20万円のディスクエアロロードバイク WINSPACE T1500インプレッション

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単に「中華カーボン」という表現をすると、粗悪品の代名詞かのように扱われてしまう。たしかに破損事例や模倣品は存在し、筆者自身も被害にあったことがある。海外のオークションやECサイトには、メジャーメーカーのハイエンドモデルによく似た模倣品のフレームを多数見つけることができる。

しかし一方で、各社のカーボンバイクを辿っていけば製造国はアジア圏がほとんどだ。

SPECIALIZEDのフレームはS-WORKSであれMade in Taiwanだ。TREKはASSEMBLE IN USAと書いてあるがMADE IN USAではない。SPECIALIZEDのサプライヤーとして、メリダ・インダストリーが製品の製造を担っているのは有名な話だ。このように、世界のカーボンフレームのほとんどが中国や台湾で製造されており、粗悪品やハイエンドが玉石混淆の状態にあるのが今の自転車業界だ。

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中国や台湾のメーカーは、北米や欧州メーカーの一次請負として表に出て来ることは少ない。しかし、一方では世界中の最新技術が集まってきているという見方もできる。だからこそ、数あるブランドの中には良い製品を生み出している企業も少なからず存在しているはずだと考えていた。

しかし、問題は星の数ほどあるブランドの中から優れたメーカーを探し当てることだ。

「砂浜から1つの砂金を探し出す」ような無駄な時間とカネを使うくらいなら、あっさりとカネをだしてハイエンドの米国ブランドのフレームを買ったほうがいい。ただ、最近リムを製造するにあたり台湾や中語の製造技術や工場を調べていたところ、もしかしたらいくらかマシなんじゃないかと思えるメーカーの存在を知った。

特に、WINSPACE(ウィンスペース)やYOELEO(ユーレオ)というブランドは共に日本に拠点を構え、国内のショップを通じたセールスを始めている。今回の記事では、WINSPACEのエアロロードT1500をテストした。というのも、ジオメトリを見比べていたところVENGEと近い設計に興味をそそられた。

また、海外の個人サイクリストが塗装を剥いでカーボンの積層検査を行った結果も興味深かった。そして、塗装や独自の「2.5:1」のUCIギリギリの設計など興味深い設計も目を引いた。今回の記事は、玉石混淆の中国ブランドの中でWINSPACEのエアロロードT1500に迫る。

WINSPACEとラボバンク

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私の記憶が正しければ、WINSPACEが日本に上陸してくるのは2回目だ。WINSPACEの設立は2008年だが、2014~2015年頃も日本の販売店で見かけたことがある。当時、オランダのラボバンクがWINSPACEのフレームをトラック競技やロードで使用していた。ただ、当時は日本で乗っている人はほとんどいなかった。

あれから数年が経過し、「目新しいブランド」として再上陸したというのが正確な表現だと思う。WINSPACEは、中国で自社フレームを開発しているブランドだ。日本ではまだ知名度は低いが、本国においても過剰なプロモーションを行っていないという。対して冒頭で名前を上げたYOELEOは、日本人のアンバサダーが複数名存在しており、プロモーションにも積極的な印象だ。

ただ、日本のアマチュアサイクリスト達の「アンバサダー嫌い」は年々増しているようでならない。メーカーの「プロモーションの一環であるアンバサダー施策」は、プロモーションとしては逆効果だと私は考えている。少々話がそれたが、WINSPACEも若干のサポートを行っているものの、表立ってメディアやSNSに登場することは少ないブランドだ。

WINSPACEの公式サイトには、「消耗戦になる価格競争に参加はしない」とある。だからこそ、T1500の販売価格は約20万円と決して安い価格設定ではなかった。

60万円のTARMAC SL7を買っているのに、いまさら何を。と、思われるかもしれない。しかし、カーボンリムを作ってわかったことがある。一番コストが掛かっているのは金型だ。そして人件費、輸送費、開発費、実験費、プロモーション費、プロチームや従業員を複数抱えていれば、それらのコスト全てが機材に載ってくるのは当然のことだ。

肝心のカーボンの素材自体は驚くほど安い。

T1500はTARMAC SL7の1/3の値段だが、おそらく経費を差っ引けば妥当な価格設定、むしろ少々高いのではないかと感じた。しかし、T1500の作り込みや塗装の美しさや、カーボンの検査結果を見れば、カネがかかっているバイクだと徐々に理解できた。

