- 無線化と12速化はそれほど感動しなかった
- 「DURA-ACE R9100を超えた!」はわりとマジだった
- 変速性能の向上は感動した
- ブレーキの効きとクリアランスの増加は◎
- 真価は変速性能とブレーキシステムの2つにあり
今回、アルテグラR8100シリーズをレビューするにあたり、合わせてR9200一式も購入した。まず先に、コンシューマー向けとして最も普及するであろうR8100をレビューすることにした。なぜそのようなことをわざわざしたのか。理由は単純で、R9100とR9200の比較をしたかったからだ。
R9200は重量を1グラムでも軽量化したい人や、ハイエンドモデルでなければ満足できないユーザーが買えばいい。実際のところR9200とR8100の違いは重量だけで、変速性能の差はほとんど無視できるほどに仕上がっているのでは?という仮説を立てていた。
したがって、はじめからR9200のコンポを使用するのではなく、先にR8100を使用することによってR9100との相対的な機能差を体験したかった。そして、文章として落とし込む必要があった。
今回の記事は、新型アルテグラR8100のコンポーネントを試し、得られた知見や体験した性能をまとめた。はたして、巷で言われているような「DURA-ACE R9100を超えた!」という、新製品が出るたびにお見かけする業界の都合のいい評価は本当なのだろうか。
無線化の恩恵はあるのか
新型R8100を使用して無線化に感動したかと言われれば、まったくそうは思わなかった。メカニックに全て組み付けてもらっているし、取り回しも全て実施まかせている。R9100シリーズの有線接続式との大きな変化はなく、特別な感情など湧き起こらなかった。
しかし、今回の新型R9200とR8100は「無線化」が大きな目玉ではなく別の部分にあった。詳細は後述する。
新型R9200とR8100シリーズに共通している機能で大きな変化といえば「ワイヤレス化」だ。歴代のDi2とは一線を画する機能として、他社から大幅な遅れをとっていたもののワイヤレス機能がついに搭載された。なお、ライバルメーカーのSRAMのようにフルワイヤレスではなく、「セミワイヤレス」だ。完全無線化ではない。
これまでのDi2システムはSTI、バッテリー、フロントディレイラー、リアディレイラー全てがエレクトリックワイヤーで接続されていた。新型はSTIとリアディレイラーがそれぞれ無線通信することで変速をおこなえるようになった。
旧型はエレクトリックワイヤーの取り回しが非常にやっかいだった。STIからハンドルの中や外を通し、ダウンチューブを通じてバッテリーまで伸ばす必要があった。複雑な形状のエアロハンドルや、エレクトリックワイヤーを通す穴が存在しないハンドルも多く、ドリルで穴をあける必要もあった。
余計なジャンクションAが無くなったことも大きい。このジャンクションAはバイクメーカーのフレームの設計に悪影響を及ぼしていた。DOGMAはダウンチューブに専用のジャンクション設置ポイントをわざわざ配置した。
VENGEはシートポスト部分にジャンクションAを搭載する秀逸な仕組みでスタイリッシュに回避した。後に登場したSL7も同様に、シートポストに設置する方式を踏襲したが、新型R9200のコンポを搭載するSL7はシートポストにジャンクションを配置する構造を撤廃した。
これがDOGMAのダウンチューブ方式であれば、フレームの金型ごと変えなくてはならなかった。しかし、SPECIALIZEDの場合は取り外し可能なシートポスト単体部分を交換するだけでよかった。利便性、メンテナンス性、最新のコンポに対応する素晴らしい設計と言える。
話が脱線した。ジャンクションAが無くなったということが、無線化によって得られた大きな恩恵といえるだろう。
新型R9200とR8100シリーズは、この煩雑な取り回しやハンドル周りのケーブルルーティングを気にしなくても良くなった。もちろん、ブレーキホース類の取り回しはこれまで通り行う必要がある。とはいえ、エレクトリックワイヤーのスペースが不要になり、見た目にも、取り回し的にも自由度は増した。
