PINARELLO DOGMA F インプレッション 芸術と技術が諧調する至極のバイク

4.5
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THE TOKONOMA BIKE

1952年、イタリア。ジョヴァンニ・ピナレロ氏によってPinarelloは設立された。半世紀以上、誰もが認める最高のバイクを生み出している。 Pinarelloの名を聞けば、歴史上の偉大なサイクリストたちが残した、数々の伝説的な勝利を思い出すことができる。

1975年にジロ・デ・イタリアでPinarelloのバイクが初優勝して以来、Pinarelloは、オリンピック、世界選手権、モニュメント・クラシック、そして世界最高峰のツール・ド・フランスで勝利を積み重ねていった。

Pinarelloは常に革新と性能、そして芸術性や独特の様式美を追い求めながらも、世界最高峰のプロチームから得たフィードバックを製品に反映している。同社の技術開発と問題解決を追求した絶え間ない研究成果は、DOGMAの歴史に新たな章を追加した。

DOGMA Fだ。

Image credit: Pinarello

Image credit: Pinarello

DOGMA Fの開発には、イネオスからのフィードバックが数多く盛り込まれた。2009年にチーム・イネオスが結成されて以来、同社はイネオスのバイクパートナーを務めている。長期的なパートナーシップによって、互いに数多くの成功を享受しあった。

選手から寄せられたフィードバックは、「Pinarelloの信念」と一致していた。高速で走り抜ける平坦ステージだろうと、山岳地帯を駆け上がるクイーンステージだろうと、1つのバイクですべてを走り抜ける必要がある、という開発信念だ。

ピナレロは歴代のDOGMAにおいて、クライミングバイクとエアロバイクを別々にする必要が”ある”とは考えていなかった。という設計思想を、あらためて”F”で伝えることを目的としている。

ファウスト・ピナレロ

DOGMAはエアロ、剛性、重量、そしてどのブランドも決してマネできない芸術的なデザインをひとつに融合し、プロトン内でも高い競争力を発揮することになった。

最高のバイクを、ただひとつだけ。

現代のバイクで”最新の設計思想”と考えられている方法は、DOGMAにとってみれば10世代以上前から脈々と続いているブレない設計思想だ。最近になって、北米メーカーが思いついたようにプロモーションしているのとわけが違う。

なにをいまさら―――。

ファウスト・ピナレロ氏は、そう思っているだろう。

思想の根底には、同社の開発研究機関でもあるピナレロ・ラボの研究結果がある。研究によると、エアロバイクとクライミングバイクを交互に乗り換えると、乗り心地や筋肉の使い方に微妙な差が生じるため、ライダーに悪影響を及ぼすことが明らかになった。

プロライダーはバイクと強いつながりを持っている。毎日、何時間も、同じバイクに乗っている。バイク目利きの水準、バイクの違いを感じ取る検出能力の鋭さは一般人と比較にならないほど高い。だから、小さな変化に敏感に反応する場合がある。

1%の違いが勝敗を分けてしまうプロのレースにおいて、ネガティブな要素は限りなく排除したい。マージナルゲインを追求するイネオスにとってみれば当然のことだ。あれこれバイクを変えて走るよりも、明日も、明後日も、1つで全てをまかなえればいい。

ピナレロ・ラボとイネオスが目指した方向性は、「1台であらゆるコンディションに対応できるバイクを作る」というブレないミッションだった。エアロダイナミクスと軽量性を両立させたピナレロ・ラボの最高傑作、それがDOGMA Fだ。

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新レギュレーションに対応

Image credit: Pinarello

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もしも、Pinarello社が米国企業に買収されてしまったら、DOGMA Fに付けるキャッチコピーはやすやすと想像できる。

「DOGMA史上最速のバイク」

という、どこかで聞いたことのあるような、だれでも思いつくような、退屈でつまらないコピーが各メディアに掲載されていたのかもしれない。まさしく、DOGMAは同社において史上最速のバイクであることはまちがいない。

ただ、そこはあえて「THE ART OF BALANCE」と銘打った。

Image credit: Pinarello

Image credit: Pinarello

DOGMA Fのエアロダイナミクス開発において、他社と同じようにCFD解析が行われた。独自性、トレンドと異なっていたのはリムブレーキ用のフレームとディスクブレーキ用のフレームを「別々のバイク」として開発したことだ。

