- コスパに優れている。
- クセがなく乗りやすい。
- 全てが中庸、先鋭的ではない。
これまで乗ってきたバイクのなかで、最も評価することが難しいバイクだった。
世間に吹きあれる絶賛の嵐と、自分自身のなかに生じたウソ偽りのない評価とのあいだに微妙なズレが生じていた。
ANCHOR RP9がこれまでのバイクと異なっていたのは、海外の辛口レビューを1つも見る機会がなかったことだ。国内のショップやライダーの高評価がエコーチェンバー現象になり、「これはすごいバイクが登場した」と勝手に妄想を作り上げていた。
これまでとは全くことなるスタートラインから、RP9というバイクに期待をしていた。
それは、自分が信じていることを裏付ける情報だけを探し、自らに不都合な情報を無視する傾向の確証バイアスであったのかもしれない。わたし自身が乗る前に勝手に作り上げた「RP9」というバイク像と、現実の落差が大きかったことが理由なのかもしれない。
その葛藤は、記事「バイシクルオブ・ザ・イヤーとRP9への違和感」にまとめている。
今回の記事は、シンプルに世間の評価と異なる感覚を抱いた自分自身の評価を俯瞰し、素直に、率直にまとめた。はき違えてほしくないこととしては、これから記していく内容は「否定」や、ましてや「誹謗中傷」といった話とは無縁だ。
人間が評価する場合、機材を絶対評価ができないがゆえ、これまで乗ってきたバイクとの相対比較をし、率直な感想をことばや文字を使って文章に落とし込んでいるだけである。世の中に無数に存在する評価や意見のうち、
「ある一人のライダーがそう感じた」
というだけの話だ。
つまるところ、この先どれほど読み進めてみても雑誌のプロライター達の評価や、ショップスタッフたちとは180°違ったことが書いてある。ただ、それは否定ではなく、ものごとの見かたや切りくちが異なっていたり、これまで乗ってきたバイクが違ったりすることのあらわれだ。
ここまで予防線を引くには理由がある。
わたしと同じようにRP9を購入し、まだ納車されていない人や、RP9を買ってしまった人にとってみれば、都合のよい話が書いていないということだ。わたしは機材に対してあまり思い入れが無い。純粋にこれまで使ってきた様々な機材と比較し、気に入るか、気に入らないかだけで判断している。
だからこそ、そのありのままをいつも記している。そのとき、世の中の誰かが所有していることに対して、気を使った「おうかがい文章」を書くということは、自分自身の気持ちを否定し、「うそ」を書いていることになる。
だからこそ、RP9に対して、良いことばかり書くつもりもないし、悪いことを書くつもりもない。「わたしが乗って感じたRP9」という、とてもシンプルで、よどみのないインプレッション(印象)が記されているだけだ。
そして、「なぜ、わたしはRP9にこのような評価を下したのか」について、自分なりに考え、結論を出していく作業がつづられている。RP9と向き合いながら、自分なりのジャッジを下していく必要があった。
さっそく、RP9について話をはじめていこう。
動画で解説
インプレッションの構成
わたしが乗っているRP9のバイクアッセンブルは以下の通りだ。
- タイヤ:GP5000
- チューブ:SOYO LATEX
- 空気圧:フロント6.3BAR、リア6.4BAR
- ホイール:BONTRAGER AEOLUS RSL 51
- コンポーネント:SHIMANO R8100 12S
- ポジション:RETULの算出結果をコピー
VENGE、TARMAC SL7、AEROAD CFR、EMONDA SLRといったバイクと相対的に比較できるようにタイヤ、ホイール、チューブ、ジオメトリ、ハンドル幅、ステム長はできるだけ統一している。
また、使用したコースは何十回、何百回と走ったコースを使った。その日の体調がバイクの印象を大きく変えてしまうため、数日にわけて、様々な天候、体重、気分といったパラメーターを変えながら総合的にRP9を判断していった。
オールラウンドバイクであるのならば
RP9はオールラウンドバイクだ。VENGEやAEROADようなエアロロードでもなく、エートスやスーパシックスエボのようなクライミングバイクでもない。登りも、平坦も、なんでもソツなくこなす、雑誌で頻繁に使われる常套句の「優等生」バイクだ。
ただ、「オールラウンドバイク」という言葉を用いる場合、北米のメーカーは別のアプローチを明確に定義してきている。「バイクシステム重量を6.8kgに」と「空力を極限まで高める」この2つのバランスの落とし所をオールラウンドとよぶようになった。
