MAULTENドリンクの秘密が暴かれた?SiSの実験で明らかに。

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「1時間あたりで吸収できる炭水化物の最大量を増やす」

現代の科学は、吸収できる炭水化物の量を最大限に高める方法をつきとめた。過去の研究では、1時間あたりおよそ60g以上の炭水化物は吸収できないことが示されていた。しかし、グルコースとフルクトースを組み合わせたデュアルソース炭水化物であれば、1時間あたり最大90gの炭水化物を摂取できることがわかってきた。

詳しい内容は、寺田 新氏(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系准教授)の著書「スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる(東京大学出版会 )」のp211に事細かに紹介されているので興味のある方は書籍を手にとってほしい。本書が1冊あれば、雑誌やネットにあふれる栄養の話など一切不要になる。

スポーツ栄養学 科学の基礎から「なぜ?」にこたえるを読んだ感想
我々のような自転車競技を行う競技者にとって本書「スポーツ栄養学 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる」は大変有益な情報で溢れている。自転車競技というのはレース中に補給をする稀なスポーツだ。そしてレースに挑むまでの節制した生活、レース直前の...
スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる
寺田 新
東京大学出版会
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かいつまんで説明すると、グルコースはSGLT1、フルクトースはGLUT-5という異なる輸送隊によって運ばれ体内に吸収される。グルコースだけを大量に摂取した場合はSGLT1だけを使うことになる。そこでフルクトースも摂取することで、もう一つの輸送体であるGLUT-5を活用できる。結果、より多くの糖質が利用される。グルコースとフルクトースを2:1で配合したドリンクが先般紹介したMaultenだ。

MAURTEN DRINK MIX 320の特徴は独自の「ヒドロゲル技術」で、海藻エキスのアルギン酸ナトリウムを使用して炭水化物の吸収を促進するとされている。この技術により1時間あたりで吸収できる炭水化物の限界量60gを超えるとされていた。

しかし―――。

チームイネオス(旧:チームスカイ)がレースで使用しているドリンクを製造しているSiS社が興味深い実験結果を発表した。その内容とは、

「アルギン酸ナトリウムをいくら含んでいても、血中グルコースの利用可能性や総炭水化物の酸化は促進されない。むしろ、高強度の運動中においては、デュアルソース炭水化物(グルコースとフルクトースの混合)のスポーツドリンクにアルギン酸ナトリウムを含めると、消化と吸収が損なわれる可能性がある。」

という、MAURTEN DRINK MIX 320を(明示的に製品名は書かれていないものの)真っ向から否定する実験結果だった。

今回の記事は、チームイネオス(旧:チームスカイ)が使用しているSiS社のBETA FUELとMAURTEN DRINK MIX 320の比較実験結果から、MAURTEN DRINK MIX 320のヒドロゲル技術の効果と、2018年のGiro d’Italiaでチームスカイの勝利に貢献したSiS BETA FUELについて探っていく。

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Mortenの秘密は暴かれた?

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今回の実験を実施したSiSは、MAURTEN DRINK MIX 320と同じような特性を持つ「SiS BETA FUEL」を販売している。SiS BETA FUELはMAURTENと同じく、1時間あたりで吸収できる炭水化物の量をブーストするドリンクだ。そのSiS社が行った実験は以下のとおり。まずは実験の背景から。

実験の背景

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  • 運動中のパフォーマンスを維持するためには、持久力運動中に炭水化物の補給が必要であることは広く知られている。
  • 2.5時間を超える持久力運動のガイドラインとしては、混合された炭水化物から2:1の比率、1時間あたり最大90グラムの炭水化物を摂取する。
  • この摂取された炭水化物は消化管を通過して作業筋肉に送られる必要がある。ただ、消化と吸収に課題がある。
  • アルギン酸ナトリウムは海藻エキスであり、一部のブランドでは炭水化物スポーツ飲料を胃でヒドロゲルに変換するのを促進するために使用している。潜在的に小腸への炭水化物の送達を増加させ、運動パフォーマンスを向上することができると”されている”。