いまだWINSPACEのバイクには懐疑的ではあるが、T1500のテクノロジーを確認していった。

T1500

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見ての通り、VENGEによく似ている。T1500はカーボンの東レのT800とT700を使っている。足すとT1500だが、過去にT1300やT1350が存在していたので単純にバージョンが上がっただけだろう。T1500の特徴は最近のトレンドにもれず、ケーブル類は一部が内装化されている。

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T1500の特徴は大きく分けて5つある。

  1. 2.5:1 Half-Waterdrop Tube
  2. T-TAIL
  3. 非対称チェーンステー・BB
  4. 一体型ハンドル
  5. ジオメトリ

1~4はメーカーが謳っている特徴だ。T1500で注目したいのは5番目のジオメトリだ。最も手を抜きやすく、最も使いまわししやすく、最も技術者の思いが込められている。よって、設計が読み取れるのがジオメトリだ。私が最も好きなジオメトリはSPECIALIZEDだ。次にPINARELLO。数値を眺めているだけでも美しいと感じるのがこの2社だ。

WINSPACEのT1500はこの2社に次ぐ美しいジオメトリを備えていると感じた。特に小柄な人が乗る小サイズが美しい。ジオメトリに関してはあえて別章を立てて深掘りした。まずは、1~4の特徴を先に見ていこう。

2.5:1 Half-Waterdrop Tube

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昨今の開発トレンドに漏れず、WINSPACEもCFD解析を行いフレーム開発を実施している。最近のエアロロードの開発は、エアロフォイル形状をフレームのどの位置へ、どのように配置するのかが各社の開発競争の肝になっている。この最適化の積み重ねによって、エアロダイナミクスの良し悪しが決定する。

過去にUCIの3:1ルールがあったため、各社は限られたレギュレーションの中で最も空気抵抗が少ない形状の開発を行う必要があった。そこでT1500は、「3:1」ではなく「2.5:1」のハーフウォータードロップチューブ形状を採用した。この形状は、3:1のドロップ形状や3:1の楕円形状と同じくらい優れたエアロダイナミクスを発揮するという。

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T1500のフレームの各所には、ありとあらゆるポイントに2.5:1のドロップ形状が当てはめられている。実際に風洞実験を行ったデーターは無いが、CFD解析は行っているようだ。ダウンチューブはVENGEよりも太く、どちらかというとEMONDAに近い。チェーンステーはAEROAD CFRに近いボックス形状で、剛性の確保に寄与している。

T-TAIL

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昨今のエアロロードに共通しているのは「ドロップシートステイ」だ。シートステイが下がった形状で、前方投影面積が減り空気抵抗が小さくなる。TARMAC SL6やSL7、VENGEでも採用されており各社のエアロロードがどれも似ているのは、ドロップシートステイを各社がこぞって採用している影響もある。

T1500も同様にドロップシートステイを採用しているが、特徴的なのは翼のように後方に伸びた「T-TAIL」と呼ばれる構造だ。これまでのドロップシートステイは、シートチューブから2本のシートステイが伸びるように設計されていた。T1500のT-TAILはウィング状のテールがシートチューブ後方に伸びそこからシートステイが伸びている。

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T1500と同様にT-TAIL構造を採用しているのは、新型のSPECIALIZED S-WORKS SHIV TT(ロード用)だ。同じように後ろへ伸びたドロップシートステーを採用している。この独特な形状を採用することによって、前方投影面積は減少するというメリットがある。

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推測するにシートステイを通過する際に、シートチューブ方向に巻き込まれる乱流を防ぐ役割もありそうだ。空力性能面もすくなからず恩恵があるはずだが、実際の効果の程は実験をしなければわからないが、T1500のT-TAILはこれまでのエアロロードには見られなかった構造だ。

非対称チェーンステー・BB

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見るからに剛性が高そうに見えるのがチェーンステーだ。T1500はPINARELLOやTIMEのフレームと同じように左右非対称のフレームを採用している。バイクのフレームを左右非対称に設計することは理にかなっている。ドライブトレインは右側に取り付けられるため、右側に集中して力がかかる。

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その際に、フレームの左側、右側ではかかる力が異なる。ドライブトレインで生み出した力を効率よく後輪に伝えるために各社は左右非対称のフレームを設計している。ただ、何も考えていないメーカーは左右対象のフレームをいまだに設計し続けている。

最近の優れたカーボン技術を考えると、左右対称であっても剛性面や性能面で問題は無いのだがユーザーから見ると魅力にかける設計である。T1500はチェーンステーのみならずBB部分も左右対称の設計を採用している。

