皆自分のことを気にかけてくれと心底思っている。他人よりは自分だし、自分がやったことを尊厳高く思う。たとえ人が同じことをやったとしても、自分自身の行動の方を高く評価し、余計な重み付けをする。ようは都合が良いのだ。
先日カフェで本を読んでた時、隣りに座っていた大学生くらいの男性の話に耳を傾けた。その人はとても興味深い発言をしていた。「電車の優先座席で携帯出したら怒られたよ、でもやっぱりネットで調べたら影響はないって」と。モラルの問題も議論の余地はあるが、やはり自分が認識していない特徴的な思考回路が見て取れる。
彼がどんなキーワードで検索したのかとても気になる。自分にとって都合の良い情報とキーワード「携帯 電波 影響しない」で検索していたら、と想像する。真実は闇の中だが、これらの都合の良い情報だけを求める傾向を、確証バイアスとよぶ。個人の先入観に都合のいい情報だけを集め、それらを自己の先入観を補強するのだ。
科学的に正しく、モラル的にも正しい
実は、彼の解釈は場合によっては間違っていない。「携帯電話の電波が心臓ペースメーカーに与える影響」についてという調査結果が総務省から発表されている。今から3年前の2013年だ。従来の「LTE端末を含む現行の携帯電話の電波は心臓ペースメーカー機器に影響しない」に合わせ、Wi-Fiを同時に使用した場合も「影響なし」との結論に至っている。
だからといって電車や公共の場でこれらの警告はなくならないし、なくなってほしくない。これらの警告は電波出力が強力だった旧世代の2G携帯電話に合わせた指針だ。確かにもはや端末や電波の規格が古いが、問題なのは世間の認識が古く、「優先座席は携帯禁止」が「正しい」とされる。
ただこれはこれで良い。科学的に間違えているものの、不安を補う「配慮の慣例」は日本らしくて良い。わたしは「電波がうんぬん」という、理由だけでなく電車や駅で見かける「ながらスマホ」の携帯を禁止してほしい。「歩きタバコ」と同じように「歩きスマホ」を禁止してほしい。
これらももしかしたら、私自身が持つ確証バイアスなのかもしれない。自分が不快に思うから、不快を補う為のまっとうな理由を探し、こうやって文章に残す。不確かだが、有力とされる確証を探し、マイナスな理由をはねのける。実はこのバイアスをうまく使っているのはGoogleである。
彼らは「クリックさせる」為に様々な知恵を絞っている。Googleの検索結果の上位に来る結果は実は一人ひとり違う。面白いのは私のパソコンで「シマノ」と検索すると自転車のサイトが表示され、実家のパソコンで「シマノ」と検索すると釣具のページが先頭に出る。
Googleは膨大な個人が持つ「検索の性癖」をよく理解している。自分がほしい情報のみを厳選し、検索結果にフィルターをかける。これらは、当ブログに機材のコメントをくださる井口氏が翻訳した「閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義
」にも記されている。
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なお井口氏は「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン」等有名な書籍を訳しているので是非読んでみてほしい。
私が危惧しているのは、インターネット上で常に自分に都合の良い情報ばかり集め、表示されてしまう世界が続くと、次第に偏った思考を助長するのではないかということだ。自分についた嘘は、次第に都合の良い事実に後押しされ、真実へと化ける。そう、少なくとも本人の中では。
だとしたら、少しでも身の回りの事実に目を向けて、自分がどのような思考の癖があるのか少しでも理解すべきだ。そうすれば、己の間違いも素直に認められる。なにより厄介なのは、他人ではなくて何でも都合の良いように考えてしまう自分自身の中にある。
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