SRAMの新型EAGLEトランスミッションは、既存のドライブトレインに革命を起こすべく誕生した。完全に統合されたワイヤレスAXSドライブトレインは、ディレイラーハンガーを排除しダイレクトマウントをリアディレーラーに統合した。
フレームにリアディレイラーを直接接続する構造で、大きなパワーをかけても常に完璧な変速を実現する。
SRAMのワイヤレス電子制御Eagle AXSドライブトレインが発売されてから4年が経った。「ドライブトレイン」という言葉をあえて使うには理由がある。SRAMは次世代マウンテンバイク用グループセットをあえて「EAGLEトランスミッション」と呼び替えた。
SRAM Eagleトランスミッションの要点
EAGLEトランスミッションの要点は9つある。
- 統合設計と “カセットマッピング”
- ダイレクトマウントリアディレイラー(UDHフレームに対応)
- オーバーロードクラッチ
- ディレイラーパーツの交換が可能
- マジックホイール ロアディレイラープーリー
- 新型AXSポッドコントローラー
- スパイダー型、スピンドル型パワーメーターの新オプション
- 10-52tカセットの設計変更
- フラトップチェーン
1つ1つがこれまでの「ドライブトレイン」とは異なっている。その詳細を見ていく。
SRAM EAGLEトランスミッションの詳細
既にEAGLEトランスミッションはニノ・シュルターが使い世界選手権で大きな勝利を収めている。まず、疑問なのが新型Eagleグループセットを「ドライブトレイン」ではなく、わざわざ「トランスミッション」と呼んでいるのかだ。なぜこのような紛らわしい名称にしたのだろうか。
その理由は統合設計にある。
「統合」したのは以下の3つだ。
- フレーム
- ホイール
- アクスル
設計の要はアクスル自体の長さの設計が元になっている。この長さを元に、変速を最適化していくアプローチが行われた。そして、過去のドライブトレインで備わっていたディレイラーハンガーを排除、リアディレイラーはフレームに直接クランプする方式を採用した。
フレーム、ホイール、アクスルが統合されたシステムのため、機材ごとの交差が限りなく小さくなり、リアディレーラーとカセットの位置関係が常に一定になる。よって、変速性能が向上、剛性も高まる結果になった。
ディレーラー、フレーム、アクスルがそれぞれ連携した三位一体のシステムだ。
新型のダイレクトマウントインターフェースの最大の特徴は、カセットがリアディレイラーのマウントに「物理的に直接接触する」ことだ。これにより、異なるバイクであってもリアディレイラーの位置のばらつきがなくなる。
「リミットやBギャップの調整ネジが不要になる」のはこのためだ。
一度セットアップすれば、ディレイラーはカセット上のすべてのコグの正確な位置を把握しているためそのまま機能する。それだけでなく、「カセットシフトマッピング」を採用しており、シームレスなシフトチェンジを実現している。
カセットの歯は、チェーンを目的のギアに保持するために(幅の狭いチェーンリングのように)わずかに幅の狭いプロファイルを持ち、シフトはカセットのシフトランプと同期しているため、最大限のペダル負荷がかかった状態で、Eバイクでも常に鮮明かつ容易にシフトすることができるという。
この精度を実現するために、Eagleトランスミッションのすべての部品は、一つのまとまったユニットとして機能するように設計されている。それらのコンポーネントは、”T-Type “と呼ばれており、ディレイラー、カセット、チェーンリング、チェーンなどまとめて「T-Type」だ。
したがって、残念ながら古いEagleやEagle AXSグループとの互換性がほとんどないことを意味している。パーツをあれこれ組み合わせて使用することができない。T-Typeチェーンリングだけは、古いEagleチェーンと互換性があるため、現行のEagleドライブトレインに使用することができる。
SRAMは「非T-Typeチェーンリング」が「新しいT-Typeチェーン」と互換性があると公言しているのは、「1x AXS Roadチェーンリング」だけで、これはロードバイクやグラベルバイク用のミックスコンポーネントに興味があるサイクリストには朗報といえる。
新しいEAGLEトランスミッションは、SRAMのワイヤレスAXSテクノロジーを引き続き採用している。AXSのバッテリー、充電器、アプリに変更はない。そしてEAGLEトランスミッションは、SRAM AXSロードシフターと互換性がある。
したがって、ミックスしたドライブトレインを作ることができる。また、新型EAGLEトランスミッションは、UDHフレーム専用だ。UDHフレームを所有していないライダーのために、SRAMの現行のEagleメカニカルおよびEagle AXS製品もSRAMのラインアップに残る。
XX SL vs. XX vs. X0
EAGLEトランスミッションは、3つのスペックで提供される。
- XX SL Eagle
- XX Eagle
- X0 Eagle
