シクロクロスは冬のロードトレーニングになりうるか

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photo: ARIHIRO

シクロクロスは、「冬のロードトレーニングとして最適」と言われているが本当にそうなのだろうか。

この話題は、シクロクロスのシーズンが始まると度々議論になる。実際にわたし自身が、シクロクロスシーズンの終わりとともにロードに移行していくことを何年も繰り返している。そのうえで、冬の間シクロクロスを取り組むことでロード競技に以下のメリットがあるように思う。

  • モチベーション維持になる
  • バイクコントロールが向上する
  • 高強度トレーニングになる

この3つは、「心・技・体」の順にうまく並んでいる。ロード競技を行う上で、これらが 、ロード競技に良い影響を与える可能性がある。一つ一つ見ていこう。

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モチベーションの維持

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ストイックなロード選手も人間だ。冬場のトレーニングになると、どうしてもモチベーションがあがらないときもある。この時期、やる気が起きずに行動できない理由はいくつかある。

  • そもそもレースが無い
  • 目標のレースまで時間があいている
  • 寒い

日本における一般的なロード系競技のシーズンは、3月下旬ごろから始まり11月初旬ころ終わる。11月から3月までオフシーズン期間として考えると、およそ半年近くレースが無い日が続くことになる。

半年という長い期間がゆえ、「何に向かってトレーニングするのか」がモチベーションを維持することをさらに難しくする。それは当然のように思う。

都合の良いことに、シクロクロスは11月から3月初旬頃まで日本各地で開催されている。ロード系の競技が開催されない期間をちょうど埋めるようなスケジュールだ。会場も比較的都市部からも近い。エリアは広く、東北、信州、東海、関西など様々な場所で開催される。

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冬場のモチベーションの維持に一役買っているのは、シクロクロスにエントリーすることで人と速さを競う必要が出てくることだ。練習をするための十分な動機付け、きっかけにもなってくれる。普段とは違う機材や環境もモチベーションが上がる理由になるかもしれない。全く知らない人と走ることは新しい刺激にもなるだろう。

モチベーションやヤル気というものは、湧いて出てくるもではない。何かに取り組み始めることで生じてくる。まずはシクロクロスにエントリーすることが初めの一歩だ。日程、目標が明確に定まることによってモチベーションがわいてくる。そこに向かって練習を重ねることは、結果的に走る原動力になるだろう。

シクロクロスという目的、目標を作ることによってモチベーションはいくらか維持できる可能性がある。

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バイクコントロールが向上する

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残念ながら、ロードバイクに乗っても自転車に乗るスキルは向上しなかった。理由は単純でロードバイクでスキルトレーニングの必要性を全く感じなかったからだ。ロードバイクはバイクコントロールやテクニックが勝敗を大きく分けない。

それでも安全にかつ自由に走るためには、バイクコントロールのスキルは無いよりはあったほうがいいことは確かだ。シクロクロスに取り組めば、数をこなすたびにバイクコントロールが向上する可能性がある。

悪路や曲がりくねったダートを走るシクロクロスは、トラクションコントロールやバイクコントロールを常にし続ける必要がある。路面状況、空気圧、タイヤ幅、トレッドパターン、重心、ポジション、ペダリングのトルク、ライダーの体重など全ての要素を勘案してトラクションを調整する必要がある。

ロードバイクを乗っているだけでは体感できないことだ。

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路面が滑りやすいのは日常茶飯事だし、スリッピーな泥の中でも他の選手と接触しても走り続けられるスキルは、標準装備しておかなければならない。

落車は忌み嫌われるアクシデントだが、シクロクロスは土や芝生の上を走るため落車してもそれほど大ケガにはならない。むしろ、シクロクロスを見に来ている観客は喜ぶ。ロードとは文化が違うのだ。世界最強のマチューやワウトも普通に転んでいる。レベルは違うが私自身もシーズン中に何回転んでいるかわからない。

どこまで攻めたらタイヤが滑りだすのか、タイヤの限界を知ることもシクロクロスでは必要になってくる。このタイヤの限界を探るための攻めた乗り方は、ロードバイクでは不可能だ。

そして、シクロクロスはクリテリウムの立ち上がりやちょっとしたコーナーの脱出速度が向上する可能性がある。常に立ち上がりを意識するので、その前段階からラインを見定めるクセが自然と身につく。

ロード競技よりもコーナーを処理する回数が圧倒的に多くなるため、自然とコーナーリングが上手くなる可能性がある。雨のロードレースでもシクロクロスの経験があればいくらか気が楽になるだろう。ロードレースよりも過酷なコンディションと悪路を走りなれることによって、走りの幅は確実に広がっていく可能性がある。

