2017年11月1日インプレッション7〜14追加:
- 7 インプレッション
- 8 ジオメトリ
- 9 剛性
- 10 サイズ
- 11 ホイール相性
- 12 コンポーネント選択
- 13 プロモーションと現実の乖離
- 14 まとめ:TARMAC史上最も進むフレーム
目次より参照ください。
自転車雑誌や業界関係者を除けば、一般ユーザーとして初のインプレッションになるであろう新型S-WORKS Tarmac SL6に関する記事を、これから書き記そうと思う。偶然にもいち早く新型S-WORKS Tarmac SL6を入手できたので早速解剖し、実重量から作り込みまで全てを探っていきたい。
新型TARMACは、大々的に世界同時ローンチされたことは記憶に新しい。新型Tarmacを実際に見られる機会は一般・プレス向けにはあったものの、ユーザー側が注目している細かな部品の重量や、フレームの細部に至る構造まではいまだ明らかにされていない。そこで今回は、新型S-WORKS Tarmac SL6の実機を用いて詳報をお伝えする。
S-WORKSのTARMACといえば、私自身もSL3とSL4を乗り継いでおり、非常に馴染み深いフレームだ。所有していたSL3は当時のSAXOBANKカラーが施されたモデルで、スレッド式BBを採用していた。そして、とても硬いフレームだったことを覚えている。その頃のSAXOBANKといえば、ファビアン・カンチェラーラやシュレック兄弟といったスター選手が在籍していた。その選手たちがターマックを使用していたから、当時は話題のモデルだったように記憶している。
次に私が乗ったのはTARMAC SL4だった。たまたま所有していたフレームが今季(2017年)で引退を表明しているアルベルト・コンタドールのシグネチャーモデルで、直筆のサイン入りの写真と、限定モデルナンバーが刻まれた貴重なモデルだった。ただSL4は、SL3からより剛性を上げたことで、必ずしも使いやすいフレームとはお世辞にも言えなかった。
TARMACのモデルチェンジは3~4年の周期で行われている。前作SL5(当時はモデルナンバー無しのNEW TARMAC)で大きなトピックだったのは、今までの「重量剛性比」からの脱却という設計方針の転換だった。よりサイクリストが扱いやすい剛性と、むやみやたらな高剛性化をせず、サイズ毎に剛性の味付けを調整したのだ。
あのSL5のリリースから3年が経過した。そして、今回の新型TARMAC SL6である。SL6に至るまでには、数々の名選手が使用し数々の勝利を収めてきた。そのTARMACがフルモデルチェンジしたとあれば、サイクリストが注目しないわけがない。TARMACが6世代目に進化し、いったい何が変わったのか。その全容をこれから明らかにしていこう。
「重量剛性比」が正義の時代から・・・
TARMAC SL4までのフレーム開発は「いかに軽く、いかに硬くできるか」という設計思想に重きが置かれていた。当時はその1点が最も注目され、開発競争が盛んに行われた時代だった。この潮流に乗っていたのはスペシャライズドだけではなく、SL4がリリースされた時代のあらゆるメーカーが「重量剛性比」というキーワードを掲げていた。
その最たる例は、CannondaleのSUPER SIX EVOだった。
メーカーは軽く、硬いフレームに仕上げることに躍起になった。そしてBBまわりやヘッド周りの剛性を「前年比○○%アップ!」なんてキャッチーなカタログ表記が目立ち始めたのもこの時期だ。各社はユーザーを置き去りにした高剛性化競争にあけくれ、前年比アップ、前年比アップ、前年比アップ!、、、と毎年毎年同じ高剛性競争を繰り返していた。
昨今の2018年モデル発表を見渡しても、「誰得な高剛性化」をうたうフレームメーカーは後を絶たない。メーカーは「進化」を示すために、「前年比○○%アップ!」というわかりやすい表現と手法を使い続けてきた。無知なユーザーでもわかりやすいウリ文句として、2018年の現在も今だにユーザーを置き去りにした「前年比○○%高剛性化!」に頼り続けている(もはや笑うしかない)。ただ本当にそれらは、「ユーザーのための進化」なのだろうか。
後に引けなくなったメーカーの高剛性化の流れに対して、スペシャライズドはフレーム毎に剛性を最適化する開発方針に切り替えた。それがSL5だった。当時「画期的」と言われたフレーム毎に剛性を最適化する開発方針は注目を集めた。しかしTIMEというフレームを知る人達は「TIMEは2004年のVX SPECIAL PROで既にフレーム毎に剛性を調整している」と、今更か?となじったものだ。
しかし、元々フレームメーカーとして別格の位置に到達していたTIMEのようなメーカーではなく、大手のメーカーが別の流れに舵を切るという点に意味がある。SL4までのTARMACはサイズによって剛性が全く異なっていた。小さなサイズはガチガチに硬く、大きなサイズはそれなりに仕上がっていた。
言うなれば、当時の雑誌のインプレッションでTARMAC SL4の56サイズの評価を信じて、49サイズを購入したユーザーは、雑誌のインプレッションと実際の乗り味に大きな剥離を感じたとしても不思議ではない。むしろサイズによって剛性が異なるのだから、間違いではないわけだ。そのような大きな剛性の剥離は、ユーザーにとって望ましいことではないし、重量剛性比をただ闇雲に突き進んだ当時の各メーカーの功罪と言える。
メーカーの「進化したい都合」と、操られる側の無知なユーザー達が入り交じる市場の情勢の中で、スペシャライズドはこれらの問題を解消するSL5を送り出した。ユーザーにとって本当に必要十分(過剰ではない)剛性を備えたフレームを作ってきたのだ。SL4に感じていた鉄板を踏みつけるような感覚はSL5では消え失せ、僅かながらもユーザーの力を受け止めるようなマイルドなフレームへと進化した。
そして、今回のSL6である。
S-WORKS TARMAC 2018
今回のSL6は「エアロダイナミクスの向上」や「軽量化」というわかりやすいアップデートの他にも、現行の機材動向に沿うような大幅なアップデートが施されている。目新しいアップデートを確認する前に、まずはエアロダイナミクスや軽量化といった基本部分について見ていく。
SL6のリーク画像が出回った時に、真っ先に目が行ったのが「リアの三角」だ。通常はトップチューブから流れるようにリア三角に合流するフレーム構造がほとんどだが、SL6のリア三角形状はTTバイクのSHIVやエアロフレームのVENGEでも採用されている構造を踏襲した。
このリア三角の部分は、エアロダイナミクスの観点から見ても有利であると予想できる。通常よりもシートステイが短くなることによって、どのような乗り味の変化をもたらすかは実際の使用で確認する。TARMACはエアロロードではないが、ダウンチューブはFOILと似たカムテール形状を採用していた(実物を見るまで気づかなかった)。
このカムテール形状は、TREK MADONEやPINARELLO DOGMA、SCOTT FOILといったフレームにも採用されている。エアロダイナミクスを追求していくと、涙型(飛行機の翼のようなD型の断面形状)に行き着くようだ。カムテール形状は涙型の細くなる後ろ部分を切り落とした形状をイメージするとわかりやすい。
カムテール形状は、涙型の形状と比べてエアロダイナミクスの差はほとんど無い事が実験により明らかになっている。なお、「カム」は発案者のウニベルト・カムさんからきている。SL5時代のTARMACはどちらかと言えば、特徴のないただの丸パイプのような形状だった。
そこからエアロダイナミクスを追求し、SL6ではカムテール形状を採用した。その結果、他社の競合モデルよりも40kmTTで45秒短縮できるという結果を、スペシャライズドは自社の風洞実験から得ている。おそらくこの競合モデルはTREKのエモンダだと思われるが、やはり「~よりも○%優れる」という文句はこの先の開発競争において、切っても切れない表現の1つなのだろう。