最上位の「XX SL Eagle」は、最軽量、最高級のグループセットだ。次に高級グレードの「XX Eagle」がある。ミドルグレードとしてやや手頃な価格の「X0 Eagle」がある。
前世代のXX1およびX01 Eagleグループと非常によく似ているが、より軽いXX SLはよりクロスカントリーレース向け、XXはより頑丈なトレイルやエンデューロでの使用を目的としている。
グループ間の最大の違いは(価格以上に)、素材と重量だ。上位のグループは、よりハイエンドな素材を使用しており(例:XX SLディレイラーにはカーボン製プーリーケージ)、軽量化のためにより多くの機械加工が施されている。
XX SLは最も軽く、X0は最も重い。主要部品の重量比較は以下の通りだ。
|
XX SL |
XX |
X0 |
ディレイラー |
440g |
465g |
475g |
カセット |
345g |
380g |
380g |
チェーン |
240g |
247g |
256g |
EAGLEトランスミッション ダイレクトマウント・リアディレイラー
今回の新型EAGLEの最大の変更点は、新しいダイレクトマウント・リアディレイラーといっていい。数年前、SRAMはUDH(ユニバーサル・ディレイラー・ハンガー)を発表した。このディレイラーハンガーのデザインは、どの自転車メーカーも無償で使用できるオープンスタンダードとして公開された。
表向きは、業界全体で無数にある独自のハンガーや車軸ネジ規格の必要性を減らし、消費者をまどわす悩みの種を減らすためだった。しかし、これはSRAMが新しいダイレクトマウント・ディレイラーへの道を開くための、巧妙な一手でもあった。
現在、UDHはかなり広く普及しており、近い将来、より多くのUDHバイクやフレームが発売される予定だという。
Tタイプリアディレイラーは、UDHを搭載したバイクとフレームにのみ対応する。ダイレクトマウントインターフェイスは、ハンガーに代わって、2つの側面からフレームに直接クランプするタイプだ。
従来のハンガーに比べ、ダイレクトマウントインターフェースの剛性は格段に高く、特に高負荷時には、より正確で安定したシフトチェンジを実現する。また、マウントがカセットに直接接触するため、カセットに対するディレイラーの位置が一定に保たれる。
よって、位置決めでわざわざ細かな調整をする必要がない。
負荷がかかった場合に変速が安定しないバイクは、ドライブトレインのシステムのどこかにたわみが生じている可能性が高い。カセットに対して、ディレイラーの位置が変化している可能性がある。
SRAMによれば、その原因の半分以上はハンガー自体にあるという。新しいリアディレイラー一体型ダイレクトマウントは、この問題を解決する。ディレイラーの位置が一定になることで、リミットとBギャップの調整ネジが不要になるというメリットがある。
ディレイラーをセットアップし、カセットとの位置関係を把握すれば、もうリアディレイラーの調整は必要ない。
耐久性、オーバーロードクラッチ、部品交換性
とはいえ、一体型のダイレクトマウントがクラッシュしてディレイラーを破損したらどうするのだろうか。
従来のディレイラーハンガーは、「身代わり地蔵」で犠牲的な部品という大事な役割があった。ディレイラーを何かにぶつけても、ハンガーが曲がることで、ディレイラー本体が大きく傷つくことが無かった。しかし、ダイレクトマウントの場合、この身代わり地蔵が無くなる。
SRAMによれば、ダイレクトマウントのインターフェースは、驚異的な頑丈さがあるという。バイクを横にしてディレイラーを踏んづけても、曲がったり動いたりしないほど、高い耐荷重を備えている。
そして、衝撃に対するさらなる防御策として、オーバーロードクラッチがある。これは2019年にEagle AXSで初めて導入されたクラッチと同様で新しいものではない。他のクラッチと同様にチェーンの脱落を防ぐが、衝撃を感知すると開いてディレイラーが折り返して力を吸収し、元の位置に戻る仕組みだ。
また、ディレイラーをぶつけた場合、取り付け部を後方に回転させて力を吸収することもできる。このような場合は、取り付けボルトをリセットしなくても、手でディレイラーを回転させて元の位置に戻せばよいだけだ。
ディレイラーが破損した場合、Bナックル、アウターリンク、プーリーケージなどの主要部品は簡単に交換できるように設計されている。ディレイラーを交換するのではなく、再度組み立てることができる。プーリーケージはものの数秒で取り外して交換することが可能だ。
トレイルやエンデューロ向けのXXとX0ディレイラーには、さらに保護用のスキッドプレートも付属しており、こちらも交換が可能だ。
マジックホイールロアプーリー
EAGLEトランスミッションのディレイラーの下部プーリーホイールにも、新しい “マジックホイール “が採用されている。プーリーホイールの外側の歯は、メインプーリーホイールとは独立して回転する。
棒や異物がプーリーホイールに刺さって詰まってしまうと、ディレイラーを自転車から引きちぎってしまうことがしばしば起こる(トレイルに入ったときに何度も遭遇している)。マジックプーリーなら、外側の歯が回転し続けるので、破損を防ぐことができる。