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高強度トレーニングになる

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これは事実だ。

E1になると60分ずっとインターバルトレーニングをし続けるような負荷のかかり方をする。60分の平均心拍は最大心拍に張り付く。私の最大心拍は196bpmなのだが、レース中は180~194bpm程の間で推移する。ロードレースやクリテリウムにおいて、60分間ものあいだ心拍がここまで上がり続けることはない。

心拍の傾向はヒルクライムに近い。ヒルクライマーこそシクロクロスに取り組んでほしいと思う。シクロクロス競技だからこそ成しえる特有の高負荷といえるだろう。

これまで冬のトレーニングといえば、LSDと呼ばれる「ゆっくり長く走る」というトレーニングメニューが定番だった。最近ではトレーニングの研究が進み、冬の間でも高負荷トレーニングを行うほうがシーズン序盤で仕上がりが早い傾向にあることが報告されている。

冬の間はどうしても寒くて、高強度のトレーニングを行うことに躊躇してしまう。しかし、シクロクロスを行えば無理やりにでも高負荷を体に叩き込めるようになる。実際にやってみると、寒くても高強度をかける方法が体で理解できるようになる。

冬のうちに高強度のシクロクロスに出場していると、4月頃のロードレースは本当にラクになる。この時期、ロード一本の選手はまだ本調子ではないことが相対的によくわかるほどだ。シクロクロッサーが4月頃にロードレースで調子が良いのは冬の高強度のおかげだろう。

4月から6月頃にヒルクライムのレースに出場する選手もシクロクロスは有効だと思う。高負荷をかけ慣れているため、標高が高く寒い山であっても心拍が高い領域に入りやすく維持もしやすい。可能であればE1クラスタまで上がって60分もがき苦しんでほしい。

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ただし、条件もある

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ここまで良いこと尽くしのようにシクロクロスを絶賛してきた。では、「シクロクロスは冬のロードトレーニングになりうるか」はイエスと言えるだろうか。この問いに対する答えは褒める意見と貶す意見が混在する状況にあるように思う。

というのも、ここまでの耳障りの良い話は、以下の3つの条件を達成しなければ意味をなさないと思うのだ。

  • レースで限界まで追い込めること
  • シーズンを通して継続的に取り組めること
  • 出来ないことを受け入れること

いくらシクロクロスで高負荷・高強度かかるといっても、その負荷を生み出すのはサイクリストであり、あなた自身だ。

「レースで限界まで追い込めること」という目的に対する一つの手段としてシクロクロスがある。冬の高強度が目的ならば、暖房が効いた部屋でZWIFTだっていいのだ。むしろこちらの方が圧倒的に時間効率がいい。

ただ単にゆるゆるとコースを走るだけでもシクロクロスは楽しいかもしれないが、ロードレースに生かせる「何か」を得ることは難しいだろう。結局はシクロクロスであれロードであれキツイ負荷をかける必要がある。

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「シーズンを通して継続的に取り組めること」は、何事も1回や2回程度では何もわからず、変わらないからだ。様々な困難と向き合って克服し、継続していく先でやっと得られるものがある。はじめは上手くいかないかもしれないが、継続して続けなければ得るものなど何もない。

「出来ないことを受け入れる」はフィジカル自慢のロード乗りが受け入れられず、陥りやすいことだ。「自分は自転車に乗れているはず」という自意識過剰、勘違い君からまず抜け出して自分が下手である事を自覚し、理解していく必要がある。自分を見つめ直し、客観的に見ることができなければスキルアップは難しい。

「脚はあるはずなのに」は逆に言えば、脚を生かすだけのテクニックが無いのだ。クルマで例えるならエンジンだけ高性能、しかしタイヤを回転させる内部の駆動効率が悪く、コーナーを素早く走り抜けるドライバーのテクニックが無いような状況だ。

ここで最初の問いに戻る。シクロクロスは、「冬のロードトレーニングとして最適」と言われているが本当にそうなのだろうか。

結局は、シクロクロスをただやるだけでは、何かが勝手に降ってくるわけがない。自らがシクロクロスに能動的に取り組み、働きかけ続けなければ何も得られない。冬のロードトレーニングとしてシクロクロスが最適になるかどうかは、取り組む一人一人にゆだねられている。

シクロクロスは一つの手段でしかないのだ。最適かどうかを決めるのは、あなた次第だ。

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