- 速い。
- 硬い。
- 安い。
CANYONは初めから狙っていたのだ、世界最速の座を。
AEROAD CFRは最も優れた空力性能を備えていることがTOUR MAGAZINEが実施した風洞実験で明らかになった。これまで世界最速の座を譲らなかったのはCANNONDALE SYSTEMSIXだった。AEROAD CFRはそれをしのぎ「1ワット」空力性能が優れていた。
「1ワット」の意味を軽くあしらうか、それとも重量や仕組みを理解し魅力的に感じるのかは人それぞれだ。
世界最速の結果は運も味方につけた。
オリンピックイヤーという重要な節目であるにもかかわらず、スペシャライズド、トレック、キャノンデールが「世界最速のエアロロード」をリリースしなかった。各社があれほどエアロダイナミクスにやっきになっていたのにもかかわらず、最速を塗り替えようとしなかった。
(3:1のルール改定後の最速バイクが某社からリリースされるウワサは確かにあるのだが。)
TARMAC SL7の設計思想のように、新たな領域を模索した結果という考え方もできる。そして、やり尽くされた感のあるエアロロードの開発はいったん休止する、ことが各社の方針だった可能性も十分有り得る。スペシャライズドは重量と空力のバランスをうまく整えた。TREKはクライミングエアロという別の領域へと進み始めた。
これまでのエアロロードバイク市場は、様々なブランドがしのぎを削り続けた結果レッド・オーシャン化していた。しかし、ここ数年はいつの間にか手薄になっていた。「エアロ」ばかりが注目されてきた結果、ユーザーは少し飽きてしまっていたのかもしれない。
スペシャライズドの新型AETHOSの発表で、10年以上前に流行した”重量剛性比”という「古臭い言葉」が「新しい言葉」として再びお目にかかる日が訪れるなど、流行や時代が一周した流れを感じる。
前作のCANYON AEROADが発表されたのは2014年だ。新型AEROAD CFRの発表はツール・ド・フランスと世界選手権の後であり、自転車機材の発表時期としてはとても遅かった。米国ブランドが「どちらが先に刀を抜くか」という探り合いが行われている最中、TREKやスペシャライズドの大規模な発表よりもさらに後だった。
CANYON AEROAD CFRはマイペースを守りながら登場した。逆説的に捉えるとCANYONはAEROADの開発に時間をかけすぎてしまった、という見かたもできる。各社が「やり尽くされ、目新しさがなくなったエアロロード」に対して次の一手を模索しているあいだ、CANYONはディスクエアロロードを純粋に突き詰めていた。
TOUR MAGAZINEで結果が公表されるより前、CANYONは海外メディアのインタビューの中で次のように述べていた。
「まだ公開されていない第三者機関のテストにおいて、CANNONDALE SYSTEM SIXやCervelo S5 などの主要なライバルよりも新型AEROAD CFRが優れている。そして、クライミング時の抗力係数も低いことが判明している。」
と。
メディア向けの資料にも同様の内容が記されていた。一般向けにローンチが行われた段階では明らかにされていなかったものの、「第三者機関」が同国ドイツのTOUR紙であることは明らかだった(GSR風洞で全く同じ実験プロトコルを用いて風洞実験を行っている)。
一見すると空力性能一辺倒かと思いきや別のインタービューでは、
「風洞で最速のバイクを作ることが我々の目標ではなく、あらゆる面で総合的に優れたバイクを作ることだった」
と語っている。それは、各社が盛んに取り組んでいる6.8kgの重量を目指しながら、Dragを減らす開発が行われたことを意味していた。
すなわち――、
S-WORKS SL7は「重量6.8kg」を軸に、最大限の「空力向上」をめざした。
AEROAD CFRは「世界最速」を軸に、最大限の「軽量化」をめざした。
それぞれ譲れない(ブレない)「軸」を基準として、ロードバイクの「何」を犠牲にしなければならなかったのか、という「論点」が異なっていた。
今回の記事は、世界最速のディスクエアロロードバイクCANYON AEROAD CFRに実際に乗り込み、性能から走りまで広範囲にテストした。特殊なハンドルバーやTREKの新型フレームにも採用された新素材M40Xカーボンを用い、軽量性と剛性を限界まで高めた史上最速のディスクロードバイクに迫る。
