・縦方向に潰れる
・300 TPI(他社の1.5~2.5倍)
・腰砕けはほぼナシ(1.3bar運用)
・1.1bar低圧運用可(要インサート)
・イメージとは真逆のコシがしっかりとしている
Challengeがリリースしたハンドメイドチューブレスレディタイヤ(以下、HTLR)は、想像していたタイヤとは真逆だった。使わなければ想像の範疇からは抜け出せず、真の性能を知ることすらできなかった。
そして走らせたとき、良い意味であっさりと裏切られてしまった。
HTLRは、主流のバルカナイズド(加熱・加硫処理)クリンチャータイヤとは一線を画していた。HTLRはチューブラーと非常によく似た動きをする性能を備えていた。何のひねりもない言い方をするとHTLRは、神タイヤだ。
もちろん、構造上の制限から完全にチューブラータイヤのしなやかさと動きに到達していたわけではない。とはいえ、控えめに言ってこれまで使ってきたチューブレスタイヤの中で一番良かった。
カタログスペックで警戒していた「300 TPI」も、その柔らかいイメージとは裏腹に縦方向に向かって綺麗に潰れていくタイヤだった。HTLRには、良い意味で裏切られた。タイヤが粘り、食いつき、転がりが圧倒的に軽い。「走る」ことが体感できる使って楽しいタイヤだった。
今回の記事は、Challengeが新たにリリースしたHTLRをインプレッションする。4種類あるうちのメインタイヤとして伝統的なGRIFOを選んだ。取り付けから使用感、他社製品との比較を行った。
260 TPIのALMANZOもあわせてテストし300TPIと260TPIの違いも確認した。最後に2022年全日本選手権シクロクロスMMでぶっつけ本番の実戦投入をおこない、多角的にChallenge HTLRをテストした。
取り付け
取り付けまえのハンドメイドタイヤは、一見するとタイヤに見えない。ゲゲゲの鬼太郎の一反木綿(いったんもめん)のような形をしている。そのため、いつも目にしているUの字形状のタイヤと「取り付け方法が違うか?」と一瞬、とまどった。
取り付け方法はクリンチャータイヤと同様だ。取り付けの条件と、取り付けの流れは以下の通り。
- リム:ETRTO準拠の621.95 +-0.5mm
- リムテープ:0.11mm x2周パナレーサーチューブレスレディテープ
- シーラント:Muc-Off シーラント 40ml
- タイヤインサート:Tubolight CX
- タイヤレバー:SCHWALBE タイヤレバー新モデル
- ポンプ:トピーク ジョーブローブースター
取り付けの際に、本来の用途とは異なる予想外の良い仕事をしたのはタイヤインサートだ。HTLRタイヤはもともと平らな形状をしているため、ビードをリムセンターに落とすことが難しい。しかし、タイヤインサートがあることによって、リムセンターにビードが収まりやすくなる。
他の手段としては、チューブを入れてタイヤの形を整えるという方法もある。しかし、形を整えたあとで取り外す必要があり面倒だ。新しい機材のタイヤインサートを思い切って使ってみるのが合理的な判断と言えるだろう。
続いて取り付ける順番だ。
- タイヤの片側のビードをリムにはめる
- タイヤインサートをリムに全てはめる(必要であれば)
- 残りのビードをリムにはめる
- リムセンターにタイヤビードを全て落とす
- バルブコアを抜く(空気流入増)
- ジョーブローブースターで空気を送る
- タイヤビードがリムに上がったことを確認する
- タイヤの空気を抜く
- シーラントを40ml~60ml入れる
- 5barまで空気を充填する
- ホイールを回転させシーラントを行き渡らす
取り付けが完了した後の処理としては、リムとタイヤの境界から染み出している箇所に対して重点的にシーラントをあてる。空気の漏れが完全になくなるまでおよそ24時間ほどかかる。
リムサイドから大量のシーラントが漏れてしまう場合は、別の問題を疑う必要がある。リムとタイヤの間からシーラントが漏れる場合は、そもそもリムとタイヤの相性が悪い。シーラントを足して頑張ってふさごうとはしないほうがいい。
リムがETRTO準拠の621.95 +-0.5mm設計か確認するか、リムテープをもう一周巻くなどの対処を行う。
