「ボントレガー史上最速のホイール」
製品開発において前作を上回ることは各社の至上命令だ。メーカーが「前作よりも10%空力が劣るホイール」なんてものを作るはずがない。ボントレガーがリリースしたAEOLUSもそうだった。新製品が登場すれば前作を超える性能、新素材を使った目新しさ、軽量性を兼ね備えていることが最低条件になる。
最新機材のAEOLUS RSL 51で悩ましかったのは51mmの「1mm」の意味だ。オールラウンドホイールのリムハイト帯は開発競争が激しく、48mm、50mm、51mmといったようにいったいどれが優れていて、どれを選んだらよいのかがわからなくなってきている。AEOLUS RSL 51の51mmに存在している「1mm」の意味を問われたとしても、私は明確な答えを持ち合わせてない。
だからこそ、オールラウンドホイールのベンチマークであるROVAL CLX50を基準にしてAEOLUS RSL 51を純粋に相対比較することにした。1つ1つの要素を整理し、カタログ上の数値ではなく、実際にAEOLUS RSL 51を使ってどうだったのかを書き尽くすことに注力した。ROVAL CLX50よりも優れていれば使うし、そうでなければ手放すだけだ。
今回のインプレッションの結末としては、長年ベンチマークとして使ってきたROVAL CLX50からAEOLUS RSL 51をメイン機材として採用することに決めたという事実だけがある。その理由、なぜROVAL CL50やRAPIDE CLXではなくAEOLUS RSL 51だったのか。BONTRAGER AEOLUS RSL 51を自腹購入し、走りこんだ末にたどり着いた結論をまとめた。
AEOLUS RSL 51 vs ROVAL CLX50
それぞれのホイールを使い、相対的に感じた「空力性能」「体感重量」「横風安定性」の3大要素の結論は以下の通り。
- 空力性能:AEOLUS RSL 51 ≒ ROVAL CLX50
- 体感重量:AEOLUS RSL 51 > ROVAL CLX50
- 横風耐性:AEOLUS RSL 51 > ROVAL CLX50
RSL51の空力性能に関して言えば、ROVAL CLX50やRAPIDE CLXから変えても劇的な変化はなかった。特段よく進むとか、足を休めらるとか、そのようなはっきりしとした変化はなかった。面白みに欠けるがそれが結論だった。「ハイエンド」と呼ばれるホイールをいくつか使用して改めて気づいたことは、ホイールやフレームの空力性能は行き着くとことまで行き着いており、性能差はわずかになってきている。
単なる「カーボン繊維の輪」の制限の中でできることは限られているからしかたがない。制限の中でPRINCETON CARBON WORKSの断面変動WAKEや、ZIPPがザトウクジラから着想を得たNSWとリム高さを変動させるような新しい(といっても10年以上前の特許を採用した)リムは存在する。
リム設計は大きく分けてリムハイト、リム外幅、リム内幅、リムシェイプ、この4つの要素の縛りから抜け出すことができない。空力性能に関していえば、決してリムハイトだけが空力性能に対して支配的ではない。タイヤ幅やタイヤ表面のパターン、そしてリムシェイプとすべてがインテグレートした状態で空力性能は決定される。
空気抵抗を減らす具体的な方法としては、リム側面を流れる空気がリムから離れる剥離点(剥離抵抗)の位置を進行方向よりもできるだけ後ろ側に移動させ、圧力が低い領域を小さくすることが有効になってくる。
そのため、リムハイトをできるだけ高くすることで剥離点を後方に移動させることはできる。しかし、先ほどのタイヤ幅やタイヤとリムの段差、リムシェイプといった要素が複合的に合わさり剥離点は簡単に変化する。
51mmの「1mm」の意味を問われれば、50mmよりも剥離点が後方になる可能性があるが、実際に風洞実験室でデーターを取得したわけではないので確実なことは断言できない。また、実際に使ってみても空力性能に関して言えばROVAL CLX50と大きな違いは感じられなかった。
ただし、明確に違いがよくわかる部分があった。「体感重量」と「横風耐性」の2つだ。
横風耐性
グラフは縦軸がサイドフォース(横力)で安定性を示しており、横軸が空気抵抗(Drag)と転がり抵抗を合算した値だ。昨年リリースされたENVEのタイヤやAeroCoachの実験結果のように、時代は「空力」と「転がり抵抗」をトータルパッケージで考える方針にシフトしてきている。