AEROAD CFR進化のポイント
新型AEROADの改良点は以下のとおり。以下の要点から進化の全体像が見えてくる。
- 空力面:SWISS SIDEが空力改善のコンサルティングを実施。
- 空力面:ホース類が露出しないエアロ形状。
- 空力面:インテグレーションーケーブルを合理的に内装。
- 重量面:エアロディスクブレーキロードバイクの宿命の重量を克服。
- 整備面:フォークコラムをカットせず高さ調整が可能。
- 整備面:組み立てやすい設計。
- 整備面:ハンドル幅が可変。
- 整備面:輪行が容易。
- ライド性能:振動吸収性が向上。
- ライド性能:応答性能が向上。
- ライド性能:アグレッシブ過ぎないジオメトリー。
世界最速と史上最速
「とにかく速い」
CANYONは、プロモーションにもっていこいのこの事実を前面に押し出さなかった。米国ブランドのプロモーションとは異なり、AEROAD CFRのローンチは目立つことなく控えめだった。見かたを変えるとプロモーションが苦手ではないかと思うほどだった。
CANYONは最速のSYSTEMSIXのみならず、VENGEよりも空力性能が優れている事実を開発段階で把握していたはずだ。控えめ、そしてしたたかなプロモーションへの取り組みはドイツという国柄や基質が現れた結果なのかもしれない。
控えめだからこそ、世界最速のバイクであるAEROAD CFRについて深く知りたくなった。それもCANYONの作戦(≒プロモーション)なのかもしれないが―――。
世界最速と史上最速、どちらの言葉が正しいのかと問えば「史上最速」が適切だろう。
この「史上最速」のベンチマークを掘り下げていくと興味深い事実が浮かび上がってくる。いったい、誰が「最速」だと決めているのかについてだ。その鍵はドイツのTOUR紙が握っている。長年、一貫した実験プロトコルに基づいて数多くの風洞実験を実施している。合わせて、他に有力なメディアや実験機関が存在しないことも影響している。
じつは、風洞実験は試験プロトコルに一貫性がない。相対的な風速の定義、ライダーかダミー人形か、ダミー人形の脚は可動式か、ホイールは回転するか、抵抗を算出する時にYaw角の重み付けを考慮した加重平均計算の定義をしているか。パラメータは無数に存在し統一された定義がない。
ゆえに、メーカーは自分たちに都合の良いデータを出してくる場合がある。
TOUR紙は実験のプロトコルや風洞実験のパラメーター、そしてコンプリートバイクやZIPP404を基準とした仕様が一貫しているためベンチマークにされることが多い。CANYONが風洞実験を行ったGST風洞施設はTOUR紙も使用している。
「最速の称号」を得るための1つの方法がTOUR紙での試験プロトコルで良い成績を出すことだ。そういう意味では、試験条件にも恵まれていたと言っていい。とはいえ、ずさんなエアロダイナミクスでは風洞実験で良い結果を出せないことは明らかだ。AEROAD CFRはどのような開発を行い、旧作から空力性能を高めていったのだろうか。
CFD解析と風洞実験
CANYONがAEROAD CFRを用いて実施した風洞実験の試験概要は以下の通りだ。
- 実験施設:GST風洞
- Yaw Angle:±20°(粒度2.5)
- 相対風速:45km/h
- ライダー:マネキンの下半身(’Ferdiくん’と呼ばれるカーボンファイバーの回転脚)
- ボトル:あり
- コンサルティング:SWISS SIDE
エアロロードバイクの開発において、CFD解析と風洞実験を行うことはあたりまえになった。速さを手に入れるための空力性能の改善は終わりがない。自転車が進むうえで最も大きな抵抗は空気抵抗だ。ひとたび外を走れば誰もが等しく空気にさらされ、物理法則に支配される。各社がエアロダイナミクスにやっきになる理由も理解できる。
とはいえ、フレームやホイールだけが空気抵抗と戦っているわけではない。空気抵抗の大部分はライダー自身だ。
抵抗全体にしめる空気抵抗の割合は速度に比例する。停止状態からバイクが動き出す場合、抵抗全体に占める割合のほとんどは重力や転がり抵抗、フリクションロスが支配的だ。ところが、速度が上がれば上がるほど空気抵抗は指数関数的に増加する。