DOGMA Fがそうであり、TARAMAC SL7がそうであったように、エアロロードとオールラウンドバイクの境目は、よりいっそうあいまいなものになた。複数台のバイクを所有できないライダーから考えてみれば、競技の特性にあわせてバイクをあれこれ入れかえることは合理的ではない。
だからこそ、「6.8kgでできる限り空力性能が高いバイク」があればいい。ただし、この考え方は「重量」と「空力」という2つの物理法則のみ(といっても全てなのだか)しか考慮していない。長距離を走りきれる脚あたりの良さや、振動吸収といった別の要素もバイクの性格をあらわす重要な要素だ。
したがって、「オールラウンドバイク」とひとくくりに言ったとしても、開発したメーカーの設計思想や、方向性によっては「オールラウンドバイク」の定義は大きく違っている。
では、「オールラウンドバイク」のANCHOR RP9はどうだろう。
これまでの ”バイアスの十分に効いた” 考え方は、「オールラウンドバイク」のRP9は、重量もAEROAD CFRよりも重く、空力性能はたしかな情報が出ていない。しかし、別の切り口で見ると、操作性のそつのなさや、バイクとしての違和感の無さ、万人受けするバイクといった特徴がある。
操作性もアンダーステアでもなく、オーバーステアでもなく、ニュートラルステアだ。乱暴な言い方をすると、踏めば進むし、脚を止めれば減速していく。振動吸収性もVENGEのような突き上げ感もなく、かといってTIMEのように振動がほんとうに消えてしまうような体験が待っているわけでもない。
RP9はすべてが中庸、それは空力、重量のみならずあらゆる要素が中庸だった。価格もそうだ。高すぎるわけでもなく、どちらかというとハイエンドモデルにしては安いぐらいだ。デフレが続く日本を主戦場とするのならば、これくぐらいの価格がいい。
ここまで、色々と書き並べたことを読んだ読者の方は薄々気づいているかもしれない。ANCHORは「性能」と呼ばれる要素、はたまたユーザーが乗るための投資額を含めてオールラウンドなのだ。
だからこそ、性能だけでなくあらゆる要素を総合的に判断するBicycle Club誌の「バイシクル・オブ・ザ・イヤー」にも輝いたのだろう。決して性能だけで判断されたわけではない(それならどう考えても新規定で設計できたDOGMA Fだ)し、価格、話題性、そしていくらかの自国バイアスも働いたのだろう。
だからこそ、ANCHORはあらゆる意味で「オールラウンドバイク」なのだ。
トラックバイク譲りなのか
トラックの世界において、BRIDGESTONEの製品の活躍は凄まじいものがある。国際大会で5つの金メダル、世界を制したのがANCHORのトラックバイクだ。東京五輪でも梶原悠未選手がオムニアム競技で銀メダル獲得ことは記憶に新しい。
常人には出せないようなパワーを受け止めるバイクのDNAを、RP9は受け継いでいるのだ。そんなバイクに対して、剛性うんぬんを書くのはおかしな話だ。当初、「乗りこなせないような剛性感なのでは?」ということが気になっていた。
その心配は無用だ。硬くもなく、柔らかすぎるわけでもない。ただ、RP9の特徴である「特徴的な部分がない」ことは剛性感にも現れている。
AEROAD CFRの一枚板のような、「完全剛体」ともまたちがう。かといってTREK EMONDAのようなしなやかさがあるわけでもない。TARMACのような硬さからくる反応の良いバイクともまた違っていた。
RP9は「よく進む」とちまたでは言われていたが、ほんとうによくわからなかった。正直に書いてしまえば、TARMAC SL7やAEROAD CFRのほうが進むと感じた。身も蓋もない話をしてしまうと、どのバイクを使ってもギア比が一緒なら進む量は変わらない。
では、何が「進む」と感じさせているのだろうか。
踏み込んだときにバイクが進もうとする勢い、フレームのたわみのなさ、逆にしなりといったあらゆる要素の違いが、ライダーの好みにあった場合「進む」と感じるのだろう。わたしの場合は、AEROAD CFRが硬めのバイクでよく進み、EMONDA SLRが柔らかめのバイクでよく進むバイクだと感じていた。
RP9はまさに中庸で、そのどちらにも属していない印象だった。
トラック競技で使用するバイクのDNAが受け継がれているという話にもある通り、ガチガチなバイク(TARMAC SL3)のようなイメージをRP9にもっていた。ただ、実際に使ってみると、硬いには硬いのだが、長距離を走るときに嫌になるような硬さではなかった。
ただ、踏み込んだときにグンッと進む ”ような” 反応の良さがあるわけでもない。どこまでも加速していくようなAEROAD CFRとも、登りの心地いい軽快さのEMONDAともまたちがう。硬いが特徴のない硬さだ。
それゆえ、好き嫌いが分かれることもないだろう。万人受けするバイクだということもでもある。ただ、SL7やVENGEといったハイエンドのバイクを乗ってきた場合には、特徴がなさすぎて困惑するかもしれない。
