ヒルクライマーのみならず、サイクリストなら一度は村山さんの名前を聞いたことがあるかもしれない。実際に走りを見た事が有る方はご存知かも知れないが、ステム付近を持つど独特のポジションは非常に特徴的だ。それら村山さんの走りの「極意」を集めたものがヒルクライムトレーニングの極意だ。
読んだ感想としては、サイクリストパワートレーニングバイブルような書籍のタイプではなく村山さんに主眼が置かれた自叙伝的な一冊になる。先般の高岡さんの「レースに勝つための最強ロードバイクトレーニング」とは少し異なった内容で構成されていた。読み物として単純に面白かった本を読んだ感想をまとめてみようと思う。
トレーニング以外の興味
正直なところを述べたい。トレーニングよりもヒルクライマーは少し変わった人(私のチーム員含め)が多い。どこか独特のこだわりがあり、性格も個性的だ。また非常に負けず嫌いで、自分自身の中に確固たるポリシーを持っている。
私が本書で一番興味が惹かれたのはトレーニング内容「以外」の部分だ。確かに5章 ヒルクライムトレーニングのポイントは役に立つ。ただ、トレーニング内容が研究されつくされている昨今のトレーニングブームの中で画期的な内容ではない。
ただ、トレーニングの本質は見失わずレースに沿った強度と「基本に忠実な内容」に気づかさせてくれる。最近の(最新とされる)トレーニングは複雑でバリエーションも無数にある。何をやっていいのがわからないくらいに。ただ、基本的でシンプルな村山さんの内容は何をやったら良いかわからないサイクリストには参考になるだろう。
このように本書内ではトレーニングの内容も充実している。ただ、冒頭にも書いたが、興味を惹かれる部分はそれ意外にある。
喫煙者
ヒルクライマーといえば「ストイック」という言葉に尽きる。食事を制限し、酒を制限し、、とあげたら切りが無い。驚いたのは村山さんは喫煙者だということだ。そしてかなりの酒豪だということも。
スポーツを行うアスリートにとって禁酒や禁煙に加えて、さらにヒルクライムとあれば体重制限してレースに臨む選手がほとんどである。ただ、それら常人とはかけ離れた世界に「酒、タバコ」という人間味のある一面を見せる村山選手に共感?を覚えた。
何が言いたいのかというと、「長く続ける秘訣」は人それぞれ違うことだ。残念なのは才能があって若くして自転車競技で燃え尽きてしまう場合がある。続ける為のバランスが崩れ折れてしまう。少しつづつの負荷が重なり折れてしまうのだろう。
そんな中で続けるためのバランスがヒルクライマーとは似ても似つかない酒とタバコなのだろう。やはりヒルクライマーは個性的で不思議な生態を備えている。やはり読み物として面白い。競技ををやり続けて心折れそうな方は一つ目を通しても面白いのではないか。
次は目次を紹介。
目次
1章 酒と自転車と人生を楽しむ
・最高の一杯のために、今日も走る
・33歳で出会ったロードバイクは、体に優しい乗り物だった
・ヒルクライムは安心・安全に楽しめるのが魅力
・酒と食事と自転車を、ぜんぶ楽しむ
・ランニング、デュアスロン、そしてヒルクライム
2章 トレーニングに必要なもの
・自己観察がモチベーションを維持する
・継続の秘訣は心拍計
・屋内でトレーニングできるローラー台
・同じトレーニングコースでも、違う楽しみを見つける
・心拍計で、トレーニングのPDCAを回そう
・日常生活にゲーム感覚を取り入れよう
3章 機材とフォームで楽に上る
・ロードバイクにおける軽量化の重要性
・いちばん楽なフォームで上る
4章 ヒルクライムのコツ、教えます
・イーブンペースがヒルクライムの基本
・ペースを乱さずにゴールまで走り切る
5章 ヒルクライムトレーニングのポイント
・シニアこそトレーニングを楽しもう
・トレーニングメニューはシンプルがいちばん
・トレーニングメニュー①「平地でのファストラン」
・トレーニングメニュー②「山でのビルドアップ走」
・トレーニングメニュー③「ローラー台でのビルドアップ走」
6章 いつまでも走り続ける
・トレーニングを長続きさせる秘訣は?
・家庭と仕事が最優先 最後がロードバイク
・休むことでこそ速くなる
・ご飯とタバコ、そして酒
・56歳、人生とロードバイクはこれからが楽しい
コース別ヒルクライム攻略法
・乗鞍高原
・富士スバルライン
・栂池高原
・美ヶ原高原
・鳥海山
・八ヶ岳
・枝折峠
ヒルクライムに特化した内容だが私は読み物として本書は面白いと思う。
まとめ: 書籍の方向性にみる自転車事情
高岡さんの書籍でも述べたが昨今の自転車書籍と読者の興味には傾向がある。その興味とは「時間がないサラリーマサイクリストでも強い人は何が違うのか?」という事だ。正直なところ、プロ選手が、強いのは当たり前で時間が確保できるスケールが違う。
フルタイムワーカーで、強いというのは一つのステイタスなのだ。だから多忙な外資系に勤務する高岡さんは結果も伴い、それらの要素を兼ね備えていたので多くの「フルタイムワーカーサイクリスト」から注目されたのだろう。やはり本は売れないといけないし、マーケットが大きくなくてはいけない。
人気のヒルクライム、フルタイムワーカー、酒タバコと話題性に富んだ本書は読み物として面白い。となると次は森本選手の書籍が待たれるが、こちらも時間の問題だろう。もしかしたら今年の乗鞍前に発売されるかもしれない。
ここまで書いて思うのは、われわれサラリーマンサイクリストが本当に知りたいのは「サラリーマンに与えられた時間内の中で結果を出した人の実経験」ではないだろうか。それらの方法論を学び「自分にもできる」という動機付けが欲しのではないか。
本書はヒルクライムに賭ける50歳を越えたサイクリストの生き様が綴られた良書である。いくらと歳を重ねても「現役最強」を目指すサイクリストに読んで欲しい一冊だ。