新型プリンストンカーボンワークスWAKE6560 Evolution ホイールインプレッション

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プリンストンカーボンワークス(以下PCW)のホイールといえば、波打った「うねうねリム」のデザインが特徴だ。イネオスがシマノとの契約を破ってまでPCWのホイールを使用し、アワーレコードや世界トップレベルのタイムトライアル、トラック競技で勝利したことで一躍有名になった。

PCWは波打ったリムを「断面変動」と呼んでいる。リムのアイデアはある論文が元だ(別章で後述)。PCWは2012年に断面変動リムを採用したWAKE6560の開発をスタート、2015年に販売を開始した。

Photo: Princeton-Carbonworks

論文発表後、私たちが使うことができるようになった断面変動リムはもう10年以上経つのだ。その間、ZIPPとPCWが断面変動リムの形状に関する特許を巡って、法廷で争うことになる。結果、PCWが勝訴した。

傍から見ていた中国企業が、PCWの勝訴をみるやいなや「待ってました」とばかりに、模倣した「形だけの波打ったウェーブリム」を次々にリリースしている。

PCWはZIPPとの裁判や、中国系の模倣品の騒動もあったが、それでもリム断面を最適化する研究を進めた。エアロダイナミクス性能と効率性、重量、剛性、反応性、品質を向上させながら、フラッグシップホイールとしてPCWはWAKEを4度ものモデルチェンジを繰り返した。

WAKEは第4世代のEvolutionに進化した。

そして生まれたのが、新型のWAKE6560 Evolutionだ。

初代WAKE6560、WAKE6560 STRADAと歴代のWAKE6560を決戦用ホイールとして全て使ってきたが、WAKE6560 Evolutionは全く新しいリムデザインに進化していた。何が変わり、何が新しくなったのか。

今回の記事は、PCWのWAKE 6560 Evolutionのレビューをお届けする。

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波打ったリム

Photo: Princeton-Carbonworks

PCWはプリンストン大学で生まれた。プリンストン大学といえば、名門私立大学8校から成る「アイビーリーグ」の一つで、全米で4番目に古い歴史ある大学だ。ジョン・F・ケネディや、Amazonのジェフ・ベソスを輩出した世界屈指の名門校でもある。

PCW創業者であるマーティ氏は、同校で機械工学と航空宇宙工学の博士、そしてスポーツ分野でもボート選手として活躍していた。

WAKE 6560は2012年に考案され、3年の研究開発を経て2015年に最初のモデルが完成した。「WAKE」という名称は、創設者たちがボート競技に携わっていたことに由来している。WAKEとは水面を航行する物体の下流側水面に生じる波のパターン、航走波(こうそうは)のことだ。

交互に繰り返す正弦波状のリム形状が、水面に生じるWAKEに似ていることにちなんでいる。

この特徴的な波状の形状は見た目だけではない。「空力」と「強度」の両方を高める優れた形状だ。カーボンファイバーは張力が生じると最も強くなる。各スポークは波の頂点で固定され、周囲のカーボンファイバーすべてを引っ張る。リム全体に均一な荷重が自然にかかるようになっている。

Photo: Princeton-Carbonworks

私がPCWのホイールを購入する際、当時はそれほどPCWのホイールはメジャーではなくマーティさんと直接ホイールについて議論する機会があった。

マーティさんによると、リムを正弦波形状にすることで同じリムハイトであっても、耐久性を犠牲にすることなく軽量化できるという。しかし、強度や重量の利点よりも重要なのはエアロダイナミクスの効果だ。

波状のエアロ形状の研究は、すでに米海軍や他の研究者によって広範囲に研究されている。風力タービンなどにもこの概念が用いられており、波状の形状でリムの内側の形状を変化させることで、気流が表面から離れることによる剥離抵抗を防ぐことができる。

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イネオスとマチューの効果

イオネスがPCWの存在を知ったのは2018年のことだったという。2020年代になると、INEOSはシマノがメインスポンサーのひとつだったが、決戦が行われる重要なステージではシマノ以外のホイールに変更した。