実際にフレームを見渡して最も大きく変更された点といえば、ダイレクトマウントブレーキの採用だ。ダイレクトマウントブレーキをざっくり言ってしまえば、今まで1本だったボルト固定方式から、2本の固定方式を採用しているにすぎない。
直接フレームに固定するという点に違いはないが、1つのメリットとしてブレーキがフォークの一部かのように設計することもできる(TREK MADONEのように)。フォークやフレームと一体化した形状を採用すれば空力性能向上も見込める
ただし、ダイレクトマウントブレーキにはデメリットも存在している。2点でブレーキを支え、リムを挟み込むことでブレーキをかける。その際に外に広がろうとする力をフォークやシートステーが受け止める必要が出てくる。
この広がりを抑えられるか否かで、ブレーキの効きが全く変わってしまう。この特有の問題を解決するソリューションとして、SL6にはダイレクトマウントブレーキ用のカーボン製のブレーキブースターが備わっている。
元々このブレーキブースター(実重量4.2g)は、パリルーベで先行投入していたギミックだ。使用されていたフレームはTARMACではなくルーベだったが、過酷な状況を走り抜ける必要があるパリ・ルーベの為にプロ選手のみに供給されていたものと同じシステムである。
SL6はこのように細部に至るまで細かな配慮が施されていた。細かな部分の設計以外にも、大きなアップデートにも目を向けてみたい。1つはBB周辺のフレーム形状だ。
BBの規格はOSBBを引き続き採用(少しばかり残念ではあったものの)している。OSBBはSL4、SL5と今回も継続しており、期待していたスレッド式の採用は実現されなかった。当ブログで海外リーク情報を掲載したときも、その張り出したBB形状から「まさかスレッド式では?」と期待したものだが、実際にはOSBBのままである。
スレッド式BBへの回帰は、PINARELLOが最も積極的だ。圧入式のフレームのデメリットは「音鳴」にある。踏むとカチカチと音が鳴ってしまう事案が、周りのサイクリストの間でも結構な報告例として上がっている。多くの原因は施工するメカニックの腕にも原因があるようだが、私はプラクシスワークスのBBを好んで選択しており今回のSL6にも採用した。
プラクシスワークスのBBは、スペシャライズドのマウンテンバイクS-WORKS EPICにも標準装備されていたこともあり信頼性も高い。私はOSBBを使用して一度も音鳴を経験したことがない。任せているメカニックの腕と、プラクシスワークスのBBの良さが引き出された結果だろう。このような実績もあるため、同梱しているセラミックスピードのBBの使用は見送った。
コーヒーを飲みながら記事を書きつつ、ぼんやりとパーツが組み付けられる前のフレームを眺めていると、もう一つ気づくことがある。「BBが大口径化した!?」と見間違えるほど、前作と同じはずのBBの穴がとても大きく見える。理由はBB周りの贅肉を落としたためだ。
前作までのモデルは、BB周りの剛性を上げるためにBB周辺を肉厚にしていた。例えばTREK MADONEのBB86は、クランクアームとフレームの隙間がまったく無いほどBB周辺が張り出している。それとは対象的にSL6は、ふたまわり程BBまわりの形状が削ぎ落とされている。結果的に、非常にコンパクトな印象を受けた。
SL6ではカーボンの工法がFact 12rに刷新された為、ある程度のフレーム剛性を維持しつつ全体的にコンパクトに見えるフレームへと進化した。実物は見た目以上に華奢な印象を受けた。SL5時代までのやや流線型で、丸みを帯びたフォルムとは一線を画しており、全体的にソリッド感が強い印象である。
SL6は見た目だけでも軽量化がなされた事がはっきりと分かるフレームだが、実際の重量はどれほどなのだろうか。次章からは実重量を測定して検証していきたい。
実重量
重量面は相当な軽量化を果たしている。56cmサイズにおいてマイナス200gの軽量化を達成し、メーカー公表によると733g(Ultralightの場合)という重量に仕上がっている。この軽量化を実現した背景には、刷新されたカーボンテクノロジーFact 12rの存在がある。この技術を用いて、フレーム全体のシェイプアップと軽量化を実現した。
では気になる実重量をすっぱ抜いていこう。なおサイズは52サイズでカラーは白である。なお白色は塗装の関係上他の色に比べて僅かながら重量が増す傾向がある。
フレーム 919g
52サイズの赤白カラーのフレーム単体重量は919gだった。過剰なフレーム軽量化競争の勝負には名を連ねることはなさそうだが、十分に軽く仕上がっている。塗装分を考えると、上位機種のモデルとの重量差はおよそ+186gである。それを考えると186gにあと数万円払えるかは悩むところだ・・・。
(´-`).。oO(6.8kgに合わせるために鉛入れるのもな・・・アレや・・・。)
フォーク 352.5g
フォークはコラムカット前の重量だ。TIMEのフォークと比べても十分に軽い。ダイレクトマウントブレーキを採用したことによりある程度の重量増は避けられないと思っていたが、剛性面を考えても十分軽量な部類に入る。
シートポスト 167.5g
シートポストもカット前の重量だ。金具(カーボンレール用とアルミレール用が同梱)も込なので比較的軽い。カットすればあと数十グラムは軽量化できる。
セラミックスピードベアリング 42.2g
デフォルトでセラミックスピード社のBB用ベアリングが同梱されている。使うか使わないかは判断の余地があるが、過去の事例を勘案してもプラクシスワークスかウィッシュボーンをおすすめしたい。どちらか選ぶならプラクシスワークスのセラミック。
なお、専用のBBスリーブは3.5gだった。
ヘッドベアリング 40.9g
ヘッド用のベアリングはタンゲ製だった。こちらは上と下でサイズが異る。
ヘッドパーツ類
ヘッドパーツ類はいくつかあるが、コラムスペーサーらしきものは5.6gだった。
プレッシャーアンカーは27.2gだった。
ヘッドパーツの背の高い方はカーボン製で16.8gだった。
薄い方は5.9gだった。通常はこちらを使用する機会が多いのだろう。
フレームセット実重量:1568.5g
白の52サイズのフレームセットトータル実重量(フォーク、フレーム、シートポスト、ベアリング類、ブースター全て込み)は1568.5gだった。白は、塗装を考えると重いのかもしれない。なお黒の49サイズも注文しているので、届き次第実重量を確認しこちらの記事内で公開する。
重量800g以下は本当か
誰もが気になっているであろう、新型TARMAC SL6の重量を再度確認していきたい。TARMAC SL6のラインナップは、軽量モデルのUltralightとノーマルモデルの2種類である。フレームのカタログ重量を引用するとUltralightは733gで通常モデルは800gだ。
と、書かれているが・・・。
しかし、自転車界のカタログ重量などというものを信じていけないのは、皆重々承知している。肝心の実重量といえば、先般の記事でも紹介したとおり919g(ホワイト・レッドカラー、ディレイラーハンガー15g、ボルト4g含む)だった。
自転車のフレームにおいて、白系のカラーは特に重量が増す傾向にある。白の塗装は特に重く仕上がってしまうようだ。この919gという重量の中には、リアディレイラーハンガー15gとボトルケージボルト4つの合計4gが含まれているから、合計19gを先程の919gから引いてもジャスト900gである。あとはフレームに埋め込まれている、金属製のBBスリーブが余分な重量として計上される。
残念ながら、カタログ重量800gからおよそ100g増(12.5%増)のTARMAC SL6が手元に届いた。しかし、今回の話の続きは自費購入したブラック・ホワイトカラーの49サイズへの期待である。最も軽く仕上がるであろうと期待されているブラック・ホワイトカラー(Ultralightと一見見分けがつかない)かつ、最も重量が軽いと思われる49サイズである。
