先般の「身を持って感じた固定ローラーの弊害」は多くのリプライを頂いた。プロではない我々ホビーサイクリストにとって練習のお供と言えばやはりローラーである。熱心なサイクリストであれば必ず持っていると言って良いローラーだが、実に様々な思いでローラーを使っているようだ。
今回はリプライを頂いた方から得た情報を元に、どのメーカーのローラーが使われているのかを知ることが出来た。また私が思っていた「固定ローラーの弊害」を別視点で見られた事は大きな収穫だった。そして固定や、3本ローラーを実際に使った体験談を元に、それぞれの特性を見ていこう。
ローラーでは補えないこと
まずはA・K氏の考えから見ていく。A・K氏は固定と三本ローラーと実走の特性をこう語っている。
固定であっても3本であっても結局は実走して身体を対応させないといけないのではないかと思っております。主に平日は固定で、休日は実走して固定で足りない事をしっかり意識する、出力だけには囚われずに。
固定であろうと、三本ローラーであろうと結局は「補助的」なトレーニング道具にしかすぎない。それらを土台として一番重要な外を走る「実走」に適応させる事こそ重要だと言う。これはぐうの音も出ない程の正論だ。我々はローラーの上で戦うのではない。
起伏に飛んだ山や下り、コーナが複雑に設定されたコースを走る必要がある。重心移動だってするし、ブレーキングも大切だ。踏むときに体幹も使う必要も有るだろう。結局はローラー(三本や固定であれ)とは補助的なトレーニング要素にしかすぎない。
ただ、ローラーとは信号や天候に左右されない最高に時間対効率のよい(でも退屈な)トレーニング機材だ。我々ホビーサイクリストやサンデーサイクリストに好まれるのも理解できる。しかし、実走ありきで考えなくてはならず、ローラー自体が主体になってはいけないのである。
パワーマックスの場合
次にN・K氏の体験をからみえることが有った。固定ローラーというよりもジムにおいてあるインターバルができるおなじみパワーマックスで練習をしていた方だ。
パワーマックスが出た頃、それを使って練習した所、自転車に乗る事が下手になりました。 N・K氏
パワーマックスは固定というよりも据え置き型の業務用エルゴメーターである。競輪選手やスプリンターが好んで使う。ちなみに関西の尼崎市の体育館にも黄色いパワーマックスが置いてあり、当チームの実業団メンバー井上さん(愛媛の)が使っていたはずだ。
やはりこの固定式の場合も弊害が有るようだ。上半身をうまく使いながらペダリングしても、思うように乗られないという。なぜか考えてみたが例えば(極端な例だが)アルベルト・コンタドールのユラユラと揺れるようなダンシングのように全身で負荷を分散させるような場合、固定ローラのようなものではこのリズムは養われない。
やはり単純に「パワーを出す」という事に特化しているのが「固定ローラー」と言えそうだ。
トライアスリートと固定ローラー
トライアスリートの場合、長時間同じ姿勢で一定出力でいかにエコノミーに走るかが問われる。バイクは繋ぎの要素であるから、この1種目だけでオールアウトしてはいけない。しかし長時間乗るためには様々な要素が問われる。実走はせず固定ローラーだけでトレーニングしているH・M氏の場合を見てみよう。
やはり固定の弊害をいくらか気にしているような文面が見て取れた。その中で固定ローラーの弊害に対し次のように対応しているという。
1.毎回ポジションを微妙に変える(=筋肉に対して調整・対応を要求する)
2.街乗り普通ペダル自転車でハンドル荷重せずに体幹を不安定な状態に置く(=「腹圧」で走る) H・M氏
私は「固定ローラーの弊害」と書いたが「H・M氏の視点」から固定ローラーにもメリットが有るのではないかと気づいた。固定ローラーは「安定」したトレーニングマシンである。そのなかで「筋肉」を注意深く観察するには持ってこいの装置ではないだろうか。
実走中に感じられない細かな点を固定ローラーならば安心して確認することが出来る。後輪が「固定」されていることはデメリットかもしれないが「安定」を作り出すことにより身体と対話することが容易になる。
BGフィットに代表されるポジションの最適化の際も固定ローラーを用い(当たり前だが)細かなミリ単位での調整を施していく。固定ローラーはデメリットだけではなく、メリットとして非常に細かな身体の情報をキャッチできる道具といえるだろう。
やはり違う目線から物事を語られると、違った気付きがあるので興味深い。
巡り巡って固定三本に辿り着いた人
私も「負荷付き三本ローラー」に落ちつくであろうという結論に辿り着いた。同じように「固定ローラー」→「負荷なし三本ローラー」→「負荷付き三本ローラー」と「ローラー沼」を渡り歩いてきた方が今回多かった。コメントを頂いたS・M氏の場合を見ていく。
どうやらさまざまなローラーに乗り、現在は負荷付き三本ローラーを愛用しているという。実際に使ってみた感想は次のように述べている。