マージナルゲインを追及する彼らにとってみれば、勝つために当然であり必要な機材戦略だったのだろう。

シマノにとってみれば耳の痛い話だ。実際のところ、TOUR紙の風洞実験やホイールメーカーの実験を見ても現行シマノホイールの空力性能はそれほど良くない。プロチームだからこそ風洞実験の結果を重視する。シマノのホイールは軽くもなく、空力もよくないホイールなのだ。

イネオスは2019年にツール・ド・フランスの最も過酷な登坂ステージで、ライトウェイトマイレンシュタインオーバーマイヤーを使用した。

2021年の登坂ステージでは、ついにPCW Peak 4550を使用した。TTバイクのフロントホイールにはWake 6560を、リアディスクホイールはPCW Blur 633を使用した。

2020年のTT世界選手権でフィリッポ・ガンナはPCWのホイールを使用しタイムトライアル世界選手権を連覇した。ガンナの世界選手権制覇の話題性は大きかった。

その影響か、マチューが2021年ツール・ド・フランスでイエロージャージを獲得したとき、チームが自腹でWAKE 6560とBlur633のホイールセットをマチューのTTバイクのために購入している(リアホイールしか使用されなかったが)。

ガンナとマチューがこのPCWのホイールを使用して世界トップレベルのレースで大きな結果を残したことは、PCWが最速のホイールを作っていることを世界中のサイクリスト達が否が応でも理解するきっかけなった。

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うねったリムの空力学特性

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ZIPP NSWやPRINCETON CARBON WORKSのホイールに採用されている特徴的な波打った変形リムはいったい何が優れているのか。うねったリムが空力性能を改善するエビデンスとしては、2011年にDimitrios Katsanis氏が提出した特許情報「US10611188B2」内にある。

本特許情報には、CFD解析や様々なリムプロファイルを比較して波打ったリムが優れた空力性能を備えていることがまとめられている。

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特許情報を要約すると、リムの内周が異なる高さで構成された波打った断面変動型リムは円形のリムと比べて、さまざまなヨー角において空気抵抗が減少するという。

最も空力性能が優れている形状は”C”の形状だ。うねりが存在してもスポークとスポークの間のリムに山が無い”B”は空力性能が悪い。加重平均計算後の空力性能を勘案したとしても、最も優れている形状が”C”、次いで”A”になる。

しかし、Bの形状であったとしてもリムの断面図は見ての通りVシェイプ形状だ。この形状は空力性能が悪化することがわかっている。そのため、現代のリムは空力を考慮してAとCのように真ん中にかけて太くなる形状を採用している場合が多い。

空力性能はリムシェイプやリムハイトそして起伏によって決定される。仮にBの形状でUシェイプの設計の場合空力は向上する可能性がある。

ホイールの空気抵抗を減らすタイヤの105%ルールとは?
ひと昔(といっても2000年代前半)の機材を眺めていると、とても細いタイヤを使っていたことに気づかされる。タイヤと歩幅をあわせるようにリム幅も細く作られ、ロープロファイル(リムハイト低い)のホイールが多くみられた。それに対して、昨今は太いタイヤとディープリムが主流になってきている。これらの機材の変化は単純に「速く走ること」や「快適な乗り心地」を追求した進化の形と言える。F1は毎年のように複雑な形状…

リムシェイプの最適解としては、DTSWISS ARCやSWISS SIDE ハドロンのようにUVシェイプが現在最も空力性能が高いことが判明している。

DT Swiss ARC 1100ホイール SWISS SIDEの開発コンセプトでわかった最速ホイールの秘密【前編】
SWISS SIDEとDTSWISSが生み出した新型ARCホイールは、最速のホイールである可能性がある。ドイツのTOUR MAGAZINEのテストでARC1100の50mmが、ROVAL RAPIDE CLXよりも優れた空力性能を備えている結果が出た。
DTSWISS ARC 1100 DICUT 最速のホイールはどのようにして生み出されたのか【後編】
ARC 1100 DICUTホイールセットでは、あらゆるコンポーネントの見直しが図られ開発がいちから行われた。AERO+リムの再設計、空力的に最適化された180 DICUT Ratchet EXPハブ、および2つの改良型エアロスポークにより、Dragとステアリングモーメントが大幅に低減された。
DTSWISS ARC 1100 DICUT ホイール 50mm 62mmインプレッション
DTSWISS ARC 1100の性能や作り込みなど魅力的かつ優れたホイールだ。ホイール市場は刻々と変化しているが、DTSWISSのホイールが今後注目されてくることは間違いないだろう。