そして、空気抵抗が支配的になる。勾配が多少あったとしても、ある程度の速度域であればエアロダイナミクスに優れたバイクが有利だ。バイク重量と勾配の変化によるタイム差については以下の記事を参照のこと。
エアロと軽さのどちらを選ぶか考えると、(条件にもよるが)後者の「軽さ」を選択するという合理的ではない考え方に至る場合がある。理由の一つとして、空気や流れは目に見えないからだ。そして、風洞実験を実施しなければ影響を定量化できないという理由もある。
重量は単純で、バイクを持ち上げることで軽さがわかる。対して、エアロダイナミクスを確認するためにはバイクを見ただけでは判別できない。
エアロダイナミクスの最適化は、ツール・ド・フランスに出場するような選手だけに必要な技術ではない。空力の最適化はバイクが進むための効率を高めることにある。土日にしかライドを楽しまないようなサンデーサイクリストであっても、空気抵抗は必ず存在し影響を必ず受けるからだ。
それらをふまえ、CANYONはどのように空気抵抗との戦いに取り組んでいったのだろうか。
開発と検証
CANYONの本国ドイツには、F1マシンや戦闘機の開発にも使用されている有名なGST風洞施設がある。DTSWISS、TOUR紙も利用しておりレーシングカーや戦闘機開発まで幅広く活用されている風洞施設だ。コンサルティングはSWISS SIDEが実施している。F1出身のエンジニアで構成されており、エアロダイナミクスに関するスペシャリストたちだ。
AEROAD CFRの設計と検証は、風洞実験とCFD(計算流体力学)解析の両方を実施した。最高の空力性能を追求するため、風洞実験前にCFD解析を実施し最適なプロファイルを導き出す。そして、様々な方向からの風向きを考慮し、Yaw Angleの変化に応じて最適になるように設計が進められていった。
風向きは常に正面から吹くわけではなく、±0~10°の出現率が高いとされている。そのため出現率が高いYaw Angleに対し加重平均計算を行い、抵抗を算出するのが一般的になっている。
また、昨今のフレーム開発は「エアロフォイル形状をフレームのどこに配置するのか」が空力性能のよいフレームを開発するための鍵になっている。スペシャライズドといった大手メーカーも「エアロフォイルライブラリ」という様々なエアロフォイル形状を収めたデータベースがある。
エアロダイナミクスの開発において、このライブラリデーターベースは非常に重要な役割を担っている。VENGEのローンチの際もエアロフォイルライブラリの写真撮影を禁止するほどの扱いだった。AEROAD CFRの開発では前バージョンで行っていたよりも7倍以上ものチューブ形状とCFD解析が行われた。その後GST風洞施設で最終的な仕上げが行われた。
CANYONとSWISS SIDEはAEROAD CFRの開発初期段階において、より細長いチューブ形状を使用した高速なバイクのデザインを考案した。しかし、最終段階には目標重量を達成するため製品版のややスリム化したフレーム形状に落ちついた。冒頭でも触れたが、
AEROAD CFRは「世界最速」を軸に最大限の「軽量化」をめざした。
という開発思想のとおりだ。スペシャライズドのS-WORKS SL7は「6.8kg」を軸に最大限の「空力向上」をめざしたが、譲れない軸が「エアロ」か「重量」のどちらなのか。それぞれのブランドで偶然にも異なる方向性が導き出されたことも、CANYONにとっては都合が良かった。
SWISS SIDEの開発手法
AEROAD CFRはSWISS SIDEとの協業関係のもと開発が行われた。SWISS SIDEはCFD解析から風洞実験までエアロダイナミクスに関わる広範囲の解析に携わっている。SWISS SIDEは元ザウバーのF1エンジニアによって設立された企業だ。同社のエンジニアは最先端のCFDソフトウェアを開発し、その処理にはスーパーコンピューターを用いている。
F1で培った技術は、AEROAD CFRに余すことなく注ぎ込まれた。AEROAD CFRが空力的に世界最高レベルに到達した背景には、エアロダイナミクス検証とバイク開発それぞれに特化した開発者達が協力しあい、1つのバイクを作り上げたからに他ならない。
フレームの空力性能を高める作業は、地道なテストを繰り返して行われた。