取り付け直後のHTLRは、1分かからないうちに0barまで空気が抜けていく。すぐに空気を5barまで再充填する。この手間ひまを繰り返し、完全にシーラントがケーシングに浸透すると、8時間ほど経過しても5.0barから4.8bar程度しか空気がぬけなくなる。
取り付け自体は、ここまでの内容を愚直に守れば成功するはずだ。ビード上げも石鹸水も使わずに1発成功している。
トレッドパターン6種類
33Cのシクロクロス用HTLR(300TPI)のトレッドパターンは「GRIFO」「CHICANE」「BABY LIMUS」「LIMUS」の4種類だ。33C幅グラベル用のHTLR(260TPI)は「ALMANZO」「GRAVEL GRINDER」の2種類ある。
33Cタイヤだけでも6種類のラインナップがある。1つ1つのトレッドパターンに意味があり、路面状況、天候、コースプロフィール、地形といったあらゆる条件に対して対応するようトレッドパターンが考えられている。
Challengeタイヤのトレッドパターンと使い分けについては、9度の英国CXチャンピオンのヘレン・ワイマンが細かく紹介していたので再掲する。
GRIFO
1本だけ用意するとしたら、オールラウンドに使用できるGRIFOだ。転がりが小さいばかりでなく、グリップも非常に高い。迷ったらGRIFOを使用するといい。最大の特徴は円柱のノブだ。360度全方向に動き良い仕事をする。
プレステのコントローラーのスティックのように、あらゆる方向に対して変形し食いついてくれる。対応する路面コンディションは以下の通りだ。
- 乾いた草
- 濡れた草
- ドライ&ちょっとしたぬかるみ
- 水を含んだ路面
ヘレン・ワイマンはGRIFOとCHICANEを状況に合わせて使い分けている。濡れた草区間では、まずはじめにCHICANEを選択する。レースが進むにつれて、濡れた草は次第に下の土などが出てくるため、レース中盤からはGRIFOや、BABY LIMUSに変更するという。
CHICANE
CHICANEとGRAVEL GRINDERはTPIの違いのみで、トレッドパターンは共通だ。
CHICANEは他のブランドにはみかけないセンタースリックと大きなサイドノブが特徴だ。A.Dugast Pipisquallo、FMB SPRINT、IRC SERAC EDGEも似たようなセンタースリックだが、CHICANEほど大きなサイドノブを備えていない。
CHICANEが活躍するコンディションは以下の通りだ。
- 乾いた草
- ドライ&ちょっとしたぬかるみ
- 雪(レース中盤から溶けてきた場合:2017,2018,全日本選手権)
ヘレン・ワイマンは、乾いた草でCHICANEを使う。直線で速く、キャンバー区間も優れている。CHICANEを使う場合は、GRIFOよりも高めの空気圧で使用しているという。
濡れた草の場合もCHICANEをまず初めに使用するが、レースが進むにつれて濡れた草は次第に下の土などが出てくるため、レース中盤からはGRIFOや、BABY LIMUSに変更するパターンが多い。
また、レース中盤の雪が溶けてきて緩んだコースにもCHICANEを使うという。もしくは、フロントにCHICANEとリアにBaby Limusも雪と相性がいいという。
BABY LIMUS
- ぬかるんだダート
- 滑りやすい泥
- 深くぬかるんだ泥
泥のコースにはBABY LIMUSが役に立つ。泥が大部分を占めるコースや、ぬかるんで重たくなった泥のコンディションはBABY LIMUSが活躍する。
LIMUS
LIMUSはBABY LIMUSよりもノブとノブの間隔を広い。ヌタ泥で粘度が高い場合はLIMUSを選択する。
- まとわりつく泥
- 特に滑りやすい泥
- 深くぬかるんだ泥
ALMANZO
個人的に気に入っているトレッドパターンで、GRIFOの優秀な円柱サイドノブパターンを踏襲しつつも、DUNEほどノブが並んでいない絶妙なトレッドパターンだ。キャンバーがないスピードコースや、砂、などに活躍する。
CHICANEほどノブを必要とせず、最低限の食いつきだけで良い場合はALMANZOが良い選択だ。使い勝手自体は同社のDUNE近い。
- 短い砂区間とドライコース