グラフ上の黄色は新型のRSLホイールを示している。青色は旧型のXXXホイールだ。それぞれの後継モデルにおいてどれほど性能が向上しているかについては空力性能、トータルパフォーマンス、安定性全てにおいて前作を大幅に上回る性能向上を達成している。
これらを踏まえた上でAEOLUS RSL 51を走らせて感じたことは、どのような速度域でもフロントがあおられるような素振りは見られなかった。購入後、どれだけ走ってもいまだにフロントが取られるようなシチュエーションには遭遇していない。ヒルクライム時、平坦での高速巡行、下りといった様々なシチュエーションにおいて、フロントホイールは風をうまくあしらいながら進んでくれる。
この独特の横風への耐性はいったいどのような設計によるものなのだろうか。
ホイールが突風などにあおられてヒヤッとする原因は、ホイールに加わる横力(Side Force)が主な原因だ。横力は風洞実験を行うと、Drag(後方に引っ張られる力)と同じように計測できる。横力は文字通り横から物体を押す力のことだ。横力が大きいほどホイールを横から押す力が大きく、「ハンドルがとられる」ということに関係してくる。
リムハイトが高く、太いリムは横風にあおられやすいと思われがちだが、リムハイトの高さと横力は比例関係にはない。以前ROVAL RAPIDEを風洞実験したところ、RAPIDEのフロントホイールは横力が非常に小さいことがわかった。フロントホイールのあおられやすさはリムハイトの高さのみならず、そしてリム幅とも比例しない。
そのうえで、ROVAL CLX50と比べてみてもAEOLUS RSL 51はまったくと言っていいほど横風を感じなかった。練習コースで風向きがころころと変わる場所を走ったのだが、行きも帰りもフロントホイールが風に持っていかれることはなかった。とにかく、真っすぐ、ブレずに進んでいくことがよくわかった。わずかな揺さぶりも感じることなく、粛々と回転するリムを感じることができる。
AEOLUS RSL 51独特の風のあおられにくさはROVAL RAPIDE CLXにも通じるところがある。「あおられにくさ」はすなわち「直進安定性」にも通じている。
AEOLUS RSL 51はBONTRAGER史上最速のホイールとの位置づけであるものの、走らせた際に感じる安定性能のほうが気に入った。この感覚は一見すると根拠のない事例かもしれないが、私だけではなく兼松選手も同じことを体感しており評価が高かった部分だ。
※兼松選手はTREKのアンバサダーがゆえ、うかつなことは言えないし書けないかもしれないが、それを抜きにしても安定性の部分に関して、私も同意見だった。
AEOLUS RSL 51は、OCLVカーボンの採用、史上最速の空力性能、DTSWISSの新型ハブを採用しているという表立ったメリットが多数ある。しかし、最も評価されるべきは51mmハイトを採用していることを感じさせない横風耐性の高さだ。この要素だけでもオールラウンドホイールとしてAEOLUS RSL 51を迎え入れる価値がある。
空力性能や軽さ以外に、新しいフロンティアとして安定性の向上を突き詰めてきたのが新型のAEOLUSだ。その性能は、人間が感じ取れるほどに高められていた。
実測重量
AEOLUS RSL 51のカタログ重量はフロントが645gでリアが765gで前後1,410gだ。実測重量はフロントが656gでリアが773gで前後1,429gだ。
実は、リム、スポーク、ハブをすべて合わせたカタログ重量、いわゆる「トータル重量」は意味があるようでいて、実際はそれほど意味はない。
ホイールで重要なのは、パーツの重量分布だ。ハブが重くリムが軽ければ初速や立ち上がりはよく感じる。しかし、スピードの維持がしにくくさらに減衰が激しい。対して、ハブが軽くリムが重ければ初速や立ち上がりは鈍く感じる。しかし、スピードの維持がしやすい。
重量分布の違いは、ホイールの体感重量(踏み込みの軽さや回しやすさ)に影響を与えている。ROVAL RAPIDE CLXを一時期使用していたが、DTSWISSのEXPハブで中心部が軽く、外周が重いため、とても鈍く感じるホイールだった。そのためCLX50に戻したという背景がある。1本で上りから平坦までこなすことを考えた場合、自分自身の使い方にRAPIDE CLXは合わなかった。
ROVAL CLX 50と比べてAEOLUS RSL 51は、踏み出しや登りが軽やかに感じる。実測重量は不明だが、リム重量(外周重量)がかなり軽いのではないか。各社はリムのカーボン素材までアピールすることはないが、BONTRAGERは最軽量のRSLグレードのOCLVカーボンをAEOLUS RSL 51のリムに使用していること公言している。強度が高いがゆえ薄く作ることができる。AEOLUS RSL 51は、リム側面を押したら容易に凹むほどの薄さだった。