前作の2014年に発売されたAEROAD CF SLXの空力開発は、わずか3回のCFDテストだけだった。つまり、3つのジオメトリー(形状)をテストした後、最終的なチューブプロファイルを決定した。そして、コクピット、ヘッドチューブ、ダウンチューブ、シートステーといったフレーム全体の重要なポイントに適用した。
新型AEROAD CFRは新しい開発プロセスが取り入れられた。SWISS SIDEの協力の元、22回ものテストが行われた。新型では、前モデルと比べて7倍以上のテストが行われたことになる。さらに、フレームの各部分を細く分解して、その要素に対して最も効率的なエアロフォームを評価することで、従来のAEROADの開発から更に一歩踏み込んだ。
分解した要素は、ハンドルバー、ヘッド チューブ、フォーク、ダウンチューブだ。これら各コンポーネントへの変更の効果を個別に判断し、それらを組み合わせて最速の形状を追求した。
シミュレーションは、相対速度12.5 m/s(時速45 km/h)、ヨー角±20毎におけるダミーレッグなし、ダミーレッグありの条件において、両脚を水平にした状態や垂直にした状態で実施された。各ループごとに何百ものデータが収集された。
SWISS SIDEの空力改善では「セーリング効果」も向上した。CANYONは最初のエアロロードバイクを開発して以来、セーリング効果に関する研究を進めていた。フレームチューブをある形状で設計すると、特定のヨー角においてチューブの形状が翼のように空気と相互作用し、揚力を発生させてライダーを前進させるセーリング効果が発揮する。
つまり、横風が吹いている状況で、ライダーはDragを軽減しながら風に身を任せて加速することができる場合がある。セーリング効果を発揮するためには、ホイールが最も重要だが、フレームもまた重要な役割を果たしている。 新型AEROAD CFRはフレームチューブ形状を最適化したことで、前モデルよりもはるかに大きなセーリング効果を引き出している。
振動吸収性
インプレッションで詳しく記載するが、新型AEROAD CFRは乗るとすぐに振動吸収性能が高いことがわかる。よほど鈍感でなければ、明らかに振動が減っているということを体感できるほどだった。当初、振動吸収の理由がタイヤやホイールに起因するものだと思っていた。
しかし、ホイールを普段使用しているROVAL CLXに変更して試したところ同じような振動吸収性を感じた。したがって、AEROAD CFRの振動吸収の大部分はフレーム、シートポスト、しなやかなハンドルで処理されていることが示唆される。
エアロロードの宿命としては、エアロ性能を向上させるために複雑で太いフレームチューブ断面形状と余分なカーボン素材が必要になることだ。そして重量が増す。その結果、垂直方向の柔軟性が低下するため乗り心地が悪化する傾向にある。それらとは真逆の性能を備えていたことは驚きだった。
これらの事実は、前作のAEROAD CF SLXの時点では避けることのできない常識だった。しかし、新型AEROAD CFRのフレームは900g台で、独自のシートポストの構造で垂直方向の柔軟性を高めている。競合他社のエアロロードと比べて滑らかな乗り心地を実現していた。
この、AEROAD CFRの高い振動吸収性能の秘密の1つはシートポストに隠されている。
シートポスト SP0046
シートポストで触れておかねばならない話題としては、SP0046がズレてしまいガタつく事例が報告されている。この事例は海外の長身サイズでシートポストが長く突き出た場合に発生するとされている。2021年3月時点では本国で調査中とのことであるため、今回の記事内では触れない。CANYONは現在、本事象に対して対策と改良を続けているとのことだ。
シートポストSP0046は2つのパーツから構成されている。シートポストの下半分は中空のカーボンシュラウドで、上半分はシートポストのクランプを取り付ける部分だ。前半分は若干の柔軟性を持たせている。CANYONは単にシートポストに柔軟性をもたせたわけではなく、シートポストの「剛性」がAEROAD CFRの全体の剛性に作用するように調整している。
フレックスをもたせたシートポストは、バイクのリアエンドを和らげる効果がある。バイクは後輪駆動であるため、リアエンド部分が上下に揺さぶられてしまうと損失が発生しパワー全て伝えきることができない。シートポストSP0046はエアロ形状ながら、軽量化と、振動吸収性能を兼ね備えている。