実験の背景を確認すると、どう考えてみてもSiS社はMAURTEN DRINK MIX 320を敵視していることがわかる。

研究の目的と場所

  • デュアルソース(グルコースとフルクトースの混合)炭水化物スポーツドリンクにアルギン酸ナトリウム(MAURTEN DRINK MIX 320のヒドロゲル技術)を含めると、デュアルソースアイソトニックスポーツドリンク(SiS BETA FUEL)よりもパフォーマンスが向上するという仮説を検証する。
  • 本試験は、第三者機関のポルシェヒューマンパフォーマンスラボで実施した。

ここまでの内容でわかるとおり、SiSはMAURTENのアルギン酸ナトリウム(ヒドロゲル技術と呼ばれる)が本当に効果があるのかを暴こうという試みだ。さらに、単なるデュアルソース飲料(SiS BETA FUEL)とMAURTENが大きく異なるのか、ということに論点が置かれている。

実験方法

  • 14人のアマチュアアスリートを対象にした。
  • 持久トレーニングを受けた参加者が3回の運動試行を実施した。
  • 各トライアルは、2時間の定常状態での走行と、続いてタイムトライアルを行った。
  • 1時間あたり80gの炭水化物を使用する。
  • 使用した炭水化物は「MAURTEN DRINK MIX 320」、「SiS BETA FUEL」、「非カロリープラセボ」の3種類。

結果

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  • MAURTEN、BETA FUEL、プラセボの間に、心拍数、運動の評価、炭水化物および脂肪の酸化、または2時間の定常走行中のGIの優位な違いは見ることができなかった。
  • それぞれの条件の間で、TTを完了する時間に優位な違いは見ることができなかった。
  • TT終了時、BETA FUELはMAURTEN DRINK MIX 320およびプラセボと比較して血糖値が有意に高かった。

結論

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  • アルギン酸ナトリウムを添加しても、パフォーマンスの向上は見られない。
  • アルギン酸ナトリウムを添加しても、血中グルコースの利用可能性や総炭水化物の酸化が促進するという効果は見られない。
  • アルギン酸ナトリウムを添加した場合、高強度の運動中にデュアルソーススポーツ飲料の消化と吸収が損なわれる可能性がある。

以上が、ポルシェヒューマンパフォーマンスラボで実施された結果だ。

実験からわかることは、MAURTEN DRINK MIX 320のキモであるヒドロゲル(アルギン酸ナトリウム)はコントロール製品またはプラセボよりも優れたパフォーマンスを示さなかった。これは大変面白い結果だ。両方とも約80g/hで摂取したが、TTおよび他のほとんどの代謝結果に違いは見ることができなかった。

血糖値に関しては、SiS BETA FUELが有意に高かった。すなわち、炭水化物の吸収が良いことを示している。本研究では、スポーツ飲料にアルギン酸ナトリウムを使用してもパフォーマンス向上の利点はなく、運動中の血糖値や酸化を促進せず、栄養素の消化と吸収を妨げる可能性があると結論付けている。

しかし、MAURTEN DRINK MIX 320自体は1時間の炭水化物吸収量をブーストする効果は確かにある。ただ、ヒドロゲル技術の効果ではなく、「デュアルソース飲料だから」という単純なオチだ。ヒドロゲル技術はともかくとして、単一の炭水化物よりも吸収できる量を格段に増やすことができる。

ただ、本実験に対する懸念も示されている。Panadian Sport Institute Pacificの生理学者Trent Stellingwerffは、「本研究はSiSが独自の製品で実施したものであり、査読済みの公開データではない」ということを警告している。こうなってくると、MAURTEN DRINK MIX 320とSiS BETA FUELどちらを選べばよいのか?という疑問が湧いてくる。