そして、別のバイクに乗り換えたとき、相対的に感じる印象しだいでは、RP9の剛性感のは好みが分かれると思う。
空力性能
空力性能の関していえば、前作と比較して20.9Wもの空力性能の向上した。
雑誌やメディアで示されていたこの値ひとつだけをみて、「RP9の空力性能が大幅に向上した」と判断するのは、ひと呼吸おいて少し待ったほうがいいかもしれない。条件にもよるが20Wも空気抵抗が下がるということは並大抵のことではないからだ。
この「20W」も差が生じてしまった理由は単に、「フレームだけで」と考えてはいけない可能性がある。
理由は3つある。
- Yaw Angleが0度 ”だけ” であること
- 世界最速のDTSWISS ARC 50と旧型WH-9000-C50の比較であること
- RP9のハンドルバーがエアロであること
まず、「Yaw Angleが0度」だけ提示したというのは、辛辣な言い方をすると単一の情報だけでは意味がない無いに等しい、ほどのデーターだ。風洞実験の結果を算出するときに定石になっている加重平均計算をおこなった結果ではなく、正面のYaw Angle0度”だけ”のデーターを提示しているのには今でも疑問がのこる。
以前、海外メディアにおいてFFWDのRYOTホイールの風洞実験結果でYaw Angleを0~10度しか提示せず、情報が足りないと酷評されていたが、RP9の風洞実験結果はさらに範囲が狭い。これまで各社の様々な風洞実験の結果を見てきたが、単一のYaw Angleだけで実験結果が公表されてことは記憶にない。
なぜなら、空力性能を語るとき単一のYaw Angleを示し、数値を表したとしても実世界とはなんら関連性がなく、全く意味のない事象だからだ。当然のことながら、これらは北米のメーカー各社、空力のエンジニアも十分理解しており、加重平均計算を行なったうえで新型と旧型を比較している。
これまで公表されてきた結果の中で、SWISS SIDEとキャニオンが生み出したAEROAD CFRの結果は、Yaw Angleの粒度は0.5で±20度で測定されている。TOUR誌も同じようにそれらの結果を加重平均計算した結果から「AEROAD CFRは203W」と算出している。
空力性能を測るとき決して、「Yaw Angle0度で40W」という事を書いたりしない。ではYaw Angleが1度、2度、つまるところ加重平均計算をした結果は?というのが最低条件かつ、スタートラインだ。
そして、Yaw Angle0度には重大な欠点がある。バイクを真正面から見た場合フレームの空力性能よりも、ハンドルバーの形状、ホイールの形状、といった部分の空力の影響が支配的になる。この話はVENGEのローンチのときにも触れられていた。
とはいえ、このあたりの話は複雑で難解だ。だからこそ、「難しい話を抜きにして、Yaw Angleを0度だけにしたのでは」という意見もある。しかし、サイクリストが空力性能についてあまり理解していないからこそ、標準的な加重平均計算で算出した結果を示し、フェアなプロモーションを行う必要がある。
実際のところ、風洞実験を行い際にプロトコルは各社バラバラであるし、加重平均計算を行う際の値の重み付け(Yaw Angle毎)のルールも業界標準がないのが現状だ。だからこそ、実験結果を明確にすべきだし、Yaw Angle0度のみで得られたデーターを示されたところで何を読み取ればよいのかわたしにはさっぱりわからなかった。
RP9はいたるところに、エアロフォイル形状がほどこされており空力性能的には申し分ないだろう。ただ、比較対象がリムブレーキ式のホース丸出しのRS9sであり、単純にRS9sの空力性能が悪すぎたということを勘ぐってしまった。
参考までに新型AEROADと、旧型AEROADのYaw Angle0度における空力性能差(Drag(W))はわずか”3W”しかない。RP9の1/7だ。もちろん、値のスケールもちがうし、風洞実験施設も異なる。RP9の相対速度は時速40km/hで、AEROADは時速45 km/hでシミュレートしているため、直接的に比較することはできないのだが。
また、AEROADはすでに空力性能が行き着くところまで行き着いており、高止まりしたエアロロードバイクであることも影響しているだろう。それにしてもRP9の20Wもの空力改善は、フレーム単体で及ぼされたものではなく、「ある1つのYaw Angleにおいて」という条件下での話にとどめておいたほうが良さそうだ。
ただ、その結果から得られることは何もない。実験室の中では意味があることかもしれないが、現代の空力戦争において登場する情報と見比べて、なにか意味のあるデーターとして扱えるかという全くそうは思えない。