最小49サイズ&ブラック・ホワイトよりも軽いTARMAC SL6のフレームは考えられにくい。したがって49サイズのホワイト・ブラックは、下限重量の基準となるフレームとして私は位置づけた。では、実際のフレーム重量を公開しよう。
890gだ・・・(マジで複雑な心境)。
この重量はディレイラーハンガーとボトルケージボルト4つの重量19gを含んでいる。。。私はもう一つ、重要な事実を記したい。もしかしたら読者がザワザワしてしまう事実を。上記写真で登場しているFEEDBACKの計測器は、「吊るすタイプだから誤差が生じているのではないか(錯乱)」というよくわからない期待を私は抱いた。
そこで、0.1g単位で測れる据え置き型(キッチンスケールのような)PARKTOOLの測定器でフレームを計測することにしたのだ。その驚きの結果は、、、
897gだ・・・(7g増www)
もうこれ以上、私を数値で苦しめないで欲しい!と心のなかで叫んでしまった。しかしFEEDBACKの測定器はざっくりと計測して、「気のきいた数値」を示していただけなのかもしれない。FEEDBACKよ、ありがとう。そしてPARKTOOLよ、私に真実を伝えてくれてありがとう。
もうどうでもいいけどフォーク重量は350gな(なげやり)。
重量次第で私は、いくつか気の利いた文章を準備していた。例えば810g程度であれば「カタログ重量は800gアンダーとあるが、塗装を考えても十分満足の行く重量である。」といった表現や、850g程度であれば、「50g程カタログ重量より重く、納得はあまりいかないが十分軽い部類に入るフレームである」といった、たぐいである。
ところが、最も軽く仕上がるとされるブラック・ホワイトの最小サイズ49が、890g(細かく言うと897gな!)が実重量であった。この重量は箱から出した状態なので、しつこく書くがディレイラーハンガー、ボトルケージボルトを含む。この重量から余分とされる部品(ディレイラーハンガーとボトルケージボルト4つ)の重量19gを引いたフレーム重量は871gである。
本音を言えば、なんでこんなに重たいのか本当によくわからない・・・。塗装で71g行くのかは謎だが、どのような状態が「800gアンダー」なのだろうと思いを巡らす。SPECIALIZEDは消費者が納得できるように、もう一度カタログやWEBに記載されている「800g」の謎を明確に説明したほうが、、、本当に良いのかもしれない(後々)・・・。
(※もしくは、製品版は10%以上重量が重く仕上がる場合がありますと明記するなど)
SPECIALIZEDが今回の新型TARMAC SL6で全面に押し出してきたのは軽さだった。だから、消費者の私も重量面を期待していた。カタログやWEBで公開している「フレーム重量800g以下」という表記に関して、我々は過度な期待をし過ぎたのかもしれない。誰にでも誤解がないように正しく重量を示すとしたら、私は次のように明記するだろう。
「カタログに表記のフレーム重量は、塗装前の重量かつ、ディレイラーハンガー、ボルト、BB受け全てを除いた重量です。」
と。一言付け加えさえすれば、ユーザー側の理解も誤解がないのではないか。ようするに「釜から出てきたホクホクの状態」がだいたい800g前後なのであって、ユーザーが受け取った箱から、フレームを取り出した状態は決して800g前後ではない。
SL5の時代もSPECIALIZEDはフレーム重量を記載していなかったのだが、SL5はおよそ980gだった。今回SL6の登場でSPECIALIZEDは軽さを大々的にアピールしてきたわけだが、少々肩透かし感はあったことは紛れもない事実である。
ここで、S-WORKS TARMAC SL6の実重量をまとめておきたい。なお、ディレイラーハンガーハンガー、ボルト19g分を含んだ重量を記載している。そしてカッコ書きの中の重量は、ディレイラーハンガー19g分を抜いたフレーム重量と、カタログ重量の差分を表記している(いずれも70g~100gほど重い)。
- 54,サガンカラー:873g
- 52,サガンカラー:900g
- 52,ホワイト・レッド:919g(919-19-800g=+100g)
- 52,ブラック:820g
- 49,ブラック:890g(890-19-800=+71g)私物
- 56,ウルトラライト:783g(小物類含まず) Forzaさん
TARMAC SL6は何を目指すのか
今回のTARMAC SL6は、プロモーションで紹介されていたような軽いフレームではない。軽さばかりに目が行く原因の1つとして、SPECIALIZEDのプロモーション上の問題もあるのではないだろうか。そもそもTARMAC SL6を「軽いフレーム」として印象づけるようなプロモーションは本当に必要だったのだろうかと、私は疑問を投げかけたい。
むやみやたらな(サイクリストがウンザリしている)フレームの高剛性化や、前年比○○%剛性アップ!などという、サイクリストを置き去りにした開発競争やプロモーション戦略なんて、さっさと終焉を迎えれば良いと思っている。
それとあわせて6.8kgルールがある中で、軽量フレームを使ってどうにか規定に合わせようとオモリを入れるのもナンセンスだとも思っている。
軽量化パーツを使いつつ、6.8kgの重量規定をパスするためにオモリを入れることなど、京都のど真ん中にスーパー玉出を作るようなものだ(関西圏でしか通じない比喩で申し訳ない)。どうみてもバランスが悪い。
確かに、6.8kgルールがあるレースや、規定の無いレースに1台のバイクを併用して出場するのならば話はまた変わってくる。それならば、ヒルクライム決戦用の軽量バイクを作ることを考えるが、実際に資金面で余裕がない場合だって十分有り得る。それでも今回の新型TARMAC SL6の位置づけを明確にするとしたら、次のように定義してはどうだろう。
「6.8kgの規定に収まるバランスの良いフレーム」
と。もしも6.8kgで完成車を組み上げるとしたら、TARMAC SL6は最も適切なフレームの1つであろう。対して、1gでも切り詰めてとにかく軽く仕上げたいというねらいがあるとしたら、TARMAC SL6はやめておいたほうがいい。
例えば軽量なフレームの代表格CannondaleのSUPER SIX EVO HI-MOD、TREKのEMONDA SLR、YONEXのカーボネックス(地元企業なので最も注目している)、LOOK 785 HUEZといったクライミングバイクを選択すれば良い。
「軽さ、軽さ、軽さ」と今回のSPECIALIZEDのプロモーションで私はいつの間にか「過度な軽量化戦略」に乗せられていたのだろう。たしかに今回のプロモーション面のアヤもあるが、過度な高剛性化と同じように、過度な軽量化も本当にそこまで必要なのかと自問自答するのだ。重量面だけでなく、TARMAC SL6の本来の位置づけを探る必要があるのではないかと問うてみる(・・・じゃないとやってらんない)。
では、どのような側面からTARMAC SL6を見ていけばよいのだろう。
たとえばTIMEのフレームに、エアロダイナミクスや軽量化をユーザーは期待していない。では何を期待しているのかと言えば「TIMEやらしさ」だ。それとと同じように、今回のSPECIALIZED S-WORKS TARMAC SL6にも、軽量化や高剛性化を期待せず「TARMAC SL6が目指すもの」があるのではないか。ただし、それらを具体的に表現することは、難しい。
変化したことを表現する方法として、重量面であれば「800gアンダーです」や、性能面で言えば「前年比30%剛性アップ」といえば最もわかりやすく通じる。しかし、それ以外の目に見えない部分をアピールしようとすると、途端にトーンダウンしてしまう。
