ロードバイク機材のトレンドといえば、「エアロダイナミクス」と「重量」のバランスをどのようにして製品に落とし込めるかだ。各社の設計思想が試されており、バイクシステムを開発する際に、各社が最もしのぎを削っているテーマでもある。
エアロダイナミクスに優れているが軽量ではないもの、あるいは、超軽量だがエアロダイナミクスに優れていない機材はいまだに多い。エアロダイナミクスと軽量化のあいだにはトレードオフの関係が存在しており、この問題に対する各社の一挙手一投足が、バイクの性能やヒット機材への鍵になっている。
それぞれの側面のバランスを追求しながらも、ある種の「妥協点」のバランスを取る機材の先駆けはTarmac SL7だった。Tarmac SL7が火種を切った開発戦争は、いまやロードバイクホイールにもその場を広げはじめた。
今回紹介するSyncrosの新しいCapital SL Aeroホイールは、どのメーカーも導き出せなかった「妥協点」に到達した。
LightweightやCosmic ULTIMATE45など、エアロダイナミクス性能と軽量性の両方を兼ね備えたハイエンドホイールの試みは確かにあった。しかし、どのホイールであってもエアロダイナミクスや重量のバランスは一長一短で、「1つですべてを」を達成できたホイールは数少ない。
SyncrosのCapital SL Aeroはこれら究極の回転体を凌ぐ可能性がある。
Capital SL Aeroの設計
Capital SL Aeroは60mmのハイプロファイルリムながら、横風にもあおられにくい形状で、かつエアロダイナミクスに優れている。そして、最先端のカーボンファイバー製ワンピース構造で、1セットあたりのメーカー公称値1,290g、実測重量がわずか1,307gと驚くほど軽量に仕上がっている。
チューブレス対応のフックレスリムは、フロント内幅23mm、リア内幅25mmで前後異型のリム内幅が特徴的だ。また、超軽量ホイールにありがちな90kg前後の体重制限とは異なり、SyncrosはCapital SL Aeroが許容できるトータル重量は120kg(ライダー+バイク)だ。
フルカーボン+カーボンハブシェルの構造のため価格は当然高価だ。4,200ドル、4,200ポンド、4,200ユーロで販売される。
Syncrosはロードバイク用のホイールとしてはほとんど知られていないブランドだ。しかし、MTBの世界では有名なブランドであり、SCOTTのMTBコンプリートバイクの純正コンポーネントに採用されている。
じつは、Capital SL Aeroの特徴的な構造は今回が初の試みではない。同社は5年以上前に、Capital SL Aeroと同様の構造技術を採用したマウンテンバイク用ホイール「Silverton SL」を史上に投入しており、ロードバイク環境よりも過酷なMTBホイールとして一定の評価を得ている。
Silverton SLはMTBのハードな使い方に対応するために非常に硬く強度が高いホイールだった。Capital SL Aeroでは、Silverton SLよりもバランスを取ったチューニングが施されているという。
カーボンファイバー製のリムとスポークは、すべて一体成形されている。
エアロダイナミクス
Capital SL Aeroの開発目標は、高速走行時のエアロダイナミクスを優先しながらも、ヨー角が7.5°以上のときに起こりうるDrag増加を発生させないことにあった。ヨー角が大きい、すなわち横風が強いコンディションにおいて、ディープホイールはあおられやすく、ハンドリングに影響を及ぼすことが多い傾向にある。
Syncrosはコンピューター・シミュレーションと風洞試験を繰り返し様々な形状のリムシェイプをテストした。そうしてたどり着いたのが、比較的ぼってりとしたリムシェイプで、フロントリム幅32mm、リアリム幅33mm、リムハイト60mmのプロファイルだった。
カーボンファイバー製スポークは16本で構成されている。ブレード形状で、ハブシェルはエアロダイナミクスを優先するために意図的に小径化している。フロントハブのフランジは通常よりも間隔が狭く、前面総面積を小さくすることがねらいだ。
スポークはリムに、わずかに交互にオフセットしたパターンで取り付けられている。
駆動効率
Capital SL Aeroの開発では駆動効率を極限まで高めることが求められた。具体的には以下の2つの観点について開発検証が行われた。
- 駆動効率
- 回転抵抗
この両方を同時に測定し、独立したデータとして調査できるように、風洞実験装置とあわせて駆動モーター内に別のロードセルを備えた独自の実験環境が構築された。
Syncrosによれば、回転抵抗は全体の25~30%を占める可能性があり、この2つの側面を測定可能な数値に分離することで、同社はそれぞれに対してチューニングを行った。
Syncrosは風洞試験用に独自の試験治具を開発し、一般的な並進抵抗だけでなく、駆動モーターに内蔵された荷重センサーによって回転抵抗も測定できるようにした。 Capital SL Aeroの設計は、60mm以上リムハイトを備えた他社製品のホイールと比べると異質だ。リム内幅が前後異型であり、最新のリムプロファイルであるENVE SES 5.6のリム内幅23mmと比べてもリアだけ広い。ENVE 4.5は前後リム内幅25mmだが、リムハイトは50mmと56mmの組み合わせになっている。
この広いリム内幅設計のため28mm以上の太いタイヤに専用設計されている。そして、空気を入れた際の実測タイヤ幅がリム側でも考慮されており、実際には実測タイヤ幅29.5mmと30.5mmに対応する。
これは、105%の法則を意識したタイヤとリムの設計だ。29.5mmタイヤの場合、エアロダイナミクスを最適化する理想的なリム幅は30.975mmだ。30.5mmの場合、32.025mmのリム幅となり、おおよそ105%の法則通りのリムシェイプになっている。