というわけで、ここからは実際に両方のデュアルソース飲料を試してみることにした。

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SiS BETA FUEL

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MAURTEN DRINK MIX 320とSiS BETA FUELどちらを選んだとしても、1時間に吸収できる炭水化物の量は60g→80gほどにブーストできる。その事実は変わらない。だから、どちらを選んでもいい。そして、どちらの製品のウリ文句も「胃腸障害のリスクを最小限に抑えながら炭水化物の吸収を最大化する!」というものだ。

あとは好みの問題だが、コストパフォマンスと入手性が問題になってくる。できれば恒久的に使用したい。性能は両者横並びのため、コスト、味、入手性、水の溶け具合など総合的に比較を行った。

SiS BETA FUELは、1時間で身体が吸収できる炭水化物の量を60gから90gに増やすことができる。そのメカニズムはMaultenと同じで、フルクトースを追加すると体は1時間あたり90gの炭水化物を吸収することができる。すなわち、グルコースだけで達成可能な1時間あたり60gよりも50%多くなる。

SiS BETA FUELを使用しているアスリートといえば、チームイネオス(旧チームスカイ)だ。ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスといったレースでSiS BETA FUELが使用されている。2018年のGiro d’Italiaでクリスフルームやチームスカイの勝利の際にも使用された。

SiS BETA FUELを使用するチームや団体は多い。ブリティッシュサイクリングチーム、キャニオンSRAM、サイクリングオーストラリアといった世界トップチームによってBETA FUELはテストされ、現在でも使用されている。となると、キプチョゲ選手のサブツー計画でイネオスが絡んでいたのにもかかわらずSiS BETA FUELが使用されなかったことだ。

Maultenが使用されたのは、キプチョゲ選手のスポンサードがらみの大人の事情かもしれない。

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私がSiSの製品に興味を持ったのは、ツール・ド・おきなわ練習に参加した際に井上選手からSiSのジェルを頂いたときからだ。その後、BETA FUELを教えていただいて1袋買ってみた。実際に練習で使う前に家で飲んでみたが普通においしい。Sport BETA FUELのオレンジ味は、過度な甘みもなく、口にもたつく感じもない。

SiSのエネルギージェルやドリンクに共通していることは、サラサラとした食感ときつくない味だ。この点はMAURTEN DRINK MIXと共通している。また、胃に不快感をもたらさず長距離の練習でもエネルギーの枯渇は感じることはなかった。

BETA FUELは1袋あたり500mlの液体と混ぜて使用する。運動中に定期的に飲むことでエネルギー補給を行える。SiS BETA FUELは、80 gのグルコースとフルクトース、20mmol/Lのナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムが含まれている。

味は飲みやすさに直結しており、長時間飲み続けることを考えると重要な要素だ。4~5時間の長丁場のレースであれば後半に食べ物を受け付けなくなってくる。しかし、SiS BETA FUELやMAURTEN DRINK MIXであってもその心配はなさそうだ。

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価格

MAURTEN DRINK MIX 320は1袋あたり1100円だ。ドリンクの粉末にしては非常に高額がゆえ、ここぞという1発決戦用の使い方になってしまう。常に使用することは難しい。そう簡単に手が出せない代物だ。対してSiSのBETA FUELはWiggleで264円だった。単純に1/3の価格である。15パック入りだが、価格を考えると国内で販売されているCCDやVAAMとそれほど価格は変わらない。

Wiggle Science in Sport – Beta Fuel (84g x 15袋)

MAURTENと違いBETA FUELの価格であれば常用できそうだ。ただ、私はもう少し考えた。MAURTENもBETA FUELも「マルトデキストリンとフルクトースを2:1で混合したデュアルソース飲料」であることを考えると、単純にマルトデキストリンとフルクトースの粉末を調達してきて2:1で混ぜたら良いんじゃね?という考えが思い浮かぶ。