変化を表すとしたら、数値で表現することが最もユーザーに伝えやすく、理解しやすい。しかし「それ以外の何か」をアピールしなくては、フレームという単なる炭素繊維で構成された物体など、コモディティ化(似たり寄ったりで差がなくなる)するのは目に見えている。
新型TARMAC SL6も他のフレームと同じように、埋もれていってしまうのだろうか。「800gなんてウソやん」と重量面ばかり取り沙汰され、本来見るべき性能を見落としてはいないか。値段は決して安くない48万円(一般的な初任給の二倍以上)である。高価なフレームを購入して、一般的な庶民の私は不安な想いをいだいた。
だから、その不安を少しでも払拭しようと、そしてTARMAC SL6を深く知るために組み上げを進めることにした。実際に組んでTARMAC SL6に乗ってみさえすれば、カタログに掲載されていないTARMAC SL6の「何か」を少しでもつかめるかもしれないと思ったからだ。
~ ~ ~心の声~ ~ ~
ここまでの文章を精読して気づいたことをありのままに話すぜ・・・。自身の本心を注意深く探ってみるとどうだろう。納得していない自分がそこにいる。冷静に通読と精読を繰り返すと、私自身の中でTARMAC SL6の実重量に納得していない。今後も、何人もの消費者達が新型TARMAC SL6を購入すると思う。その中には重量面で期待を裏切られてしまう人は間違いなく出てくる。
100g重かったという事実を突きつけられた時、初めこそ落胆してしまう。しかし人間は、都合が良いように受け取れる言い訳をついつい並べようとする。受け入れがたい事実を認めさせるように、無理やり後付けで何とか納得させようとするのだ。まさに今回のインプレッションの本質はそこにあるのかもしれない。
今回私が購入したフレームの重量誤差は、カタログ重量800gよりも97g重い897gだから、12%増しという結果だ。1割以上の誤差があるのなら、製品としての精度や品質管理を疑うレベルではないか。今回のTARMAC SL6の重量に関して、私は単純に容認することはできないと、ウソをつかずはっきり書いておきたい。
この12%という数値は人によっては、たいした誤差ではないのかもしれない。ただ、ホイールにこの12%を当てはめてみると、がらりと印象が変わってくる。例えばROVAL CLX32のカタログ重量1280gと記載されているものが1433gに、CLX50のカタログ重量1380gと記載されているものが1545gだったらどうだろう。相当ショックを受けやしないだろうか。
フレームだから一見許されそうな12%の誤差だが、ホイールに当てはめてみると、返品するレベルの重量誤差である。パワーメーターで測定誤差が+12%だったらもはや別物だ。250Wは280Wになり、300Wは336Wになる。これはもはや測定値ではなく故障している値である。
と、ここまでの「心の声」については読まなかったことにしていただいて、話を本線に戻そう・・・。と思ったら心の声が誰かに聞こえたのかは定かではないが、塗装の重量について有力な情報のタレコミが来た。
YONEXのCARBONEXのカタログには「650g※Sサイズ未塗装フレーム単体」と明記されていたため「塗装後の実重量はなんぼなん?」と聞いたところ「白青カラーのSサイズで、塗装済みの検品重量は731gで公差が+-20。過去に出荷したフレームはマイナス側の公差しか出してない」との回答をいただきました。黒系の場合は691g+-20(塗装=21~61g)だそうです。つまり、YONEXではパール白系の塗装だと、61~101gくらいを塗装の重量として見込んでいるようです。Sタマの公称重量が未塗装時の話であれば「塗装で71g」は妥当な数字に見えますので、落胆するほどの大きな誤差では無い…のかもしれません。もちろん、記事でもおっしゃっていたとおり「未塗装って明記しとけ!」という話ではありますが。ちなみに、フォーク重量は、コラムカット後の実測で340gでした。Sタマと近い重量ですね。
YONEXの場合は「未塗装フレーム本体」の状態で650gだが、塗装で61g〜101g程度は重量増するらしい。ということは、今回のS-WORKS TARMAC SL6の場合でも十分に塗装で重量が増えてしまったことも十分に考えられる。また、ウルトラライトとノーマルの差は塗装以外無いため、未塗装状態で800gはありうる。ただ何度も嘆くが、「未塗装なんて聞いてねーよ・・・」と私は心のの中で叫んだのであった。
ということで、今回のTARMAC SL6のノーマルモデルにおいてカタログに書いてある「重量800g以下」は期待しない方が良いのかもしれない。おそらく800g半ば〜後半の重量を覚悟しておいたほうが良さそうだ。
TARMAC SL6の機材構成
どこか遠い世界に意識が飛んでいたような気もしなくはないが、続いてはTARMAC SL6を組み上げる際に使用した機材構成を紹介していきたい。
その前にTARMAC SL6を深く知ろうとした時に「軽かったです」だとか「硬かったです」という月並みな表現など、当ブログの読者は求めていない。ただし、私という人間は測定器ではないから、絶対評価をすることはできない(そういう話題はTour紙でいつか掲載される)。
唯一可能なことと言えば、今まで様々なバイクに乗ってきた相対的な評価である。私にはフレームの評価基準がある。おなじみのTIMEのZXRSである。
一番乗り慣れたフレームであり、最も気に入っているフレームだ。スペアで2台保有するほどのお気に入りなのだが、既に絶版でヤフオクに出ればプレミアがつく。TIME ZXRSの良いところは硬くもなく、柔らかくもなく、なんとも上質な乗り心地がライダーを魅了する。
TIMEの開発者曰く、「乗っていて楽しいこと」をフレーム制作において重要視しているというが、まさにそのとおりだと思う。今回、なるべく機材性能差をなくすためTIME ZXRSに搭載している機材をそのまま流用した。内部のケーブル類はTIME ZXRSに残置しているため、TARMAC SL6用に新しく電動一式を購入し直している。
基本コンポーネントはULTEGRA 6870 Di2である。クランクはDURAACE9100を使用した。私はレース機材のメインコンポーネントにDURA ACEを使っていない。理由として重量面以外の差がわからなかったからだ。もう一つの理由として11月に8050が出るから、後から付け替えようと思っている。
なお、どのリアディレイラーもそうなのだがプーリーだけDURAACEの交換部品に載せ替えている。その他、主な機材構成は以下の通り。
- ハンドル:フィジーク CYRANO 400mm(リーチ80mm、ドロップ130mm)
- ステム:フィジーク CYRANO 90mm(17°)
- BB:プラクシスワークス セラミックBB
- サドル:S-WORKS POWER ARC 143mm
- ホイール:ROVAL CLX50
- リムテープ:NOTUBE
- タイヤ:Continental GPTT 23C
- チューブ:SOYO LATEX
※余談だが、SPECIALIZEDの製品は全て国内正規代理店を通じ購入している。(S-WORKS SL3,4,6,SW S-WORSKS EPIC, S-WORKS CRUX, CRUX PRO, ROVAL CLX32,50,64
BBに関しては好みがわかれるところだ。OSBBの場合3つの機材チョイスが考えられる。一つ目が純正のセラミックスピード社のBBを使用すること。二つ目がプラクシスワークスのコンバージョンBBを使用すること。三つ目がウィッシュボーンのBBを使用することの3方法である。
今回私が選択したBBは、プラクシスワークスのコンバージョンBBのセラミックタイプだ。元々付属しているセラミックスピード社のBBを使用するのが最も適切だと考えられるが、過去(SL4,SL5,EPIC) にOSBBを色々と試してきたので、今回も保守的にプラクシスワークスを選択している(過去にSPECIALIZEDは完成車にも採用している実績がある)。