EAGLEトランスミッション AXSポッドコントローラー
前世代のAXSコントローラーに搭載されていたシングルパドルは、より小さく、より軽く、より人間工学的に設計された “Pod “に完全に生まれ変わった。2つのボタンがあり、手触りのよいクリック感が得られるようになった。
また、Podは両利き対応で、左右どちらでも使用できるため、Reverb AXSドロッパーやFlight Attendantなど、AXSの他のコンポーネントとの組み合わせで、よりカスタマイズの可能性が広がった。また、ボタンも凹型と凸型に交換可能になっている。
EAGLEトランスミッション クランクセット&チェーンリング
EAGLEトランスミッションクランクセットは、引き続きSRAMのDUBスピンドルを採用している。クランク長は、165mm、170mm、175mmの長さが用意されている。XX SLとXXクランクアームはカーボンファイバー製だ。
XX SLのクランクアームは中空で、最大限の軽量化が図られている。
XXクランクアームはXX SLと同様、強度を高めるためにフォームコアを使用。
X0クランクはアルミニウム製。可能な限り軽量になるように機械加工されてる。
チェーンリングはすべてダイレクトマウントで、SRAMの8ボルト規格を採用している。これは、古い3ボルト規格に代わるもので、SRAMのRoadとXX1 Eagle AXSクランクセットで採用されているため、既存を踏襲、新しいものではない。
8ボルトはQuarq AXSスパイダーベースパワーメーターを動かすために必要で、どのEAGLEトランスミッションクランクセットとも互換性がある。
チェーンリングは新しい外観に変更されているが、X-Syncの2歯プロファイルを引き続き使用している。サイズは30-38T、オフセットは0mmと3mmが用意されている。XXとX0チェーンリングには、交換可能なバッシュガードが内蔵されている。
標準的な8ボルトのダイレクトマウントのほか、XX SLパワーメーターのために特別に設計された新しい「スレッドマウント」チェーンリングもある。また、104 BCD、Bosch、Brose、StepsのE-bike専用チェーンリングもある。
EAGLEトランスミッション パワーメータ
XX SLには、新たにスパイダーベースの統合パワーメーターが用意されている。左右計測型のパワーメーターで、±1.5%の精度と、走行中にパワーメーターを自動的に再較正するマジックゼロなどの機能を備えている。
パワーメーターは、重量を最小限に抑えるため、チェーンリングボルトを使わずに直接スパイダーにねじ込む独自の「スレッドマウント」チェーンリングを採用している。
XXとX0には、DUB-PWRと呼ばれるスピンドルベースのパワーメーターを搭載するオプションがある。これはRival AXS用と同じ技術で、アップデートされたForce AXSグループにも搭載されている。
DUBのスピンドル内にセンサーが隠されており、スパイダーベースのパワーメーターとは異なり、片側で左側のパワーだけを計測する(4iiiiも同じように大多数のライダーにとっては十分)。精度は±3%で、クランクと一緒に購入か、アップグレードキットとして購入することが可能だ。
EAGLEトランスミッション カセット&チェーン
XX SL カセット
前世代のEagleカセットは、ワイドレンジかつ軽量性という素晴らしい組み合わせだった。EAGLEトランスミッションのカセットは、その設計がさらに洗練された。XD Driverフリーハブを踏襲し、10-52Tのレンジを備えている。
赤色で表示された「セットアップコグ」は、AXSアプリでディレイラーをセットアップするための目印で、このコグにシフトするだけでセットアップできる。
XXカセット(左)とX0カセット
カセットの構造も見直されている。前世代のEagleカセットは、硬化鋼から加工された11個のコグに一体型のX-Domeクラスターを装着していた。このクラスターは、1枚のアルミ製ビッグコグに取り付けられていた。
SRAMは、最大のコグをピン留め式にすることで、この設計をさらに軽量化できることに気づいた。EAGLEトランスミッションカセットでは、3つの最も大きなコグは、2つのプレス鋼製コグをアルミニウム製ビッグコグに固定した構造になっている。
残りの小さなコグは、切削加工による一体型のXドームデザインを採用している。XX SLでは、3つの大きなコグがすべてアルミニウムになり、さらに軽量化されている。345gという重量は、このサイズのカセットとしては驚異的な軽さだ。
イーグル・トランスミッションもFlattopチェーンに変更された。Flattopデザインは強度と耐久性を高めている。ロードのAXSグループに使用されているFlattopチェーンに似ているが互換性はない。
しかし、Eagle FlattopチェーンはX-Syncロードチェーンリングと互換性があるので、ミックスドライブテレインでロードクランクを動かすことは可能になっている。