Syncrosの風洞実験によれば、Capital SL Aeroが、ZIPP 454 NSWや404 Firecrest、DT SWISS ARC 1100 62、Bora Ultra WTO 60といった競合モデルよりも、より空力効果が優れていると主張している。
これは、25mmのSCHWALBE・プロワンタイヤを装着した場合の時速48kmでのもので、ヨー角が大きくなるほどアドバンテージは大きくなる。
Capital SL Aeroだけを28mmタイヤに履き替えると、フロント面積が大きくなるため、他のホイールよりもエアロダイナミクスが悪化することが予想できるが、Syncrosによれば、それはヨー角が小さい場合のみの話であって、Capital SL Aeroはヨー角が大きくなればより優れたエアロダイナミクス効果が得られるという。
この主張は、正しい。
前方の単一方向のデータだけでは、ホイールのエアロダイナミクス性能をまったくもって表していないからだ。風洞実験で得られたデータをどのようにして重み付けし、加重平均計算するのかでホイールの性能評価は大きく変わってしまう。
現状、60mmオーバーで「世界最速」と言われているのは、SWISSSIDEが開発協力したDTSWISS ARC 62だ。このデータを信じるなら、Capital SL Aeroは世界最速のホイールになる。
エアロ性能はさておき、Capital SL Aeroは、その巧みなカーボンファイバー製ワンピース構造のおかげで、超軽量に仕上がっていることだ。リムハイトを考えると、ホイールセット総重量1,307g(フロント593g、リア714g)は驚異的としか言いようがない。
SyncrosはCapital SL Aeroの開発において、ホイールの重量分布も考慮している。通常のホイールと比べると、ホイールの中心に重量が集中している(外周のリムが軽く、中心のハブが重い)ため、回転慣性がさらに低減され、ホイールがさらに軽く感じられるという。
これは、GOKISOやマヴィックが昔から強調してきたホイールの重量分布の違いによる、物理的な特徴だ。
このスポーク構造は、一見するとLightweightやCosmic Carbone ULTIMATEと非常によく似ているが全く異なる設計だ。Capital SL Aeroは、ハブからリムまで完全な直線で結ばれていない。テンションがかかっているにもかかわらず、板バネのようにわずかにカーブしているのだ。
マウンテンバイク用ホイールSilverton SLと比較すると、断面が小さくなっている。Capital SL Aeroはカーボンスポーク製のホイールに似つかないソフトな乗り心地を備えているという。
特殊な製造方法
従来の熱硬化性カーボンファイバー製リムは、製造に非常に手間がかかっていた。それがこの手の構造のホイールが高価な理由だが、少なくともCapital SL Aeroは”さらに”手間がかかっている。
まず、リム、スポーク、ハブ、フランジはそれぞれ独立した1つの部材として成形される。そして、全てを組み合わせて1つのホイールとして完成させる。しかし、ホイールとして完成させるまでには部材をひとつひとつ組み合わせるために多くの作業が必要になっている。
真ん中にハブフランジがある。スポークはこのフランジをU字型のリム「キャップ」の短い部分に接続する。リムの残りの部分は、このカーボンファイバーの外側を取り囲むように組み立てられている。
スポークといっても、通常考えられているようなスポークではない。つまり、ただ交差しているのではなく、1本のカーボンファイバーで構成されているのだ。
これは、ホイールの両面を同時に成形した3次元構造なのだ。すべてが硬化したら、フランジを引き離し、アルミ製のハブシェル(DTスイス製)を挟み込んで接着し、テンションを加える。
仕上げに、最新のラチェットEXPドライバーを含むDTスイスのインターナルがフロントとリアのシェルに挿入される。
タイヤを最適化
Syncrosの開発パートナーはSCHWALBEだ。新型Capital SL Aeroと組み合わせるタイヤは、SCHWALBEの同じく新型PRO ONE AEROだ。
コンチネンタルが過去にForceやAttackで行ったのと同様に、PRO ONE AEROはフロントとリア専用のケーシングを持つ専用の組み合わせとして設計されている。しかし、フォースとアタックが異なる幅を特徴としていたのに対し、PRO ONE AEROはフロントもリアも28mm幅だ。
SCHWALBEからの詳細な情報は少ないが、フロントタイヤは抵抗を減らすために断面がやや尖っており、転がり抵抗を減らすためにトレッドキャップが薄くなっている。リアが1.2mmに対してフロントは0.8mmだ。
SCHWALBEによれば、新しいPRO ONE AEROは、同サイズのPRO ONE TTよりも「エアロ抵抗が22%減少」しているが、パンク防止性能ははるかに向上しており、転がり抵抗は5%しか増加していない。
どちらもフックレス対応だ。25mm幅のリムには29mm以下の幅のタイヤを合わせるべしという最新のETRTOガイドラインは気にしなくていい-Syncrosはこの組み合わせで問題ないと主張している。
クラス世界最速、最軽量
Syncros Capital SL Aeroは現状世界最速のDTSWISS ARC 62のエアロダイナミクスをしのぎ、LightweightやCosmic Carbone ULTIMATEをも凌ぐ構造を備えている可能性がある。
ただし、製造に手間ひまのかかる構造ではなく、結果的にお値段も手頃ではないためいろんな意味で究極の回転体といえるだろう。すべてのモデルは9月発売予定だ。