ローラー台は固定式、負荷なし三本、エリートの負荷付き三本と買い替えて来て、負荷付きに落ち着きました。実走に感覚が近く、負荷の段階を0→1→2と変えることで筋トレ、高速走行、ダンシング、ビルドアップ走行などいろいろなメニューが一台でこなせるのがいいです。 S・M氏
サイクリストは色々な機材を使ってみてメリット・デメリットを感じる。ようするに「相対評価」であるわけだが、それらのなかで淘汰されていったローラーが三本ローラーということになったようだ。この負荷付き三本ローラーならば、負荷を3段階に変えられると有る。
恐らくモデル名は書いていないが「ELITE ARION MAG」もしくはAL13であろう。私も持っていたが300W以上かけられる三本ローラーである。やはり固定ローラーは固定され「違和感の安定感」を持つ機材だ。そこから「実走感覚」を求めて三本ローラーにたどり着いた、ただ物足りない「負荷」の存在がなかったため「負荷付き三本ローラー」に辿り着いた。
実に自然な流れだ。恐らく多くのサイクリストが歩む「ローラー沼」を見事にトレースしている。私もその一人なのだが。
やむなく固定ローラーを使う場合
私の実家は雪深い新潟である。信じられないかもしれないが、冬の間は越後山脈に雲が阻まれ、冬の間は常に曇りだ。そして雨がふるか雪が降るかという天候が続く。村山さんの書籍「村山利男さんの「ヒルクライムトレーニングの極意」を読んだ感想」にも書いてあるが冬の間の実走は不可能だ。大阪の天気や東京の天気は雪国出身者からしたら「天国」といえる。
ただ当たり前の環境としてそこに居続けたならば、有難い環境とは思わないだろう。その辺は身を持って体感しないと実感がわかない部分だ。そんな中、雪国に引っ越すというO・Y氏の場合を見てみたい。
雪国に引越すため、冬対策に固定ローラーを購入しました。体力維持と割り切ってトレーニングです。その代わり、スキーで体重移動やバランスを鍛えたいと思ってます。 O・Y氏
やはり固定ローラーに乗らざる負えない環境も存在している。雪が降れば乗れない。その中で「固定ローラーの弊害」などと言ってられないのだ。しかし、その代替手段でスキーでバランスを鍛えるとある。一理あると思うがやるならクロスカントリーが良い。
昔スキーの選手と指導員をしていた身からすると、アルペンや基礎スキーができてもクロスカントリーができないという人も多い。なぜならクロスカントリースキーはエッジがないからだ。エッジがない板のコントロールは相当なバランスを要する。
また、心肺機能もアルペンや基礎とはかけ離れた自転車に近い辛さが有る。スキーと一口で言ってもバランスが最高に養われているのはクロスカントリーやジャンプの選手だろう。スキーのエッジはどこか固定ローラーに似ている。是非一度スキーの有資格者の方でも、クロカン用の板で「初心者コース」を滑って見て欲しい。
多分1級程度を持っていても間違いなく転ぶ。話はそれたがもしクロスカントリーが近場で出来るならば冬に自転車には乗らないだろう。それほどクロスカントリースキーは雪上で一番難しく、辛い競技である。おそらく「ワックス」「重量」「エアロダイナミクス」と自転車に近い。
kinetic rock & roll
固定ローラーといえど、台座が揺れる固定ローラーが存在している。それはkinetic rock & rollだ。通常固定ローラーはガッチリと土台が固定される。しかしkinetic rock & rollは土台が稼働することによりフレームへの負担がかかりにくい。実際に使っている北海道在住のS・T氏はこう語っている。
冬場は全く実走が出来ないので、出力向上のためにひたすら固定ローラーを回しています。使っているローラーはkinetic rock & rollというものです。台座が揺れる固定ローラーで、フレームへの負荷をあまり気にせず全力スプリントまで行える点と普通に回していても自然に揺れて雰囲気が出る点は気に入っています。
やはり冬は雪との戦いだ。たしかに固定ローラーはフレームへのダメージが大きい。本当にそうなのかと私も疑っていた。しかしレースでチーム員が目の前で固定ローラーを漕いでいる姿を見た時考えが変わった。リアの三角が窮屈そうにねじれている。アレを見てからというもの、小さな蓄積が重なり壊れるかもしれないと思い始めた。
「固定ローラーの弊害」はフレームへのダメージもある。ヤフオクでフレームを出品した際に「固定ローラーでの使用はされていますか?」と質問されることが有る。恐らくこの蓄積されるダメージを気にしているのだろう(気にし過ぎかもしれないが)。
固定ローラーは嫌、しかし三本ローラーのバランスも捨てがたい、しかし騒音が・・・という方はKINETICのローラーが良いかもしれない。
負荷付き三本ローラーは最強なのか
書き込みの多くはほとんどの方が3本ローラーや負荷付き三本ローラーを持っていることだ。恐らく固定も持っていると推測されるが、やはり口をそろえて皆が言うのは「騒音問題」である。三本ローラーはその性質上ドラムが回転する際の反響音が大きい。その為、アパートの場合は使用すら出来ないだろう。