無線化による恩恵は、STIの位置調整や不意な力がかかったときのエレクトリックワイヤーの抜けと無縁になることだ(本体が壊れてしまったらそれまでだが)。施工不良の場合、STIの位置を右や左にした場合、エレクトリックワイヤーが突っ張ってしまって抜けてしまうことがあった。
一度筆者は、レース会場でこのミスを犯してしまいコンポーネントが反応しなくなった経験がある。部品点数や、接続ポイントが少なくなることは、それだけトラブルが減るということにもつながる。
これから使っていくうえで、ひとつ気になっていることとしては、無線通信をおこなう送受信器としての役割をSTIとRDが担っていることだ。ロードバイクの機材やシクロクロスで使うことを想定すると、外部からの衝撃で無線が故障しないか気にかかっている。
充電はRDから行うため高圧洗浄機を使用した場合のパッキンの防水性も気になっている。したがって、セミワイヤレス化したことで、全てがハッピーになるわけではない。むしろ心配事も増えた。
様々な代償を受け入れることと引き換えに、最新鋭の機能を使えるということも理解しておかねばならない。
「変速性能」に金を払う価値がある
ULTEGRA R8100は言ってしまえばミドルグレード、いわゆるDURA-ACEを買うまでもない人が使うコンポーネントだ。ただ、そのバイアスが十分に働いた考えかたは、R8100を使うとあっさりと変わってしまった。これまで旧型R9100を使用してきたが、とても満足していたし、これ以上のものはないとさえ思っていた。
しかし、R8100を使って見た途端、どう体感し、どう考えてみても、R9100を超えていた。なんら大げさな話ではなく、誰かに書いてくれと言われたわけでもなく、それがR8100に備わっているた変速性能の結論だ。
冒頭に次のような一文を記した。
「DURA-ACE R9100を超えた!」という、新製品が出るたびにお見かけする業界の都合のいい評価は本当なのだろうか。
この魅力的なコピーは、R8100がまだ市場に出回っていない頃、実際にモノを走らせて使ったことのないような方々が、シマノから言われて書いていたものだとばかり思っていた。
ただ、使っていようが使っていまいが、それは嘘偽りない事実だった。
今回のR9200やR8100のアップデートは、「無線化」や「12速」といった目に見える変化が大きく取り上げられている。しかし、新型の真価はそこではなく、変速機器に求められる基本的な性能である、「変速」という仕組みを極限まで突き詰めた点にある。
「変速性能」は目に見えない。しかし、目には見えないものだからこそ、ライダーは体感し変化を感じ取る。初代のDi2コンポから、R9100まで使ってきたが変速というあたりまえの動作について何ら感動はなかった。これまで一度もだ。
R8100を動作させていると、変速性能が大幅に向上していることがすぐにわかる。鈍感なサイクリストであったとしても、その変化に驚くはずだ。少なくともわたしは、R9100式のコンポに戻ろうとは思わなくなった。
そればかりか、新型R9200など不要で、R8100で十分なのではないかと思うほどだった。
新型の目玉機能である無線化や12速化というトピックスは、11速のコンポから変更するという大きな理由とは言いがたい。しかし、「変速性能」という基本的な動作と、次章から記すもうひとつの価値である「ブレーキシステム」この2つは、11速のコンポから乗り換えるだけの十分な理由になりうる。
ブレーキ性能は別物に
これまで使ってきたコンポでブレーキング性能が良かったのはシクロクロスバイクに搭載しているGRXだ。独特の握りの良さは、ブラケットから手がずれにくい。そしてグーを握るような力のかけかたでブレーキレバーを引くことができる。
GRXの次にR8100のブレーキ性能は良いと感じた。むしろ、キャリパー部分のクリアランス増加は目で見てわかるほどに広がっている。GRXのバイクに乗り換えると狭いとわかるほどだ。実際のブレーキ性能はGRXと非常によく似た効き方をする。
GRXを搭載したシクロクロスバイクからR8100のバイクに乗り換えても違和感がない。ただ、R9100のバイクに乗り換えると違和感がある。R9100の場合は握るときの力をすこし多めにしないと、GRXやR8100ほどの制動力が感じられなかった。
パッドやキャリパーが異なるため単純に比較はできないが、ブレーキ性能はより楽に、より入力しやすく、より自然なブレーキングが印象的だった。