空力学的に効果のある起伏構成(うねり)としては、リムの一部が断続的に起伏しているか、もしくはリムの全範囲に沿って起伏が配置されている場合だ。起伏のある構成の山と谷は一定の間隔で配置されてもよく、不規則な間隔で配置されても同様の効果があることがわかっている。

現在好ましい起伏の配置は、リムの半径方向内側のリムに沿って少なくとも3組の山と谷が必要だ。より好ましくは12組、最も好ましいのは24組の山と谷が配置されている構成だ(PRINCETON CARBON WORKSやZIPPのリムがそうであるように)。

半径方向内側のリムは、同じ高さを有する起伏の規則的な配置を有していても、あるいは交互に2つ以上の異なる高さを有していても空力性能の向上が見込める。

起伏の山と谷の間の半径方向の高低差は少なくとも5mm以上なければ空力性能の向上は見込めない。より好ましくは10mm、最も好ましいのは20mmだ。実際のリムとして使用する場合を考えると、PCWのホイールのように5mm程度の高低差で24個の起伏を備えている構造が重量的にも最適解といえる。

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本特許情報から読み取れる波打ったリムのもう一つの特徴は「安定性」だ。波打ったリムに対する横力は小さく、あらゆるヨー角でハブに近い位置に力がかかっていることがCFD解析で判明している。

うねったリムは横風にもあおられにくい。4種類のリム形状のうち”C”が最も横力の変化が少ない。突風にあおられても急激な変化が少ないため、ステアリングがとられるような動きも小さいことがわかる。

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動的断面変動の効果

Photo: Princeton-Carbonworks

Photo: Princeton-Carbonworks

PRINCETON CARBON WORKSのホイールで最も特徴的で目を引くのはリム形状だ。航空宇宙工学の技術を盛り込んだ波打つ特殊な形状は、「動的断面変動」と呼ばれている。WAKEの場合、最大リム高65mmと最小リム高60mmが交互に24の波打ったリム形状が構成されている。

一見するとお飾りのように見える構造も、応力解析上も優れたデザインだ。特許情報には「起伏があると空力性能が向上する」とだけあるが、それ以上の具体的な波の形の指定はない。

PRINCETON CARBON WORKSは独自に数値計算からシヌソイド(正弦曲線)導き出した。滑らかで反復的な振動を表す数学的に計算された曲線を描いている。そして、このリムプロファイルは、構造面、空力面、重量面の3つのメリットと深く結びついている。

動的断面の可変性の構造をうまく利用しているのは、スポークのテンションが最もかかるポイントだ。スポークホールはリム内側の最深部である凸部に配置してある。対して、凹部分(リムハイトが低い)は逆に張力で引っ張られる。

いわば、凸部分のリムはスポーク側に引っ張られ、凹部分はタイヤ側にリムが押し込まれるような応力分布が発生している。

一般的にリムハイトが均一な形状は、スポークホール周辺にスポークがリムを引っ張る力が一点集中している。動的断面変動の構造はスポークがリムを引っ張る力を分散する(力をリム全体で支える)ような働きをする。

実際に、スポークホールはカーボンリムに穴を開ける必要があるため構造的に弱くなってしまう。動的断面変動WAKEはスポークホール以外のリム部分(スポークホールとスポークホールの間付近)に応力が分散される構造によって、リム全体で応力を支え合い、より硬く、より反応性に優れたホイールに仕上がるという。

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正弦波形状は剥離抵抗を減らす

Image from Trek/Bontrager D3 Rim Shape White Paper Showing 25mm Tire

正弦波形状は、空力を改善する2つの観点がある。

空気は粘性流体であるため、流体の中を動く物体(例えば、空気中のホイールやバイク)には圧力抵抗と摩擦抵抗が発生する。これら2つの力の組み合わせを空気抵抗と呼んでいる。摩擦抵抗と圧力抵抗はそれぞれ以下のように定義されている。