一体型ハンドル

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T1500には一体型のハンドルが用意されている。最近のエアロロードのどれもに共通しているのは、ハンドルのエアロ化だ。VENGEのローンチの際にも話があったとおり、フレームのエアロ化よりもハンドルのエアロ化のほうが空気抵抗の改善効果が大きいという不都合な真実がある。

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何十万も払ってエアロフレームを用意するよりも、エアロハンドルを使用したほうが空力改善に対する費用対効果が高いということだ。付属しているハンドルはVISIONの製品によく似ている。T1500で使用しているハンドルは一体成型であるため、ハンドルのシャクリ量を変更することはできない。

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ハンドルの形状はSPECIALIZEDのAEROFLY2とよく似ている。ただ、ケーブルルーティングの難易度は高めだ。電動とワイヤー両方に対応しているが、施工はショップに任せたほうが良いだろう。

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Handleの設計はショートリーチを採用している。個人的にはショートリーチHandleを使ってステム長を短くする設定を好んでいるため、この設計はありがたい。TREKの一体型Handleであるアイオロスはリーチが長過ぎる設計であり非常に残念だった。WINSPACEの一体型Handleはトレンドに漏れずハズレのない設計だ。

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コックピット部分には、自社製のカーボン製ガーミンマウントが付属する。必要最低限の材料で構成されており、軽量化にも寄与していることがひと目で分かる。

ジオメトリ

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ジオメトリはバイクで最も重要な部分だ。T1500はリーチが短くスタックが低いという特徴がある。最近のバイクはライダーのエアロダイナミクスを考慮してか、スタックが低く設計されている場合が多い。特にTARMACやVENGEはスタックが低い。ライディング時のポジション自体もエアロダイナミクスの1つの要素として考えられている。

私(169.5cm)の適正サイズのXSは、VENGEやTARAMAC SL7の49と52サイズのちょうど中間のようなジオメトリだ。過去に49と52サイズで悩んでいたため、T1500のジオメトリはとてもしっくりときた。他のSサイズやMサイズも52と54の中間であるかのような設計だ。

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ジオメトリはとても重要だ。ライダーの動きを最大限に引き出す役目があるのはジオメトリやポジションである。しかし、それほど注目はされない。理由の一つとしては、「何が最適なのか」という事がわかりにくいことにある。

エアロダイナミクスであれば「10ワット削減」や、重量面で言えば「100g軽量化」といった誰にでもわかりやすい表現ができる。しかし、ジオメトリに関してはそうはいかない。

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どのメーカーも、フレームは56サイズを基準にして作られるが、WINSPACEはアジア系ブランドらしく少サイズがメインで特大サイズはラインナップしていない。とはいえ、大抵の日本人の身長であれば適切なサイズがあるはずだ。参考までにSPECIALIZEDやTREKの49や52に乗っているライダーであればXSを選んでおけば大丈夫だ。

インプレッション

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今まで欧州や米国メーカーのハイエンドモデルばかり乗り継いできたが、実際のフレームはアジア圏で製造されたものがほとんどだった。中国ブランドとWINSPACEという馴染みの無いブランドであったとしても、色眼鏡なしでWINSPACE T1500評価する必要がある。

バイクはどこで生み出されたかではなく、どのようにして設計されどのように作られたのかが重要だ。

また、実際の製品の良し悪しと価格は比例しない。高価であったとしても、プロモーションや人件費等に費やされている可能性は大いにある。実際にCANYONのバイクは中間マージンが存在しないため、世界最速でありながら各社のミドルレンジ程度のフレーム価格で販売されていることが良い例だ。

ここからは、これまで乗ってきたバイクと同じように先入観なく純粋に感じたことを書き綴っていく。

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まず外観や塗装面といった見た目部分から話を始めていく。レースを走る性能も必要だが、塗装が雑だったりムラがあったりすると乗るモチベーションや所有欲を満たせない。塗装面は見る限り他社ブランドとの明確な違いはない。むしろ美しいと思う部類だ。

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ただ、ロゴに関して言うとWINSPACEの1世代前のロゴのほうが日本では好まれると思う。

実際に海外のサイクリストも塗装をすべて剥いで旧ロゴに変えるという手間を加えていた。今回使用しているT1500のロゴも悪くはないが、私は旧ロゴのほうが好みだ。カラーリングはコーポレートカラーのブルーを選べる。海外サイトでは複数のカラーやカスタムカラーが選べるため、日本でも同様のサービスがあればT1500を購入対象にするユーザーは増えるかもしれない。