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ただし、うすうす感づいていたのだが、このBB選択は間違いだったのかもしれない。プラクシスワークスのBBの魅力は、締め付けていくほどに筒が膨張し、より強固にフレームとBBが密着するメリットがある。しかし、この威力が発揮されるのはSL4やSL5のようなBB内部が筒のように塞がっている構造の場合だけである。
今回のTARMACの SL6では、BB部分の肉抜き処理が過激なまでに行われている。そのため電動用のDi2ケーブルが取り回ししやすいというメリットがある一方、プラクシスワークスの膨張BBのメリットを受けにくい。今回のTARMAC SL6のBB内部構造を考えてみると、単純にネジを締め込んでいくウィッシュボーンのBBでも良かったかもしれない。
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サイズ
今回SL6のリリースで最も悩まされるのはサイズの問題だ。今まではトップチューブ長やシートチューブ長を見てサイズを決定していたが、全くあてにならない人も出てくる。今回のSL6では、スタックとリーチを参考にしてサイズ選びを行うようだ。
と、、、簡単に「スタックとリーチでサイズ選んでください」と簡単にメーカーや関係者達は言うが、現実問題非常に難しい。「それならRETULという良いフィッティングサービスがありますよ!フレームとセットなら割引します!」なんてショップからセット販売を売り込んでこられても、万人には追加で何万円も払ってフィッティングサービスを受けられない人も多い。
私の場合は、自分のフレームのスタックとリーチを全て記録していて、さらにステム長、ハンドルリーチを全てデータベース化している。そのため今回のSL6のサイズ選びにも困らなかったのだが、現実問題「スタックとリーチ」を全くわからない人達はどうしたら良いのだろうか。
そんなサイズ選び難民に対して、ぜひ知っておいてほしいのはアンカーのフレームジオメトリーの表である。アンカーのフレームのジオメトリーは、あの辛口で知られる「のむラボ」のノムさん曰く「アンカーは小さいサイズでも、最も良く考えられているフレームジオメトリー」と言わしめている。なので参考になる。
参考:アンカーRS9のジオメトリー表 スタックとリーチから適応する大体の身長、股下が把握できる。
アンカーのフレームジオメトリーには、しっかりとスタックとリーチが記載されている。そして、股下に対するフレームサイズの表が別紙で明文化されている。自分に見合うスタックとリーチがわからずとも、まずはアンカーのフレームサイズ早見表でおおよそのサイズ感を知ってから、SL6のサイズ選びの参考にしても良いだろう。
SL6のサイズ選びで間違ってはいけないのは、トップチューブ長を参考にしてサイズ選びをしてしまうことだ。49サイズに至っては、TOP508mm(リーチ:375mm)である。おそらく旧サイズであれば518mm程のサイズだろう。従ってTOPで選ばずに、しっかりとスタックとリーチをにらめっこしてほしい。
おそらく170cmで股下76.5cmほどであれば新型は49サイズだろう。その辺を基準にして考えて良い。なお私は49サイズを選択した。この記事に掲載中のフレームは52なのでおわかりだと思うが、私のフレームではない。身長172cm程の選手が乗る予定のフレームを今回先にご行為でお借りしたのである。
自分用の黒49のノーマル仕様を手に入れ次第、重量を計測してみたい。↓その後
インプレッション
今回TARMAC SL6に対してインプレッションを記そうと思った時、とても悩んでしまった。理由は2つある。1つは製品自体の重量面、2つ目はバイク自体の性能面だった。これから文章を通じて、読み手にTARMAC SL6を伝えようとするとき、それぞれの事柄を別々にわけて記す必要がある。このようなルールを自分自身の中に定め、書き進めることにした。
そうでなければ、TARMAC SL6は「よく走るが重量面に疑問が残るバイク」、というどこかありがちで、ぼやけた表現でしかTARMAC SL6を説明することしかできなかった。今回TARMAC SL6のインプレッションを綴ろうと思った時、納得がいかない点ばかりに文章が偏り、本来記すべき本質の部分を見失いそうになった。
期待が裏切られた面ばかりを記載してしまうことは、TARMAC SL6を重量面という切り口でしか評価できていないことになる。しかし―――、SPECIALIZEDがTARMAC SL6を「軽量バイク」としてプロモーションを大々的に展開していることと、実際の事実はどうであったかという点については、明確に事実を記し、書き留めておきたい。
私が感じ得たTARMAC SL6への様々な葛藤は、乗り込んでいくうちに明確な結論へと導かれていった。
SPECIALIZEDによって「軽量バイク」と銘打たれ、生み出された構造体は、生みの親の思惑に反して自分自身の価値とサイクリストに与える印象を徐々に変えていく。「TARMAC史上最も軽い」と生みの親に定義づけられたバイクは、ライダーと交わっていくうちにその印象を徐々に変えていく。
S-WORKS TARMAC SL6の本当の正体は、もしかしたら軽さ以外の別の場所に存在しているのではないか、という疑惑に変わっていった。決して交わらない水と油のように、SPECIALIZEDが大々的に主張していた「重量面の軽さ」とTARMAC SL6がライダーに伝えようとしている本質のせめぎあいが、私を悩ませる。
もしも読者の方が最後まで本記事を読み終え、それぞれの中に結論を導こうとした時、S-WORKS TARMAC SL6は「必ずしも軽さだけで評価されるべきではないバイク」という結論にたどり着くのだろうか。そんな不安を抱きながら、良い点、悪い点も余すことなく私が体験したS-WORKS TARMAC SL6の全てを綴ろうと思う。
ジオメトリ
TARMAC SL6の良い点をあげろと言われれば、ステアリングの良さだった。何よりバイクを操作しやすく扱いやすい。この性能は下った時、ふとしたカーブに差し掛かれば誰しもが気づくTARMACの特徴だろう。今までのTARMACの小さなサイズといえば、大きく切れ込むような動きが目立った。どちらかといえば、SL4までのTARMACは俊敏に動くようなバイクで、おちつきに欠けるフレームだった。
SL6は操作がしやすい。シクロクロスに使っても問題ないんじゃないか(ホイールベース、チェーンステー長、ヘッド角はやはりロード設計だが)と思う程だ。砂のワダチにフロントホイールを容易に送り込めそうな、そんな微妙なバイク操作ができる。これらステアリング周りの素直さは、設計が刷新されたS-WORKS CRUX(同社のTARMACベースCX用フレーム)を本気で買おうと思ったほどだ。
こんなエピーソードがある。私がよく走る峠で工事区間があり、対面通行になっていていた。そこには時差信号が設置されていたのだが、通行可を告げるのこり50秒のカウントダウンを見ながら、楽にスタンディングすることができた。バイクの性能よりも私本人のスキルの問題も確かに影響が大きいかもしれないが、ステアリング周りの操作はとても素直といえる。
フレームという機材において、小さなサイズのジオメトリはしばしばないがしろにされてしまう。今回のTARMACといえば、全サイズに対して適切な設計と剛性がチューニングされている。実際のところ、重量面がどうこうよりもジオメトリと剛性がどう変わったのかを期待していた。同社がフレームの設計コンセプトに掲げる、ライダーファーストエンジニアードは、各サイズによるライダーの体重や身体的特徴を考慮して、ベストなジオメトリと剛性を実現する。
