ツアー・オブ・ジャパン2019がいよいよ開幕した。1982年から開催されていた『国際サイクルロードレース』を継承する国内最大規模の自転車ロードレースだ。特徴としては、世界のトップレベルで活躍する海外プロチームや強豪選手たちが参戦している。そしてTOJのレースは無料で観戦することが可能だ。
筆者自身もTOJ併催のJBCF堺クリテリウム(第1ステージ5/19(日)開催)走った。沿道の観客の数は国内のレースの中でも群を抜いて多い。一日目のタイムトライアルでは、宇都宮ブリツッエンの岡選手が最速のタイムをマークした。例年外国人選手が優勝している事を考えると、日本人選手が純粋な力勝負のタイムトライアルで優勝することは快挙と言える。
しかし、総合時間を競うのがステージレースだ。2日以降のレース展開が総合を大きく左右する。今回の記事は、どちらかというとロードレースを知らない人向けにわかりやすい内容で書き綴った。妻にも伝わるような、少しほかのメディアとは異なる内容でお伝えしたいと思う。
まず、参加チームから確認していこう。
- NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネ(イタリア)
- トレンガヌ・INC.・TSG・サイクリング・チーム(マレーシア)
- チーム・ブリッジレーン(オーストラリア)
- HKSIプロ・サイクリング・チーム(香港)
- リュブリャナ・グスト・サンティック(スロべニア)
- インタープロサイクリングアカデミー
- ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー(ルーマニア)
- チーム・ザワーランド・NRW・P/B・SKS・ジャーマニー(ドイツ)
- チーム右京
- マトリックスパワータグ
- チーム ブリヂストン サイクリング
- 宇都宮ブリッツェン
- シマノレーシングチーム
- 愛三工業レーシングチーム
- キナンサイクリングチーム
- 日本ナショナルチーム
TOJには16のチームが出場する。ロードレースは一見すると個人競技に思われがちだが、エースを勝たせるためにチーム全体で動く「団体競技」だ。プロのロードレースの展開はたいてい序盤に逃げ(集団から少人数で抜け出す行為)が発生する。逃げを見送った集団はメイン集団と言われる。この構図は海外・国内のプロレース問わず、ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアでもほぼ同じ定番の展開だ。
文章で書くと「逃げ」と「メイン集団」の構図が簡単に出来上がるが、この逃げはなかなか決まらない。力のある選手を逃してしまうと、最後まで追いつかなくなったり、逃げ集団に強力な選手が複数入ってしまうと、「メイン集団」がいつのまにか「取り残され集団」に成り下がってしまう事もある(アマチュアレースに多い)。
ただ、人数が多いメイン集団は移動速度が速い。その理由の一つとしては、多くの選手が集団で固まって走っているため、空気抵抗を受けている時間が分散される点にある。その分メイン集団にいる選手の疲労は低くなる傾向があり、パワーを温存できるというメリットがある。逆に逃げている選手たちは、空気抵抗を受けている時間が多く、その分疲労する。しかし、少人数でゴールに向かうことで勝利の可能性も(逃げ切れば)高くなる、というおいしい要素もある。
今回の京都ステージではセオリー通り「逃げ」と「メイン集団」が構成された。
京都ステージで主にメイン集団を「引いた」のは宇都宮ブリッツェンと日本ナショナルチームだ。「引く」というのはロードレースや自転車競技特有の言葉で、風上で走り集団をけん引する行為のこと。ロードレースの暗黙の了解として、前日までの合計タイムが最も短い選手を有するリーダーチームが集団を引くことになっている。
スタート直後から、激しいアタック合戦(集団から抜け出す事)が繰り広げられた。リーダーチームの宇都宮ブリッツェンが中心となってアタックへの対応が繰り返され、逃げが決まらない状態が続く。逃げが決まるタイミングは集団の雰囲気一つで、一発で決まることもあれば、レース終盤に決まることもある。そして、どのアタックが決まるかは誰にもわからない。
その後逃げが決まり、7名の逃げ集団が形成された。メイン集団は宇都宮ブリッツェンと、日本ナショナルチームがコントロールし、その差は次第に2分以上まで開いた。その差は最終周回に入っても大幅に縮まらず、1分以上の差が開いたまま最終周を迎える。最終周回は入部選手(シマノレーシング)、ザッカンティ、トゥーペイの3名に絞られ、最終スプリントでトゥーペイが先着した。
今回のレース展開を見ていると、主にメイン集団に追いつこうとしたチームはリーダーチームの宇都宮ブリツッエンと日本ナショナルチームだった。ロードレースのセオリーであれば、逃げを送り込めていないチームが総出で逃げをつぶし(追いかけ)に行くはずだ。おそらくファンもそんなプロの展開を見たかったはずだ。
ただ、様々な思惑が絡み合うのもロードレースである。宇都宮ブリッツェンと日本ナショナルチーム以外のチームは、戦略として追わなかったのか、そもそもあきらめていたのかは定かではない。ただ、見ている観客からすると、先頭に選手を送り込めていないチームも居た中で、追走集団を積極的に追わなかったチームが居たことは疑問が残るところである。
逃げ集団と先頭とのタイム差は最終的に9秒にまで縮んだ。レース後に様々なプロ選手のSNSをいくつか確認すると「逃げが速かった」というような内容が散見された。今回逃げ集団の7名が形成された後もペースが速く、数名がドロップしている。そうなってくると逃げていた選手たちが、メイン集団が思っていたよりも速いペースでリードしていたという事になる。
ロードレースにたらればは禁物だが、メイン集団で逃げを送り込めていないチームが協力したのならば、レースの結果はまた異なる展開を見せただろう。
と、こんな想像をしながら間近でプロのレースを見られる貴重な機会がTOJだ。国内の都市部を使用したステージレースは非常に数少ない。ただ、私はいちファンとして言いたい。もう少し日本人選手の積極的な走りや、逃げを縄田を締めるように追い詰めていくキツイレース展開を今後のステージで見てみたい。
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