えることはできない。

車においても、すべてのバランスがそろって初めて「良い走り」ができる。それと同じようにローラーというトレーニングマシンも、フレーム、ローラー等、すべての部品のバランスがそろうことで初めて「良い乗り味」を実現できるのだ。

ローラーというトレーニングマシンは、ローラー自体の素材も重要なのだが、全体を支える骨格部のフレームボディーもまた重要なのである。

GT-ROLLER Q1.1のフレーム部分は、4本のローラーの動きを”いなす”だけの剛性を十分備えている。ただ、肝心のローラー部はどうだろうか。本当に、これほどまでに剛性を確保したフレームに見合うローラーなのだろうか。

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「超」高精度のローラー

Double “O”tube Copyright(C) GROWTAC 2016.

GT-ROLLER Q1.1の心臓部と言えるのが、ローラー部である。素材はアルミから削り出された(SRAMのREDスプロケを想像してほしい!)高剛性の一枚物である。ローラーの筒内部には補強用のリブが仕込まれており、高剛性化に貢献している(フレームの高剛性化はウンザリだがこちらは大歓迎だ!)

削りだしの手間もさることながら、グロータックが自らに課した「精度」の追求も桁違いだ。その精度を語る前に、ホイールの「フレ」を思い出してほしい。2~3mmのホイールのフレなら使用許容範囲内である。1mm程ならほぼフレていない(むしろしっかりしている)と言って良い。

さて、GT-ROLLER Q1.1も製品として送り出される際に、ローラーの精度に対して厳しい検査が行われる。その許容されるリア側ローラー(Φ80mm)のブレはわずか”0.15mm以内”だ。フロント用のアルミローラー(Φ60mm)の回転ブレにいたっては”0.10mm”以内である(前後の精度を厳密に定義している点は好印象)。

このように製品として送り出す際、ローラーの個体差を選別し、厳しい条件をクリアしたローラーのみが製品として初めてGT-ROLLER Q1.1として名乗ることが許される。そして、われわれの元には品質の高い製品のみが届くのだ。グロータックによれば、本製品の精度は一般的な3本ローラーと比べておよそ「3倍以上」もの高い精度を備えている。

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世界最薄設計

世界最薄の厚さ10cm Copyright(C) GROWTAC 2016.

意外に知られていない(使ってみないとわからない)大きなメリットをもう一つ紹介したい。「折りたためる」ということである。・・・いや、何だそんなことかと思われてしまうかもしれない。しかし、この恩恵は実際に使用した人でないとなかなか理解できないことだ。

多くの3本ローラーは、2つに折り畳めれば良いほうで、E-motionやアラゴローラーは一枚物なので折りたたむことすらできない。

とにかくGT-ROLLER Q1.1は薄い。本体の3ピースフレーム構造と、ロック機構により世界最薄を実現している。その薄さがどれほどかといえば、10cmの隙間があれば収納できるのだ。わずか10cmである。

この折り畳んだ状態は、実際の数値で感じるよりもコンパクトである。学生時代に住んでいたような6畳の部屋だって、折りたためばどこにだってしまえる大きさだ。いちいち片付ける手間はあるものの、高性能と高負荷(気になる負荷の話は後ほど記載)実走感を備えたローラーが部屋の片隅に置けるのだ。それだけでも十分な価値はある。

本体が薄いというメリットは、日本の住宅事情をよく考慮している。海外製のローラーは基本的に、海外(母国)の住宅環境で使うことを想定(当たり前だが)しているように思える。とにかく巨大だし、騒音もあまり気にしていないように思える。なにより「プラスチックのフレームに3本のローラーをただつけただけ」の製品も多い。

そう考えるとGT-ROLLER Q1.1は「日本人が生み出した」、「日本人のための」、「日本の家庭環境を考慮した」ローラーである。GT-ROLLER Q1.1の全体像が見えてきたところで、いよいよ実際にGT-ROLLER Q1.1を私が使用して感じ得たインプレッションを記していく。

ここから後半戦だ。一息つきたい方は、ブックマークボタンを置いたので活用していただきたい。

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GT-ROLLER Q1.1 インプレ

インプレッションに費やした期間は11月~4月後半の6か月間。約半年間だ。GT-ROLLER Q1.1を回した距離は、1時間の室内トレーニングメニューでで30km程だ。データによると1月~4月の今日という日まで平日ほぼ毎日欠かさずトレーニングを実施した。

2/14のみ風邪でダウンしていたから平日乗らなかった日は1日だけある、と白状しておく。平日は20日あるから、大体月500~600km程回した計算になる。テストの期間ざっと見積もって約3000kmと見積もってもそう間違っていない数値だろう。

インプレッションを実施するためには長期的に、かつ継続的に根気強く乗り込む必要がある。ローラーが望んでいないほどに使い込むことで、耐久性、ローラーが自転車の部品(主にタイヤ)に与えるダメージ、負荷のかかり方、自分のトレーニングスタイルに合致しているかなど、多角的に検証した。

もう少し使用した機材環境を整理したおこう。私がGT-ROLLER Q1.1を試す際に用いたバイクは5種類だ。ロードバイク、トラックレーサー、TTバイク、シクロクロスバイク、マウンテンバイク。おそらく、当ブログを閲覧している方たちが使用しているバイクの種類はほぼ網羅しているはずだ。

