わずか25.2g。
この重量は紛れもなくチューブの重量である。いままで軽量なチューブは数多く存在していた。日本が誇るSOYO Latexは48g、tubolito(チューボリート)は22gだ。第三の軽量チューブとして今回紹介するのは「WOLFPACK TPUチューブ」だ。このWOLFPACK(ウオルフパック)という名前にはあまり馴染みがないかもしれない。
WOLFPACKのタイヤは最近では「アスタナが自腹でタイヤ購入した」と海外で話題になっていた。とはいえ、WOLFPACKというブランドの知名度はまだそれほど高くない。しかし、WOLFPACKを立ち上げたWolfgang Arenz氏がこれまで開発してきたタイヤコンパウンドのほとんどは、1度は名前を聞いたもしくは使っていた可能性がある。
名だたるコンパウンド
- コンチネンタル・ブラックチリコンパウンド
- スペシャライズド・グリプトンコンパウンド
- シュワルベ・アディックスコンパウンド
この3つの「作品」はどれもWOLFPACKのWolfgang Arenz氏が手がけたコンパウンドだ。
コンチネンタル・ブラックチリコンパウンドはもはや説明が不要なほど知れ渡っているコンパウンドだ。コンチネンタルのために2005年に開発され2011年まで改良されつづけた。GP4000やGP5000に採用されているブラックチリコンパウンドはコンチネンタルタイヤの成功を決定的にした。
スペシャライズド・グリプトンコンパウンドは2012年に開発された。グリプトンコンパウンドは、ロードバイクタイヤ市場において特に転がり抵抗が小さなタイヤとして知られている。グリプトンコンパウンドを使用したターボコットンはレーシングバイクタイヤであり、今もプロレースで積極的に採用されている。
シュワルベ・アディックスコンパウンドは2016年から2017年にかけて同社のトップモデルコンパウンドだった。ロードバイク用、MTB用問わず使用用途に応じてコンパウンド特性を最適化している。
この名だたるコンパウンドを手がけたのは、WOLFPACKを立ち上げたWolfgang Arenz氏だ。タイヤの世界で最も有名で開発に携わったあと、彼は独立することを決めた。世界最高のタイヤを作ること、そして手頃な価格で販売するというシンプルな目的でWolfpack Tiresを立ち上げた
Wolfpack Tiresの立ち上げ以前からミシェルトン-スコットがタイヤのプロトタイプテストしていた。そしてミシェルトン-スコットはタイヤの実走テストを通じてWolfpack Tiresを購入すること決めたほどだった。ロードバイク用タイヤのトップを走り続けてきたエンジニアが独立してタイヤブランドを立ち上げた。
そして、タイヤに無くてはならない(今はチューブレス時代になりつつあるが)革命的なチューブが登場した。超軽量TPUチューブだ。
超軽量TPUチューブ
Wolfpack Tiresは優れたタイヤコンパウンドを開発しているが、内側から支えるインナーチューブにも力を入れている。わずか25gの超軽量TPUインナーチューブは、100gのブチルチューブと比較して8ワットもの転がり抵抗を削減する。
ブチルチューブからWolfpackのTPUチューブに交換した場合は150gものホイール外周重量を削減できるのだから驚きしかない。
チューブに使用されている「TPU」とは一体どのような素材なのだろうか。TPU(Thermoplastic Polyurethane)とは熱可塑性(ねつかそせい)ポリウレタンという素材だ。熱可塑性ポリウレタンは、プラスチックの一種で一見すると硬い素材のイメージがある。しかし、「可塑性ポリウレタン」は、ゴムのように柔らかい高分子の素材だ。
一定以上の温度まで加熱すると柔らかくなる性質がある。熱可塑性(ねつかそせい)と呼ばれるゆえんだ。温めると容易に変形し、冷えると固まるという性質がある。熱で変形すると心配なのはブレーキによる摩擦熱だ。カーボンクリンチャーであればなおのこと気になる。このTPUチューブは耐熱性能はリム温度180℃までだ。
WOLFPACK TPUチューブは、カーボンホイールにも使用可能だ。しかし、リムが高温になりすぎるとチューブが破損する恐れがあることは覚えておきたい。ただ、主流になりつつあるディスクロードバイクであれば気にすることはない。実際に軽量化と転がり抵抗削減に寄与するTPUチューブだが、実際の乗り心地はどうなのか。
実際に800km程乗り込んでテストした。
インプレッション
チューブのインプレッションは、まず使い慣れたタイヤであるコンチネンタルGP5000タイヤにTPUチューブを入れてテストした。普段はGP5000とSOYOラテックスチューブの構成で走っている。比較する際にできるだけ機材差分を無くすためにチューブのみを変更した。機材は絶対的な評価はできない。相対的にどうであるかしか判断できない。