  • 摩擦抵抗:流体と物体表面の間の摩擦による空気抵抗。
  • 圧力抵抗:流れの剥離によって生じる空気抵抗。

摩擦抵抗は、流体の粘性によって生じる物体表面の摩擦だ。流体と物体が接する面積が広いほど摩擦抵抗が大きくなる。また摩擦抵抗は物体境界面の速度勾配に比例して大きくなる(ニュートンの粘性法則)。

圧力抵抗は、物体の正面と背面の圧力差によって生じる抵抗だ。一般に、物体から境界層が剥離することによって物体の背面は負圧になり圧力抵抗が発生する。形状を流線型し境界層を剥離しにくい乱流境界層に遷移させることで圧力抵抗を低減できる。

「エアロダイナミクスを突き詰める」ということは、(全てではないものの)これら2つの抵抗をいかに削減できるかが鍵を握っている。圧力抵抗をへらすためには、タイヤとリムを統合した状態でこれらを下げる必要がある。

圧力抵抗をへらすためには、リム側面を通過する空気の流れをできるだけ乱さず剥離するタイミングを滑らかにする必要がある。したがって、円柱よりもより流線型の形状のほうが圧力抵抗は小さくなる。円柱からNACA翼型(NACA airfoil)に近づけることで圧力抵抗は減る。

摩擦抵抗は物体表面の摩擦であるため、流体と物体が接する面積が広いほど摩擦抵抗が大きくなる。空気抵抗は物体の形状にも大きく左右される。円柱の場合は圧力抵抗が支配的になる。対してNACA翼型の場合は表面積が増えた分摩擦抵抗が増加する。

正弦波形状は、リム側面から気流が離れる際に緩やかな角度をもって離れていく。その結果、抗力が減り安定性が向上する。エアロダイナミクスの効率が良いだけでなく、横風の耐性も高くなる。

ZippのSawtoothデザインも同様だ。SRAM(ZIPP)は明らかに脅威を感じており、PCWの波状形状が2つの特許を侵害しているとして、PCWを訴えた(しかし敗訴)。

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EVOLUTION -進化-

独特の波打った正弦波形状はPCWのアイコンになった。

それでもPCWは開発の手を止めなかった。更なるエアロダイナミクス性能と効率性、重量、剛性、反応性、品質を向上させながら、WAKE6550はフラッグシップホイールとして4度目の進化を遂げた。

WAKE 6560 EVOLUTIONは、徹底的なテストと研究開発が行われ前作のWAKE 6560 STRADAよりもさらに効率的なホイールに”進化”している。新しいWake 6560 Evolutionは、これまでのWAKEシリーズのアップデートにおいて性能変化が最も大きい。

前作と比較してすぐにわかるのは、Wake 6560のリムプロファイルだ。正弦波形状から波を減らし、交互の深いリムセクションを連続的につなぎ合わせている。波というよりは、直線的な多角形のようだ。

リムとスポークを結ぶ構造的にも優れており、リアスポークのドライブサイドとフロントスポークのディスクサイドを高張力で接続できるようになった。スポーク角度が従来の斜めから、リムとハブがより直線的に結ばれるように進化している。

ブレース角度(ホイールにおけるスポーク支持角度)の変更により、スポーク張力の左右バランスが取れるため、より剛性が高く均一なホイールに仕上がっている。PCWは特許を取得し、「Radially Staggered Lacing」と名付けた。

Wake 6560 Evolutionのリムプロファイルは25~28mm のタイヤに最適化されており、リム内幅21mm、外幅28.2mmに設計されている。リムはフック付きの穴なしになっているため、チューブレステープを必要としない。タイヤ空気圧の制限もない。

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インプレッション

初代WAKE 6560、2世代目WAKE 6560 STRADA、そして新型のWAKE 6560 Evolutionと歴代全てのWAKEを使ってきたが、新型のWAKE 6560 Evolutionは見た目以上の変化があったのだろうか。その問いに対する答えは、微妙なラインと言わざるを得ない。