それぞれ使用したタイヤは、ロードバイクはContinentalのホームトレーナー2、TTバイクは同じくホームトレーナー2。トラックレーサーはGP4000S2の25C、シクロクロスバイクはIRCのチューブレス、マウンテンバイクはMAXXISのIKONである。

それぞれのバイクの中で、特に使用した時間が長いのはトラックレーサーだ。次いでロードバイクの順でローラーを試した。「試した」というよりは、完全にトレーニングのためにガシガシ使った。一週間の流れといえば、土日の疲れを流すための月曜日の流しの巡航、中4日(火曜日~金曜日)はSST付近の270W(90RPM)のトレーニングである。

私は、GT-ROLLER Q1.1とミノウラのR800というローラーも並べて使い分けている。実はGT-ROLLER Q1.1で唯一補えない部分があり、その代替手段としてミノウラのR800を使用している。このあたりの話は後半に記載する。

シクロクロスのシーズン中も頻繁にGT-ROLLER Q1.1を用いてトレーニングを実施した。シクロクロスは低速でトルクをかけるようなトレーニングが多いため、本来は固定ローラーが望ましい。しかし「バランスを取りながら」という点に関しては固定ローラーはむしろマイナスにしか作用しない。

手始めに誰しもが気にしている「乗り心地」から話を進めていく。先程の自転車の基本構造や、自転車の設計を尊重した本体の設計なのだろうか。

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乗り心地と実走感

乗り心地について記載しようとしたとき、特に重要なのは「実走感」を得られるかどうかである。「実走感」という一見あやふやな感覚を定義しようとしたときに、少なくとも先程記述した「自転車の基本動作」を実現できているかが問われる。

冒頭で記したとおり、グロータックが目指したゴールだ。その結果が4本のローラーであり、GT-ROLLER Q1.1だった。

結論から先に述べよう。今まで乗ったどのローラーよりも「違和感のない」走行感覚だ。良いプロダクトというものは時として、人間の感性まで揺さぶってしまう。3本ローラーを初めて乗ったときを思い出してみてほしい。乗った瞬間、前方にヒュッと飛び出してしまいそうなあの緊張感。そして左右に車体がゆれてしまい、タイヤが外れしまいそうなあの感覚を。

GT-ROLLER Q1.1はあの感覚がスーッと消え失せてしまう。初めこそ怖いと感じてしまうかもしれないが、その「消え失せてしまう」という表現は、もともと3本ローラーの挙動を知っているからこそ感じられる感覚なのだろう(実は3本ローラーに戻したときにより顕著に感じられるのだが)。

このように簡単に乗れてしまうと、「3本ローラーには別のメリットがある」という意見を述べる人が出てくる。しかし、先程の構造部分でその点に触れているので、今ここで引っ張り出してきてまで議論するつもりはない。

ある人が「4本ローラーなんて初心者用だ」なんて言っていたのだが(何が初心者なのか逆に問いたいが)そのような「簡単に乗られては困る」背景もあるのだろう。まるで、難しくて理解できないことを売りにする学者のようだ。

しかし、それは明確な間違いだとはっきりと言っておきたい。GT-ROLLER Q1.1はそのような小さな枠に留まるような機材などではない。

3本ローラーの「実走とは異なる感覚」を乗りこなすテクニック自体に、意味を見出すことも一つの楽しみではある。しかし、GT-ROLLER Q1.1が実現したかった方向性を思い出してほしい。3本ローラーと4本ローラーが目指す終着駅は全く別の場所にある。

4本ローラーが目指した目的地は、まるで実走のような、いつまでも(だれもが)走っていて飽きない感覚だ。

私は今、文章を書きながら一つの気づきが有った。GT-ROLLER Q1.1で「走って」と書いた。この一文の表現がGT-ROLLER Q1.1のすべてを物語っている。私はGT-ROLLER Q1.1以外のあらゆるローラーの走行感について書こうとしたとき、「乗っている」という言葉をあてはめる。

「走っている」と「乗っている」では受ける感覚がまったく違う。「ローラーに乗っている」という感覚は、どこか違和感を持ちながらローラーに「乗っている」感覚だ。しかし、GT-ROLLER Q1.1を使ったときの感覚は確かに「走って」いるのだ。

3本ローラーに乗ることにどうしても違和感があるという人や、3本ローラーが怖い、という人はGT-ROLLER Q1.1をぜひ試してほしい。一番重要なのは「3本ローラーに乗れる技術」ではなく、ローラーを使って「継続的にトレーニングを行える」ことである。

私はGT-ROLLER Q1.1というローラーに乗っているのではない。たしかにこのローラーを使って「走っている」のだ。本ローラーに対して走行感覚を語ろうとしたとき、これ以上適切な表現を見つけることはできない。気持ちのよい実走感覚が得られることがわかったが、それ以外にもまだまだ魅力的な機能を本製品は備えている。