これらの結果は、アマチュアの私ですら十分に感じられる程に設計が煮詰められていた。今回ジオメトリを大胆に変更してきたが、トップチューブ長参考にしてはいけないほど短く変化している。ただし、リーチを参考にしてサイズを選べば問題ない。サイズに関しては別の章を立てて記載した。
私は今回のTARMAC SL6の本質的な部分の改良を好意的に受け止めた。同社が掲げたサイズ別の適切なジオメトリ設計、サイズ別の剛性チューニング、素直なステアリングと、一見地味だがフレームの本質的な部分の改良を行ったことは評価されるべき点だ。
TARMACの基本性能は、ユーザー側の立場で使いやすく、適度な剛性を備えたそつのないバイクという点につきる。もしも大手のメディアにSL6のインプレッションが掲載された時、「優等生的な」なんてフレーズが使われるのだろう。次章では、ステアリング周りの操作以外にも、もう少し皆が気になりそうな観点について確認していきたい。まずは剛性感からだ。
剛性
私のフレームの基準はTIME ZXRSである。人間は測定器ではないから、絶対的な評価ができない。そのため「~とくらべて」といったような相対的な評価でしか物事を判断できない。私は評価を下す際に、できるだけ精度を上げるためにルールを決めている。タイヤとチューブとホイールという機材は、必ず統一する。私の場合はBORA35CLがホイールの基準だ。タイヤはContinentalのTTとチューブはラテックスをあわせて使っている。
余談だが、雑誌やメディアのインプレッションはホイールやタイヤやチューブが毎回違うのに、「このフレームは・・・」という特定の機材にだけにフォーカスして評価を下せているから、とても感心している。というより、多分それは私には無理だ・・・(実際私自身もフレームの感覚を正しく理解できているかすら怪しい!)。というやや皮肉めいた前置きはともかくとして、剛性の話をしよう。
TARMAC SL2、SL3、SL4は俗にいう「脚を削られる」バイクだった。SL4発表時の各メディアの評価を引っ張り出してきて、すこし当時の事を思い出してみたい。SL4までは「ピュアレーシングバイク」だとか「かかりが良いが、足が売り切れる」といった評価が特に目立っていた。思い返してみれば、当時の業界はBBまわりやヘッド周りの剛性値をどれだけ向上できるか、という行為自体に躍起になっていた。だから硬すぎるバイクが出来上がっても何ら不思議ではなかった。
SL4発表当時盛んだったのは、SUPER SIX EVOの登場による「重量剛性比」の戦いだった。当時、SCOTTの軽量バイクADDICTを生み出したカーボンの魔術師ピーター・デンクがSUPER SIX EVOを設計したとあって話題になった。
この頃、重量に対してフレームをどれほど硬く仕上げられるかの勝負を、GIANTやCannondale、SPECIALIZEDが競い合った。悲惨な話だが、ユーザーが乗ることなんかお構いなしに数値だけが優先され、毎年何十%も剛性はアップし続けた(一部のメーカーはこの期に及んでもその道を歩み続けているし、来年も同じ手を使うのだろう。そして翌年もずっと。)
私はSL2,3,4,5と乗ってきたが、SL5からは1つの線引きがあるように思う。SL6はSL5の延長線上にある。むやみやたらな重量剛性比を目指したSL4までとは異なり、とても優しい印象を受けた。TARMAC SL6は踏み込んでもカッ飛んで行くような感じは受けないが、かかりが良いバイクである。
TARMAC SL6のBB規格は、OSBBを踏襲している。ただ、OSBBを取り囲むフレームは先代のSL5よりもかなりシェイプアップされ、一回り小さい印象を持っている。剛性面でバリバリに硬いフレームをご希望であれば、TARMAC SL6はもしかしたらお気に召さないかもしれない。私はTIME SKYLONでも硬すぎたのだが、あの剛性感よりもTARMAC SL6は相当乗りやすい印象を受けた。なお、TIME ZXRSよりは硬い。
サイクルサイエンスによると、BBまわりはある程度の剛性が備わっていれば十分だという。ペダリングをする際に、BB付近のねじれが熱エネルギーにわずかに変換されてしまうが、熱エネルギーに変換されたことによるバイクの駆動ロスは、ほぼ無視してかまわない程度だとという(サイクルサイエンス55p)。
したがって、BBまわりの「前年比X%アップ!」という各メーカーが大好きなキャッチコピーは、物質的には確かに硬くなっているものの、必ずしも「前年比X%進む!」と同じ土俵で書か(書け)ないのはこのためだ。実際に硬いことと進むことは切り離して考える必要がある。
しかし、ANCHORという企業は優秀で「前年比X%進む」というRS9を作ったのだから、本質を見抜いていた。だから私はANCHORのバイクに乗ってみたいと思っているのだが、行きつけのショップで取り扱っていないから、なかなかその機会が巡ってこない。テストでも良いからRS9に一度乗ってみたい。
先日同じTARMAC SL6に乗る井上亮選手とTARMACについて話したのだが、互いに見解が一致したのは「確かによく進む」という事だった。実力は雲泥の差があるものの、何かよくわからないがよく掛かって、よく進むバイクであるという共通の認識を持っていた。長距離の練習で使用しても、フレームが硬すぎて疲れるということも無かったから、狙った剛性は十分に出せているのかもしれない。
レースを一生懸命やっている選手に対して、遠回りしないフレーム選びをするのならばTARMAC SL6を私はまずお勧めする(決してSPECIALIZEDの回し者ではない、発言内容からもわかると思うが・・・。)
リーチとスタック
サイズに関して言えば、私はフレーム選びの際にスタックとリーチを特に重視している。過去にアジア圏で最もBody Geometry Fitをこなした(今はIRONMANのMさん)に、ポジションとフレームの関係性について伺った事がある。
その際に知ったのは、昨今の研究されているポジション調整において、トップチューブ長やシート長だけをみてポジションを決定すること自体がそもそも難しい(というより無理)とのことだった。その話を聞いてから、私は教えてもらったスタックとリーチを参考に、サドル後退幅(規定により50mm後退)で固定しつつ、リーチとスタックを目安にポジションを決定している。
フレームサイズをリーチで決める際に、フレームリーチ、ステム突き出し量、ハンドルリーチを「総リーチ」と定め、合計値が545mm前後になるように全てのバイクをセッティングしている。ちなみにシクロクロスのバイクの総リーチは535mmだ。私が49サイズを選んだ理由はここにある。TARMAC 49のフレームリーチは375mmで自分にあう総リーチ545mmに当てはめようとすると、残りの170mmをステム突き出し量とハンドルリーチに割り振る必要がある。
厳密に言うと、STIのリーチはモデルによって異なる。CXに使用しているST-785(油圧Di2)は通常のST-9050や8050とくらべてリーチが長めだ。その点を含めて総リーチはフレームリーチ、ステム突き出し量、ハンドルリーチを足した値を一つの基準としている。
545mm-375mm=170mmという値はたいていハンドルリーチの量でほぼ食い尽くされるから、結果的にステム長で調整していく必要がある。おおむね各社ショートリーチのハンドルは~80mmほどだから、ステム長は90mmという選択になる。545mm=375mm+80mm+90mmという計算だ。ステムは90mmか100mmを使いたいから、私の場合49からワンサイズ上げてしまうと80mmのステムを使用する必要が出てくる。
以上のような理由からTARMAC SL6は49を選択しているが、確かにもうワンサイズ小さくしてステムを100mmにしても545mmとして設定できる。しかし、トレイル量が望んだ量を確保されていないため49サイズを選択した(これは結果的にアタリだった)。また、もうワンサイズ大きくして52を使ってしまうと、ステム長を長くできないからやはり170cm前後程の人は49サイズが適切だと思う。