- ハードパック(完全なドライ)
- 雪(溶けてない場合)
- 氷
練習用にもオススメのタイヤだ。完全スリックだと不安だが、ノブに頼らずタイヤを立てに潰しながらコーナーリングを行う練習で使っている。高速なコースであればリアタイヤに使用する頻度も最も高い。
ヘレン・ワイマンの金言
ヘレン・ワイマンはタイヤの使い方を細かくまとめている。しかし、「わすれてはいけないこと」として以下のことばを残している。
たとえば、一区間だけ砂セクションがあったとします。しかし、その”セクションのためだけ”に、タイヤをサンドに変更しないでください。多くのシクロクロッサー達は、おなじ過ちを犯しています。
まず初めに考えることは、一部の砂区間以外の残りの「大部分をしめるセクション」をいかに早く走れるかです。コースの”大部分”にマッチしたタイヤを真っ先に考えて選択してください。
そして、毎年同じコースや地域でレースが行われますが「いつもこのタイヤがベスト」ということはありえません。
そして最も重要なのは、
「あなたの周りにいる様々な人たちの影響を受けてはならない」
ということです。自分自身の機材、タイヤ、空気圧に「自信」と「責任」をもって走ってください。あなたはさらに速くなります。あなたには、あなただけの、ベストなブロックパターンと空気圧があるのです。
…全俺が泣いた。
空気圧
空気圧は最も悩ましく、最も面白みのある世界だ。空気圧は沼であり、勝敗をわける重要な武器でもある。とはいえ、空気圧は「上げる」か「下げる」の2通りしかない。では、その単純な調整に対し、ライダーはいったい何を苦悩し、何を追い求めているのか。
空気圧を上げると、ある空気圧までは転がり抵抗が減少していく。しかし、空気圧が高すぎると、ライダーとバイクが上方向に移動するため、インピーダンスロスが増加する。
空気圧を下げると転がり抵抗が増える。いっぽうで、タイヤの接地面積が増えるためグリップが増し、路面追従性が高まり、ショックを吸収しやすくなる。これらはタイヤの空気圧の調整で変化する代表的な例だ。
空気圧調整を複雑にしている原因の一つに、タイヤメーカーや、製造方法、使用素材、コンディション、気温、ライダーの体重、テクニックといった複数のパラメーターが存在していることにある。
これらは、それぞれが独立しながら複雑に組み合わさっていく。複雑化した組み合わせは、自身が「ベストだ」と思う確度を下げる。何が正しいのか、答えがない世界であるため思い悩むのだ。
したがって、ライダーは自身の経験と技術から、空気圧を上げること、下げることによるメリットとデメリットを総合的に理解しておく必要がある。そのうえで「確からしい答え」を導き出す必要がある。先程のヘレン・ワイマンの言葉を借りれば、
「あなたには、あなただけの、ベストなブロックパターンと空気圧があるのです。」
の言葉そのままだ。
前置きが長くなったが、ChallengeのHTLRはやや高めの空気圧でもよくグリップするタイヤだ。300 TPIというイメージとは裏腹に、コシの強さを備えている。低圧運用しても腰砕けは起こりにくい、というより起こらなかった。
ChallengeのHTLRは1.55~1.60barという高圧でも、十分にグリップを引き出せた。さらに面白いのは、HTLRを1.3bar程度まで落としてもグリップ感が大きく変わらなかった。タイヤに期待するグリップ感を得るためだけであれば1.60barでも十分だった。
踏み込んだときの転がり感は、これまで使ってきたどのチューブレスタイヤよりも軽い。それでいて芝に噛み付くようなグリップ感が得られた。一石二鳥のタイヤである。
体重58kg前後、バイク重量8.0kg、装備2.0kgの条件であれば、空気圧は1.6barからスタートして上げ下げすることが良いと判断している。私はテクニックがないため、転がりよりもグリップ感を重視している。
ベンチマークになっているIRC SERACと比べると、空気圧は0.2bar程高くても同様のグリップ、いやそれ以上の食いつきを体感できた。
このあたりの話は、後ほどのインプレッションで詳しく紹介する。
重量