私は家を選ぶときに「鉄筋」「1F」と隣の部屋との壁の厚みも気にしていた。それほど集合住宅における三本ローラーは「騒音問題」の元なのである。「三本ローラーの弊害」と銘打って何か書くとしたらこの騒音問題は切っても切り離せない。その点「固定ローラー」はいくらか静かな製品も出てきているので三本ローラーよりは優れている。
興味深かったのは私も購入候補に入れていた「ギャラクシア」を使われているというM氏の話だ。このギャラクシアは前後に揺れる。ELITEのE-MOTIONの簡易版と言うべきだろうか。この三本ローラー特有の前後の動きを吸収してくれる動作はどうやら「気持ちが悪い」らしい。
ひとによって感じ方は異なるだろうが、あの特種な動きに過度な期待は禁物のようだ。
私の三本ローラー最終候補はELITEの2つのトレーナーに絞られている。ELITE E-MOTIONか、ELITE AL13だ。金銭的な余裕と億場所を考えなければELITE E-MOTIONだろう。コメントを頂いたM氏は「負荷なし三本ローラー」から「負荷有りE-MOTION」に乗り換えた。
売り上げランキング: 126,767
私も体感したことだが、負荷なし三本ローラーは買わないほうが良い。かならず「もっと負荷を!」と思うことだろう。はじめに思い切って高い負荷つきを買うことをおすすめする。少なくとも頂いたコメントを見ていると最終的に「負荷付き」にたどり着いているのだ。
カメラでもそうだが「レンズ沼」で投資を抑える唯一の方法は「一番高いやつをはじめから買う」それにつきるらしい。
4本ローラーってなんだ?
このポストをした時に有益な書き込みをしてくださった方といえば、Y氏の4本ローラーだろう。GROWTACの製品で現在4本ローラー、電動負荷、傾斜装置付きという全部入りのローラーを開発しているらしい。恥ずかしいことに全く知らなかったが、発売していたら買っていただろう。
もし使える機会があるなら是非使ってみたいところだが、大阪にサイクルモードが開催されないので試乗することは難しそうだ。しかしこの4本ローラーは通常の三本ローラーとはことなる。前輪に接触する部分は1つのドラムではなく2つだ。その結果安定が増し乗りやすいという。
電動負荷といえばELITE ARION DIGITALやアラゴローラーが思い出されるが非常に高価である。もしGROWTACから4本ローラーが出たならば是非使ってみたい。この機材についてはまだ調べきれていない点も多いので追加考察が必要だ。
まとめ:ローラーの最適解は
今回フェイスブックページ上で多くの方からご意見を頂戴した。本当に違う視点で語られる体験談は貴重である。今回色々な方が色々な思いを持っていることを知ることが出来たのは、ひとつの収穫といえるだろう。
そして面白いのは、固定ローラーで何かしらの不満があり(フレームへの負担、バランス感覚)三本ローラーを買い、負荷に不満がたまり負荷付き三本ローラーを購入している人がやはりいた事だ。とすると、はじめから負荷付き三本ローラーを購入するのがベストとも言えるだろうが、人それぞれ生活スタイルが異なるので安易に買うことは難しい。
負荷付き三本ローラーは一つの到達点とも言えるが、「家庭環境」「家の構造」「近隣住民への配慮」等、日本の集合住宅の神経質な話題の中において、なかなか理解されないトレーニング器具といえる。そのなかでも条件が揃った場合(一軒家の1Fなど)は負荷付き三本ローラーと言えるだろう。
これら条件を抜きにして、もしローラーというトレーニング器具だけにフォーカスして選ぶとしたらやはり負荷付き三本ローラーという結論にたどり着く。金や住宅環境にに糸目をつけないのならば次のような順で室内ローラーを選択したい。
- アラゴローラー
- ELITE E-MOTION
- ELITE アリオン AL13
- ELITE アリオン MAG
- ミノウラの負荷付き
- kinetic rock & roll
他にもKillerローラーやアンタレスがあるが、そこまで頻繁に買い換えてはられないので除外した。正直ミノウラの負荷付きを買うならKinetic買うかなと言うのが本音だ。いづれにせよローラはトレーニング装置である。使ってなんぼの装置だ。まずは使いトレーニングする事が本質であり「タンスの肥やし」にしてはならない。
ここまで様々な要素を考察しある程度のメリット・デメリットは理解できた。ただ忘れてはならない重要な点はローラーを購入した後の事だ。ローラーとは辛い思いをする「効率のよい拷問マシン」であることを忘れてはならない。
我々サイクリストにとって、ローラーは買ってからが本当の始まりだ。より自分にあったローラーを選択し、トレーニングに弾みを付けたいものである。
Facebook上でコメントをしていただいた方ありがとうございました。