素直なハンドル操作

乗り心地の次は、乗りやすさである。自称上級者たちは、自分たちが3本ローラーを乗り始めた頃の苦労を忘れてしまっている。一度や二度3本ローラーからの落車を経験したことがあるはずだ。私にいたっては、3本ローラーが怖いから横にバランスボールを置いてクッション代わりにした(そして3度助かった。)

初めて3本ローラーを乗る人たちが、クリアしなくてはならないハードルは恐怖心である。ある限られた狭い範囲でしかバイクの挙動をコントロールできないので、とても怖い思いをする。ただ、本ローラーはよほどのことがない限りは落車はしない。

この安心感の理由は、先程記載したトレール長の話と、前輪を2点で支えるローラーの存在だ。4本ローラーの構造部分でも触れたが、通常の3本ローラーはハンドルを切ることによって、ホイールが手前に落ち込む力が発生する。3本ローラーは構造上ハンドリングがシビアになり、脱輪や、転倒のおそれがある。

3本ローラーを乗りこなすためには、実走とは異なる「3本ローラーのくせ」を理解しコントールする必要がある。その点、4本ローラーはこのような癖を覚える必要も無い(というより本来は不要だ)。実際に外を走っている感覚と同じ原理で、フロント2本のローラーがホイールの落ち込む力を補助してくれる。

安全面に考慮し、継続的なトレーニングを実施するとしたら、このローラーは強い味方になってくれるだろう。

前後の荷重移動

本ローラーの設計部分でも記した、前後に移動するローラーの効果について実際に使用した感想を記そうと思う。

まず、3本ローラーは特にペダリング改善に効果的である。固定ローラーではわからないことだ。なぜだろうか。3本ローラーを乗るとすぐにわかることは、車体が前後に激しく動いてしまうことだ。もちろん、ペダリングが弧を描くように綺麗に回せていたらこのようなことは起こりえない。

しかし、踏み込みの力があまりに強いくトルクのかかり方が雑だと、前に進む力が強くなりホイールがローラーを乗り越えようとする。この動きの繰り返しで、ギクシャクした動きを繰り返してしまうと述べた。車体がブレないためには踏み込む量と、ローラー部分が回転する微妙なさじ加減を、ペダリングで調節しながら乗らなくてはならない。

ペダリングが綺麗な人ほど、この前後のギクシャク感が無くペダリングすることができる。ピストで3本ローラーを使う人の中には、ローラー用のベルトが全くフレずに回せる人も居る。クランクの回転、ホイールの回転、ローラーの回転がすべて一体感になっている証拠だ。

ただし、これらは3本ローラーの話であってGT-ROLLER Q1.1の場合は少し違う。楽に乗れるのだ。踏み込みに合わせ同調するようにローラーが適度に移動し、動きを追従してくれる。綺麗に回せばもちろん動く動作はしないので、基本的なスキルトレーニングを補うことができる。

このローラー部分の追従動作は実際に感じられず、目視で「ローラーが動いているな」とわかる程度だ。イーモーションのようにグイグイ動くような動作はしない。踏み込んだときにギクシャクせず違和感なくペダリングが続けられる。まさに実走に近い感覚といったほうが、得られる感覚と近いだろう。

ダンシング

GT-ROLLER Q1.1を使って、ダンシングできるのか多くの人は気にしているようだ。実際に試してみると、私の場合はダンシングすることが可能だった。ただ、エリートのイーモーションのような大げさなダンシングではなく、どちらかというと脚を休めるための補助的なダンシングである。

ダンシングをすると、車体が前後にゆれ動く。その動作を支えるのが、先程紹介した前後の車重移動を補助するエラストマーだった。前輪、後輪が前後に動くとき、前につんのめる力をエラストマーが”いなして”くれる。この効果により、通常の3本ローラーよりもダンシングはしやすい。

ただ、ダンシングを習得するためだとか、ダンシングを磨くことが本装置に課せられた本来の目的ではない。ローラーの上でダンシングを自由自在に行うことができた方が良いのだが、ローラーでのダンシングなどはしょせん気休め程度にとどめておいたほうが無難だ。

ダンシングは出来ないこともないが、ローラーのトレーニングと割り切った場合、ダンシングはそこまで必要とされない動きだ。ダンシングはやはり実走で練習したほうが良い。したがって、あれもこれもと求めず、必要な機能がいかに優れているのかを注視したほうが良いはずだ。

ヒルクライム機能

フロントエレベーター機能 Copyright(C) GROWTAC 2016.

日本のクライマーたちが泣いて喜ぶ機能を本ローラーは備えていた。それは、前輪の高さを変えられる「車高エレベーター」機能だ。このGT-ROLLER Q1.1の最も特徴的な構造の1つであり、他のメーカーが成し得なかった独自の構造である。本ローラーは「折りたためる」というメリットを備えているが、その折り畳みの過程でフロントホイールが側のローラーの高さを変えることができる。

固定ローラーではフロントのタイヤを持ち上げるために、前輪台座に本を積み重ねて高さを変えている人も多い。固定ローラーならではのアイデアだ。特に登りを好む属性のサイクリストたちが取り組んでいるスタイルである。なぜこのような傾斜を付けるかと言えば、登りと平坦とではポジションが大きく異なるからだ。