HTLRのタイヤ重量は380g~390gの間だ。平均して388gの個体が多い。また、トレッドパターンの違いによる重量差はほとんどなかった。よって、ケーシング自体の気密性を高めるためのシール材料や、サイドコーティングといった部分が重量の大部分の占めているようだ。
インプレッション
タイヤの性能を確かめるにはレースで使うのが手っ取り早い。そのうえで、空気圧、低圧運用、300 TPI、重量、潰れ方と、実際に使うまでに気になっていた部分を重点的に実践環境の中で探っていった。レースは全日本選手権シクロクロスMMのぶっつけ本番で投入した。
ChallengeのHTLRを1度も練習で使うこと無かったため、試走段階で不安があればスペアのSERACで走ろうと思った。しかし、試走10秒でHTLRを使うことを決めた。結論としては、転がりの軽さ、グリップ感、縦方向にきれいに潰れること、それでいてコシの強さがある優れたタイヤだった。
TPI 300の影響
最も懸念していたのは300TPIだ。柔らかすぎるのでは?と気にしていた。シクロクロスタイヤといえど柔らかすぎると、腰砕けになってしまう場合がある。相対的な硬さで言うと、Challengeのチューブラータイヤとよく似た硬さだった。
2019シーズンはChallengeのチューブラータイヤGRIFO SETA(TPI 1000)とTEAM EDITION(320TPIコアスパンコットンケーシング&天然ゴムトレッド)を使用していた。
HTLRは共通して300TPIスーパーポリエステルケーシングを採用し、チューブラーとまったく一緒の工法で作られる。そのため、ChallengeによればTEAM EDITIONと同様のしなやかさを実現している。
ホンネを正直に書くが、Challengeの言うことは嘘をついていない。FMBタイヤほどボヨンボヨンしていないが、Challengeのチューブラータイヤととてもよく似たしなやかさだ。
300 TPIにすることでライダーが懸念しているようなことは、シクロクロス、トラック、ロード用のタイヤを知り尽くしたChallengeタイヤにとって織り込み済みだったのだろう。1.1barで思いっきりこじっても、「グキッ」とならず、あのチューブラーのブリブリ感を感じられた。
潰れ方
潰れ方は、リム内幅、リムサイドウォールの高さ、テクニックやライダーの体重、空気圧といった要素でいかようにも変わってしまう。よって、ここから先は1つの例としてレビューを読んでいただきたい。
これまで使ってきたバルカナイズド(加硫)タイヤとはタイヤの潰れ方も動きかたもまったく異なっていた。タイヤの製造方法や構造が異なると、ここまで性能に違いが生じるのかと驚いた。
1枚ペラのChallengeのHTLRは空気を入れるとタイヤ全体がきれいに丸くなる。もちろん、クリンチャーリムに取り付けるためチューブラーほど丸くはならない。
しかし、チューブラーには出せないようなセンターの美しさと、リムに対して均一かつ美しい弧を描いているのはHTLRならではだ。
潰れ方の話に戻るが、柔らかいバルカナイズドタイヤで発生しがちな「腰砕け」を、どうやったらHTLRでも発生するのか試した。しかし、タイヤインサートも入っているため、下限と思われる1.0barで踏み込んでも腰砕けは発生しなかった。
そればかりか、逆にチューブラータイヤ特有のタイヤが雑巾のように絞られ粘るような動きを引き出せた。これはバルカナイズドタイヤでは再現できない領域で、構造がほぼチューブラータイヤと同一であるHTLRならではの特徴と言える。
緩やかな滑り出し
HTLRの特徴は他にもある。滑り出しが非常に緩やかだ。空気圧、コースコンディション、テクニック、乗り方、重心の位置など、様々な条件が組み合わさりタイヤのグリップが決定されるが、相対的にみてもHTLRのタイヤは滑り出しが非常に緩やかだ。
「あ、もうすぐ滑りそうだな」→「ズ、ズズッ・・・」
という感覚と動作がはっきりとわかるタイヤと、
「ンアッー!」→「スッテーん」
という、タイヤの滑り出しまでの猶予が一切なく、突然過ぎて時すでにお寿司(時すでに遅し)なタイヤがある。
HTLRは前者だ(ンアッー!、ではない)。ライダーに滑り出しそうな予兆を与えつつ、粘りながらタイヤが滑っていくタイプだ。別の言い方をすると、滑り出してから一気にトラクションが抜けるまでに猶予があるため、バランスを取ったり、ペダルから足を外す余裕も生まれやすい。