RP9の空力性能に限っては、開示されている結果と数値データーをもう少しふみ込んで注意深く読み解いておく必要があるというのが率直な感想だ。
重量
重量面で話をすると昨今のオールラウンドバイクとしては重くもなく、軽くもなくといった部類に入る。RP9はどこを切り崩してみても中庸だ。以下に各社の実測重量をまとめた。
- Emonda SLR:706g
- Tarmac SL7:857g
- RP9:916.5g
- Aeroad CFR:951g
- Dogma F:986g
- VENGE:988g
RP9のカタログ重量は1,360gだ。 カタログ重量は未塗装であるため実測値は重くなる。 440サイズの実測重量はフレームセットが916.5gでフォークが354.5g、シートポストが176.4gだ。 実測の合計重量は1,447.4gだった。
ヒルクライムバイクであればエートスがあるし、エアロロードならばAEROAD CFRやVENGEがある。RP9はEMONDA SLRやTARMAC SL7よりもフレーム重量は軽い。重い、軽い、といった議論はエンドユーザーにとって数字でわかるがゆえ重要なことだ。
ただ、RP9の重量を考える場合見落としてはならないポイントがある。わりと細身なのに916gも重量があるということだ。Emonda SLRはかなり攻めた作りで、ダウンチューブのカーボンがペコペコへこむほどだ。
M40Xカーボンを使用しており、強度的には問題がないという。RP9はPINARELLO DOGMA Fと同じくT1100を使用している。RP9はどこを触ったとしても、一切ペコペコとへこむような箇所はいっさいない。
それゆえ、高い強度を備えたバイクに仕上がっているのだろう。直接の情報ではないが、実際にフレームはもう少し軽く作れたようだ。しかし、他社よりも厳しいBRIDGESTONEの社内試験を考慮するとこの重量になったらしい。
とはいえ、オールラウンドバイクとしては標準的な部類だ。ただ、あと35gに眼をつぶることができれば、RP9とほぼ同額のCANYON AEROAD CFRのフレームセット(49万)が手に入ることを考えると非常に悩ましい選択といえる。
もちろん、バイクはフレーム重量では決まらない。ただ、超軽量でもなくフレームとしての強度面や堅実な作りが重量に反映されているといってよいだろう。
レースバイクとして考えた場合
RP9はオールラウンドバイクだ。これ1台で全てをまかなうことを想定している。それはロードレースはもとより、ヒルクライム、クリテリウム、エンデューロと対応の幅は広い。レースバイクとして考えた場合、国内であればTEAM BRIDGESTONEの活躍もある。
一般向けのレース機材として考えた場合、十分な性能があることは疑う余地はない。ただ、あえて使うのならばロードレースやクリテリウムが適しているのだろう。ヒルクライムにも使えないことはないが、あえてRP9をヒルクライムバイクとするのは、昨今のロードバイク事情をみているといくらか合理的ではない。
「エアロロードだけどヒルクライムにも使える」や「軽量バイクだがクリテリウムにも使える」というのは、どっちつかずの都合の良い解釈だ。とうぜん、そのような使い方もできないことはないが、実際に使うことを考えるとそう簡単ではない。
SWISS SIDEのシミュレーションによると、空力性能が優れたエアロロードは軽量ロードバイクよりも登りのタイムが速いことがわかっている。ただ、その場合はホイールやバイクの空力性能が世界トップクラスの場合であって、RP9が同じ土俵で話ができるかというと必ずしもそうではない。
RP9は、空力性能や重量も”そこそこ”であるため、使用する用途も先鋭化することは避けたほうがいいというのが結論だ。したがって、ロードレース、クリテリウムといった国内のホビーレースで使うのならば非常に良い選択だと思う。
ただし、他社製品と比べてこれといった尖った性能がみあたらない。したがって、トップアマチュアがしのぎを削る長距離のロードレース(ニセコ、おきなわ)や、富士ヒルクライムや乗鞍といったレースにおいて、機材のアドバンテージを得るためのフレーム選択を考えると、RP9以外を選ぶ判断を下す。
率直な好みを言えば、RP9よりもTARAMAC SL7 x RAPIDE CLXをレース機材として選ぶだろうし、もっといえばやはりVENGEがいい。これから使うならAEROAD CFRだし、ピュアヒルクライムならEmonda SLRかエートス、高速域のヒルクライムなら軽量化したAEROAD CFRになるだろう。
デメリット
RP9には価格面のメリットがあるが、いくつかバイクとしてのデメリットも存在している。実際に手に取りわかったデメリットも列挙しておく。