登りには、登るために最適化したポジションを取らなくてはならないし、結果的にバイクのポジションセッティングも変わってくる。下ハンドルを持って、ダンシングしながらヒルクライムする人はなかなか居ない(それでもマルコ・パンターニを思い出せたなら最高だ!、なお鳴子章吉くんのスプリントクライムのほうが後発である)

この車高エレベーターを支えるための台は、ホームセンターで売っているレンガでも良いし、本でも良い。神経質な人は左右差をできるだけ少なくしたいと考えているだろうから本を使用することはオススメしない。斜行を付けてトレーニングに使うなら、安定性も考えてレンガかブロックを選択したい。

一見すると、4本ローラーで前輪を持ち上げることは不安定に思える。しかしその考えは「3本ローラー」のイメージがまだ残っている証拠だ。この4本ローラーは別の次元の装置だと思ったほうがいい。前輪を持ち上げたとしても、4本ローラーは安定したトレーニング環境を提供してくれる。

自分がまだ体験していなかったり、経験したことのない世界と接点を持つことはいつも不安を伴う。そう、4本ローラーのGT-ROLLER Q1.1は、今まで固定ローラーだけに許されていた斜行をつけたトレーニングをいとも簡単に実現する。体験するまで現実感が無い動作なのだが、思いの外あっけないものである。

固定ローラーでガシガシ踏んでいたサイクリストも、4本ローラーという装置の中でヒルクライムのポジションに特化したトレーニングが可能だ。ローラー系ヒルクライマーにとって負荷、傾斜、実走感覚を考えると本製品はもはや「ヒルクライマー養成機器」といえる。

ただ、見かたを変えてみれば単なる「拷問機」であることには変わらないのだが。次はその辛さを生み出す「負荷」についてだ。

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負荷

負荷特性 Copyright(C) GROWTAC 2016.

トレーニングを嗜むものにとって、ローラーの負荷は特に気になる話題である。

まず、GT-ROLLER Q1.1は十分な負荷を備えている。負荷のかかり方をありきたりな言葉で表せば「なめらか」だ。リアタイヤ側のローラーにマグネットを近づけることで負荷が発生する。本ローラーの負荷に関して一言でまとめるとしたら、「固定ローラー並の高負荷」を実現できる。

さらに付け加えるならば「リニア」に負荷がかかっていく。負荷にムラが無く、違和感のない加減速を楽しめる。それほどしっかりと、という表現よりは「しっとり」としたした負荷がかかる。ホビーレーサー、プロの出力(300W~400W)帯域でも十分すぎるトレーニングが可能だ。

一番気になるのは、パワートレーニングに使えるのか?ということだろう。結論から先に言えば、十分すぎるほどに使える。なぜなら、実際に私がパワーメーターを用いて取り組むメニューにおいて、何一つ不自由がないからだ。もはや室外に持っていかなければ固定ローラーの存在は不要になってしまう。

負荷のかかり方は、本当にムラが無い。ジワッと踏んでいってもローラーがタイヤに追従していく感覚を受ける。ローラー自体も堅牢かつ、程よい重量があるため、思いっきりぶん回しても安心感がある。高速域になってもローラーがブレ始めることもない。

先程も解説したが、ローラー自体の精度は非常に高い。某海外製の3本ローラーは、ローラーの素材がプラスチックなので静電気が溜まる(そして人間にも帯電する)。素材がプラスチックだからローラーの精度はあまりよろしくない。あとはプラスチックの場合は衝撃にも弱い。

そのような面を考えても、アルミ削り出しのローラーを備えたGT-ROLLER Q1.1は非常にしっかりとした作りだ。

ローラーの負荷の変え方は、後輪側のローラーに負荷装置(マグネット)が備え付けられている。5段階変更できローラーに近づけることで負荷を変えられる仕組みだ。私はいつもケイデンス90rpm付近でのトレーニングをしているが、目的のケイデンスに合わせ、出したい出力付近に落ち着くように調整をする。

負荷を4にして、ピストの49×14で90rpmほどで回すとだいたい270W程である。ロードバイク場合52Tのチェーンリングであれば2~3枚残して90rpm 300Wは余裕で負荷をかけることができる。なお、時速30km/hが300W程で、37.5km/h程が400Wである。最大負荷で60km/hを出せばおよそ1000Wの出力まで耐えうる。

もともと、ローラー本体に十分な重量があるため、無負荷状態でも十分な負荷がかかる。ロードバイクでかける負荷(400W~)であれば十分すぎるほどの負荷を備えている。ここで1つ弱点を上げてみれば、たとえばピストで200rpm近いケイデンスで高速域で走らすようなトレーニングにはあまり向いていない。

頑丈に作られた構造は、その分ローラー自体の安定性につながるが、高速で回すには少々”荷が重い”。

そのような場合はミノウラR800の方がやりやすい。ただ逆もしかりで、R800の場合を考えてみると、トルクをかけながらパワートレーニングをするような練習はやはり苦手だ。GT-ROLLER Q1.1はロードバイクに限って言えば、90rpm程のケイデンスでさまざまなパワーゾーン(L2~L7)でトレーニングすることに適している。

GT-ROLLER Q1.1は乗り心地とあわせ、十分すぎるほどの負荷性能を持ち合わせている。もしも、「パワートレーニングに使えるんだろうか」と悩んでいたら、その心配は無用だ。高負荷を想定したトレーニングに対する心配はない。

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騒音

ローラー別振動データ Copyright(C) GROWTAC 2016.