他メーカーは、リムブレーキバイクの開発を行うことをやめた。一方で、Pinarelloはリムブレーキバイクの開発を続けた。「DOGMA F」と銘打たれているものの、リムブレーキ式と、ディスクブレーキ式は似て非なる別のバイクとして設計が行われた。

DOGMA F DISCはリムブレーキバージョンよりもエアロダイナミクスに優れている。DOGMA史で初めてのことだ。DOGMA F DISCはリムブレーキ式よりも7.3%空力性能が優れている。

数値上、もはや別のバイクだ。なぜこれほどまで空力改善を達成できたのか。その秘密は、最新のUCI規定(2021)をいち早く採用し、チューブ幅を規定ギリギリに設計したことによるものだ。

世界最速のCANYON AEROAD CFRですら守らねばならなかった「メーカーにとって縛りが厳しいUCI規定」ではなく、規制が緩和された次世代のレギュレーションをDOGMA Fはタイミングよく採用できた。

photo: pinarello

その結果、不安になるほど異常に薄い厚さ15mm弱のシートポストが搭載されている。これは2023年に登場したCannondale SuperSixEVO4とほぼ同一の薄さだ。なんなら最新型のTARMAC SL8よりもさらに薄い。

シートポスト単体だけでみると、DOGMA F12と比較して空気抵抗を30%低減しているのだ。DOGMA Fの開発期間は3年以上かかっている。2021年の発表時点で、この設計を他社に先駆けてやり遂げていたのだからPinarelloには先見の明がある。

自動ソフトウェアによる最適化研究。3つの異なるヨー角で30以上のコンフィギュレーションをテスト。

自動ソフトウェアによる最適化研究。3つの異なるヨー角で30以上のコンフィギュレーションをテスト。

DOGMA Fは横から見ると前作のF12とそれほど大きな違いは認められない。ところが、細部をくまなく確認していくと各所の断面形状が別物だ。ピナレロ・ラボはエアロダイナミクスに優れた断面形状を幾通りも変更して最適解を導き出した。ダウンチューブはフロントボトルを考慮して空力特性を向上させている。

シートステーは新しい断面とドロップシートステーを採用した。特にディスクブレーキバージョンでは前方投影面積を減らすために、シートステーを下げる設計が取り入れられた。フォークはリムやディスクキャリパーの位置を考慮し、フォークの距離関係を最適化するこだわりようだ。

下の図は、リムとフォークの距離とエアロプロファイルを考慮し比較したDOGMA FのCdAデータだ。

Cd for a 25% aerofoil with ground effect.

Cd for a 25% aerofoil with ground effect.

ミリ単位でフォークとリムとの位置関係を最適していった結果、ディスクとリムともにDOGMA F12と比較して平均25%の空気抵抗低減を達成した。

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ディスクブレーキまわりの最適化は、750種類の異なる構造が作成された。まず2D解析を行い、次に3D解析で最終的な最適値を導き出した。無数の条件を抽出し設計思想に合う最適解を導き出す手法は、他社のMadone Gen7やTARMAC SL8の開発でも行われている。

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空力開発においては、現実世界で発生するであろう複数のヨー角を考慮し、750回の計算を行った。最後に専用の解析ソフトウェア(HEEDSのような)で最適な配置パターンを導き出している。結果としては、

  • Dogma F12 DISC fork -12%
  • Dogma F12 RIM fork -8%
Image credit: Pinarello

Image credit: Pinarello

前作の同一ブレーキバージョンと比較すると、およそ1割もの空力改善を達成している。

 Image credit: Pinarello

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このように、様々なエアロダイナミクスを追求していった結果、シートチューブ幅はわずか20mm程のサイズに、シートポストは15mm程になった。しかし、ピナレロ・ラボはやみくもに根拠なく、フレームを細くしていったわけではない。

Image credit: Pinarello

Image credit: Pinarello

ピナレロ・ラボはDogma FのFEMモデルを用いて解析を行った。FEM(有限要素法)とは、微分方程式を近似的に解くための数値解析の方法だ。連続した問題解析対象を、多くの微小な要素で構成される解析要素でモデル化し、複雑な境界条件や解析対象の適合性を調査する。