と思っていたら、2021モデルは旧ロゴに戻りブラックとホワイトの展開がされるようだ。

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実際に乗ったT1500の第一印象は、VENGEに似ていた。エアロロードに共通しているのは正面から見ると細く、横から見ると面積が大きい。いわゆるエアロ形状で構成されたフレームに共通している、「一枚板がそのまま左右に揺れる硬い乗り心地」だった。また、ドロップシートステーによるリアトライアングルの縮小によって、快適さはEmonda SLRのような形状のバイクよりも低下していると感じた。

エアロロード独特なのは、バイクを振ったときに左右にゆったりとした動きをする傾向がある。T1500もその傾向に漏れず、いうなれば「エアロロードらしい」動きするバイクだった。良い意味と捉えるか、悪い意味と捉えるかは、VENGE系かTARMAC系どちらが合うかで好みが分かれるだろう。

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剛性感については相対的にVENGEよりも硬く感じた。硬く感じた理由が、BBの剛性によるものなのかはわからない。また、バイクの重量が重いため加速は非常に鈍く感じた。かかりの良さはVENGEのほうがいいと感じた。ベンチマークのVENGEはエアロロードしてはトップクラスにある。それゆえT1500の特徴も相対的にはっきりとしていた。

価格や開発費を考えると単純に比較することはフェアではない。しかし、インプレッションのはじめにも書いたとおり「色眼鏡なしでWINSPACE T1500評価する必要がある。」を愚直に守ると、重量面や走りの軽さや脚あたりはVENGEのほうが好みだった。

とはいえ、「20万円で買えるカーボンディスクエアロロード」という事を考えると話はまた違ってくる。名の通ったハイエンドエアロロードと30万円以上の価格差があるが、その差がすべて性能差かと言われればそうでもない。T1500のバイクとしての性能は必要十分以上だと感じた。

カタログ重量も1050gとエアロロードにしては重くもなく、軽くもない。フレーム自体もTREK MADONEやVENGEよりも重い。

総合的な性能を加味すると、価格を考えれば十分なディスクエアロロードだと思う。ただ、自分がレース機材としてディスクエアロロードを使うとしたらS-WORKS VENGEが好みだ。性能の良し悪しとバイクの好みは分かれるため最後は自分で判断するしか無い。

T1500がどのようなレースに適しているかと問われれば、主に平地系のレースだと思う。対して、重量面でヒルクライムには当然向いていないと感じた。また、反応性の脚あたりからクリテリウムにも向いていないと感じた。使えないことはないが、用途を明確化するとしたらこのように判断できる。

スペック

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  • モデル名:T1500
  • サイズ:410/440/470/510/550mm
  • ヘッドチューブ:1 1/8 “-1 1/2″/li>
  • BB: BB86
  • シートポスト:オリジナルシートポスト
  • ブレーキ:フラットマウントディスクブレーキ
  • タイヤクリアランス:最大:700C * 28C
  • カーボンファイバー: 東レT800、T700、UDM
  • 重量:フレーム1050 +/- 30g(Mサイズ)

まとめ:値段に見合わない性能を備えたエアロロードバイク

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昨今のロードバイクは価格が高騰している。プロモーション費用、開発費は販売価格に反映される。北米・欧州ブランドのハイエンドモデルは50万出したところでせいぜいフレーム程度しか買えない。そのような状況が当たり前になってきた状況下で、「20万円のディスクエアロロード」のWINSPACE T1500は高いコストパフォーマンスを備えていると言っていい。

いうなれば、「値段に見合わない性能を備えている」ということだ。

この言葉の意味は、20万円という価格ながら必要十分以上の性能と細部の仕上げ、塗装の美しさ、斬新なドロップシートステーを備えながら20万円で購入できるというポジティブな意味だ。例えば名のあるブランドのロゴが付けば倍の40万円~で販売されるのだろう。

WINSPACEは日本での知名度はまだ低い。しかし、ハイエンドのカーボンバイクに迫る仕上げや、海外で行われたカーボンの積層検査の結果を見る限り、バイクとしての性能は十分だ。20万円という価格は、一見すると怪しいと感じる人もいるかもしれない。しかしその心配はなく、ディスクエアロロードを検討しているライダーや、スペアバイク、学生ライダーにおすすめできる。

「20万円で買えるカーボンディスクエアロロード」という事を考えると、名の通ったハイエンドエアロロードと30万円以上の価格差がある。その差がすべて性能差かと言われればそうではななく、WINSPACE T1500は価格以上の性能を備えたバイクだった。

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