次は、日本の家庭環境で一番気になる話題「騒音」について。

ローラーの負荷と同じくらい気になる音の問題は、トレーニングを続ける上で死活問題になる。ご近所さんにご迷惑をかけず、そして家庭で肩身が狭い思いをしないように我々はトレーニングしなくてはならない。ひとたび「苦情」が家族や近所から寄せられたのなら、トレーニングの継続に支障が出ることは間違いない。

「ローラーうるさいかな・・・」と周りを気にしながらトレーニングすることは、本当に精神衛生上よろしくない。どうせなら思いっきり何も気にせずトレーニングしたい。

騒音問題について言えることは、GT-ROLLER Q1.1は数ある3本ローラーの中で特に静かである。メーカーの製品紹介にも記載されているが、騒音計で計測した数値データも良好だった。数値上において明らかに静かであることはわかるが、数値ではわからない部分、私が実際に使った体験談をまとめておこう。

まず、私のマンションはRC構造のマンションだ。しばしば早朝にローラーを回す。その際に部屋と部屋をわけるドアを換気のために開けているのだが、隣の部屋で寝ている妻にまったくローラーの音が届いていないらしい。「本当に静かだね」と言われることから判断しても、まずは家族に迷惑のかかるような騒音ではないようだ。

もしかしたら、私の妻が爆睡しているという別の要因(!)も十分に考えられるが、数ヶ月続けても苦情が来ないところを見ると、本当に騒音面での問題は無さそうである。

しかし、私はローラーとは全く関係のない別の部分の騒音が気になり始めている。ローラー本体ではなく、スプロケがチェーンと接触する音が気になりはじめたのだ。静粛性を追求していった結果、残ったギアの干渉音の方が気になってきた。

私はトレーニング中にMacbook(新型)でアマゾンプライムの動画(主にアニメ)を見るのだが、270W程で巡航していてもMacbook2016の内蔵スピーカーの音が聞き取れる。音量は70%ほどだ。以前、夜に海外通販の荷物が届いたときも、ローラーをしながらドアを締めていたのだが、チャイムに気づくことができた。

(※海外通販が多いサイクリストにとってとても重要な点だ!)

数あるローラーの中で、驚異的に静かなのは同社のGT-Roller Flex3である。あのチェーンとスプロケットの干渉音以外ほとんど無音に近い領域に達している。GT-ROLLER Q1.1はあの静粛性とまではないかないが、非常に近い静粛性を備えている。

ここまでが騒音に関する話題であるが、もう一つの問題も忘れてはならない。集合住宅で特に問題になるのは、騒音と合わせ「振動」も気にする必要がある。

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振動を抑える

本気で振動対策を追求していくと、同社のブルカット2GT-ROLLER Q1.1の組み合わせがベストだろう。これは経験的なことではなく、実験データから「優位に振動が減る」という結果が得られている。これらの結果からも体感できるほどに静粛性はさらに高まるのだ。

また、ブルカットメタルの利点は他にも有る。

ブルカットメタルを使用した場合、振動を抑制できることに加え、先程の話題である「騒音」も抑制する。振動と騒音は集合住宅に住んでいる人が抱える悩みだ。サイクリストにかぎらず「上の階で子供の走る音がうるさい」や「お隣さんの話し声がうるさい」など、騒音と振動はトラブルのもとになる。

モヤモヤと何かを気にしながらローラーをするよりも、できるだけの騒音と振動の対策を施し、十分なローラー環境を備えておきたい。ここで、もう少し対策について記しておく。

まず、ローラーをするために最強なのは戸建て住宅であることは間違いない。私のサイクリスト仲間で「一軒家かつ玄関近くにローラー部屋」という楽園を持っている人がいるが、これはサイクリストの中でもトップクラスの住宅環境だ。。。しかし私は普通のマンションぐらしだ。その中の限界は「1FでRC構造」が最高である。

しかし現在は2Fへと移り住んだ。この場合、最も騒音と振動に対する効果的な対策は2重床にすることである。しかし、現実問題無理である。そうなると別の「防音対策」が必要になる。

私がたどり着いたのは、どこにでも売っている人工芝とコルクパッドの組み合わせだった。人工芝をローラーを行う場所に敷き、その上にコルクパッドを重ねる。これで小規模な二重床を構成でき、十分な騒音対策と振動対策になる。

コルクパッドで振動を吸収し、人工芝のスキマで音と振動を逃がす。さらに、アストロプロダクツの1480円の作業用マット(これが安くて質も良い)を敷き、汗がたれても拭くだけで事足りる。人工芝やコルクパッドの良いところは、一部分を切り離して交換ができる。汗で一部分だけ傷ついてしまったりるすので、その場合交換しやすい。