3D option chosen and tested. Image credit: Pinarello

Image credit: Pinarello

FEMでシートチューブ、シートステイ、トップチューブ、ダウンチューブといった全てのデータを収集していった結果、シートチューブ幅を20mmにすることが最適なソリューションになることをピナレロ・ラボはつきとめた。

この結論が面白いのは、「BB剛性を2.1%低下させる」ことによって、シートポストのエアロ化と重量削減を優先したことにある。

エアロ化と高剛性化はトレードオフの関係にある。剛性を高めようとしてフレームをボリュームアップするとエアロ性能が低下する。かといって、細すぎれば剛性は確保できなくなる。何かを突き詰めていくと、別のなにかの性能が低下する。

しかし、ピナレロ・ラボは別のアプローチで2.1%の損失分を克服した。

Image credit: Pinarello

Image credit: Pinarello

2.1%の損失分は、シートステーを(リア側スルーアクスルを中心にして)時計回りに15mm回転させる(位置が下がる)設計の工夫を施すことで、ボトムブラケットの剛性を確保し、シートチューブ幅の縮小による剛性の損失をおぎなっている。

image: pinarello

シートステーの構造を変えることによって、剛性を確保したのだ。ピナレロのバイクの設計が美しいのはこのシートステーの取り付け位置だ。ロード用、MTB用、TT用、トラック用で用途に適したアシンメトリック(非対称)なシートステー設計が行われている。

image: pinarello

2023年UCI世界選手権を制した「DOGMA XC HARDTAIL」もその設計思想を強く受け継いでおり、左右異設計かつ異なる位置に配置にしたシートステーが力を受けとめている。

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軽量化 + 高剛性 = 芸術

photo: Pinarello

DOGMA Fの大きな改良点は、フレームセットの総重量を削減しながらも空力性能と剛性が向上したことにある。

まず、フレームセット自体の総重量が大幅に減少した。フレーム重量は前作のF12とほとんど変わらないが、その代わり、フォーク、ハンドル、シートポストの重量を大幅に削減した。「総重量」と明記した理由はここにある。

F12に比べるてフレーム重量が9%軽くなった。しかし、フレームの剛性や空力特性には一切の影響を与えていない。フォーク重量も16%軽くなった。1割以上の重量減を達成しながらも、同社の厳しい安全基準をクリアした。

photo: pinarello

シートポストも改良された。デザインや構造を変更しながらも、エアロダイナミクスが突き詰められていった。それに加え、シートクランプにも大きな改良が加えられた。積層造形(SLM)チタンを採用し、重量削減を達成している。

おなじみのTalon Ultraは13%の軽量化を達成した。最新世代のカーボンファイバーを使用した新しいカーボンレイアップ構造を用いることで、同一の安全品質、同一のデザイン、同一の剛性を達成した。ゆいつの変化といえば、重量が軽くなった。

DOGMA Fは作りこみの部分で大幅な軽量化を達成した。それでいて、芸術的なフォーク形状やシートステー形状を残しつつ、剛性も確保することに成功している。

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ジオメトリとイタリアの伝統

TシャツのサイズのようにS、M、Lなんてジオメトリを設計することはありえない。紳士服の仕立て職人が、他人で測定した服を顧客に使わせることと一緒だ。バイクも同じだ。わたしたち”職人”にとって、イタリアの伝統を侮辱することに他ならない。

ファウスト・ピナレロ

イタリア人らしく、情熱的で愛情深い発言だ。

Pinarelloのバイクは、ジオメトリですら美しい数値が並ぶ芸術作品だ。イタリアの伝統を受け継ぎ、同社は非常に細かいサイズ展開をしている。紳士服のオーダーのように、バイクのジオメトリもライダーひとりひとりにマッチし、オーダースーツに仕上げる必要がある。

”フル”とはいかないまでも、Pinarelloはそう考えている。

小柄な女性から、大柄な欧米ライダーまで幅広いサイズの選択肢がある。Pinarelloのバイクが日本の女性ライダーに人気がある理由は納得できる。

サイズ毎に独自のチューニングを施しており、小さなサイズは材料を減らして軽量化を実現している。大きなサイズであれば、より大きな負荷やパワーに応えるために、カーボンのレイアップを調整している。