GRXと遜色ないフィーリング、ブレーキキャリパーのクリアランスが増加したことによって、シクロクロスやグラベル用にもR8100を使うことが十分可能になると感じた。キャリパーだけでもR8100にすることで泥詰まりや、急激なブレーキングによるローターのシャリシャリ音から開放される可能性も期待できる。
新型R8100の12速化や無線化といった目に見える変化は、旧型からあえて機材変更するほどの理由にはならない。しかし「変速性能」と「ブレーキング性能」が大幅に向上している。この2つが最も進化を感じられる性能変化であり十分に投資しがいのある変更点だ。
それはR9100からR8100に変更する理由にも十分すぎるほどで、R9100とはなんだったのかと、R8100を使用して考えさせられるほどだ。
デメリットはアップデート
ワイヤレス接続対応のシフター/スイッチのファームウェアのアップデートは、ペアリングされてるだけではおこなうことができません。
自転車のリアディレーラーなどのユニットとエレクトリックワイヤーを使用して有線接続してからアップデートをおこなう必要があります。
完全無欠の新型コンポであっても、デメリットがある。
新型のデメリットはSTIのファームアップデートにある。STIのアップデートの際は必ずエレクトリックワイヤー、バッテリー、リアディレイラーの3つに接続する必要がある。これが非常に厄介だ。
昨今のバイクのほとんどがバッテリーをフレーム内に内装する方式を採用している。したがって、STIのファームアップデートを行う際はフレーム内に設置されたバッテリーを一度抜き、STIにエレクトリックワイヤーを接続してからアップデートする必要があるのだ。
もしくは、アップデート用の専用バッテリーを用意しておくという方法もある。しかし、それはショップであれば作業時間の短縮になるが、個人が利用すると考えた場合は合理的とは言えない。
ワイヤレス化によって、得られるメリットを考えるとアップデート時の手間はトレードオフの関係にあるとおもう。しかし、手軽にSTIのアップデートを行えるように今後改善されることを待ち望みたい。
ST-R8170
操作の感覚はGRXと近くなった。ブレーキフィーリングも近い。これは良い変化だと感じた。シクロクロスバイクに取り付けているGRXの感触に慣れてから、ロード用の旧型R9100のレバーを握ると、とても華奢で、前に滑り落ちるような感覚があった。
旧型のSTIは手の小さいライダーにとっては好ましい設計かもしれないが、GRXぐらいの大きさがちょうど手に収まり、安定感もあると感じていた。R8100はGRXとも旧型とも似つかない形状だ。どちらかといえば、初期の油圧式ST-R785と似ているが、そこまでボテッとした感じではない。
R8100は上方部分にグリップ部が伸びた。旧型よりもひと回り大きいブラケット形状に改善されている。
STIには2つの接続ポートが用意されている。前作のモデルでは使用できなかったスプリンタースイッチが使えるようになった。正直なところ、前作でスプリンタースイッチが使えなかったことは設計ミスを疑う。サテライトスイッチを流用していたがどう考えても大きさ的にふべんだった。
新型R9200とR8100用にはスプリンタースイッチが使える。スプリンタースイッチを設置してもポートが1つ余るため、ヒルクライマーやシクロクロッサー(特にサンドコンディション)はステム付近にサテライトスイッチを配置すると利便性が向上するだろう。
ワイヤレスのためCR1632バッテリーを使用している。バッテリー寿命1年半から2年だ。シーズンの終わりとともに変更しさえすれば全く問題のないバッテリー寿命である。
RD-R8150
RD-R8150の最大の特徴である「いつ変速したのかすらわからない」と「変速時に脚の力をぬく必要がない」の2つは思っている上にメリットがある。RD-R9150よりも58%速いというのはまんざら嘘ではなさそうだ。
リアもシマノ史上最速のリアシフティングが搭載されている。RD-R8150はコンポーネントの司令塔だ。ワイヤレスユニット、充電ポート、スイッチを一体化しているが非常にコンパクトなデザインに収まっている。
ファンクションボタンを短押し、または長押しで動作モードを切り替える事ができる。