この床自体に対策を施し、同社のブルカットメタルを使えばトレーニング環境としては万全だろう。なお、床直置きでも他のローラーと比べて静かだから、気にならない人は気にならない騒音である。しかし、近隣住民は気づいているかもしれないので、万全な対策はあらかじめ施しておきたい。

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競合製品との比較

ここからはGT-ROLLER Q1.1と各社競合製品について見ていく。ここで紹介する競合製品は、私が実際に使ったことのある3本ローラーのみに絞っている。どの機材に対しても言えることだが、人間は「絶対評価」をすることができない。測定器ではないのだから当たり前の話だ。

結果的に物事の判断は「~よりも良い」だとか「~よりも静か」という表現にならざるおえない。要するに、相対評価なのである。その点を踏まえて競合製品とGT-ROLLER Q1.1を比べていこう。

エリートアリオンAL13

エリートのアリオンマグはアルミ製のローラー、プラスチック製のシャーシ、負荷はマグネットを用いて5段階の負荷をかけられる。負荷のかかり方はリニアにかける。初動がGT-ROLLER Q1.1よりも重く感じる。

GT-ROLLER Q1.1を知らなければ使い続けても良いローラーであるが、ひとたび便利さを手にした人間は、それ以下の水準を望んだりはしない。また、シャーシがプラスチックのためもがくとタワむ。気にならない人は気にならないが、GT-ROLLER Q1.1の剛性感を知ってしまうと、すこし華奢な印象を受ける。

長い目で見て使うなら間違いなくGT-ROLLER Q1.1を迷わず選択する。

エリートイーモーション

エリートの製品の最高峰の3本ローラー。シャーシは一体型なので頑丈。難点は巨大で折りたためない。私の自転車の先輩が使っており、その影響か仲間内でも所有している人が多い。「ダンシングができる」という特徴があるが、実はそれほど必要とされていない機能であることは、使っている本人たちが一番よくわかっている。

ローラーがスライドするため、ダンシングができるという特徴があるが、シッティングがメインのパワートレーニングの場合、申し訳ないがそこまで必要とされない機能。ローラー自体は先程紹介したAL13のもう1グレード下の、アリオンと同一。

したがってローラーはプラスチックで質自体は高くない。ダンシングという機能をトレード・オフしても、巨大すぎるのと、負荷のかかり方が好みではない。

GT-ROLLER Q1.1自体もイーモーション程自在なダンシングができるわけではないが、ダンシングすることは容易だ。お尻が痛く、休憩がてらのダンシング程度であればGT-ROLLER Q1.1も十分に対応している。

実走感や、ずっと乗っていたいという重要な部分で比較をすれば、GT-ROLLER Q1.1に迷わず軍配を上げる。以前イーモーションから買い替えを検討しているという相談を受けたのだが、私は日本の住宅環境(騒音、振動、収納性)を考慮してGT-ROLLER Q1.1をオススメする。

日本のマンションのような住宅環境を考えた場合は、収納性、静粛性、低振動という環境面の配慮をしなくてはならない。GT-ROLLER Q1.1は日本人が考えただけあって細かな部分までチューニングが行き届いている。

アラゴローラー

ローラーの王様。まさにプロスペックなローラーで競輪学校でも使われている。向日町のバンクで試合がある際、アップで使わせていただいている。巨大なローラーと、高回転に耐えうる剛性はプロも納得の一台だ。

ローラーの中では特に大きいため、部屋の一室に置くことを想定した場合片付けるということができない。場所を占拠してしまうからよほど家族の理解がないと備え付けで置いておくことは難しい。騒音面もGT-ROLLER Q1.1の方が静かであった。

ただ、向日町のバンクのアラゴローラー(電子制御無し)がやや古いということもあり、単純に比較できないのが残念だ。しかし値段、収納性、静粛性を考えてみてもGT-ROLLER Q1.1を私は選択する。

アラゴローラーは確かに良いのだ値段が張る。おそらく受注生産ということもあり、中古でもない限りはなかなか一般人が手を出せる代物ではない。実際にGT-ROLLER Q1.1も高価なのだが、次章では価格面と製品自体の品質のバランスについて掘り下げてみる。

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価格

販売価格は¥88,000-(税抜) である。値段が高いかと言われれば高いと思う。初めはそう思った。しかし私は身の回りに目を向けると、この考え方を改める必要がある。ランニング・コストを正確に計算してみたのである。私は、ジムに月7,560円支払っているのだが、年間90,720円である。しかも週2しか行かない。レース前はジムに行かないから、月に行っても8回だ。一回あたり約1000円である。

対して、GT-ROLLER Q1.1はどうだろう。1年12か月で計算すると20日毎日使用してきたので、単純に計算して240日使用できる。そうすると1回あたり390円である。ローラーの場合は1度の出費はかさむが、ランニング・コストがかからないから、使えば使うほどもとが取れる計算だ。

私は本当に辛辣なことを今から書くが、10万円そこらのホイールを買うくらいならGT-ROLLER Q1.1を買ってトレーニングしたほうがよっぽど速くなる。さらにパワーメーターを買ってトレーニングをしないくらいなら、この飽きのこないローラーを買ってトレーニングを積み重ねたほうがよっぽど賢いし、マシだ。変な言い方だが、このローラーに投資したほうがよっぽど「簡単に」速くなれる。