DOGMA Fのリムブレーキとディスクブレーキは、ピナレロで一般的に提供されているサイズチャートとジオメトリーを共有している。これはピナレロ独自のハンドリングとレスポンスを達成するために不可欠な設計だ。

そして、ヘッドセットのトップキャップが一体となっているため、リーチとスタックは9mmのヘッドセットキャップの上に見積もられ計算が行われている。

GEOMETRY / Image credit: Pinarello

GEOMETRY / Image credit: Pinarello

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TALON ULTRA ハンドル

image: pinarello

TALON ULTRAの新バージョンでは13%の軽量化を実現した。ハンドルはDOGMA FとF12と互換性がある。共通している主な使用は以下の通りだ。

  • DROP: 125mm
  • REACH: 80mm
  • OUTWARD BENDING: 4°
  • 重量:350g
  • ルーティング:TiCR

ステム長とハンドル幅(外-外)の一覧は以下の通りだ。幅は外ー外であるためブラケットはもう少し狭くなる。また、ブラケット部分はさらに内側に入っているためENVE SESハンドルのように空力が改善されるメリットがある。

  • 90/420mm
  • 90/440mm
  • 100/420mm
  • 100/440mm
  • 100/460mm
  • 110/420mm
  • 110/440mm
  • 110/460mm
  • 120/420mm
  • 120/440mm
  • 120/460mm
  • 130/420mm
  • 130/440mm
  • 130/460mm
  • 140/440mm
  • 140/460mm
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インプレッション、できない。

  • フレーム:DOGMA F
  • コンポーネント:SHIMANO DURA-ACE R9200
  • ホイール:Princeton Carbon Works WAKE 6560
  • タイヤ:MICHELIN POWER CUP CL 25c x 28c
  • チューブ:SOYO LATEX
  • 空気圧:5.6bar

購入してから結構な時間が経過したが、どうしてもDOGMA Fの記事を書きたくなかった。DOGMAはインプレッション泣かせだ。伝統と格式あるDOGMAに対して”評価を下す”なんてことは、不相応にずうずうしい。できればやりたくなかった。

もうひとつ、不安を引き起こす問題があった。製品の希少性や価格からレース(クラッシュの危険性がある)で使用することは考えられず、本当に楽しく乗るつもりで購入した。だから、メインのレースバイクでほとんどの練習を行っていたし、なんなら1ヶ月乗らないこともざらにあった。

本来、レースに出るために体脂肪を10%以下、パワーウェイトレシオが5倍を超え、身体が仕上がっている時に乗り込んでレビューするのが好ましいが、DOGMA Fに対してはなかなかできなかった。ただ、ふとレースが終わって自由に走りたいなと思った時にDOGMA Fにまたがった。

誤解を恐れずに率直な印象を言うと、ゼロスタートから低速域で走らせた場合は本当につまらないバイクだ。ひじょうに申し訳ございません。

踏み出しがもっさりしていて、反応が悪く感じる。「これがイタリアのバイクの特徴だ!」と言われたら、「そうですか」と答えるしかない。本当に低速域は語彙力を失ってしまうほどヤバイ。面白みがまったくないバイクだ。

CANYON AEROAD CFRのように、「全てのパワーを推進力に!オオォー!」という号令を合図に、初動から輪をかけるように、たたみ掛け、イノシシのように突き進んでいくバイクとは正反対だ(CF SLXはまた違うが)。

なぜ、DOGMA Fをこんな味付けにしたんだろうと悩みながら、峠を2つ3つ越え、ああでもない、こうでもないと、バイクを走らせるために、ひたすら入力方法を変えていった。変わらないのは、低速の巡航域の場合は何をやっても「走らない」と感じる残念な事実だ。

ねむたいバイク。

しかし、パワーかけながら、程よい負荷、ピークに向かってかけていくとき、バイクと息がぴったり合っていく面白い錯覚におちいる。そして、ピークを過ぎ流しながら走っていると、また走らないバイクに逆戻りする。あれ、さっきの感覚はなんだったのか。