バルカナイズドタイヤの場合は、超低圧とタイヤインサートを用いることによって、若干ではあるが滑り出しまでの時間を改善できる場合がある。とはいえ、HTLRとタイヤインサートの組み合わせには到底及ばない。
転がりの軽さ
特筆すべき性能は、転がりの軽さだ。
他の性能と同様に、空気圧、トレッドパターン、路面状況によって転がりの軽さは千差万別だ。そのうえで特に伝統的なパターンであるGRIFOは転がりが軽い。A.DugastのTyphoon、FMB Slalomと並び、シクロクロス定番のパターンは考えられている。
この転がりの軽さは感動モノだ。踏み込んだ瞬間に「かるっ!」と声を上げてしまった。それほど違いがわかる。HTLRのケーシングのしなやかさなのか、それともGRIFOのパターンによるものなのか、はっきりとしたことはわからない。
それでも軽く、速いということは体感できる。
HTLRは、グリップ性能の高さ、転がり抵抗の小ささと、全てを兼ね備えたタイヤだと言える。
シーラントの考え方
Challengeの公式情報によれば、HTLRはChallenge純正のシーラントを使用する必要がある。しかし、同社のシーラントはサラサラ系で粘度が低いという情報があったため使用しなかった。
シーラントの好みは人それぞれだが、愛用しているMuc-Off シーラントは粘度が適度でタイヤ内部に「べたーっ」と壁を伝うようにシーラントが行き渡るのでオススメだ。
シーラントには様々な目的がある。MTBの場合は走行中であっても、タイヤにあいた穴が自然に塞がることが最大の目的だ。また、Co2ボンベを使って穴をふさいで、再び走り出せる事が重要になる。
いっぽうで、ロードやシクロクロスの場合はシーラントの役目が少々異なると考えている。ロードであればチューブを入れておしまいだし、シクロクロスはピットで交換できる。シーラントで塞がる事を待っている余裕がそもそもない。
そのため、ロードとシクロクロスの場合はタイヤ内側にまんべんなく広がって、レディタイヤのケーシングに浸透する役目さえ機能すればいい。
したがって、サラサラとしたシーラントを大量に使うよりも粘度が高く、少量でもふさがりやすいMuc-OFFのようなシーラントを使うほうがいい。実際には33cのタイヤでもタイヤインサートを入れることによって30mlほどの量で事足りる。
確実なのは60ml、浸透しにくいタイヤは40mlほど必要だったが、浸透するまでの時間が確保できるのならば30mlが下限だとおもう。それでも空気の漏れが収まらないのならば、追加で20ml入れるなどの対応も可能だ。
ロードやシクロクロスで使う場合のシーラントの量は、上限ではなく下限を見つけることが重要だと考えている。
Challengeタイヤ
Challengeタイヤについて知らない人もいるかも知れないため、少しだけ歴史を振り返ってみる。
Challenge TIREの源流は、イタリアのレース用タイヤブランドのCLEMENT(クレメン)にある。CLEMENTはPIRELLI社に買収されてレース用タイヤの製造を止めてしまった。
それを機にCLEMENTの代理店であったBREVO社は、製造工場や工員と共にタイヤ生産の権利をPIRELLI社から買い取り、Challengeとしてタイヤ製造を再出発した。
現在もCLEMENTが作ってきたタイヤと同じ製法と、職人たちの手作業による製造を続けている数少ないハンドメイドタイヤブランドだ。大量生産されるバルカナイズド(加硫)タイヤとはまったく異なる高品質なタイヤを生み出している。
2022全日本選手権シクロクロスにおいて、上位陣のChallenge Tire使用率は非常に高かった。
- ME 優勝 小坂光選手(宇都宮ブリッツェン):CHICANE
- ME 3位 竹之内悠選手(Toyo Frame):CHICANE
- U23 優勝 村上功太郎選手(松山大学):CHICANE
- U23 2位 村上裕二郎選手(明治大学):CHICANE
- U23 3位 鈴木来人選手(S1NEO)
ハンドメイドタイヤとは