GT-ROLLER Q1.1は数あるローラーの中で高額な部類に属している。確かに「相対的」に見れば高価なローラーである。しかし、実際に手にとって見ると「なぜ値段が高いのか」ということがすぐにわかる。

私は先程GT-ROLLER Q1.1に、TIMEフレームのような雰囲気を感じていると述べた。TIMEフレームは他のフレームと比べて非常に高価である。しかし、TIMEというフレームを手に取ればその作り込みや、質感から、製品の質の高さをすぐに感じ取ることができる。

GT-ROLLER Q1.1も同じだ。一つ一つの部品は、キレイにカドが落とされ美しい造形美を備えている。使われているパーツはベアリングに至るまで日本製である。ローラー自体の精度も高く、ローラーには3箇所の「リブ」が仕込まれている。昔のTIMEのフォークに仕込まれていた十字状のリブを彷彿とさせる。

確かにGT-ROLLER Q1.1は高額であるのだが「価格に見合った高性能なローラー」である。4本のローラーがそれぞれ独立して複雑に動作し、高回転を支える真円度の高いアルミローラーを備えている。一つ一つの部品が高品質で、それらの集合体の結果がGT-ROLLER Q1.1という1つの製品なのだ。

このローラーは、機材としても魅力的であり、所有する喜びを感じられる珍しいトレーニング機材だ。合わせて乗る楽しみも感じとることができる。なお、最安値はアマゾンで、2000円ほど安い。

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ZWIFT

GT-ROLLER Q1.1は現時点で最強のトレーニングローラーである。しかしその地位に留まるようなことは考えていないようだ。今後予定されている拡張機能4つを以下に列挙する。

  1. 電子負荷ユニット:20km/hという低速で400Wの極悪負荷を発生させる装置
  2. 電動エレベーター:フロント部分のリフトアップで勾配10%を再現
  3. 無線ユニット:勾配と負荷を連動させるモード
  4. ANT+ユニット:ZWIFTやANT規格に対応

本体のベースキット自体も十分な機能を備えているのだが、拡張予定の機能はどれも使ってみたい。拡張キットは主に電動化と言って良いだろう。まずは電子負荷ユニット。20km/hで400Wとは相当な負荷をかける練習になる。

激坂のヒルクライムトレーニングや、インターバルトレーニングに使えそうだ。電子負荷なので、固定ローラーの様な、イビツな負荷ではないことを期待している。そして、電動エレベーターである。こちらはフロントホイールを持ち上げ、最大10%の勾配を再現する。

10%の勾配、400Wの電子負荷・・・。これは間違いなくヒルクライマーたちにとって涙モノの「拷問器具」である。低ケイデンスで踏み込むシクロクロスのトレーニングにも使えるし、MTBにも使える。

また、無線ユニットはこの「電子負荷」と「電動エレベーター」を連動させるためのデバイスである。トレーニングジムのルームランナーのように、勾配や負荷を手元のボタンで変えられる。もはや「変態トレーニング機材」の領域である。

そしてANT+の通信機能が付けば、もちろんパワートレーニングにも使える。話題のZWIFTにだって対応する予定だ。このローラー1台あれば、パワートレーニングとZWIFTが合わせて試せるのだ。そう考えると、十万円以上するパワーメーターを買うくらいならGT-ROLLER Q1.1を買ったほうが賢い場合もある。

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利点と欠点

ここまで、べた褒めに近い記事を書いているが、私はそれほどまでに今回気に入ってしまっている。当ブログを普段からご覧になっている方たちは、うすうすお気づきかもしれないのだが、私は良いプロダクトに触れると、文章の量がどうしても増えてしまう。書くことがとめどなく溢れ、機材について良さを知ってほしいという願望に変わる。このローラーもその機材の1つなのだ。

ただし愛があるゆえに、GT-ROLLER Q1.1が適していないシチュエーションもしっかりと書いておきたい。まず、室外での使用は適していない。土台(デコボコした駐車場、シクロクロス会場の芝等)が安定していないと本ローラーは構造上不安定になる。レースのウォーミングアップで使うことも避けたほうが良い。

薄さと、収納性を追求しすぎた結果、ローラーとローラーをつなぐベルトが地面に対して非常にタイトなのだ。この結果、土台がある程度フラットの場所でなければ使うことは難しい。

また、他のローラーと比べて少しばかり構造が複雑だ。野外でのウォーミングアップ中に不要なゴミが入ることも気になり、野外での使用は向いていない。いくらコンパクトで持ち運びができても、室内を想定した設計がゆえ、致しかたない。

これらの事実から、GT-ROLLER Q1.1は室内専用ローラーと割り切ったほうが良さそうだ。「部屋に道を作る」というテーマがあるのだから当然といえば当然なのだ(野外には十分な道があるわけだし。)

もう一つ弱点を上げれば、先程も記したとおりギアが固定のピストバイクを用いて高回転を試そうとすると、重厚なローラーのため回りきらない(大部分の人は関係のない話だ。)ロードバイクを使ったトレーニングに限って言えば、全く問題のない(むしろ好ましい負荷)であるため、ピストバイクの回転系トレーニング用で購入する場合はミノウラのライブロールR800やアラゴローラーが適している。