DOGMA Fというバイクを表現するとき、この走りの極端な「裏表」にヒントが隠されていた。

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宗教上の教義

image: pinarello

DOGMAのフレームは、ドライブトレイン側に「PINARELLO」の文字が描かれ、ノンドライブ側には「DOGMA」と描かれている。

左右で異なるデザインは珍しい。この「DOGMA」という言葉にはいくつか意味がある。一般的には「宗教上の教義」という意味で使われることが多い。

宗教の教義とは、宗教が真理だとして教える考え方のことだ。その宗教において「正しい」とされている教えを示している。宗教で「真理である」と宣言されたものが「DOGMA」であり、教徒をある方向に向かわせ、ときには戦争を引き起こし、宗教が向かわせたい場所へと導くための強い動機づけになる。

宗教の単なる「教え」というよりも「絶対遵守」や「絶対的な考え」という強い意味のほうが意味としては合う。一方でネガティブな意味としては、「独断な考え」という意味も持ち合わせているが、意味としては前者のほうが強く用いられる。

この「宗教上の教義」の「宗教」を、「Pinarello」と置き換えてみたらどうだろう。

Pinarelloの教義、すなわち教祖ファウスト・ピナレロ氏が率いるPinarello教を信仰するために、教徒(サイクリスト)が「真理である」と信じねばならないバイクがDOGMAだ。

話がおかしな方向へ向かいそうなので、ここでDOGMAのインプレッションにつなげるべく、話を少しづつ戻していこう。

photo: pinarello

DOGMAは低速域で走らせると、本当に超が付くほどつまらないバイクだ。しかし、そう感じる理由は私がPinarello教のDOGMA(真理)にそぐわない走らせ方をしているからだ。DOGMAはライダーを良い意味で突き放すバイクなのだ。

独りよがり(DOGMA)で、信じる者しか、DOGMAを走らせることができない。

だから、わたしはDOGMAに合っていないのか?

そうだ。DOGMAは世界最高峰のプロライダーのために開発された。私なんぞが、へらへらと低速域で走らせることなど一切想定していない。勝ちまくっていた頃のフルームが、ウィギンスが、リッチー・ポートが、そして現代ではピッドコックが、世界最高峰のライダーのためにDOGMAがある。

「低速域だとつまんない」

そんなことは当たり前の話だ。その領域で、その出力で、なにかDOGMAにやらせたいこと、求めることがあるのか。そんなものはない。Pinarello教のDOGMAにはそんなヤワなことなど初めから求めてはいけないのだ。

申し訳ございません。

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DOGMAとは何か

image: pinarello

DOGMAを走らせながら、考えていた。というよりも悩まされていた。私には向いていませんね、もうだめです。高嶺の花です。豚に真珠です。宝の持ち腐れです。と。

行き着いた先は、「DOGMA Fの性能を本当に引き出せるライダーは、世の中にどれくらい存在しているのか」という疑問だ。

これまで乗ってきて”良い”と感じたのは、いわゆるオートクルーズコントロールや、衝突防止安全装置が付いたオートマ車のようなバイクだ。踏んだら進むし、ブレーキを踏めば止まる。プロには到底およばないような、小さな出力でも進んでくれる電動アシストのようなバイクだ。

私がVENGEやAEROADが好きな理由は、適当に走らせても速いからだ。自動では進まないにせよ。自分の意志とは関係なしに、単純に速い。自分が速いと勘違いさせてくれるほどに速いバイクだ。そういうバイクだからこそ、プロじゃないアマチュアにはウケがよかった。

バイクがライダーに合わせ、ライダーの欲望を叶えてくれる無難なバイクは、必然的に評価が高くなる理由がよくわかる。そりゃ、自分の支配下に置いて、言うことをはいはいとよく聞く部下のように、思い通りに走らせることができれば誰だって楽しい。

photo: pinarello

DOGMAはどうだろう。このバイクは、DOGMAというPinarello教の教義を具現化したバイクだ。従う必要がある。なにも入力しないなら、入力しないなりの走りをする。下りは非常にいい。ライダーはただ乗って、着いていくだけだからだ。