構造から確認していく。バルブ部分は取り外しが可能だ。リムハイトが高いホイールの場合は、延長バルブを取り付けられる。バルブの素材は特徴的だ。チューブのバルブは通常は金属で作られている。しかし、TPUチューブは強化プラスチックのような素材で作られている。
チューブのバルブの素材は大きな重量増(チューブ全体重量の比率に対して)になる。tubolito(チューボリート)も同様にバルブ部分は樹脂だ。バルブを金属から樹脂に変更することによって驚異的な軽量化を実現した。実際にTPUチューブに7Bar入れても空気の漏れは一切ない。バルブの強度的にも安心してよさそうだ。
チューブの質感もあえて書き残しておきたい。今までにない質感と感触だった。
サラサラした柔らかくて薄いプラスチックのような素材だ。質感としては柔らかいクリアファイルのような感覚である。ラテックスやゴムと比べると収縮性は乏しい。取り付けは通常のチューブと同じように行う。ラテックスチューブのようにパウダーを使わなくても問題ない。
「ラテックスチューブとの違いは本当にあるのか」
私が初めに疑っていた部分だ。結果として、ホイールの回転は軽くなる。ホイールの外周重量がライディングに及ぼす影響はとても大きい。例えばROVAL CLX50のリムは450gと言われており、CLX32のリム重量は390gだ。その差は僅か60gだが、実際に使ってみると大きな差となって体感できる。
今回のインプレッションでSOYO Latexは48gからTPUチューブ25gに変更をした。単純にリム外周重量を23g軽量化したことになる。イメージとしては50mmリムハイトから38mmリムハイトにしたような気分だ。ただ実際に50mmが38mmに変化したわけではなく、重量面で軽量化しただけにとどまる。
率直な印象を記すと、SOYO LATEX自体の転がり抵抗がもともと小さいため感覚の変化は非常に小さかった。乗り心地はラテックスに軍配が上がる。WOLFPACK TPUチューブはやや乗り心地が固く感じる変化がある。ただ、回転面での振りの軽さや、踏んだときの軽快感はWOLFPACK TPUチューブの方が感触がいい。
ヒルクライム用途であれば重量至上主義、WOLFPACK TPUチューブを選択することは間違いない。
SOYO LATEXかTPUチューブどちらを選んでも転がり抵抗に大きな差は感じられない。ただ乗り心地の部分を考えると、ロードレースや長距離の走行を考えるとSOYO LATEXを選択する。
クリテリウムは逆に加減速が大きいのでWOLFPACK TPUチューブが良い印象だ。
どちらのチューブであっても非常に小さい転がり抵抗を実現している。その上であえて使い分けを考えるのならば乗り心地、乗り味で選択すればいい。ラテックスとTPUは共に転がり抵抗は小さいものの、素材自体は全く異なる性質を持っている。素材の性質や物質としての変化の特性は、実際の乗り心地に大きな影響を与えている。
まとめ:第3のチューブが変えるもの
第3のチューブがTPUチューブは、ブチル・ラテックスチューブ(SOYO除く)と比べて半分以下の重量しかない。それでいながら、耐パンク性能が2倍というデーターも海外では出ている。チューブの厚さは0.3mmで非常に薄く作られており、チューブレスキラーになる可能性は捨てきれない。
ただ、デメリットもあえて触れておかねばならない。
TPUチューブは公式には修理キットが存在していない。1度パンクしてしまえば終わりだ。競合チューブのTubolitoはリペアキットが販売されている。粘着性フィルムを貼り付けて補修するタイプだ。WOLFPACKのTPUチューブに使用できるかは定かではないが、第3のTPUチューブの補修面はまだ過渡期と言える。
海外のレビューでは、ブチル用のパッチを瞬間接着剤で貼り付けるという荒業も登場しているようだが、実際に出先でパンクした際の補修方法としては難がある。とはいえ、補修面の問題をクリア(1発レースに割り切るなどを)すれば史上最強の軽さを手に入れることができる。
チューブレスであればシーラントを入れるよりも明らかに軽く仕上がる。そして抵抗も小さいというメリットもある。ただし、伸縮性の乏しさはラテックスに劣る部分だ。ただ、重量のアドバンテージを考えるとTPUチューブを超えるチューブは存在していない。
チューブレス時代が訪れようとしていたロード界において、WOLFPACK TPUチューブは原点に戻り新しい基準を生み出そうとしている。
WOLFPACK TPUチューブ:TRISPORTS