- シングルクリック:バッテリー残量確認
- ダブルクリック:シフトモード選択
- 長押し0.5 ~ 2秒:Bluetooth LE接続モード
- 長押し2 ~ 5秒:アジャストモード
- 長押し5 ~ 8秒:システムペアリング
- 青点灯(2秒間):マニュアルシフト
- 青点滅(2回):シフトモード1
- 青点滅(3回):シフトモード2
FD-R8150
FD-R8150はFD-R9150よりも45%速いという。確かにそれは体感できるほどだった。「シマノ史上、最速のフロントシフティング」がアルテグラグレードでも実装されていることが嬉しい。
そして、FD-R9150よりもひと回り小さく見える。前面部33%削減でエアロダイナミクスの改善も見込める。重量は116gとFD-R9150と比べて+12gしか変わらない。これだけの進化をしていてもFD-R9150よりも遥かに安いのだから驚きしか無い。
対応トップギア歯数は50-54Tまで対応している。
CS-R8100-12
CS-R8100-12の機能というよりもリアディレイラーの機能の話なのだが、驚いた事がある。フロントインナーに入れていてもスプロケット11Tにリアディレイラーが移動するのだ。これは上位のR9200には搭載されていない機能だ。
アルテグラグレードは純粋なレースだけではなく、グラベルロード、ヒルクライム、街乗り、ブルベなどワイドレンジが必要なシチュエーションを想定しているのだろう。
対してロードレースの場合は、限りなく効率を求めるためたすき掛けを嫌う。そのため、R9200やR9100はギアを数段残して停止してしまう仕様になっている。
R8100はフロントをインナーに落としても11Tに入るため、ホイール交換も非常に楽だ。R8100の方式が良いのか、それともR9200の方式が良いのかはサイクリストによって異なるだろう。
しかし、アルテグラのミドルグレードという立ち位置を考えてみると非常に合理的だと言える。私自身はたすき掛けの効率低下を嫌うため、R9200の方式が好ましいと思っている。設定でどちらかを選ぶことができればなおよいが、もしR8100でR9200のように変更できる場合は情報提供いただきたい。
まとめ:R8100はR9100を食う
「R8100はDURA-ACE R9100を超えた!」
という新製品が登場するたびに繰り返される「はいはい、またですか」というプロモーションにはうんざりしていた。しかし、今回の新型アルテグラR8100はDURA-ACE R9100を超えているというのが結論だ。
重量面を無視できるのであれば、あえてR9100を買う必要はないだろう。変速性能の秀逸さ、ブレーキ性能の高さ、そしてワイヤレス化、12速化と考えられる最高の性能を手に入れることができる。そう、アルテグラグレードでもだ。
実際のところ、ワイヤレス化と12速化はそこまで感動しなかった。しかし、11-30Tが標準になったことをふまえ、日本のホビーライダーでも53/39と11-30の組み合わせは増えていくだろう。ヒルクライムでも50/34ではなく52/36と11-30の組み合わせが増えるかもしれない。
わたし自身、52-36ユーザーだったが新しいバイクは53/39と11-30の組み合わせにした。「12速化」という変化に対してクロスレシオではなく、ワイドレシオ化するほうが12速化の恩恵を存分に得られると判断した。
11-28の販売予定はあるが、シマノがあえて意図的に販売を遅らせている可能性もある。シマノとしては11-30を提案したいのだろう。その提案は間違っていないと思う。ワイドレンジかつ、大きなギアにするとたすき掛けの量も減る。
フロントにビッグリングを取り付けるアプローチも、速さを獲得する上での合理的な判断だ。
新型コンポーネントR8100シリーズは様々な変化があり、機材のチューニングの余白がある。今までのアップデートとは全く異なり、楽しみがいのあるコンポーネントに仕上がっていた。
今回はブリヂストンのRP9にR8100シリーズを搭載しインプレッションを行った。そのうえで今年のメインバイクPINARELLO DOGMA FとCANYON AEROAD CFRに新型R9200を搭載し追加レビューを行う予定だ。