現実的な話をすると、Pinarelloのバイクはジオメトリや特殊なフォークが生み出す下りの心地よさ、乗っていて不安や恐怖を全く感じない安心感がある。下りでスピードを上げて走っている時は軽快だ。25Cのタイヤを使っていながら、30Cのタイヤを使っているような感覚におちいる。

DOGMAが生かされるのは、平坦だろうと、山岳だろうと、下りだろうと、シチュエーションを問わない。平坦でAEROADに劣る感じもしない。「1つで全て」を何世代にも渡って煮詰めてきたバイクは伊達じゃない。感覚によって容易に知覚され、心によって理解される当然の走りだ。

登りの軽快さと走りだけはAETHOSに劣るが。

スペシャライズド Aethos インプレッション。わかるひとだけに、わかればいい。
Aethosはシンプルだ。シンプルすぎるバイクは、本質を捉えることが逆に難しい。それゆえ、スペシャライズドがこのバイクで何を成し遂げたかったのか、そしてAethosというバイクが一体何であるのかを理解することに苦しんだ。今回のインプレッションは、シンプルすぎるバイク、Aethosについて話そうと思う。 Aethosの発売から結構な時間が経過したが、1度乗ってみたかったバイクだった。というのも、エア...

それでも、どれだけ走らせても、DOGMAの本質的な教義については見えてこない。

レースに投入するかと言われれば、「レースには使わない」とはっきりと答える。私の使い方では、レースには合わない。具体的には速く走らせるイメージがわかない。もっと、気持ちよく、ラクにスピードが出せるバイクを他に知っているがゆえ、DOGMAの現在地がよくわからない。

自分が信仰する宗教はない。CANYON教にのめりこむつもりもないし、SPECIALIZED教に入信するつもりもない。DOGMAを操りたいからPinarello教に入信したいわけでもない。できれば、こういうバイクはもう少しあとで乗れればいい、とおもっている。

DOGMAというバイクを走らせにくかったのは、バイクが悪いわけではない。バイクをあやつる教徒が、DOGMAを走らせるだけのレベルに到達していないからだ。そう考えている。DOGMAはトップレベルの選手が乗るべきバイクだ。

見た目だけ、ブランドだけ、所有する喜びだけ、そういうサイクリストにはおすすめしない。

宝の持ち腐れになるから。

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まとめ:THE ART OF BALANCE

image: pinarello

空力でもなく、重量でもなく、DOGMAでなければならない理由を見いだせればDOGMA Fは買いだ。それがDOGMAの結論だ。PinarelloのDOGMAを買おうとして、高すぎるだの、ボッタクリだのいう輩は、どんな物事に対しても文句を言うのだろう。

DOGMA Fは世界最高峰のライダーと、世界最高峰の開発陣のもと生み出された、世界最高峰のスーパーバイクだ。お値段もぶっ飛んでいなければならない。ハンドル込みのフレームセット価格は100万円を超える。

高いと思うような価格が与えられるべきバイク、それがDOGMAだ。しかし、価格と性能は必ずしも比例するわけではない、付け加えておく。

単純に空力、重量だけみれば他の北米メーカーには及ばない。性能とコストパフォーマンスを追い求め、100万円あればCANYONのAEROAD CFRの完成車にもう少しで手が届く。だから、Dogma Fは価格を考えて誰にでもおすすめできるバイクとは言い難い。

薄々感づいているかもしれないが、DOGMAはそういうバイクではないのだ。前作F12から大幅な軽量化とエアロダイナミクスの改善が施されており、Pinarello教の信者にとってみれば100万円払っても安いと思っている。そういうバイクに仕上がっている。

TOUR紙のテストによるとS-WORKS VENGEとDOGMA Fは同一の空力性能だった。UCIの新レギュレーションをもってしても、VENGEを超えられなかった。しかし、Pinarelloは空力だけをDOGMA Fで追求したかったわけじゃない。

PinarelloにとってDOGMAは「THE ART OF BALANCE」であり、DOGMA史上最速という要素は、その中のひとつでしかないのだ。ファウスト・ピナレロ氏にとってみれば、美しさが破綻した世界最速など、イタリアの伝統を侮辱すると思っているのかもしれない。

photo: pinarello

DOGMA Fのヘッドチューブはコブダイと揶揄されたTARMAC SL8のノーズコーンのように飛び出ている。しかし、どうだろう。DOGMA Fが登場したとき、DOGMA Fのヘッドチューブをだれが揶揄しただろうか。