また、スポーク本数も24H/24Hとディスクブレーキ用ホイールとして標準的な本数を採用していることも見逃せない。他社は見せかけの重量を減らすために21Hや18Hで一方はラジアル組を採用しているが、スポーク本数を減らせばその分1本当たりの負担も増えるばかりか、スポークテンションを上げる必要が出てくる。その点、AEOLUS RSL 51は標準的かつ堅実な造りだとよくわかる。
ROVAL CLX 50とAEOLUS RSL 51の重量差は数値上はわずかである。しかし、使ってみるとまったく性格の違うホイールであることがよくわかる。リムハイト51mm、リム内幅23mm、リム幅30㎜と非常にボリュームがある最新のリムプロファイルを採用し、スポーク本数も多いながらも、OCLVカーボンを使用し素材を改良することで外周重量を減らすことに成功している。
この1つ1つの改良と改善の積み重ねが、ホイール全体としての完成度の高さにつながっているといえる。
リム内幅23mmの意味
リム幅が広いことによる恩恵を一言でいえば、「空気圧を下げても抵抗は据え置き」であるということだ。
フック式かつリム内幅が23mmの設計は、ホイールメーカーを探ってもBONTRAGERだけだ。ENVE、ROVAL、ZIPP、PRINCETON、REYNOLDS、MAVIC、Campagnoloですら17mm~21mmの間である。これほどまで思い切った設計に踏み切ったことに感嘆してしまった。
リム内幅を広げる設計が熾烈なのはMTB用のリムだ。クロスカントリーですらリム内幅は25mmを超える。オールマウンテン用になると30mmを超えるものも出てきている。その背景には、MTBはタイヤ幅が太くなる傾向と合わせて、低圧で使用することがあたりまえになってきていることがあげられる。
ただ、リム内幅を広げることによる恩恵はどれほどあるのだろうか。< /p>
リム内幅を広げると、その分タイヤビード間の幅が広がり充填できる空気の体積の量が増える。MTBではこれらの理由から、タイヤは太く、リム内幅も広く、低圧で使用する方法が主流になった。とはいえ、この事実をロードに当てはめた場合どうなるのか。
実際にAEOLUS RSL 51のリムに25CのGP5000を取り付けたところ、タイヤ幅の実寸は29mm前後まで広がった。ROVAL CLX50のリム内幅20.7mmの場合は、28.5mm前後までタイヤ幅が広がったことを考えると思ったよりも広がっていない。リム内幅が広がることでタイヤ幅にどのような影響がでるのかというと、
リム内幅が1 mm増えるごとにタイヤの幅は0.425mm増加する傾向がある。一方でタイヤの高さはほとんど変化しない。また、同一空気圧であればリム内幅が広いリムにセッティングされているタイヤのほうが硬くなる。以下は、18C、22C、26Cのリム内幅に対してContinental Grand Prix 5000 TL 25Cをセッティングした時の実測データーだ。AEOLUS RSL 51は22Cを参考のこと。
リム内幅の違いによるContinental Grand Prix 5000 TL 25Cのタイヤ幅の変化は以下の通り。
- 18C:タイヤ幅実寸26.6mm
- 22C:タイヤ幅実寸28.2mm
- 26C:タイヤ幅実寸29.9mm
6.89barにおける転がり抵抗の変化。
- 18C:8.7W
- 22C:8.7W
- 26C:8.2W
次は、転がり抵抗が約8.6Wになるように空気圧を調整した場合の結果。空気圧を上げると転がり抵抗が下がるが、リム内幅が広ければ広いほど低圧でも同様の転がり抵抗値が得られる。18Cでは7.3barを入れて8.6Wの転がり抵抗であるのに対し、22Cでは空気圧が低い6.89barながらも、同じく8.6Wの転がり抵抗が得られる。
- 18C:7.30 bar
- 22C:6.89 psi
- 26C:6.48 psi
別の傾向としては、それぞれのリム内幅ですべて同一空気圧に設定した場合、リム内幅が広いほうがタイヤが硬くなる。
リム内幅が広がることによって、タイヤが変形することで発生するヒステリシスロスも減少していく。これまでリム内幅が17~18mmのリムを使ってきた場合、AEOLUS RSLのリム内幅23mmに変えるとタイヤ空気圧を減らすことで同等のフィーリングにセッティングすることできる。具体的な数値としては、これまで設定してきたタイヤ空気圧よりも0.4bar落とす必要がある。