CP0018 エアロコックピット
エアロコックピットに関しても、触れておかねばならない話題がある。レース中にマチューが使用していたCP0018ハンドルがSTIの固定クランプ部分から折れたという話題だ。原因はまだ確認中で明らかになっていない。そのため、本記事では単純にCP0018の概要を記すにとどめた。
新型AEROAD CFRのハンドルバー「CP0018 エアロコックピット」は独創的な構造を備えている。ハンドルが3つに分離するこれまでにない構造と、ハンドル幅や高さを自由自在に変更できる優れた仕組み取り入れたからだ。この特殊な構造を採用したハンドルのメリットはいくつかある。
- ハンドル幅を変更できる。
- ハンドル高を変更できる。
- 余分なコラムが突出しない。
- ケーブルを切断することなくポジションに合わせられる。
- 輪行時にバックに収納しやすくなる。
1つめのハンドル幅は長年のサイクリストの悩みを払拭するほどのインパクトがあった。3ピースで構成されておりセンターベースセクション(230mm幅)部分からハンドル部分が可動する仕組みだ。ハンドル幅の変更方法は、外側のドロップ、フード、トップをスライドさせて2本のトルクスボルトで固定する。
ハンドル幅の変更は+/-20mmの調整が可能だ。合計で40mmの調整範囲が得られる。標準的な410mmのバーであれば、安定性を高めるために幅広く430mmに設定、または前方投影面積を減らし幅を狭くして390mmに設定しライダーのエアロ効果を高めるといった調整が可能になる。
ハンドル幅のラインナップとサイズは以下の通り。
- 370/390/410 mm (Size 2XS)
- 370/390/410 mm (Size XS/S)
- 390/410/430 mm (Size M)
- 390/410/430 mm (Size L/XL)
- 410/430/450 mm (Size 2XL)
可変式ハンドルの心配ごとはバーテープの存在だ。CANYONはバーテープまで考慮しており、ミドルセッティング(Mサイズの場合は410mm) に巻かれた状態で出荷される。幅広の設定に変更するには新たに露出した内部の部分をカバーするためにバーテープを新たに巻くだけだ。幅を狭くする場合は、少し巻き戻してからテープを適切な長さにカットするだけでいい。
ハンドル高さは、5mmと10mmのスプリットスペーサーで最大15mmまで調整可能だ。コラムをカットすることも内部のケーブルに影響を与えることもなく変更可能なクイルステム方式を採用している。この構造は昔から仕組みとしては存在しており、コラムを切らずに様々な位置に調整することができる。
ただし、ステム角度は6度のみ設定できる。アルペシンのプロライダーが17°のステムを使用していることが確認されているため、いずれラインナップに加わる可能性が示唆されている。
クイルステムは余分なコラムが突出しないという、見た目とエアロ効果に対してメリットがある。クイルステムの構造によって、常にコラム部分が「ツライチ」であり無駄のないクリーンなコクピット周りになっている。
この独創的なハンドルは輪行する場合に重宝する、とされているがCANYONの直接販売にメリットがあると考えられる。CANYONはユーザー宅にバイクを直送する。日本国内の京都のカスタマーセンターすら経由せずに直送だ。そのため巨大なダンボール箱で届くわけだが、この際の梱包サイズを小さくできるメリットもある。
同様に、輪行する場合にも有効だ。トラベルケースにバイクを収納する際の梱包が格段に簡単になる。旅行のためにバイクを梱包する際に簡単にハンドルを分解できるメリットは大きい。
このハンドルのその他のメリットとしては、振動吸収をサポートする適度なフレックスを持っている。このフレックスは、一見硬いヘッドチューブとフォークのバランスをとるのに役立ち、このバイクは非常に正確なハンドリングを実現している。
人によっては柔らかいと感じるかもしれないこのハンドルについては別記事のインプレッションで細かく紹介する。
クイルステム方式