ヘッドチューブだけを切り出すと異型でデコッパチに見えるかもしれない。ONDAフォークだけではヘビに見えるかもしれない。

しかし、元サヤするようにフォークがヘッドチューブに組み合わさった結果、フォークからヘッドチューブにかけて流れるような艶かしい曲線美が描かれる。空力性能と芸術が融合し、芸術と性能が調和した造形、まさに、

アートオブバランスだ。

photo: pinarello

「軽量」「高剛性」「エアロ」そして、「芸術」この4つの要素をバランスよく備えたバイクは世界中どこを探してもPinarello DOGMA以外、見あたらない。ただ、何度も言うようにお値段が悩ましく、使うライダーを選ぶ、というよりも購入者を選ぶバイクと表現したほうが適切だ。

DOGMAは踏み絵だ。Pinarello教の信者かどうかはDOGMA(宗教上の教義)に乗れるか乗れないかだけでわかる。だからこそ、その性能と芸術性、価格に関してDOGMAの右に出る者などいない。

DOGMA Fは世界最高峰のレースバイクである一方で、人それぞれ理解が異なる芸術作品、孤高の存在なのだ。

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インプレ後記

THE TOKONOMA BIKE

ひととおりDOGMAについて記事を書いたあとに、インプレらしいインプレを書き加えようと思う。

というのも、

そうだ。DOGMAは世界最高峰のプロライダーのために開発されたのだ。私なんぞが、だらだらと低速域で走らせることなど一切想定していない。勝ちまくっていた頃のフルームが、ウィギンスが、リッチー・ポートが、そして現代ではピッドコックが、世界最高峰のライダーのためにDOGMAがある。

「低速域だとつまんない」

そんなことは当たり前の話だ。その領域で、その出力で、なにかDOGMAにやらせたいこと、求めることがあるのか。そんなものはない。Pinarello教のDOGMAにはそんなヤワなことなど初めから求めてはいけないのだ。

この3つのパラグラフに、DOGMA Fの評価が詰まっている。低速域で流すだけではDOGMA Fの良さがわかるはずもない。できるだけ大きな入力をDOGMA Fに与え、能動的にバイクを走らせようとすると、急に歯車が噛み合うように走り出す。

低速域では鈍いバイク、一方で高速域、スプリント、アタックが繰り返されるようなシチュエーションでは反応が良いバイクに様変わりする。まさに二枚舌、左右で異なるダウンチューブのロゴがDOGMAの性能、特徴を象徴している。

例えるならば強めのゴムだ。0時から3時の踏み込み時は、ゴムを両端から引っ張っていくとだんだんと負荷が上がっていき、ある一定以上引っ張れなくなる反応に似ている。それ以降は、徐々に戻りながらも進み続ける反応をする。

大きなパワーをかけた後でも、力を余すことなく走りに変換してくれるバイクだ。本気で乗っているときは、疲れてしまうがバイクが走る楽しさのほうが勝る。平坦での走りは、常に手を抜かず能動的に、意識的にパワーを与え続けるような踏み方をするとよく走る。

ただ、これをずっとやり続けるのは、正直しんどい。

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振動が、ろ過される。

photo: pinarello

メカニックが面白いことを言っていた。

DOGMA Fを磨こうと、電動ポリッシャーをフレームに当てた時、振動が収束するスピードが桁外れに早い。振動が収まるというよりも、一瞬で吸い込まれるように収束する。同じような特徴があるのはTIMEフレームで、こちらも振動が収束するスピードが早い。

DOGMAというフィルターを通すことで、振動は取り除かれる。実際に乗ると、振動吸収性が高いとすぐにわかる。

路面から伝わってくる小さな突き上げや、縁石を乗り越えた時の返りは特に薄められている。感覚的には、DOGMA>SL8>EVO4>>AEROADという並びだ。タイヤからホイール、フォークからフレーム、シートポストとサドルを通じてライダーに届くまでに、振動はDOGMAというフィルターでろ過される。