Evolutionに乗って気づいた前作と相対的な違い、変わらなかったことは以下のとおりだ。

  • フロントがさらにあおられなくなった
  • バネ感が増した。
  • 踏み込んだ軽さは変わらない
  • かかり方がやや遅い。
  • 空力性能の違いは感じられない。
  • 仕上がりに変化はない。

それは良い側面とも言えるし、もしかしたら人によっては悪い側面に見えるかもしれない。

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前作のWAKE6560と比較しても違いはわずかだ。

単にリムハイトやリム外幅を変えた程度であれば、それほど変化を感じなかっただろう。リム内幅を大幅に変更したSTRADAのアップデートのほうが、タイヤのエアボリュームが増した変化で大きな違いを生み出していた。

新型Evolutionと、第2世代STRADAのリム内幅は同一であるためタイヤ性能に大きな差は生じない。

他の要素であるリム外幅やスポークに関しても同一の設計であるため、違いはリム形状、ハブ、スポーク長、組み方だけが異なっている。これらの要素の差が実際に使った際の違いとして現れるはずだ。これらの相違点をふまえつつ、相対的な違いを確認していく。

フロントはあおられにくくなった。波打ったリムは、もともと横力の影響を受けにくいという特性がある。急な横風に対しても横力の変動が少ないため、ハンドルが取られるという心配も、より少なくなったと思う。

実走テストを行った際、風が強い日のほうが多かったが65mmハイトのリムにしては、50mm以下のホイールを使っているかのような使い勝手の良さがあった。昨今のホイールは空力観点ばかり目が行きがちだが、ホイールの安定性という側面も実際のレースで必要になる。

前作のSTRADAよりもさらに横風耐性が増していると感じたため、前作のフロントホイールの挙動が気になっていた方はEvolutionを強くお勧めしたい。

「バネ感が増した」と感じたのはいくつか理由がある。最近はカーボンスポークホイールを使用する機会が多かった。カーボンスポーク特有のしなりが少なく、”ため”が短いホイールに慣れきってしまっていた。

前作STRADAはTactic RacingのハブにCX-RAYのストレートプルだったが、今回のEvolutionは、TUNEハブにJベンドスポークのCX-RAYに変わっている。

踏み込んだ時の感触の違いとして、これらスポークの素材、ストレートやJベンドなどの種別が影響している可能性がある。比較的慣れ親しんだCX-RAYだったため、相対的にバネ感が増したと感じたのだろう。踏み込んだ時の返りのタイミングも期待したとおりだ。

加速感に関しては、前作から大きな変化はない。少々気になったのは、かかりがややもたつく感じがした。65mmというハイプロファイルリムであるが、リム重量は480g程だという。45mmに慣れていると外周重量が相対的に重くなるため、加速感は鈍く感じるのも無理はない。

それでも、前作のSTRADAは登りも加速感も優れてり、大変気に入っていたホイールだったがEvolutionは必要以上に「ぶん回す」ことで、やっと走ってくれるホイールだと感じた。それはSTRADAに使用していたTactic RacingハブからTUNEハブに変えた影響なのか厳密にはわからない。

直線的な多角形のリム形状は、加速感に対してそれほど大きな影響を及ぼさないはずだが、曲線から多角形の形状変化でカーボンの積層やリム自体の重量に変化があった可能性もある。若干もたつく原因は、特定の事象に限定できない。

空力性能に関しては、前作から特別良くなったとも悪くなったともわからない。冒頭でも記した通り、世界トップレベルのプロチームが契約外で使用するほどの性能だ。もともと空力性能が優れているため、劇的に性能が向上するということもない。

とはいえ、WAKE6560を高速で走らせたときにいつも感じるのは、脚を止めている時間がとても長く感じる。特にローテーション中に先頭交代をした後は、脚を休めながら後ろに下がっていける。これを長時間繰り返していくと、蓄積されるダメージが大きく変わってくる。