新型AEROAD CFRは、過去の技術と思われていたクイルステム方式を現代風に蘇らせた。古くから親しまれてきたクイルステムは、コラムカットが不要ながらハンドルの高さ調整が可能で利便性も高い。通常の方式であれば、ステムの位置を下げる場合ヘッドスペーサーを抜いてステムの上に移動させる必要があった。
しかし、フォークコラムが露出し、見た目にもエアロ的にも都合が悪かった。
フォークコラムは、ステムから伸びる大径の上部(1-1/4″)とフォークに取り付けられた小径の下部(1-1/8″)に分割されている。この下部のメカニズムはフォークコラム先端に取り付けられ、クランプネジとくさびがフォークインサートに押し付けられて固定されている。
コクピットの高さを変更するには、10mmと5mmのアルミスペーサーを入れ替えることによって最大15mmの範囲で調整が可能になる。高さは5mmピッチで調整できる。
また、フォーク コラムを切らずに高さを調整することができる。メリットとしては、フォークコラムの残量を気にせずツライチのまま様々なポジションを試すことができる。実際の使い勝手や調整方法については、別記事のインプレッションで掲載予定だ。
重量
マチュー・ファンデルプールが実際に乗っているAeroad CFR MDP Alpecin Fenixの”0.1g単位の実測重量”だ。非常に貴重な情報であり、この部分だけでも有料コンテンツにしたいぐらいの情報である。
Parts | Weight(g) | |
Frame | Aeroad CFR MDP Alpecin Fenix | 991 |
Thru Axle | Front +rear | 70 |
Headset | Canyon | 54.5 |
Small parts Frame | BBcover, Derailleur hanger | 26 |
Fork with expander | Canyon Aeroad | 438 |
Seatpost | Canyon Aeroad | 189 |
Brake front | DuraAce | 175 |
Brake rear | DuraAce | 185 |
Disc | DuraAce 140mm | 216.5 |
Aluminium Lockring | ||
handlebar | Canyon Carbon Cockpit | 406 |
Stem | Canyon Carbon Cockpit | |
Bar tape | Canyon bar tape | 56.5 |
Saddle | Selle Italia Flite kit Carbonio SuperFlow | 177 |
Wheel front | DuraAce C40 TU | 1090 |
Wheel rear | DuraAce C40 TU | 938.5 |
Spokes | Shimano AERO | |
Rim | DuraAce C40 TU | |
Tire | Corsa 28mm TU | |
Crank | DuraAce Power 53/39Z | 709.5 |
BB | DuraAce PF86 | 54 |
Brake/Shifter | DuraAce | 363.5 |
Battery | 61 | |
FD | DuraAce | 106.5 |
RD | DuraAce | 197 |
Cassette | DuraAce 11-28 | 195.5 |
Chain | DuraAce | 253.5 |
Other small parts, Grease, |
12.5 | |
Pedal | 234 | |
TOTAL | 7200 |
新型AEROAD CFRは前作と比較し「170gの軽量化」と「14%の剛性増」を達成した。重量面のポイントは2つある。
- エアロ化に伴う重量増の克服。
- 各パーツの実重量。
1つめはエアロロードの宿命の重量増だ。エアロ性能を改善する場合、できるだけ薄く、後方へ向けて流れるような形状が望ましい。空力的に考えて最悪な形状は円柱だ。円柱がフレームの何処かに配置されている場合は空力性能は諦めたほうが良い。しかし、エアロロードバイクに必ず採用されているエアロフォイル形状は表面積が増す。