- ダイレクトマウントハンガーがない
- グロメットがない
- ステムが重い
1つ目は純正のリアディレイラー用のダイレクトマウントが無いことだ。社外品はおろか、世界中どこを探しても島国日本のメーカーBRIDGESTONE用のダイレクトマウントハンガーを製造しているサードパーティメーカーはなかった。
SPECIALIZED、TREK、CANYON、GIANT、Cannondale、PINARELLOと海外の主要メーカーのほとんどがダイレクトマウントをラインナップしている。国内のハンドメイドフレームブランドでもダイレクトマウントをリリースしているが、RP9用はない。
変速性能、軽量化とどう考えてもダイレクトマウントハンガーが優れているため、すぐにでもメーカーは用意すべきだとおもう。
最近の北米、欧州メーカーのフレームは作り込みと配慮が細かい。ネジのボルト部分には防水用のパッキンやグロメットが必ず施されている。SL7もそうでシートポストのボルトを隠すようにゴムのカバーが付属している。
AEROAD CFRにいたっては、スルーアクスルの穴をうめるカバー、ボルトを隠すカバー、さらにシートポストから水が侵入しないようにゴムのカバー、さらには、ステムのボルト穴にまで専用のゴムカバーを用意している。
RP9にもこの配慮が欲しかった。日本ブランドだからこそ、細かい部分にまで配慮がほしかった。RP9のシートポスト固定ボルトはむき出しになっており、水が溜まってしまう。洗車のたびに水分を入念に拭きとる必要がある。
最後は、ステムが重いということだ。おそらく、このステムを好んで使う人は少ないのではないか。200gに近い重量級ステムを好んで使う人は少ない。また、TARMACステムのようにサイコンのマウントもインテグレートできないため、さらに選択する余地は少なくなる。
ステムは不要なので、フレームセットの販売価格を下げてほしいというのが本音だ。
まとめ:無難でコストパフォーマンスに優れたバイク
ここまで率直な意見を書いてきた。ここまでの内容は、私自身が乗ってきたバイクとの相対的な比較を行なった率直な感想だ。参考になる人は少ないかもしれない。ただ、できるかぎり思い込みや、バイアスを排除した。
ひとつ言えることは、乗り手がRP9に何を求めるかは千差万別だということだ。もちろん、RP9が使えないわけではない。ただ、他社のハイエンドモデルと見比べ、限りある資金を投じ、何らかのリターンを期待しようとした場合、「RP9に投資すべき」という根拠が弱いのだ。
投資しがいのある対象として、いまは他に魅力的なバイクがたくさんある。
いっぽうで、アルテグラを搭載した完成車は非常にお買い得だ。リムブレーキからディスクブレーキバイクへの乗り換えや、ミドルグレードからハイエンドモデルへの乗り換えを考えるとRP9は良い選択だと思う。
RP9は求める人によって、よくもわるくも評価が異なる。
だからこそ、既にTARAMAC SL7やVENGE、Emondaといったバイクを所有している方へ向けて「RP9は乗り換えるだけの理由がある」とは、わたしは書くことができない。そのあたりのハイエンドモデルを所有している人は、オールラウンドモデルに「空力性能」や「重量」といった数値性能を求めている場合が多いからだ。
この記事を読んでくださっている方は、不特定多数いらっしゃる。そして、置かれている状況もちがう。競技者もいれば、カフェライドを楽しむライダーもいるだろう。多様性が叫ばれているが、それは見る観点や切り口が無数にあり、人が違えば答えも無数にあるということだ。
世間の評価が大絶賛であったとしても、それは一つの切り口であって、全てを包含しているわけではない。
つまるところ、RP9というバイクは日本の優秀なエンジニアが生み出した優れたバイクだとおもう。ただ、どうしても海外の1世代前(TARAMAC SL6ぐらい)のバイクを追い求めたような出来だったと感じてしまった。
登場したときの期待値が大きく、使ったときの落差が大きかったこともある。ただ、日本のメーカーがRP9のようなバイクを生み出したことは素直に嬉しいし、もしかしたら、YONEXも続いてくれるのではないかとも期待している。
RP9は国産ブランドのフレームがもう一度世界と戦うための第一歩になるのかもしれない。1991年から1993年までの3年間、ツール・ド・フランスや欧州のレースでパナソニックのフレームが走っていた。また、日本のメーカーが海外のレースを走ることもRP9を見ていると十分ありえると感じた。
RP9がRP10、11とアップデートされ、今後さらなる改良が加えられていくことを日本人サイクリストとしてとても期待している。