参考までに私の身長は169.7cm、体重57kg、BB-サドルトップ667mm(サドルによっては670mm)、サドル後退幅50mm、総リーチが545mmだ。現在TIME ZXRS PISTE、TIME ZXRS、TIME VXRS、TARMAC SL6と全てパワーサドルを使用しているが、全てのバイクにおいて、ブランドが異なるものの総リーチはほぼ一緒である。
もしもサイズ選びに悩まれているようだったら、S-WORKS TARMACのトップチューブ長はまったくあてにならない(というよりSL6は参考程度にも見てはいけない)値なので意味ある数値であるリーチを確認してほしい。
ホイール相性
結構楽しめたのが、ホイールの相性だ。結論を言ってしまえばCLX32が最も相性がが良かった。なぜかは最後までわからなかったのだが、CLX32を付けた際の峠のタイムや、かかりの良さはBORAやCLX50のそれとはまったく異なる印象だった。TARMACというフレームの評価というよりは、ホイールとフレームの総合的なバランスを私は感じていたのかもしれない。
私の体重やパワーに対して相性が良かったのか、それともバイクとホイールの相乗効果で相性が良かったと感じていたのかは定かではない。BORAやCLX50と比べてもだ。1つ言えることは、もしも金銭面に余裕があるのならばホイールだけはCLX32をあわせたほうが無難である。
当初はCLX50の方がマッチするだろうなと想像していたのだが、実際に色々と付け替えて試してみると、やはりCLX32との相性が最も良い印象だった。平地におけるCLX50のアドバンテージはもちろん捨てがたいのだが、広島森林公園や群馬CSC程のアップダウンがあるコースならば、意外とCLX32の方が適していそうだ。
ただし、ツール・ド・おきなわやニセコクラシックといった長距離を高速で移動するような場合はどうだろう。どう考えてもCLX50が適している。長距離のレースの場合は少しでも楽に速く走る事が求められるし、実際にツール・ド・おきなわで常に上位に絡む井上亮選手も、新型TARMAC SL6とROVAL CLX50というアッセンブルだった。
市場に出回る50mmハイトのカーボンクリンチャーにおいて、ROVAL CLX50は最も速く走れるホイールの1つだ。TARMAC SL6との相性問題はCLX32が適していると考えられるが、レースを走る上でオールラウンドに使用するならばCLX50を選択する方が良い。
CampagnoloのBORA35との相性(の悪さ)について少し触れてみたい。TIME ZXRSにはすこぶる相性が良いのだが、おもしろいことにTARMAC SL6とBORA35はどこかしっくりとこない(CLX32とくらべて)。ルックス面もそうなのだが、BORA35を選択するならROVAL CLX32を選択しておいたほうが無難である。TARMAC SL6にBORA35を付けて踏み込んだ時の進む感覚はあまり好きではなかった。
1の入力に対して0.95しかまないような感覚、と表現すればよいだろうか。BORAはTARMAC SL6にシンクロするホイールではない。気をつけてほしいのは、私の中の感覚の判断であり、全員が共通認識できるかは断言できない。BORA35とCLX32を比べたからそのように感じるだけなのかもしれない。
もう少し考えてみると、恐らくCLX50のリム外周重量よりBORAの方が重いのも原因かもしれない。ただし、雨天での使用はBORA35の方がブレーキング性能が高いから、ようは何を合わせるかは読者の使い方次第だ。
コンポーネント選択
WEB上で、TARMAC SL6の完成車が電動で組まれたものしか見当たらなかったから、ワイヤーでも組み上げることができるのか心配だった。実際にはワイヤー用のキットが同梱されている。しかし、ケーブルルーティングを考えると、全てのシフトワイヤーをフレーム内に格納する必要があるため、できるならば電動で組んだほうが無難だろう。
重量面で1つ言えることは、DURA-ACEの9100の電動とROVAL CLX50の組み合わせの場合、軽量なPOWER ARCのサドル(140g程)や200g以下のカーボンハンドルを使って、サイコン、ボトルケージ、バーテープ等を含んで丁度6.8kg付近に落ち着くようなバイクが作れる。
アルテグラの電動やアルミハンドルやSMP FORMAといったわりと重要のあるパーツを使用してしまうと、7kg近くになってしまうから重量にシビアなライダーは注意が必要だ。もしも軽量なバイクを組み上げたいのならば、TARMAC SL6よりもTREKのEMONDAやSUPER SIX EVOが良いだろう。
重量面は何度も言うが、過度な期待は禁物である。ただ、肝心の走りは重量と反比例して軽く感じるから、本当に不思議なフレームである。重さよりも、バイクの振りの軽さや、かかりの良さは重量面の問題を払拭してくれる。物理的、数値的な重さを持ったフレームとして存在しているものの、ライダーが感じる快適性や、乗り味は重量の印象と大きく異なっている。ある意味、良いバイクなのだろう。
重量面の話が出たところで、次章ではプロモーションと実際の重量の問題について触れていきたい。
プロモーションと現実の乖離
重量面の問題についてあえてインプレッションで触れなかったのは、重量に関しては本章をあえて割いたためだ。そして、この話題に当初触れようか、触れまいか私は迷っていた。しかし、よく考えてみれば「書かない理由は何か」という自問自答を繰り返してみると、ようは誰かの目が気になる以外、理由は見当たらなかった。
私が嘘偽り無い事実を、たとえ書いてみたところで「ネガキャンだ!営業妨害だ!」とも言われるだろう。もう一方で、私が重量面の事実を書かなければ「お茶を濁した!圧力に屈した!」と言われるのがネットの世界である。「書く」「書かない」という2つの選択肢しかないというのに、どちらの道を歩んだとしてもイバラの道でしかないのだ。
ネットの世界とはそういうもので、閲覧者らは自らの意見を発信しないものの、いざ他人の意見となると待ってましたといわんばかりに、雄弁に指摘を繰り返す人がとても多い。ただ、雄弁に言うだけタダの人たちも、いざ自身が逆の立場で発言者になって突っ込まれてしまうと、わりと凹んでしまう。
このようにネット世界の悪しき風習と、言う方が圧倒的に有利な世界であるならば、当たり障りのない、八方美人の意見ばかりが並べられてしまうのも仕方がない話だ。だから、ここから記載する内容は私個人の意見であって、全てを決定するものではないとあえて先に述べておく。
書く側にも、読む人にも、それぞれ意見は当然あるわけだから、無数の意見の中の1つの意見だと思って読んでいただけるだけでよい。まるで宇宙空間にぽつんと浮かぶ地球を想像しながら、読み進めて欲しい。所詮、無数に散りばめられた星のように、私の意見もその中の1つでしかない。
今回のTARMAC SL6の発表に際し、SPECIALIZEDは軽量化を大々的にアピールするプロモーションを展開した。ただし軽量化(したとされる)TARMAC SL6の実際の重量面にフォーカスした場合、フレーム実重量は決して満足のいくものではなかった。大々的なプロモーションがゆえに、私は重量面に多大な期待し、情報を鵜呑みにしてしまった。
結果だけ見れば、重量面で期待した通りのフレームではなかった。私と同じように手元に届いたフレーム重量が、カタログ重量と大きく乖離していた人も多いと思う。そしていまだに、メーカー側から今回の重量面の大きな乖離に関する公式なアナウンスは無い。
プロモーションでユーザーに期待させた内容(SPECIALIZEDが大々的に軽量化を押し出した)と、実際にユーザーの手元に届いた製品の重量が大きく乖離していることに対しては、今でも疑問と不満が残る。軽く仕上がるであろう(と安直に考えてしまいがちな)小さなサイズでも900gオーバーの実測重量を記録しているのだから、もはやプロモーションで自信満々にアピールしていた「軽さ」とは何の事だったのだろうかと、今では疑問にすら思う。