AEROAD CFRに限らずMADONEやVENGE、SYSTEMSIXが重い理由も形状にある。エアロフォイル形状をできるだけ盛り込みつつ、空力性能に特化したフレームを作成するにはカーボンの積層を薄くするかカーボン素材を必要がある。しかし、問題なのはカーボンの積層を薄くすると強度が確保できなくなることだ。
そこで、新型AEROAD CFRはTREKのEMONDA SLRに新たに採用した東レのカーボン新素材であるM40Xを採用した。M40Xはカーボンフレームのみならずシマノのカーボンロッドにも新素材として積極的に採用されている。強度を確保しながらもカーボンの使用量をへらすことができる夢の素材だ。
新型AEROAD CFRは、小さな重量が削減の積み重ねたことによってエアロロードらしからぬ軽量化を果たした。重量を切り詰める取り組みは、エアロポストが-6g、シートポストクランプとステアークランプで-10gの軽量化を実現している。
タイヤセッティング
ジオメトリの話で必ず触れておかねばならないことは独特のタイヤセッティングだ。新型AEROADのタイヤは前後異なるタイヤ幅を採用した。エアロ性能を最大限に引き出すためにフロントには25mm幅の細めのタイヤを使用し、リアにはエアボリュームの大きい28mm幅のタイヤを装着している。
フレームに隠れているリアタイヤ幅を広くしても、エアロ性能にはそれほど影響を与えないことが確認されている。それよりも、エアボリュームを増やすことでライダーの快適性とトラクションの向上が見込める。AEROAD CFRは、独自のタイヤコンセプトに基づいて設計されており、リアタイヤの高さを補正するためにボトムブラケットの高さを調整した。
実際に25Cタイヤを前後に取り付けて走ってみたが、正直違いは一切わからなかった。おそらく、25Cタイヤをリアタイヤに使ったとしても何も不都合は起きないはずであるが、そこは自己責任で判断してほしい。
価格
CANYONは直販メーカだ。ユーザー宅に直接バイクが届けられる。中間マージンをカットすることによって、ハイエンドロードバイクの価格破壊を行った。Dura-AceやSRAM eTAPの超ハイエンドモデルであっても90万円前後で購入できる。小売店や他社メーカーには真似ができない販売手法だ。
コンポーネントが同一であれば、スペシャライズドやトレックの同等のバイクよりも約40万ほど安い価格でAEROAD CFRの完成車を手に入れることができる。
直接ショップを経由しない販売形態で問題になるのは定期的なメンテナンスだ。ディスクブレーキ化に伴いオイル交換やエアー抜き、ディスクローター調整といったメンテナンスがより重要になってきている。CANYONの販売形態はそれらメンテナンスとのトレード・オフの関係にあるかと思われがちだ。
以前はこのようなメンテナンス面を危惧するサイクリストも居たが、CANYONのバイクメンテナンスを行えるショップは全国にいくつか存在している。
AEROAD CFR Q&A
ハンドルとステム変更
新型AEROAD CFRは先進的なハンドルを採用しているが、自分の好みのハンドルに変えたいというサイクリストも中にはいるはずだ。しかし、AEROAD CF SLX / CFRはフルインテグレーテッドのため別のステムに交換することはできない。
ただ、フルインテグレーテッドではないAEROAD CF SLでは、ステムが 1 1/4 インチのフォークコラムに対応していれば他のステムに交換することができる(ケーブル類は外装になる)。
とはいえ、AEROAD CFRはステムの高さやハンドル幅を簡単に調整できる独自のシステムを採用している。また、各フレームサイズの完成車に装備されるステム長は、CANYONの豊富なPPSデータを使用して慎重に吟味されているため、ほとんどのライダーにとって最初から最適な長さになっている。
最小・最大チェーンリング
新型AEROADは、すべての700Cホイールサイズのバイクに52/36のチェーンリングを標準装備している。AEROAD CF SLの650Bホイールサイズのバイクには、50/34のコンパクトなチェーンリングを装備している。どのAEROADにもコンパクトなチェーンリングを装着することが可能であり、互換性のあるチェーンリングの最大サイズは54Tを使用することができる。
楕円チェーンリング
他のロードバイクと同様、楕円チェーンリングをAEROADに装着することが可能だ。
最大タイヤ幅