減衰スピードの緩やかさは、他のホイールと比較しても随一だ。

WAKE6560に共通して言えるのは、4~5時間のアップダウンを含んだロードレースで使用するならトップクラスのホイールになると思う。ただ、現在では新型ENVE SES 4.5ホイールがハブとリムを合わせて設計し、製品として非常に優れたホイールに仕上がっているため1本何かを選ぶとしたら新型ENVE SES 4.5だ。

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WAKE6560 EvolutionはPCWの中で汎用的かつ、オールラウンドホイールでありながらも、加速感や登りやすさを考えると平坦基調でややアップダウンがあるコース向きなのだろう。

WAKE 6560は登りでも良いタイムが出て不満はないのだが、登りが得意なライダーが使用すると、もたつきや軽快感の無さから次第に失望していくかもしれない。

そういう意味では、全方位的に登りも平坦もこなす新型ENVE SES 4.5の50mm/56mmという構成のバランスの良さとどうしても比較してしまった。1本でなんでもこなそうとした場合は、新型ENVE SES 4.5が良い、と思ってしまったのが本音である。

では、前作STRADAから買い替えるほどの代物かと問われれば、買い替えるだけの合理的な理由が見当たらなかった。

WAKE 6560でいくつかのレースを勝利した。

大変相性の良いホイールだった。

 

横風耐性もSTRADAで十分だし、登りも平坦も大差がない。それに、価格も影響している。円が安くなった今Evolutionは安くて51万、ハブをTacticRacingにすると73万円だ。一番安いモデルでも気軽に購入できる代物ではなくなった。

この金額を出すのならば、余計にSES4.5 NEW STRAIGHT SPOKEの国内価格49万が安く見えてくるから困ったものである。

総じてPCW WAKE6560 Evolutionは優れた空力性能やプロが契約外でレースに投入するという箔を考慮すると、ホイールとしては最高レベルの性能と、出来であることは間違いない。

しかし、価格を考えると他に検討すべきホイールは多数ある。あえてWAKE 6560 Evolutionを現段階で選ぶ必要は無いだろう。よほどの機材好きか、機材を集めることを趣味とする方、人と違う物を使って差を付けたい方は使うといい。

レース機材として考えると、もう少し別のホイールに目を向けたほうが合理的だと思う。

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まとめ:行きついた性能、性能に見合わない値付け

前作WAKE6560 STRADAの最高峰ハブTacticRacing搭載モデルが50万弱で購入できた時代を考えると、今回のEvolutionは性能に対する投資としては他社の製品と比較して見劣りするようになった。

前作のSTRADAと比較しても、横風耐性以外は区別がつかない。断面変動のリム形状で引き出せる性能は十分に引き出せており、空力性能は既に頭打ちしているように思う。確かに世界のトップレベルのチームが契約外で使うことを考慮しても、50~70万を出してまでEvolutionを買う必要があるのかは疑問だ。

失礼な話だが、Evolutionに乗っていて思ったのは「これならENVE SES 4.5が良いな」と何度も思ってしまった。最新のリムプロファイル、新型ハブなどでSES Gen3は本当に生まれ変わったように良いホイールになった。

相対比較として、ENVE SES 4.5はより素晴らしいホイールに思えたし、Evolutionは割高で性能が高止まりしていると感じた。人と機材差をつけて優越感を味わいたいならEvolutionでもよいのだが、速く走るためのレーシング機材として選ぶならENVE SES 4.5だろう。

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厳しい言葉が並んでしまったが、実際に使ってみての率直な感想である。PCWの65mm/60mmというリムハイトは、オールラウンドだと思っていたがその考えも改める必要がありそうだ。加速感や登りのかったるさを考慮すると、平坦がメインになってくるのかもしれない。

残念ながらWAKE6560として「革命」は起こせていないと感じてしまった。元々のポテンシャルが高く完成度が高かった証拠だろう。それゆえ、1世代目、2世代目のユーザーはWAKEを大切に使ってほしい。

厳しい結果になってしまったが、現代のハイエンドホイールは限られたリム形状、ハブ、スポークとその範疇の中で限界近くまで性能が上がり切っている。それはWAKE6560だけではないかもしれない。

価格とのバランスを考えると、あえて選択するために十分な理由が見つけられないホイールであった。

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