空気圧を上げすぎると逆に抵抗が増える。これら、車体が上下に移動することによって損失するエネルギーの損失をインピーダンスロスと呼んでいる。そのため、荒れた路面では低圧で走ることが主流になってきている。リム内幅が広いホイールはおよそ0.4barほど下げても、転がり抵抗はそのままにインピーダンスロスも減る効果もあるだろう。
まとめ:新設計と新構造を採用したオールラウンドホイール
最後にBONTRAGER AEOLUS RSL 51のメリットまとめる。
- リム内幅が23mmと非常に広い設計。
- タイヤ空気圧を0.4bar下げてもCrrが据え置き
- タイヤ実測幅が広がる。
- 新型のDTSWISS EXPハブを搭載。
- チューブレス対応リム。
- スポーク本数が前後24本と他社より減らされていない。
- スポーク本数が前後24本と理想の設計。
- OCLVカーボンを使用(他社製品にはないメリット)
- レースで壊してもクラッシュ保障の対象。
- 横風に強い。
対して、デメリットもまとめた。
- フロントハブのダストキャップが薄くごみの混入がしやすい。
- ROVAL CLX 50からの乗り換え理由が安定性だけしかない。
- 知名度が低い。
対抗馬のROVALは非常に優れたホイールとはいえ、TREKユーザーはAEOLUS RSL 51を使用するほうが合理的だ。また、50mmリムハイト前後のホイールを選ぶことを考えた場合、最新のリムシェイプやリム内幅設計、チューブレス対応、DTSWISS EXPハブ構造といったように、すべてをバランス兼ね備えたホイールは今のところAEOLUS RSL 51しか見当たらない。
最新のホイールであったとしても、チューブレス非対応、リム内幅が18mmであったり、旧型のスターラチェット方式を採用していたりする。ある意味、AEOLUS RSLは全方位をカバーしすぎていて、そつがなく退屈なホイールかもしれない。欠点という欠点がない。だからこそ、堅実なホイールが欲しい方に強くおすすめできる機材だと思う。
ROVAL CLX 50からの乗り換えでAEOLUS RSL 51はアリかナシか考えると、何を求めるかによって答えは変わる。そして、違いの部分に関する性能の理解が深いか浅いかでも判断は分かれるだろう。リム内幅が拡大することにより、空気圧を下げてもヒステリシスロスが変わらないメリットや、EXPハブによる中心部の軽量化、エアロ性能や安定性の向上といった観点で考えると十分に乗り換えに値するメリットといえる。
ロードバイクのタイヤ幅が25Cや28Cが基準になった今、リム側の設計の落としどころは空力観点で見れば30mmが必須、内幅は21mm~23mmのフック式がベストだと考えている。当分の間、AEOLUS RSLのリム設計は陳腐化しないはずだ。少なくも5~6年は最先端のリム設計だと思う。次の時代はPRINCETON CARBON WORKSのように断面変動の時代が来るかもしれないのだが。
リム設計は単体では意味がなく、すべてタイヤとインテグレートされた状態で真価を発揮する。AEOLUS RSLはこれまでのホイールとは異なり、エアロダイナミクスのためにリム幅を限界まで広げ、ヒステリシスロスを減少させるためにリム内幅も拡大させた。そのうえでリムシェイプを最適化させ、安定性を手に入れた。
新型DTSWISS EXPハブも搭載し、BONTRAGERの気合の入れようもうかがえる。あとは、この設計をユーザーがどこまで理解して、過去のホイールよりも優位であると認識できるかだ。どうしても私たちは、ツール・ド・フランスで勝つホイールやオリンピックで勝利するホイールに惹かれる。しかし、性能と勝利はかならずしも比例しないことがある。
それでもAEOLUS RSL 51は現段階で考えられる限りの最先端の設計と構造を備えたホイールだ。選んでおけば、機材として間違がないと思う。ただ、あまりにも違和感がなく、走っていても存在感が全くないホイールだ。ただ、この「違和感がない」という状態こそ機材にとっての至高なのである。
それは、ライダーに余計な情報やストレスを与えていないというある種の性能なのかもしれない。これから長い目で見てディスクブレーキ用のホイールを買う方、オールラウンドホイールを買う方はAEOLUS RSL 51が良いだろう。時代に即した設計と類を見ないリムプロファイルは、ほかでは味わえない独特な体験を楽しめるホイールに仕上がっていた。
¥720