ハンドメイドタイヤとは、どのようなモノなのだろうか。私達がよく使っているのはバルカナイズド(加硫)タイヤだ。ママチャリのタイヤから車のタイヤまで、コンチネンタルのGP5000もバルカナイズドタイヤだ。
バルカナイズドタイヤは、ナイロンケーシングと合成ブチルゴムで構成され加熱・加硫処理されている。加熱と加硫処理によってあらかじめU字断面型に一体成形される場合が多い。一体成型の構造は、耐久性と製品寿命を伸ばす効果がある。そして、生産にかかるコストを低減できる。
世界のタイヤの98%がこの製法で作られており、自転車のみならず車や、オートバイ、飛行機といったほとんどのタイヤが加硫処理の製法で製造されている。
それに対して、ハンドメイドタイヤは真逆だ。複数の素材を手作業で張り合わせて、1つのタイヤを生み出している。使用しているケーシングが非常にしなやかな素材を使うことができ、転がり抵抗の小ささがウリだ。
Challengeのタイヤは、別々に成形された素材を最終的に接着することで完成する。この伝統的な製法のため、コットンやポリエステルを原料にできる。よって、ケーシングをしなやかに作ることが可能になっている。
合成ゴムで一体成形されるバルカナイズドタイヤと比較して、ハンドメイドタイヤは真円に近いタイヤ断面形状を作ることができるメリットがある。コーナリング時もタイヤ設置面積があまり変化しないため、タイヤの挙動が読みやすいという特徴もある。
タイヤのトレッド部分は、天然ゴム製のトレッドを採用している。天然ゴムは柔軟性と粘着性からグリップ力と振動吸収性が高い。そのため、シクロクロスやトラックで非常に好まれる理由のひとつになっている。
Challengeはハンドメイドタイヤにこだわることによって、トレッド、ケーシングともに最適な素材を別々に選択し、性能の高いタイヤを製造し続けている。
まとめ:置き換わるものではなく、追加されるものとして
HTLRはゲームチェンジャーではなく、タイヤの新しい仲間として追加されるモノだ。実際に使ってみて、伝統的なチューブラーに似た素材や性能を備えていることがよく理解できた。しかし、チューブラータイヤに取って代わるモノではない。
これまでのチューブレスタイヤの構造といえば、バルカナイズドタイヤしかなかった。バルカナイズドタイヤでチューブラータイヤ並のしなやかさはそもそも引き出せない。柔らかすぎるバルカナイズドタイヤは、空気圧を低くしすぎると腰砕けが発生する場合がある。
しなやかさはメリットでもあるいっぽうで、デメリットなのだ。
HTLRはタイヤインサートを入れると1.1barであっても「グキッ」とならないチューブレスタイヤだ。久しぶりに感動したタイヤだった。それでいて粘る粘る。滑りだすまでの猶予時間があり、チューブラーの「ブリブリ感」が感じられた。
「チューブレスタイヤもついにここまで来たか!」と、レース会場で独り言を言うほどのタイヤだった。さすがシクロクロスタイヤを知り尽くしたチャレンジタイヤだけある。HTLRに心底感心してしまった。
最後にHTLRのまとめに入ろうとおもう。HTLRは、300 TPIのベースの上にブロックパターンのトレッドを貼り付けた「オープンチューブラー」の構造だ。サイドは補強してあり、フックレス対応。23mmのリムにつけて33mm幅になる。
BONTRAGER AEOLUS RSL51の23mmに取り付けたところ33.0mmジャストだった。シクロクロスの競技規定にも合致するため、シクロクロス用チューブレスタイヤの最適解と言えるだろう。
ただ、チューブラータイヤで満足している方はHTLRを使う必要はないと思う。しかし、使っているチューブレスタイヤに満足していなかったり、さらなるグリップ力とサスペンションのようなしなやかさを求めている場合はHTLR一択だ。
また、HTLRはシクロクロス用だけではない。グラベル用のタイヤを探している方にとってもCHALLENGEから様々なタイプのHTLRが登場している。
HTLRを使うことによって、これまで体験したことのないようなタイヤ性能を楽しめるはずだ。チューブレスタイヤを使用しているシクロクロッサーであれば、1度はHTLRを使用して、その走りを体感してほしい。Challenge HTLRは、シクロクロスがいままで以上に楽しくなるタイヤだ。