事実、私も高回転系はR800を使ったりと、ローラーを使い分けている。しかし回転系といえど多くのロードバイク乗りの人たちにとって、ギアを軽くすることで200rpm程の回転であればGT-ROLLER Q1.1のほうが、他の3本ローラーよりもむしろ安全に取り組める。なにより4本ローラーは安定しているからだ。

また、4本ローラーにはない3本ローラーのメリットも忘れてはならない。もともと3本ローラーは乗りづらい。乗りこなすことはライディングスキルの向上になる。後輪荷重を心がけ、前輪から荷重を抜くように乗るための補正装置という見かたもできる。

大きく前荷重になるダンシング、前乗りの前荷重で踏み込むペダリングは3本ローラーで行うことは難しいが、自分のペダリング特性に対する気付きや、改善を施すこともできる。ハンドルにしがみつく乗り方や、トルク変動が大きいペダリングの補正には3本ローラーはプラスに作用する場合がある。

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まとめ:家庭用ローラーの決定版

いよいよ4本ローラーGT-ROLLER Q1.1のまとめに入っていこう。まとめを書き綴っているとき、私は冒頭に記したこんな一文を思い返していた。

穏やかな気温の中でロードバイクに乗りながら、ふとこんな想像をしていた。もしも永遠に止まる必要の無い道があったのなら、と。

三万文字を超える記事を書き、読み終える今、振り返る冒頭の問は現実のものになったのだろうか。

この言葉に登場した「永遠に終わることのない道」などというのは、実際には存在しない。しかし、現実にありえないような道をグロータックは生み出すことに挑戦したのだ。まるで外を走っているような走行感、違和感のないステアリング、なめらかな負荷と、永遠に続く道に必要なあらゆる要素を、GT-ROLLER Q1.1に凝縮したのだ。

グロータックが目指した「どこまでも続く道」を達成しようとするとき、GT-ROLLER Q1.1がたどり着く運命は、もしかしたら「使っていることをサイクリストに忘れてもらう」ことなのかもしれない。この4本ローラーという一見目新しいローラーは、その違和感の無さから、走行中に足元から忽然と消え失せてしまう。

足元に確かに存在しつつも、忘れ去られてしまうことこそ、どこまでも続く道の実現のために必要な宿命なのだ。走り出せばGT-ROLLER Q1.1のことなど忘れてしまう。しかし、それで良いのだ。実際に道を走っているとき、道のことなど意識しないように、ローラーに乗っているとき、GT-ROLLER Q1.1に乗っていることなど思い出す必要は無い。

すばらしい「環境」を提供してくれるGT-ROLLER Q1.1であるが、1つ厄介なこともあるので付け加えておこう。すべてにおいて「言い訳できない完成度の高いローラー」であるがゆえの難点だ。

実走に近く完成度が高いがゆえに、このローラーで室内練習できないのなら、室内トレーニングにおいて、もはや他の代替機材を提案することは難しい。要するに、「ローラーは違和感があって嫌い」という言い訳ができない領域に達している(景色は変わらないが)。

実走で起こりうる物理的な動作を、家の中に設置されたローラー上で忠実に再現しているのだ。結果的にサイクリストの大好きな言い訳の材料も奪ってしまった。しかし、ローラーフリーク(毎日ローラーに乗ることをなんとも思わない人)に限れば最高の相棒になってくれる。

そして、私は外に走りに行く機会が相当減った。GT-ROLLER Q1.1は外でできるトレーニングのほとんどを自宅に居ながら実現してくれる。土日のグループライドという楽しげな会を除けば、私はこれからGT-ROLLER Q1.1と部屋の中を走り続けられるだろう。

ここまでのおさらいで、最後にGT-ROLLER Q1.1が適している人を以下5つのポイントにまとめる。

    1.集合住宅でローラーを使いたい人(騒音面)

    2.毎回ローラーを片付ける必要のある人(10cmの世界最薄)

    3.平日の練習をローラーに頼っている人(堅牢性)

    4.違和感のない実走感が欲しい人(飽きない)

    5.短時間で高負荷のトレーニングを積みたい人(リニアな高負荷)

実際に試してみたい方は、全国の試乗可能店舗を参照してほしい。

確かに値は張るが、10万程度のカーボンホイールを買うくらいならGT-ROLLER Q1.1に投資したほうが、間違いなく自己投資へのリターンを見込むことができる。4本ローラーを支えるすべての部品たちが開発者によって考え込まれ、国内メーカーという面から見ても保守部品の心配もない。

ローラーはどこか消耗品のイメージを持っていたのだが、部品を交換しながら末永く使えるローラーが今誕生したのだ。

グロータックの製品紹介にも記載されているとおり、室内のトレーニングを思う存分楽しんでほしいという開発者のねがいは、プロダクトに確かに反映されていた。インドアとアウトドアの垣根をなくすローラーが今ここに誕生したのだ。そして今日も私は、GT-ROLLER Q1.1と共に走り続けている。

今あなたの部屋には、永遠に終わらない道が作られようとしている。

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