様々な意見があったの確かで、購入者は「重量面で満足がいかない」という共感できる内容であったのに対し、購入していない(と思われる)人は「数100gの重量なんて・・・。」という意見が二極化していた。新卒初任給のおよそ2倍の値段が付けられた炭素繊維の塊に対して、どれほど、何を求めるかは、人それぞれ異なるのも理解できる。しかし間違いなく私は、前者とおなじように残念な思いがある。
今回記事に載せようか悩んだ内容を、少しだけ記載しようと思う。匿名(おそらく新規でgmailアカウントを取得したであろうどこかのショップさんと推測)でこんな指摘も頂戴している。「新型TARMAC SL6の誹謗中傷は止めろ」と。私はいち消費者目線(国内正規代理店で購入)であえて言わせてもらうが、何十万円も払って10%以上の誤差が生じたプロダクトに対して、不満を持たない購入者など居ないのではないだろうか。と、疑問を呈したい(買う側の立場で物事を考えてみて欲しい)。
ただし、こうも思う。それら匿名にせよご丁寧に連絡をしてくれた人たちも、自転車ショップとしてSPECIALIZEDを売って食っていかねばならない。私も自身のSNSの拡散性や昨今のネットの炎上事情には仕事柄、ある程度の理解を持ち合わせていると思っている。SNSで悪い噂が広がってしまえば、販売にも大きく影を落としてしまうだろう。だから、発売直後すぐにはインプレッションを公開しなかった。
これが、今回インプレッションを書き終えていたものの、記事公開を延期していた理由だ。
少なからず私にも多方面への配慮(私が屈した、と捉えても仕方ないが・・・)があった。元々SPECIALIZEDの製品は好きで、MTB、ロード、シクロクロス、シューズ類、サドル、と同社のS-WORKS製品を買い続けている。おそらく3種目全てS-WORKSを買っている人はそれほど多くはないはずだ。
それらを踏まえて今回の記事は、そろそろローンチから落ち着いてきたから、公開しても良いかな、、、と考えたところもある(ある程度売れたと思うし)。
また「SL6に関する記事を書くと言って、まだ書かないんですか?」という、いつも読んでくださる方々の意見にも板挟みの思いだった。ユーザーは私が知り得た事実を率直に知りたい一方で、販売側の(恐らく)ショップらは余計なことを書くなと言うわけである。このような背景があったとのだと、今だから記しておきたい。
プロモーションで「前作より200gの軽量化、800gアンダーを実現」という期待させる内容は、結果的にユーザーを裏切る形になってしまった事は否定できない。言ってしまえば、「塗装前の重量の話でありカタログ重量と製品版では重量面の誤差があります」としっかりと事実を明記すればよかっただけである(某米国メーカーはそうしている)。
さて、今回インプレッション内でも述べているが、プロモーションで重量面ばかりをプッシュしてしまったため、その1点ばかり注目される結果になったことも否定しない。しかし、今回のTARMAC SL6の本質は本当に軽さだけなのだろうかと、少し見方を変えてみたのが先程のインプレッションの内容だった。
ステアリングは今まで使ってきたどのフレームよりも秀逸だし、下りもTIMEのZXRSやVXRSよりも間違いなく扱いやすい。狙ったラインを恐怖心無くトレースする事に長けているし、なにより操作しやすいフレームなのだ。重量面ばかりに気を取られ、良い部分がないがしろにされてしまうことは残念な話である。
私自身も重量面に過度な期待をし過ぎていたため、組み上げから納車、初走行までは軽さのことばかり考えていた。メーカー側のプロモーションのアヤもあるが、TARMAC SL6の重量面ばかりに目が行ってしまい、本来見るべき性能を見落としていたようだ。そのような思いもあり、インプレッションでは重量を抜きにしてTARMACというバイクの特徴を重点的に記すことにした。
もしもTARMAC SL6に意思があり、自らの性能に対して主張ができるとしたら、こう嘆くのかもしれない。「私は重量面だけに注目されるようなフレームなどではない」と。
私は冒頭で次の一文を記した。
メーカーによって「軽量バイク」と銘打たれ生み出された構造体は、生みの親の思惑に反して自分自身の価値とユーザーに与える印象を徐々に変えていく。「TARMAC史上最も軽い」とメーカーに定義づけられたバイクは、サイクリストと交わっていくうちに、その印象を徐々に変えていく。
今回のプロモーションの被害者は、もしかしたらTARMAC SL6自身だったのかもしれない。本来評価されるべき高い性能と、TARMAC SL6が持つ長所は「軽さ」だけではない。私は重量面、軽さばかりに注目していたわけだが、TARMAC SL6の本質はそこにはない。軽さを追求しすぎたプロモーションの裏側にこそ、本来気づくべき本質があるのだ。
まとめ:TARMAC史上最も進むフレーム
TARMAC SL6は加熱する高剛性化競争からひとあしお先に卒業し、バイクをあつかうライダーを優先したよく進むバイクである。むしろ「TARMAC史上最も軽い」という軽さばかり重視したプロモーションなんかよりも、アンカーのRS9のように、「TARMAC史上最も進むバイク」というキャッチフレーズを使ったほうが良かったのではないかとさえ思う。
何をもって「最も進む」と定義するのかは確かに頭を悩ませる問題だ。わかりやすい重量面のアドバンテージを示すほうが楽なのは確かだ(重量を測って軽くなったことだけを示せば良い)。私がもしもTARMAC SL6の良さを伝えるとしたら、先程の進みの良さを持ってユーザにその良さを伝えたい。それらは、実際にインプレッションをもって記載した。
いつの時代も、無駄な「高剛性化競争」と並んで繰り広げられるのは、過度な「軽量化競争」なのかもしれない。毎年各社が繰り広げられる「前年比○○%アップ!」という誰得なプロモーションを私は否定し、冷ややかな目でこれからも見ていくだろう。そのような情勢の中で、「どこまで高剛性化すれば良いのか?」という終わりのない戦いに一石を投じたのもSPECIALIZEDのファーストエンジニアードだった事も忘れてはならない。
SPECIALIZEDは大手としてはどのメーカーよりも数歩先を見据え、行き過ぎた高剛性化路線に疑問を呈しフレームサイズ毎に剛性を最適化したフレームを生み出した。それと同じように過度な軽量化を目指したフレームではなく、軽量化路線からの脱却を目指したプロモーションでも今回良かったのではないだろうか。
コモディティ化する無闇やたらな軽量化路線からの方向転換として、「扱いやすさ」や「よく進む」という、本来あるべき「使う側への恩恵」を重視したプロモーションを展開したとしても、今の時代のユーザーたちにしっかりと響いてくれるだろう。事実、TARMAC SL6にはそれらをユーザーに認めさせるだけの才能がある。
今回、TARMAC SL6を使ってみてわかったことは、ステアリングの秀逸さや扱う楽しさをフレームに感じられたことだ。これら不思議な感覚はSL3やSL4、SL5からは無機質で微塵にも感じられなかった。ただし、それらは重量や硬さと同じように「数値」で表すことが非常に難しい。何度も言うが、プロモーションで最も簡単なアプローチは、「硬さ」と「軽さ」を数値で示せすことで間違いない。
そういう意味では、プロモーション1つで本来見るべき機材の本質を見失うという、反面教師にも似た例であった。私の中でTARMAC SL6とは「必ずしも軽さだけで評価されるべきではないバイク」という結論にたどりつく。そして、TARMAC史上、最も進むバイクという本質へと収束していくのだ。
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