独特のうねうねとした形状が振動を逃がすのか、それともT1100ナノアロイを使った素材の恩恵なのかは判別がつかない。ただ、乗れば他のバイクでは感じられないような、振動のろ過機能が働く。

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大きな鐘を鳴らすには

DOGMA Fは寺に置いてある鐘のようにも感じた。

鐘を鳴らすには、大きな力が必要だ。除夜の鐘にも使われているアレ。ちいさく小突いても、たいした音は鳴らない。思いっきり橦木(しゅもく:鐘をつく棒)を打ち付けなければ鐘は振動せず響くことがない。

強く橦木を打ち付けると大きな音が鳴る。「ゴォ~ン」と鳴っている間、鐘自体の動きはというと大きくはゆれることはなく、わずかに小さく振り子のようにゆらゆらと動くだけだ。

音は振動に変換されている。これは、慣性の法則が作用していて静止している物体は、瞬間的に大きな力を加えても「動き出しにくい」からだ。

DOGMA Fも大きなパワーを与えれば、「これぐらい進むだろう」という期待を上まわり大きく鳴る。硬いフレームではないのだが、わずかに小さな振り子のような揺れながら、大きな力をフレーム側で生かして走り(鳴り)に変換しているかのようだ。

もう一つ、DOGMA Fの特徴は、加速していく際のつなぎやすさがある。

ここでも鐘に置き換えた話をしてみる。重い鐘であっても、からだの重さを手に乗せてグ~っと鐘を押していくとゆっくり鐘は動き出して振れていく。パッと手を離すと、強く打ち付けたときよりも大きく振り子のように揺れはじめる。

鐘の揺れが止まる前に、ブランコに乗った人の背中を押すように何度も力を与えていくと、鐘が揺れる幅はどんどん大きくなっていく。

初めは小さな揺れだったのが、次第に鐘とぶつかってしまえば吹き飛ばされてしまうほどの力で大きく揺れ動く。こうなってしまうと、簡単に鐘は止められなくなる。

増幅していき、手のつけられないような動きをDOGMA Fは走りの中で生み出す。平坦だけではなく、登りでも同様で、踏み込むごとに走りが増幅していくかのような快感にも似た走りをする。

大きな力を与え続ければ、だ。

だからこそ、DOGMA Fはわたしの走らせ方には過分、オーバースペックだと感じたのだ。大型のダウンチューブとBBまわりから想像できるパワーを受け止められる構造、パワーをかければかけるほどDOGMA Fは喜び、歓喜する。

ただし、その逆は―――。

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まとめ2:身も心もDOGMAに捧げたら

image: pinarello

イネオスが用い、世界でも類を見ない最高峰の選手が納得するバイク。簡潔に言ってしまえば、このバイクにアマチュアが乗るのはふさわしくない。

DOGMA Fは、自分が性能を引き出すにはふさわしくないバイク、未分不相応だと理解しておく必要がある。

イタリアを代表する、フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティのように一般人が見栄を張って乗るような乗り物ではないのだ。未分不相応という言葉がふさわしい。釣り合わない。それは自分自身が一番良く理解している。

それでも、一度はフェラーリに乗ってみたい。できれば死ぬまでに乗ってみたい。行く先は、人が集まりそうで、誰かが見てくれそうなコンビニでいい。高級車に乗っているという、自己満足感をみたす乗りものは世の中にそれほど多くはない。だからDOGMAに乗ってみたかった。

DOGMA Fなら、慊焉たる想いとともに、心を満たしてくれるだろう。

ただ、ほんとうに走らせ方、存在価値としていいのか。過剰に満たされて、逆に嫌になる。

頭の中に描く天秤には「性能」と「見栄」が乗り合って、ゆれ動いている。DOGMA Fはどちらにも傾けることができる。しかし、DOGMA Fの能力を引き出せない操り手のもどかしさは、どちらに倒したとしても宙ぶらりんのままだ。

フィジカルの身も、虚栄心に打ち勝つ心も、DOGMA Fにふさわしい人間はそう多くはない。しかし一度入信してしまえば、そこには祝福(Fausto)されたPinarelloが待っている。

photo: pinarello


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