タイヤ幅はフロント、リアともに最大30mmまで使用可能。先代モデルよりもタイヤクリアランスが拡大している。また、フロントに25mm、リアに28mmを使用することが推奨されている。
最大カセットサイズ
カセットスプロケットの最大サイズは、AEROADの完成車に装備されるグループセットに依存する。SRAM ForceとRED AXSのグループセットの場合、最大カセットサイズは33Tだ。SHIMANOの場合は最大30Tだ。
ジオメトリー変化
前モデルと比較すると、Mサイズでスタックが9mm高く、リーチが5mm短く設計してある。コクピットで計測した場合、Ultimateとほぼ同じライディングポジションになる。これは、新型AEROADでは最高の空力性能の恩恵を、トッププロから一般ライダーまで従来より多くのライダーにもたらすことを目標としたためだ。
他のコラムスペーサーを装着
バイクに付属しているものと異なるスペーサーを使用することはできない。新型AEROAD CFR/CF SLXのコラムスペーサーは、コクピットの形状に合わせて設計された専用パーツであり、フレームとの強固なインターフェースを実現している。
重量制限
100kg。
TTバー
新型AEROAD用のエクステンションバーはない。また市販品を装着することもできない。
ディスクブレーキローターサイズ
最大160mm、最小140mm。
カーボンレールのサドルの使用
新型AEROADには、真円レール用のサドルクランプが付属している。そのままでは楕円の7x9mm径カーボンレールサドルは装着できない。カーボンレールサドルへの交換は、CANYON公式ストアにて、 カーボンレール用アダプターを購入する必要がある。
ジオメトリ
CANYONが新型AEROAD CFRで変更したのはエアロダイナミクスだけではない。一般的なライダーでも乗りやすい新しいジオメトリーに見直されている。オリジナルのアグレッシブなポジションから、スタックを9mm増やし、リーチを5mm短くした。より多くの人が快適にポジションを出せるジオメトリを採用した。
前作のAEROADはアグレッシブなポジションのバイクだった。リーチが長く、スタックが他のバイクよりも低いことが特徴だった。新型AEROAD CFRは同社の軽量クライミングバイクのアルティメットに合わせたフィット感を実現している。
初代AEROAD DISCでは、DISC化に伴ってリアのエンド幅を広げる必要があった。広げることにともない、正しいチェーンラインを得るためにチェーンステーの長さを410mmから 415mmへと5mm延長する必要があった。これらの影響は、ハンドリングやを行った際に若干遅く感じてしまうというデメリットがあった。
ハンドリングやかかりに大きく関係しているチェーンステーは新型で5mm短くなり410mmに設定されている。チェーンステーを詰める設計は、リムブレーキ式のバイクに近い。リムブレーキ式のバイクのチェーンステー長は405mmが魔法の数字と呼ばれており長くても408mmだった。
TIMEフレームは403mm前後、トラックバイクは現在でも390mm台のチェーンステーが主流だ。どちらかといえば、新型のジオメトリーは極限まで考え抜かれたリムブレーキ式の時代に近い設計と言える。
前半まとめ:文字通りのベンチマークバイク
今回は、CANYON AEROAD CFRの開発思想やエアロダイナミクスの追求といった部分を追ってきた。世界最速になるべくして生まれたと言っていい史上最速のエアロロードは、想像している以上に作り込まれ考え抜かれたバイクだった。1gを削減するために1つ1つのパーツを見直し、最適なポジションを出すために新しい構造がふんだんに盛り込まれた。
奇抜なアイデアと、これまで存在しなかったような独創的な構造は新しいエアロディスクロードバイクのベンチマークになることは確実だ。
しかし、実際にバイクはライダーが乗って走らせねばほんとうの性能は見えてこない。いくらエアロ性能がたかくとも剛性があまりにも高く、使い勝手が悪ければ、エンジンのライダーは本来の力が出せない。それらは、性能や重量といった数値とは切り離して考えるべき話題だ。
実際に乗り込んだインプレッションは、「CANYON AEROAD CFR インプレ完結編 世界最速と引き換えに失ったもの」を御覧ください。