この考えは、SiSやMAURTENを敵に回すこと間違いなしだ。

というわけでマルトデキストリンとフルクトースを探してみると、おなじみのH+Bライフサイエンス粉飴顆粒1kgが738円で販売されている。粉飴の中身は成分表にも書いてあるとおり中身はマルトデキストリンである。できればクラスターデキストリンの粉末のほうが胃に負担がかからないので良い。しかし、とりあえずコスパ重視で考えてみる。

H+Bライフサイエンス 粉飴顆粒 1kg
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フルクトースは自然健康社のフルクトース1kgが1500円程度で販売されている。単純にそれぞれを2:1で混ぜると、粉飴1kg738円、フルクトース500g分750円で「マルトデキストリンとフルクトースを2:1で混合したデュアルソース飲料」が1488円で作れる。

自然健康社 果糖(フルクトース) 1kg 密封袋入り
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寺田 新氏(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系准教授)の著書「スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる(東京大学出版会 )」に事細かに紹介されているとおり、単純にフルクトースとグルコースの混合でも良さそうだ。しかし、味は保証しない。とはいえ、1回分80gあたり80円と非常に安あがりだ。

スポーツ栄養学 科学の基礎から「なぜ?」にこたえるを読んだ感想
我々のような自転車競技を行う競技者にとって本書「スポーツ栄養学 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる」は大変有益な情報で溢れている。自転車競技というのはレース中に補給をする稀なスポーツだ。そしてレースに挑むまでの節制した生活、レース直前の...
スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる
寺田 新
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3kgもの大容量になるが「マルトデキストリンとフルクトースを2:1で混合したデュアルソース飲料」を作れることは間違いない。データや裏付けが必要ならば、BETA FUELやMAURTENを選ぶといい。大容量かつコストパフォーマンスを求めるのならば粉末でも良い。自分自身の目的に合った選択をするとよいが、私はコスト面や口当たりの良さからBETA FUELを当面メインの補給として使うことにした。

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まとめ:

MaultenやBETA FUELは「1時間あたりで吸収できる炭水化物の量をブーストする」という根本的な性能に違いは無い。Maultenの専売特許でもあるヒドロゲル技術はその効果や信憑性に対して懐疑的な意見や実験結果が出てきたが、1時間あたりに吸収できる炭水化物の量はこれまで限界とされていた60gを超えることは確かだ。

単純な話、ヒドロゲル技術など無くともスポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえるの211pに書かれている通りマルチトランスポーター法であれば60g以上の糖質を吸収することが可能になるだけの話だ。

その上で普段の練習やレースでも常用することを考えると、MaultenよりもBETA FUELのほうがコストメリットは高く常用しやすい。普段の練習からレースまでドリンクを変えたくない人にとっては、BETA FUELのほうが良いといえる。

そして、マルトデキストリンとフルクトースの粉末で作った場合はMaultenの1/13の価格で「マルトデキストリンとフルクトースを2:1で混合したデュアルソース飲料」を作れることも忘れてはならない。どのパターンが良いのかは自分自身で試してみるか、もしくはお好みに応じて取捨選択するといい。

私は当面SiSのBETA FUELを使って普段の練習からレースまで走る予定だ。できればMaultenを常用したいが、コストを考えるとあまり現実的なドリンクとはいい難い。

昨今の自転車機材はさまざまな革新的な機材が登場している。しかし、どんなに優れた機材であっても最後に推進力を与えるのは人間、すなわち人力である。ガソリンの役目を担っている炭水化物の吸収量を増やせるということは、車の燃料タンクが増えることと同じ意味を持っている。それだけ走行距離が増えるというわけだ。

MaultenやBETA FUELの登場によって、誰もが簡単にかつ安価に燃料タンクを増やすことが可能になった。その上でコストメリットや入手性を勘案して自分自身に合った燃料タンクの拡張方法を選択してみてはどうだろうか。

Science in Sport – Beta Fuel (84g x 15袋)

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